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第12話 王女様からの招待状

 大神殿警護の任務に就いて二週間。暇である。


 スリとかひったくりくらいはいるが、そういうショボい犯罪者への対応は基本、平民の衛士がやる。騎士である俺は文字の読み書きができない衛士に代わって書類書いたりするだけだ。後は本当にやることが無い。騎馬して見回って、衛士に状況を聞いて、上司に報告するだけである。「本日も異常なし」と。


 あまりに暇なので、休憩時間にエヴァやリアーナとお茶するのが日課になった。同僚たちから「新入りのくせに貴様だけいい思いしやがって!」みたいな視線を受けるけど知らんもんね。彼女たちとはそういう関係じゃ無いし。俺には別に固く心に決めた女性がいるんだ。


「それでセリアちゃんはどうしてるの?」

「セリアはテオドラ様付きの護衛騎士になったって」


 エヴァの質問に答えたように、その心に決めた人は王女であるテオドラ付きとして抜擢されていた。


 テオドラ・クリスティア・アラバイン。アラバイン王国の第二王女で、テシウスの実妹である。以前、ソフィアが「とても聡明なお方だ」と言っていたが、直接会ったことが無いので、良く分からない。


「テオドラ様ってあのテシウスの妹なのに、何かペナルティとか無かったのですか?」


 リアーナは、テシウスの手の甲への口づけで失神して、アスクレイディオスに憑依された苦い経験からか、彼をひどく嫌っていた。死んじゃったんだから、もう許してやれよとも思うが、そう単純でもないらしい。まあ確かに、反乱の主犯であるテシウスの妹なのに、何のペナルティも無いのは釈然としないかもしれない。母親のアウロラは王妃でありながら、後宮で謹慎になってると言うのに。


「誰かさんが未成年女子は連座しないようにねじ込んだからじゃ無いの?」

「いや、死刑にするなと言っただけで、無罪放免にしろとは言ってねえよ」


 カテリナを死刑にしないためにカーライル公爵に直談判したことをエヴァにいじられるが、そんなことが理由の訳無いだろう。


「そう言えば、あんた、まだカテリナちゃんと会ってないの? 近くにいるんだから会ってあげればいいのに」


 エヴァが話の流れで思いついたように話題を変えたが、まだカテリナに会うわけにはいかない。


「彼女、あんたが窓から見えるたび、じっと見つめてるのよ。凄く切なそうに。あんた、まさかカテリナちゃんがあんたを恨んでるなんて思ってるわけじゃないんでしょ?」

「そんなこと思ってるわけ無いだろ。ただ、俺がまだ自分を許せないだけだよ」

「全く。自分のせいでも無いことに責任を感じるなんて、難儀な性格してるわね」


 エヴァのその物言いが、俺に責任を感じさせないようにという優しさから発せられたものだとわかっている。でも、それでも責任を感じないわけにはいかない。サルディス伯爵とカテリナに訪れる未来を想像することも無く、無為に伯爵が捕まるのをただ眺め、その後もカテリナがどんな目に合っているかを考えずに放置していた。その間、竜の騎士である俺が動いていれば、伯爵の死刑を回避できたかもしれないし、カテリナを平民に堕とさずに済んだかもしれないのに。


 だから、いつの日か、カテリナの恩赦を勝ち取るか、伯爵の名誉を回復するかしない限り、俺に彼女に会う資格なんか無い。これは、俺を誇りに思うとまで言ってくれた彼女への償いなのだ。


「ラキウス君、あまり思い詰めてはいけませんよ」

「リアーナ様……」

「どうせあなたが考えても碌な考えは浮かんでこないんですから」

「言い方ぁ!!」


 いや、そりゃ具体的なアイディアが無いのはその通りだけどさ。例えそうだとしても、いつか、手段を見つけて、カテリナを貴族に戻して見せる。


 そんな会話を続けていたら、エヴァの侍女がバタバタとやって来た。一瞬カテリナかと思って焦ったが、別の女性だった。


「エヴァ様、それと……ええと……竜の騎士様」


 今、名前が思い出せなくて誤魔化したな。まあいいけど。で、用件は何だろう?


「テオドラ様からお二方に招待状です。明後日、王宮でお昼をご一緒いただきたいとのことです」


 あらら、噂をすれば何とやらかな? それにしても王女様からの招待状か。いや、王族からの招待を断るなんてできないから、事実上の召喚状だな。でも、俺とエヴァ二人?


「リアーナ様は招待されてないの?」

「バカね、リアーナ様の方がテオドラ様より格上なんだから呼び出せるわけ無いでしょ」


 俺の疑問にエヴァが呆れたような顔で解説してくれる。


「前にも言ったじゃない。今、この国でリアーナ様より格上なのは、国王陛下だけ。ただの王族のテオドラ様よりリアーナ様の方が上なんだから」


 いや、その序列の話は聞いてたけど、リアーナ様って本当にそんな偉かったんだ。いつもポンコ───お茶目な顔しか見せないから全然気にしてなかった。リアーナに視線を向けるとニッコリ笑ってくれる。


「ラキウス君は可愛い弟ですから、そんな序列は気にしなくていいですよ」


 ありがとう、リアーナ様。それにしても王女様から呼び出しとは、用件が気になる。まさか本当にただ昼食を一緒にしたいと言う訳ではあるまい。


「テオドラ様の用件って何だろうね?」

「私が知るわけ無いでしょ」

「自分の護衛騎士に邪な気持ちを抱いているラキウス君に注意するために保護者同伴で出頭しろと言うことでは無いでしょうか」

「リアーナ様、ネタはもういいですから」

「ええー、つまんないです。弟で遊ぶのはお姉ちゃんの特権なのにー!」


 リアーナはテーブルに突っ伏して、手足をバタバタさせている。いや、無茶苦茶可愛いんだけど、言ってることは滅茶苦茶だよ。何だよ、弟「で」遊ぶって。さっき、可愛い弟だから序列気にしなくていいって言った話が台無しだよ。


 彼女はしばらくそうやってブツブツ言っていたが、急に顔を上げると、真面目な表情を見せた。


「……竜の騎士と大聖女を呼ぶんだから、魔族絡みですよ。王都には何か所か、魔族を封印した場所があるんです。それでしょうね」


 おお、ポン〇ツお姉ちゃんがまともな事を言ってる!


「アスクレイディオスも王都に封印されていたはずなんです」


 ポツリとつぶやいた彼女の瞳にかすかに暗い怒りの火が見えた。


「誰かが故意に魔族の封印を解いた可能性がありますね」


 その言葉に愕然とする。時間が経って封印が解けたのでは無く、誰かが意図して解いたと言うのか。正気の沙汰とも思えない。いったい何が目的なのか、姿の見えぬ犯人の意図を測りかねて、嘆息するのだった。


次回は第3章第13話「テオドラ・クリスティア・アラバイン」。お楽しみに。

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