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第4話 殺人鬼の貌

 ソフィアが漸く学院に戻ってきた。

 以前の元気は望むべくも無いが、笑っている姿を見るとホッとする。先日は、錯乱して、とんでもないことを口走っていたが、もう大丈夫だろう。


 そのソフィアは俺の元に来ると少しぎこち無いながらも笑みを浮かべた。


「ラキウス君、先日はお見舞いありがとうございました」

「ソフィア様もお元気になられたようで何よりです」

「そうそう、あの時言っていたことですが……」


 ドキッとする。何を言うつもりだろう。ソフィアは俺と、一瞬、俺の隣のセリアに一瞥をくれる。


「冗談ですので、忘れてください」

「あ、ああ、やっぱり冗談だったんですね。ソフィア様も人が悪いなあ」

「あら、私がどういう人間か、良くわかっていると思ってたのですけど」


 ソフィアはそのまま向こうに行ってしまった。セリアが訝しげな眼を向けてくる。


「……何の話してたの?」

「ここではちょっと。後で話すよ」





 その日の夕方、セリアと一緒に家路につく。俺は寮住まいだから、学院の敷地から出る必要は無いが、毎日セリアを家まで送るのが、言わばデートの代わりである。大貴族の令嬢であるセリアはこれまで往復とも馬車で通学していたのだが、少しでも二人きりの時間を過ごしたいからと、帰路は徒歩通学に変更してくれていた。


 夕日に照らされるセリアはとても綺麗だ。すれ違う人たちがチラチラ見てくる。ただ、みんなが見ていたのは、セリアの美貌もあるけど、その頭の上。そこには、猫位の大きさのドラゴン、ラーケイオスの分体が乗っていた。


 ラーケイオスとの間にはパスが通っているから、俺との間ではもう分体は必要無いけど、セリアに何かあった時に、すぐに連絡してもらえるよう、常にセリアについてもらうことにしたのである。過保護とか、過干渉とか言われるかもしれないが、また、襲撃とかあって、取り返しのつかない事態になったら、後悔してもしきれない。幸い、セリアはちびラーケイオスを気に入っているから、いつも一緒にいてくれる。最近は、彼女の頭の上が、ちびラーケイオス、略してちびラーの定位置になりつつあった。


 猫くらいの大きさとは言え、ずっと乗っていると首が痛くならないのかと心配したが、認定式の際に神殿に降り立った時同様、魔法で浮いていて、体重は全くかかっていないらしい。ちなみに以前、試しにセリアから受け取って、頭の上に乗せてみたら、突然、猫どころか、虎くらいの体重をかけて来やがって、首の骨が折れるかと思った。以来、自分の頭の上には乗っけていない。


 さて、帰り道の途中、広場みたいになっているところで、ベンチに並んで座りながら、夕日に照らされる街を眺める。これが最近の日課になっていた。そこで、昼間、ソフィアから話しかけられたことの真相を伝えることにする。


「ソフィアにお嫁さんにしてくれって言われたですってえ!!」

「あ、だけど冗談だったんだよ。さっき言ってたじゃない」


 冗談だったことを伝えたのだが、セリアの反応は安心とは程遠かった。


「ううん、あなたはソフィアの本性を理解してない。どうしよう。ソフィア、婚約者がいるからってノーマークだったわ。そう言えば、こう言っていいのか分からないけど、彼女フリーになったのよね」


 何でそんなに焦るのかわからない。セリアの頬に手を当て、優しく囁く。


「大丈夫だよ、セリア。だって君以外の女性なんて目に入らない」


 セリアは一瞬真っ赤になったが、すぐに安心したように俺の手を手に取ると頬を摺り寄せてきた。


「私もあなただけよ。愛してるわ、ラキウス」





 その後、セリアを屋敷まで送っていった。出迎えてくれたヘンリエッタに、セリアに気づかれないようにメモを渡すと、その後は寮に引き返す。そうして、しばらく歩いたところで、路地に入った。まるで人気の無い路地。


「さて、そろそろ出てきたらどうだ。お前らがつけてきていることなんてお見通しだぞ」


 その声に応え、路地の前後から十数人の男たちが姿を現した。いかにもなシチュエーションだな。


「一応聞いといてやるが、何者だ、お前ら?」

「……」


 最初から期待はしていないが、やはり答えてはくれないようだ。答えの代わりにナイフが出てくる。あのナイフには毒が塗ってあるのだろう。だが、もうその手は食わないんだよ!


闇刃旋風(ダルクヴェルテクス)!」


 漆黒のつむじ風で、包囲している全員の胴を一瞬で薙ぐと、ちびラーとパスを繋げた。


『そっちはどうだ?』

『警備が厳しくなったので、踏み込んでこれずに遠巻きに監視しているようだな。30人程度に囲まれているぞ』

『リーダーが分かるか?』

『ああ、もちろん』

『すぐにそっちに行く。リーダー以外は皆殺しだ』


 辺境伯の屋敷に急いで取って返す。先ほどヘンリエッタに渡したメモは、囲まれているから警備を手厚くするように、というメモ。そのため、攻めあぐねた敵は分散して屋敷を囲んで様子をうかがっていた。その隙に乗じ、一人ひとり、確実に始末していく。何しろ敵の居場所は、ちびラーが上空から見つけてパスで伝えてくれてるのだ。全く迷うことが無かった。


 そうして部下を全員始末したところで、リーダーの元に向かう。背後からの一撃で昏倒させると、気絶した男を肩に担ぎ、そのまま神殿に向かった。





 神殿に着くと、有無を言わせず、地下の拷問室に案内させる。例え、神に仕える組織であろうとも、人間が営む組織である以上、こうした暗部は存在する。もっとも、正式の名前は拷問室では無く、審問室と言うらしいが、壁に並ぶ拷問器具の数々が、この部屋の用途を物語っていた。


 拷問室の椅子に男を括り付けると、エヴァを呼んでもらった。しばらくして不機嫌そのもののエヴァがやって来る。


「あんた、私を便利屋か何かと思ってるわけ?」

「悪いな。これからこいつを尋問するから、自白する前に間違って殺しちまったら生き返らせてくれ」

「何度も拷問するために生き返らせるの? それ、神への冒涜ね」

「こいつは、セリアを狙ったんだぞ!」


 自分でも驚くほど冷たい声が出た。その言葉に、エヴァはぶるっと身を震わせて、手で体を抱く。


「いつもおバカなところしか見てなかったから忘れてたわ。あんた、金剛石級冒険者だったのよね。この男、まさに竜の逆鱗に触れちゃったのね」


 ああ、その通りだ。こちらの世界での年齢ではあるが、8歳で初めて人を殺めてから、何人もの命を手にかけてきた。今さらこの男一人を拷問して殺したとて、それが何だと言うのだ。


「必要になったら呼ぶから、別室で待機していてくれ。俺もお前に拷問に立ち会ってもらおうとは考えてないし」

「そうさせてもらうわ」


 それから俺は男を起こすと、拷問を繰り返した。何度も、何度も。男は最初、「この邪教の徒どもが!」と叫んでいたが、それが「助けて」になり、そのうち「殺して」になった。


「お、お願いします。……なんでも話しますから……一思いに殺して。……お願いします」


 完全に心が折れた男に、背後関係、協力者の名前、アジトの位置など、知る限りのことを吐かせると、男の首を一刀のもとに刎ねた。改めて、聞き取った内容を記載したメモを眺める。アジトは王都に3か所、フェルナシアに1か所か。そこにエヴァが入ってきた。


「あら、もう良かったの? 次はどうする気?」

「逃げられるといけないから、今晩中に全てのアジトを襲撃して、協力者を皆殺しにする。1か所遠いところがあるから、ラーケイオスに連れて行ってもらわないといけないな」

「わかったけど、あんた、今、自分がどういう顔してるか分かってる? セリアちゃんのためとはわかってるけど、その顔をセリアちゃんに見せられると思う?」


 思わずハッとしてしまう。こんな姿をセリアが見たらどう思うだろう。だけど、それでも、今、この時だけは被らなければならない。冷酷な殺人鬼の仮面を。セリアを守るために。


「悪い、エヴァ。今日だけだ。明日から元に戻るから」

「……分かったわよ。でも終わったら、私のところに来なさい。分かったわね?」

「分かった」


 大聖女の声を背に、俺は夜の街へと飛び出していったのだった。



次回は第3章第5話「ポンコツお姉ちゃん爆誕!」。お楽しみに。

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