第6話 リヴィナの戦い③
翌朝目覚めると、エルサはまだ眠ったままだった。
よっぽど疲れていたのだろう。
俺はと言うと、寝ずに見張りをするつもりだったのだが、エルサが一人で寝るのは不安だと言ったので、ずっと添い寝をしていたのだ。
……決してやましいことはしていないぞ。
俺はエルサを起こさないように抜け出すと、1階の酒場兼食堂に朝食を取りに降りる。「仕事」を終えた女給さん達が、「坊や、お姉さんと遊ばない?」とか「坊やだったらタダで教えてあげるわよ」とか言ってくるが、無視だ、無視。
注文した料理が出来上がって2階の部屋に帰ると、ちょうどエルサが起きたところだった。
「あっ、おはようラキウス君」
笑う彼女は、目のクマこそ完全には消えていないが、だいぶスッキリした感じになっていた。
一緒に朝食を取った後は、今後戦闘になった時などに連携がとれるよう、互いの能力について情報交換をする。
「私は火系統の魔法が得意かな。火球とか、炎の壁をよく使うわ。魔法での身体強化もできるけど、そもそも肉弾戦が得意じゃないし。ラキウス君はどういうのが得意なの?」
「僕は一応、地水火風の全属性が使えます。槍みたいな形状にして複数射出して戦うのが得意かな。ただ、通常は身体強化して刀で戦うのがメインのスタイルになりますね」
本当はもう一つ別の魔法も使えるのだが、そちらはあまり知られてない魔法らしいので黙っておく。
俺の答えに、エルサが呆れたような顔をする。
「ラキウス君って本当にいったい何者? 全属性使える人自体そうそういないのに、しかも複数射出して戦うって、それもう魔法士でもやっていけるじゃない。それに、昨日見せてくれた身体強化、あんな規格外なの平民はもちろん、王立学院でだって見たこと無いわよ」
「あっ、エルサさんは王立学院に通ってたんですね?」
「えっ? ええ。初級クラスだったから、普通クラスや、そのまた上の特待生クラスの人達のことはよくわからないけど」
「でも、初級クラスにも騎士爵や準男爵なんかの人達がいたんですよね?」
「そうね。ラキウス君はそのクラスの人達より確実に強いわ。自信を持っていいと思う」
「ありがとうございます」
礼を言うと、少し話題を変えた。
「それにしても王立学院に行かれて、魔法士団に入ろうとは思われなかったんですか?」
「魔法士団に入るには少し魔力が足りなくてね。後は騎士団で女性が入れるのは近衛騎士団だけで、あそこはそもそも上級貴族以外お断りな世界だし。それで冒険者になったんだけど、いろいろあってね……」
「ごめんなさい!嫌なことを思い出させちゃって」
「いいのよ」
エルサは少し遠い目をした。
「みんながラキウス君みたいに優しい人ばっかりだったら良かったのに……」
情報屋に移動すると、オークションは何と今夜行われるらしいと聞かされた。何でも、当初来週行われる予定だったのが、急遽一週間早まったのだとか。
……最初はエルサも捕まえてから開催するつもりだったのが、俺という不確定要因が現れたため、急遽、現在の「在庫」を捌きにかかったに違いない。
場所は郊外の今は使われなくなった元貴族の屋敷ということだった。
俺とエルサは、準備のため、いったん街に出る。エルサの着替えもだが、闇に紛れるためのマントが必要なのだ。本当はステルス魔法の付与されたマントが欲しいところだが、高価すぎて手が出ないので、普通の黒いマントを購入した。それでも何も無いよりははるかにマシになるだろう。
屋敷に移動するために街を歩いていると、店先できれいな石を使ったブローチが目に留まった。それもあまり高価なものでは無い。
フィリーナへのお土産に良さそうだと眺めていると、エルサが興味津々で覗き込んでくる。
「なあに? そういうのを贈りたい人でもいるの?」
「いや、妹のお土産にどうかな?って思って。それにしてもこんなに綺麗なのにあんまり高くないんですね」
「この街の近郊の鉱山で取れる半貴石を使ってるのよ。結構量が取れるからお手頃で人気も高いの」
こんな時にどうかとも思うが、店に入ってもいいかとエルサに聞くと、了承してくれたので、お言葉に甘えて店に入る。フィリーナに贈る分を購入して包んでもらっていると、ふと、店内で手持ち無沙汰にしているエルサの姿が目に留まった。
そこで急遽もう一つ購入して、エルサに渡すことにした。
エルサはキョトンとして、「なんで?」と聞いてくる。
「あ、いや、元気になってもらいたくて」
そう答えると、エルサはクスっと笑った。
「ダメよ、ラキウス君、今度からこういうのは本当に好きな人だけにすること」
そう言いながらも受け取ってくれた。
その後はやることも無いため、少し早いが、屋敷の近くに移動して夜を待つことになった。
次回は第7話「リヴィナの戦い④」。お楽しみに。
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