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第18話 混乱の王国軍

 リュステールの来襲があった翌日、俺は王宮の一画に呼び出されていた。

 そこに集まっていたのは、王都に本部を持つ、近衛、第一、第二の三つの騎士団の団長、魔法士団長に加え、何故か、テオドラまでもが顔をそろえていた。


 一応、直属の上司と言うことになる第一騎士団のアーミス団長が主に質問する形になる。アーミス団長には、事前に報告書を上げており、その報告書に目を通しながらの質問となった。


「それでは、君はリュステールが来た目的は分からないと言うことだな?」

「はい。本人は『挨拶に来た』と言っていましたが……」

「挨拶に来る魔族とは、ずいぶんと律儀な魔族もいたものですね」


 苦笑ぎみの発言は、クリストフである。


「もちろん、本当の目的は別にあると思いますが」

「でも、その目的は分からない?」

「はい」


 クリストフとのやり取りは堂々巡りになるだけだった。アーミスは、目的を追求しても無駄と判断したのだろう。質問を変えた。


「報告書には、リュステールの外見がアデリア様そっくりだったとの記載があるが、何故400年前の人物と外見が同じと分かったのかね?」

「それは、リアーナ様が、テレシア様の記憶で見たと言ってましたので」

「しかし、そんな外見などまではっきりと分かるものかね」

「我々はパスを通すことで、記憶などを共有できますので、テレシア様が見たものでも、リアーナ様は自分が見たもののように分かるはずです」

「まあ、リアーナ様がおっしゃるのであれば間違いは無いか」


 流石リアーナ様、信頼度が俺とは段違い。まあ、ここにいる誰も生まれていない昔から竜の巫女やってる、言わば崇拝の対象だから、そりゃ信頼度も違うよね。実態はポ〇コツお姉ちゃんなんだけど。


「しかし、問題はアデリア様と外見が同じだった理由だ。君の報告書には、アデリア様本人では無いかとの記述があるが、どういうことだね? そもそもアデリア様は400年前に亡くなられているのだぞ」

「もちろん、憶測でしかありません。でも、ラーケイオスは言っていました。リュステールがアデリア様の魂を持って行った、と」

「ラキウス様が言いたいのは、アデリア様の魂が魔族の肉体に囚われているのでは無いか、と言うことですか?」


 テオドラからの指摘は、まさに俺がたどり着いた仮説だった。そうで無ければ、あの言動は説明できない。


「おっしゃる通りです。リュステールは、アレクシウス陛下のことをアレクと呼んでいました。ただの魔族であれば、ましてや、自分を封印したアレクシウス陛下に恨みを抱いているはずの魔族が、そのように親し気な愛称で呼ぶでしょうか?」

「しかし、仮説に過ぎん。本人がリュステールと名乗っている以上、魔族としての存在の方が上だと考えるべきだ。だいたい、その言動が芝居で無いとどうやって証明できる?」


 アーミス団長の指摘は至極もっともで、反論する余地は無い。だけど、例え直感に過ぎなくても、反論せずにはいられなかった。


「そうかも知れません。でも、信じていただけないかもしれませんが、彼女に敵意はありませんでした。それに私に向けた視線の優しさまでもが、芝居だったとは思えません」

「魔族はそうやって人をたぶらかすのだ」


 そう言われてしまうと、反論できない。黙り込んでいると、魔法士団長が別の論点を指摘する。


「まあまあ、そこを追求するよりも、今は別のことを考えるべきです。逃げたリュステールをどうするのかと言うこと、それと、次に出てきた時にどう対処するかです」

「そうだな。直接対峙したものとして、奴がどこに行くかについて心当たりはあるかね?」


 サヴィナフの提案に同意したアーミスから訊ねられるが、心当たりなどあるわけが無い。何より、探すのなど無駄としか思えなかった。


「探しても見つからないと思われます。リュステールは次元の狭間に潜む魔族。向こうが出てこない限り、見つけることはできません。例え、見つけたとしても、次元の狭間に逃げ込まれたら、追いかけようがありません。探すのは全くの無駄だと思います」

「そうだとしても放置するわけにもいかんが、それでは出てきた時にどうすべきかな? 君は次に戦えば勝てるかね?」

「私単体では、恐らく勝てないでしょう。アレクシウス陛下の時も陛下だけでなく、ラーケイオス、テレシア様、アデリア様全員で戦い、アデリア様を犠牲にしてようやく勝てた相手です」

「それでも前回は勝てたのだろう。その時はどうしたのだ?」

「前回は、アデリア様の魔力をテレシア様が極限までブーストして、それでリュステールの魔法そのものを阻害するような魔法を使い、閉じ込めたそうです」

「同じ手を使えばいいでは無いか」

「それで大きな負担がかかったアデリア様が死ぬはめになりました。それに、今回、相手がアデリア様の力を取り込んでいるとなると、同じ魔法は効かない可能性が高いかと」


 全員が沈黙していた。次元の狭間に潜む魔族。それへの対抗がいかに難しいか。


「何とか不意を突いて、君のその龍神剣でとどめを刺す、と言ったことはできないのかね?」

「リュステールは神出鬼没です。不意をつこうとしても、うまくいかなければ、避けられた光の刃で周辺に甚大な被害が出かねません」

「探しても見つからない。閉じ込めることもできない。真正面から戦えば周辺に被害が出る。それでは打つ手無しではないか!」


 アーミスが憤慨している。その怒りはもっともだが、だが、だからこそ他の道を探るべきなのだ。


「恐れながら、戦うのでは無く、話し合いをすべきです。リュステールには知性があり、理性がありました。アスクレイディオスとは違います。必ずや話し合いの余地があります」

「魔族と交渉すると言うのか?」

「他に道がありますか?」


 その提言は、理性では理解できても、感情では受け入れられないのだろう。黙り込んでしまったアーミスに代わり、テオドラが引き取った。


「分かりました。リュステールが次に出てきたら、極力刺激せず、話し合いを模索する。それでよろしいですね?」


 皆が一様に頷いた。元より他に選択肢が無いのだ。感情論では受け入れがたいが、王族が了解するなら、否やは無いのだろう。魔族との恒久的な平和共存など可能かどうかは分からないが、一時的な合意や住み分けなどなら試してみる価値があるだろう。何より彼女が本当にアデリアの魂を宿しているなら、殺したくは無かった。何とか彼女を生かす道を考えねば、そう思ったのだった。


次回は第3章第19話「思い出はゲロの香り」。お楽しみに。

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