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第5話 セリアのご自宅訪問

 ソフィアの護衛が始まって数日たった。幸いなことにレジーナの襲撃は今のところ無い。教室でソフィアが隣に座ったのも1日だけで元に戻り、セリアの機嫌も直ってくれた。

 あれ以来、ソフィアは派閥入りの事を持ち出していないし、ゆっくり考えてくれればいいとは言ってくれたけど、いつまでも返事を先延ばしするわけにはいかないだろう。そのためには、辺境伯の立ち位置をセリアに確認しなければ。


「ねえ、セリア」

「なあに?」

「大事な話があるんだけど、今度二人きりで会えないかな?」

「えっ、二人だけで、大事な話? それってどんな?」

「ここじゃ話せないから、二人きりの時話すよ」

「わ、わかった。今度の週末、うちに来てもらっていい?」

「うん、わかった。セリアのおうちにお邪魔するから」



 ❖ ❖ ❖



 週末、セーシェリアはヘンリエッタに服選びを手伝ってもらっていた。

 ヘンリエッタは朝からソワソワが止まらない主に微苦笑がやめられない。


「ねえ、大事な話って何だと思う? ま、まさか、こ、告白とかされちゃうのかな?」

「そんなことあるわけ無いですから、落ち着いてください。叙任式の時に、旦那様が男爵ではまだまだダメだって、本人に言ってたんですよね。ラキウス君は正式にはまだ男爵ですら無いんですよ」

「そ、それはそうなんだけど……」

「はいはい、話の内容にかかわらず、可愛いお姿を見せて差し上げるんでしょう?」

「……うん、お願い、ヘンリエッタ」


 全く、この方は、こんなにもお綺麗なのに初心なのだから。ヘンリエッタはそう思うと、この年若い主への愛しさを強くするのだった。



 ❖ ❖ ❖



 セリアの自宅に着くと、庭園の東屋に通された。この辺はソフィアの時と同じだ。若い男女を密室に二人きりにさせないように、侍女たちの目の届く範囲で、でも声は聞こえないような距離を保つ。


 出てきたセリアは、いつにも増して美しかった。

 白いブラウスに紺のロングスカート。腰のあたりを絞ったスカートがセリアのスタイルの良さを一層引き立てている。髪には蝶の形をした髪飾りが飾られ、すごく可愛い。思わず見入ってしまった。


「いらっしゃい、ラキウス」

「うん、お邪魔します。その……その服、すごく……似合ってるよ」

「あ、ありがと……」


 二人して照れて下を向いてしまった。何、中学生の恋愛みたいな初心な反応してるんだよ、中身おっさんのくせにと思わないでは無いが、本当にセリアが綺麗で、そうなっちゃうのは仕方ないだろ。


 お茶の用意が整って、ヘンリエッタが声の聞こえないところまで下がる。セリアは障壁までは貼らなかった。


「それで、その、大事な話って何?」

「うん、ソフィアの事なんだけど……」


 セリアは一瞬何を言われたかわからない、というようにポカンとしたが、その表情が、見る見るうちに愕然としたものに変わった。


「何で、ソフィアの話が出てくるのよおっ!!!」






 ───目の前では、大声に驚いて駆けつけてきたヘンリエッタが、拗ねてしまったセリアを一生懸命宥めている。お、俺はいったいどうすればいいんだ?


「ラキウス君、ちょっと席外してもらっていい?」

「……はい、ヘンリエッタさん」


 ヘンリエッタの笑顔が怖い。

 おとなしくセリアの視界に入らないところまで下がって待っていたが、しばらくしてヘンリエッタが呼びに来て、東屋に戻る。

 セリアがジト目で睨んできた。


「それで、ソフィアがどうしたのよ?」


 俺はソフィアから聞いたアルシス殿下の派閥入りの件を話した。セリアに機嫌を直して欲しくて誠心誠意説明する。


「───だから、辺境伯の立ち位置を確認しなくちゃって。セリアの迷惑になったらいけないと思ったから……。その、何か気に障ったのならごめん」

「わかったわよ。あなたが私の事を気に掛けてくれたのはわかったから。私の方こそごめんなさい。勘違いしてしまって」

「ううん、良かった。機嫌直してくれて。で、ソフィアの話どう思う?」

「やめておいた方がいいわ」


 即答だった。


「あなたが闇魔法を使えることが勧誘の理由だとしたら、その主目的は例の魔族への対抗ね」

「レジーナの?」

「そうよ。その魔族の女は王宮の『ある人』と契約しているって言ってたんでしょう。それでソフィアを狙ってきたのなら、第二王子派閥の誰かが黒幕の可能性が高い。もしかしたらテシウス殿下本人が黒幕かもしれない。それの対抗馬なんてリスク大き過ぎよ」

「テシウス殿下が黒幕……」

「もちろん、ただの憶測よ。それだけで王族を捜査することなんてできないから、真相はわからないけど。とにかく、単に票集めのために勧誘されているので無いことは確かね」


 あのレジーナがテシウス殿下と契約している? 本当だろうか。テシウス殿下のことを全く知らないので、断言できないが、あの狂気を飼い馴らせる程の人物なのだろうか。しかし、それは判断する材料が無い今考えても仕方ないし、何より確認したかったのは別の事だ。


「辺境伯はアルシス殿下とテシウス殿下のどちらを支持しているの? ソフィアからは、今は中立派だけど、これからはそうはいかないって聞いたけど」

「それこそ無用の心配よ。フェルナース家を舐めないで欲しいわね。うちは別にお父様がドミティウス陛下の従兄弟だから力があるってわけじゃ無いわ。私たちの強みは何よりその立地よ」

「立地?」

「ええ、ミノス神聖帝国との国境に位置することはリスクでもあるけど、同時に王国国内に対しては強みにもなるの。だって、フェルナース家に手を出して弱体化させてしまうと、ミノスに付け込まれる隙を大きくしてしまうのだもの。それにミノスに対抗するために所持することが許された軍事力は他の貴族の比じゃない。例えカーライル公爵家だって、軍事的には私たちに遠く及ばないわ」


 そう言うと、何かを思いついたように手を叩く。


「そうだ、ラキウス、今度の夏休み、フェルナース家の領地に行ってみない? 見て欲しいものもあるし。私もしばらく帰ってないから、久しぶりに帰ってみたいし。ね、一緒に行きましょう?」

「行く!」


 即答してしまった。セリアと一緒に旅行? 最高じゃないか。それに領地に行くってことはあれか、もしかして「会って欲しい人がいるの」ってことか?

 ───と思ったけど、もう辺境伯とは会ってるんだよな。男爵じゃダメだって言われたばかりじゃないか。

 まあ、その線は無いけど、一緒に旅行に行けるだけで幸せいっぱいだ。


 何か、ソフィアの勧誘について相談に来て、これでいいのか、という気はしないでは無いけど、ヘンリエッタと嬉しそうに相談を始めているセリアを見ていると、まあこれでいいじゃないかと思ってしまったのだ。


次回第2章第6話「俺の妹と女友達が修羅場な件」。お楽しみに。

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