第11話 入団式
「我々第1騎士団は、諸君の入団を心から歓迎する! 各員、国王陛下のおひざ元である王都の治安維持に粉骨砕身し、陛下の御心の安寧と民の平和に尽くすように!」
今日は騎士団の入団式である。入団式と言っても、特別なことがあるわけでは無い。騎士団長からの訓示の後、新入団員が自己紹介をして終わりである。最も、入団式の後にちょっとした伝統儀式があるようだが。
第1騎士団の人数は約300人。新入団員は10人だ。王立学院の普通クラス出身の人間が多いが、正直、誰も良く知らない。彼らの自己紹介に続いて俺も声を張り上げる。
「ラキウス・リーファス・ジェレマイア。出身はサディナ。よろしくお願いします!」
その自己紹介を受けて、「あいつが……」とか何とか、ざわざわしているが、まあ、竜の騎士と言うことは知られているだろうし、そういう反応になることは仕方ないだろう。
さて、正規のプログラムが終わったところで、いよいよ伝統儀式の開始。儀式と言ってもシンプルだ。300人の先輩団員対10人の新入団員と言うことで、一人当たり30人の先輩団員に一対一の勝負を挑み、何人勝ち抜けるか競うのである。一度に30対1で無いのがまだ紳士的だが、普通に考えて経験豊富な先輩団員と対峙すれば、相手の方が強いのは当たり前で、これまで30人抜きをした新入団員は一人もいないらしい。周りを見ても、2~3人勝ち抜ければいい方で、大抵は一人目で打ち負かされていた。で、負けると、残っている先輩の人数分、練兵場のグラウンドを全力で周回という、誠に体育会系のノリのイベントなのだった。
で、俺はと言うと、困っていた。何にと言うと、手加減が難しいのである。本当に本気を出して龍神剣でも持ち出そうものなら、王都そのものを灰燼に帰しかねないし、闇魔法を使えば、ほぼ確実に殺すか、大怪我させてしまう。仕方ないので、身体強化だけで戦っている状況である。しかも身体強化も今や本気でやれば、殴っただけで相手を粉砕しかねない。
ラーケイオスに拡張された俺の魔力は、自身の魔力に限定しても、人外と言っていいレベルに到達していた。試しにエヴァに鑑定してもらったが、目を逸らしながら、「あんたが本当に人間なのか、自信無くなって来たわ」と言われたのは良い思い出(良くない!)。
とにかく、相手を殺してしまわないよう、強化しすぎないように調整し、その上で、相手の剣を弾き飛ばして首筋に剣を突き立てることに専念する。
さっきから流れ作業のように、相手の剣を弾き飛ばして首筋に剣、相手の剣を弾き飛ばして首筋に剣と繰り返している。剣を飛ばされないように、しっかり握りしめる先輩団員もいたが、逆に突き指や骨折する人が続出。剣では無く、魔法攻撃に切り替える者に対しては、術式構築する前に懐に飛び込んで叩きのめした。
そうやって、一人当たり2秒かからないくらいで30人全員を打ち負かしたら、例によって賞賛ではなく、異様なものを見る目を注がれることになった。まあ、覚悟してたけどね。
そこに騎士団長のアーミスがやって来た。アーミス団長はいぶし銀のおっさんで、雰囲気がどことなく、第二騎士団のセドリック団長と似ている。
「噂には聞いていたが、竜の騎士とはすさまじいものだな。君が本気を出せば、どれほどのことができるのかね?」
「それはラーケイオスの力も含めて、と言うことでしょうか」
「まあ竜の騎士の本気と言えばそういう事だな」
「であれば、王都を地上から消滅させるくらいですかね」
「……」
「あ、俺単体でも、この隊舎を消し飛ばすくらいはできますよ。攻城戦の時にはお任せください。どんな頑強な城門も一撃で吹き飛ばして見せます」
だが、それを聞いた団長の反応は芳しくない。ため息をついて出たのは呆れた声。
「第一騎士団の役目は城門を守ることなんだがな」
「ですよねー」
ダメだ。竜の騎士の力、大きすぎて使えねえ。完全に対魔族、対軍隊用の力だ。王都警護の第一騎士団で使い道あるのだろうか。後4年で手柄を立てて、セリアとの結婚許可を褒美として勝ち取らないといけないのに。ラーケイオスを王都に置きたいと言うだけの理由で、俺を第一騎士団に配属した奴出てこい!
アーミス団長は頭を抱え、「君の配属先はちょっと考えないとな」とか言いながら去って行った。
そして、配属されたのは、王都の大神殿警護の部隊だった。使い道無いから、竜の騎士として大神殿の人寄せパンダになっていろと言うことだろう。「ありがたや、ありがたや」と俺を拝む、いかにもお上りさんのお婆さんを見ながら、複雑極まりない気分になってしまうのだった。
次回は第3章第12話「王女様からの招待状」。お楽しみに。




