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第13話 ガレアの王妹

 停戦成立から一月後、アレクシアにて講和会議が開かれた。会議では旧ナルディア王国とレント及びサフとの国境線の再確定、賠償金の額、ガレア王国へのサフからの身代金支払いと捕虜となっていた首長の返還と言った様々な問題に加え、ナルディア王国の統治をどうするかについても話し合われる。


 もっとも、講和会議は外相級で開催されている。議長は俺では無い。リューベック候だ。俺は講和会議のマージンで、来訪した各国代表団からの表敬を受ける立場。外相級会議なので、当然、各国首席代表は外相だ。だが、ガレア代表団の表敬を受けた際、思わぬ相手からの挨拶を受けることとなった。


「初めてお目にかかります。ガレア国王シャーリーア・エヌマ・スリ・ラ・ガレアが弟、シャープール・エヌマ・スリ・ラ・ガレアです。お見知りおきを」

「同じく、ガレア国王の妹、アーゼルメーデ・エヌマ・サリ・ル・ガレアです。アーゼルとお呼びください!」

「はあ?」


 困惑しながら目の前の男女を眺める。年のころは男の方は20歳前後、女の方は15~16といったところか。二人とも健康そうに日焼けした肌に快活そうな黒い瞳が煌めいている。髪の色は燃えるような赤。妹の方はそれを背中の中ほどまで伸ばしている。


 それにしても王弟に王妹? またレティシアの時みたいに情報封鎖受けてたって訳じゃ無いよな? 思わずリューベック候の部下の文官達を振り返ってみたが、彼らも驚愕してる。


「失礼した。しかし、王族の方がいらっしゃるとは聞いていなかったのですが?」

「それはその……」

「ラキウス様にどうしても会いたくて、密航して来ちゃいました!」

「は?」


 密航? どう言うこと? 訳わからない。一方、シャープールは妹の爆弾発言に苦笑しながら説明を始めた。


「ガレアは尚武の国でしてね。男女問わず、強さが美徳とされています。ラキウス殿下の勇猛さは大陸中に響き渡っておりますからね。一度ぜひお会いしたかったのですよ」

「それで何で密航など? 正規の手続きでいらっしゃれば良いでは無いですか?」

「いや、兄は妹であるアーゼルを溺愛していましてね。絶対に国外には嫁にやらんと」


 ───ますます意味が分からない。国外に嫁? どう言うこと?


「アーゼルは以前から、自分より強い男のところにしか嫁がないと言ってたんですよ。それがラキウス様に会いたいと言い出したものですから、国外に嫁に行くつもりかと兄が怒りまして、渡航を許してくれなかったんです。なので、講和会議に向かう船の船倉に潜り込んでやって来たという訳で」

「……それって、アーゼルメーデ様がここにいらっしゃることが本国に知れたら、ガレアと戦争になる流れでしょうか?」

「流石にそこまでは」


 呆れて冷たく聞いたら、苦笑が返ってくる。そこに妹の方から、斜め上の抗議が飛んできた。


「ラキウス様、アーゼルと呼んで下さいとお願いしたではありませんか。他人行儀な呼び方はやめて下さい!」

「いや、流石にそう言う訳にはいかないでしょう」


 初対面の、それも異性の王族を愛称で呼ぶとか、ハードル高すぎだろう。それこそ、妹を溺愛しているらしいガレア国王にでも知られたらどうなることか。


「そもそも国外に嫁にとか、どこまで本気なのですか? 私に妻がいることは流石にご存じなのですよね?」

「そ、それはもちろん、兄が誤解しているだけです。ラキウス様が奥方様を溺愛していらっしゃることはよく存じておりますし、そのようなつもりで参ったわけではありません」

「それでは、どのようなつもりで、この国にいらっしゃったのですか?」


 少し厳しく詰めすぎたかもしれない。アーゼルメーデは左右に視線を泳がせていたが、ピョコンと頭を下げた。


「ラキウス様、私に稽古をつけてください!」

「お断りします」

「えぇー、まさかの即却下?」


 当たり前だろ。国王の妹に怪我でもさせたら、外交問題待った無しだ。怪我の程度によってはそれこそ戦争にもなりかねない。そんなことわかり切ってるだろうに、不満そうなアーゼルメーデに、噛んで含めるように言い聞かす。


「アーゼルメーデ様、誤解されているかもしれませんが、私は優れた剣技など持ち合わせておりません。私の剣術は、冒険者稼業で培われた我流のものです。とても他人に教えられるような上等なものではありません。それを竜の騎士としての膨大な魔力でゴリ押ししているだけ。魔力が無ければ他の優れた騎士や剣士に及ばず、魔力を使えば、普通の人間には真似することが叶わないようなものになってしまいます。どちらにしろ、他人に教えられるようなものではありません」

「ラキウス様のお力を間近で見てみたいのに……」

「竜の騎士の力は戦場で大勢の人を屠るための力です。そのような力、振るう場が無い方が良いのですよ」


 アーゼルメーデは肩を落としてしまった。その、わかりやすいぐらいにシュンとしてしまった姿に微苦笑を禁じ得ない。俺に稽古をつけてもらいたい一心で密航までしてしまうような、とても王族とは思えない軽率な行動は擁護できるものでは無いが、どこか憎めない。これはやっぱり、彼女の所作にどこかフィリーナを彷彿とさせるところがあるからだろうか。いけない、いけない。そんなことで甘くなるなんて、俺もとんだシスコン野郎だ。やっとソフィアから卒業したと褒められたばかりだと言うのに。


「シャープール様、アーゼルメーデ様。とにかくいらしたからにはゆっくりしていって下さい。アーゼルメーデ様も、私が稽古をつけるのは無理ですが、近衛騎士団の訓練をご覧になられますか? 剣技でなら私よりも上の者もおりますよ」

「一手だけ、一手でいいから、ラキウス様と手合わせするのは駄目?」

「駄目です」

「うう、ラキウス様のいけず……」


 駄目だ、恨めしそうに見つめる目に笑いが止まらない。本当に俺甘いなあ。


「アーゼル様」

「え?」


 彼女の目が大きく見開かれた。


「手合わせはともかく、そうまでしていらしていただいたこと、嬉しく思っています。友人として仲良くしていただければ光栄です」

「は、はい! 嬉しいです! よろしくお願いします!」


 飛び跳ねんばかりに喜んで、何度も頭を下げる姿が微笑ましい。まあいいか。他国の王族が友人になるのも悪いことではあるまい。ガレアは強国だ。単純な武力なら、今はアラバイン王国の方が上だろうが、西側諸国への影響力という観点では侮れない。この無邪気な姫君が両国の仲を取り持ってくれるなら、何も言うことは無いではないか。


次回は第7章第14話「王妹 VS 王太子」。お楽しみに。

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