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第25話 初めての朝

 翌朝、目が覚めると、腕の中にセリアがいた。既に目を覚ましていたらしい彼女の蒼い宝石のような瞳が俺を見つめている。


「おはよう、セリア」

「おはよう、ラキウス」

「何してるの?」

「あなたの寝顔を見てたの」


 そう言って、笑顔を見せてくれる彼女の頬はほんのりと桜色に染まっていた。そのはにかみながらの笑顔に、夫婦となった実感が湧いてくる。昨夜、俺はついに彼女と───。


「セリア!」


 思わず彼女を抱きしめる。女性にしては長身の彼女だが、一糸纏わぬ姿のまま抱くと、その華奢さに改めて気づく。腕の中に簡単に収まってしまう肩、細くくびれた腰、力を込めたら折れてしまうのでは無いかと心配になる腕、その華奢な体に比して豊かな双丘、全てが愛おしい。


 ブランケットにくるまって、二人抱き合いながら、お互いの唇を求めていると、屹立してくるものがある。そのまま、昨夜に引き続いてもう一戦、と行きたいところであるが、もうすぐヘンリエッタが他の侍女達と共に、朝の支度にやって来るだろう。鋼の理性で身を起こす。


 俺の横で、セリアも身を起こした。が、その拍子に身体を隠していたブランケットが下に落ち、彼女の裸身が露わになった。昨夜も魔石灯の光の下で見てはいたが、朝の光に照らされる彼女の姿はまた格段に違う。その美しさは、この世のものとは思えないほど。女神の彫像もかくやと言わんばかりの完璧なプロポーションに目が釘付けになる。その視線に気づいた彼女が慌ててブランケットをたくし上げて胸元を隠すと、恥ずかしそうに抗議の視線を向けてきた。だけど、それは本気で嫌がってるわけでは無いことは明らかで───。ぷくっと小さく頬を膨らましている、その可愛い仕草に、理性は一瞬で砕け散った。鋼の理性とはいったい───。俺は彼女の腕を引いて抱き寄せると再びベッドに倒れこむのだった。





 それから1時間近く経ってからヘンリエッタ達がやって来た。予想よりだいぶ遅かったが、どうも俺が朝っぱらから不埒な気分になってしまうことはお見通しだったらしい。「仲がお宜しいのは大変良いことです」とヘンリエッタはニコニコしているが、笑顔を向けられる俺はどう返せばいいのか、少し複雑な気分である。


 さて、セリアは朝の湯浴みと着替えのために別室に行くようだ。部屋に隣接して大きなお風呂があれば、一緒に入れるのに、と思ったら、次の目標が出来た。よし、絶対に二人で入れる大きなお風呂を作ってやる。いっそのこと、露天風呂がいいかな。お風呂で上気したセリア、色っぽいだろうなあ。───そんなバカなことを想像しながら、決意を込めてグググッと手を握りしめていると、セリアが不思議そうな目を向けてくる。


「何してるの?」

「い、いや、何でもない」


 恥ずかしい妄想の途中で声をかけられてしまい、慌てて誤魔化す。そんな妄想を俺がしているとは知りもしないセリアの視線は優しい。どこまでも俺を疑っていない彼女に申し訳ない気分になる。


「それじゃあラキウス、また後で食堂で」

「あ、ちょっと待って」


 出て行こうとするセリアを呼び止め、頬を撫でる。ちょっとくすぐったげに見つめ返してくる彼女の瞳に愛しさがあふれた。(おとがい)に手を添え、キスをする。視界の端で侍女たちがキャアキャア騒いでいる姿が目に入るが、構うものか。


「愛してるよ、セリア。世界中の誰よりも」

「私も」


 指を絡ませ、身を寄せ合って、お互いの体温(ぬくもり)に幸せを感じるのだった。






 セリアといったん別れた後、食堂のある本棟の方に向かう。寝室がある居室棟は領主家族の居住スペースとして本棟とは独立した建物となっていた。その、居室棟と本棟を結ぶ渡り廊下からは裏庭が見渡せる。そこにはラーケイオスがその巨体を休めていた。


『おはよう、ラーケイオス』

『おはよう、ラキウス。上機嫌だな』

『そりゃ、ずっとずっと好きだった人と漸く結ばれたんだ。上機嫌にもなるってものだよ』

『結ばれた……交尾か?』

『言い方ぁあああっ!!!』


 そりゃあ数千年を生きる竜からすれば、人間の愛の営みなんて、ハムスターの交尾と変わらないのかもしれないけど───。いや、まさかカブトムシの交尾並みって可能性も───。まあ、ハムスターもカブトムシもこの世界にはいないんだけどさ。


『冗談だ。今のはお前をからかっただけで、我も人間の心の機微は分かっているつもりだぞ。アレクシウスとテレシア、アデリアのことも見ていたからな。ああ言うのは何と言うのか、確か三角関係……だったか』

『ああー、やっぱりアデリア様ってアレクシウス陛下のことが好きだったの?』

『そうだな、もっともアレクシウスはテレシア一筋だったようだが』

『……そうか』


 ラーケイオスの言葉に、アレクシウスに助けを求めていたアデリアの姿を思い出す。リュステールと融合してしまった今、かつてのアデリア様と今のアデリアが同一の感情を持っているかは分からない。でも、400年もの封印を経て、既にアレクシウスもテレシアもいない、この時代に蘇ってしまった彼女は何を思うのだろうか。


『まあ、お前もリアーナのことを気に掛けてやれ』

『? そこで何でリアーナ? 言われなくても彼女のことは大事にしてるよ』

『……全く』


 ラーケイオスに盛大にため息を吐かれてしまった。いったい何だってんだ? しかし彼は説明する気は無いらしい。


『いずれにせよ、ラキウス、おめでとう。幸せになるが良い』

『ああ、ありがとうな』






 ラーケイオスとの会話を切り上げ、食堂の手前で遅れて来たセリアと合流する。セリアは落ち着いた薄茶系のハイネックのドレスを着ていた。その清楚な美しさに目を奪われる。


「セリア、その服とっても似合ってるよ」

「ふふ、ありがと」


 セリアは上機嫌で微笑んでいるが、横に立つヘンリエッタは少し渋い顔だ。ついさっきまで上機嫌だったのにどうしたんだろう? ───と思うと、ヘンリエッタがススス……と俺の横に来て、他に聞こえないように耳打ちした。


「ラキウス様、仲が良いのはいいのですが、肩より上に跡をつけるのはお控えください。服が選べなくなってしまいます」


 ───跡? 跡って何だ? 一瞬考え込んだが、ハッと思いついた。あれか、キスマークか? そのせいで肩や首を露出できなくてハイネック? しかもそれほど服装を制限するということは一つや二つじゃないんだろう。


「……ごめんなさい。以後、気をつけます」


 想定外の抗議に、つい敬語になってしまった。しかし、妻にキスマーク付けまくって侍女に怒られる竜の騎士っていったい。エヴァ辺りに知られたら、速攻、伝記の挿絵ネタにされそうだ。以前のネタは、頬に手形を張り付けてリアーナに土下座する竜の騎士の姿だったか。あいつに任せたらどんなトンデモ伝記になるか知れたもんじゃないな。


 一方、ヘンリエッタは、実際はそこまで怒ってはいないようで、いたずらっぽい目を向けてくるとクスリと笑って囁いた。


「まあ、昨日は新婚初日ですから仕方ないですよね。私個人としてはセリア様は愛されてるんだなあと思って嬉しいんですけど」


 幼い頃から一緒に育ってきたヘンリエッタにとってセリアは実の妹も同様だということは俺も理解している。そんな妹の幸せを心から喜んでいる顔に、こちらも頬がほころんだ。


「でも、やっぱり跡をつけるのはやめてくださいね」

「……はい」


 最後は、しっかり釘を刺されてしまうのだった。


次回は第4章第26話「君は我が命より」。お楽しみに。

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