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プロローグ

 アラバイン王国の地方都市、ファルージャ。

 その街の一室で、一人の男が死の床についていた。

 男が、建国の父、初代国王アレクシウスであることを知る者は殆ど残っていない。

 国王の地位は、()うの昔に息子に譲った。

 今、傍に控えるのは一人の女のみ。

 終生彼を支え続けた竜の巫女、テレシアであった。


 テレシアは眠っているアレクシウスの顔を眺めながら、これまでの人生を思い返していた。

 長い長い時間。400年以上の寿命を持つハイエルフの彼女にとってすら決して短くは無い時間。

 彼と過ごした時間は楽しかった。


「もっとも、女性関係は少しだらしなかったですけど」


 独り言ちる。

 ───自分とアデリアの間をフラフラして、結局、そのどちらとも結婚せず、王国の礎を固めるためとして有力貴族の娘と結婚してしまった、ひどい(ひと)。でも、最後は自分の元に戻ってきてくれた。二人の間に産まれた息子のカイルは今はどこをほっつき歩いているのだろう。


 その時、目を覚ましたアレクシウスが自分を見つめていることに気づく。テレシアはアレクシウスの目が好きだった。竜王ラーケイオスのまとう魔力と同じ、金色の瞳。


「どうしたのですか、アレク」

「……パス……を……」


 竜の巫女、竜の騎士である二人は、竜王ラーケイオスを通じて、心の奥底で結びついている。

 魔法で会話をする念話ともまた違う、魂そのものがつながる感じ。もっとも、そのままでは何もかも丸裸になってしまうから、幾重にも枷をかけて、魂の奥底は覗けないようにする。アレクシウスはこのパスの制御が上手だった。


『アレク、繋ぎましたよ』


 心の奥で呼びかける。すぐに、応えがあった。


『テレシア。ああ、私のテレシア。君に最後に謝りたかった。不実な男に見えただろう。だけど信じて欲しい。君を、君だけを愛していた』

『嘘。アデリア様といつも二人でこそこそ隠し事していたじゃありませんか』


 有力貴族の娘を正妃に迎えたことは諦めよう。数百年の寿命を持つ王妃など、人の世界には邪魔でしかない。自分が選ばれなかったのは当たり前だ。でも、アデリアのことは割り切れない。自分がアデリアにしてしまった仕打ちも含めて、今も心に棘が残っている。


『違うんだ。アデリアとはそういう関係じゃ無かった。信じてもらえないかもしれないが、私達は同じところから来たんだ』

『お二人が生まれたのは別の街だと聞いてますけど』

『そうじゃない。この世界に生れ落ちる前、私達は同じ世界にいた。アデリアがそれを秘密にしたがっていたから、きちんと話ができずに、誤解をさせてしまった。テレシア、今こそ全てを話そう。私が何者で、どこから来たのか。そして本当の私の想いを知って欲しい。今、全ての枷を外すよ』


 その瞬間、テレシアの心の中に、彼の膨大な記憶が、感情が流れ込んでくる。そして、彼女は全てを知った。

 涙があふれてくる。これまでの全てが報われた。


『テレシア、君だけを愛してきた。この世界に来た理由はただ一つ、君に会うためだけだった、そう思えるほどに』

『私も───あなたを愛しています。アレク』


 アレクシウスは最後の力を振り絞り、離れたところにいるもう一人の盟友に呼びかける。


『ラーケイオス、お前にも世話になった』

『何、我も楽しかったぞ』


 そこにはいない竜王からすぐに返事が返ってくる。


『最後に頼みがある。また、私と同じような者が来て、お前に会いに来たなら、手を貸してやって欲しい』

『いいだろう。その者が来るまで寝て待つとしようかの』

『ああ、頼んだ』


 その日、アレクシウス・ドミテリア・アラバインはその長い人生を終えた。享年147歳であった。


第2章「黄金の巫女編」開幕です。

次回は第2章第1話「教室のバカップル」。お楽しみに。

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