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第9話 領主の責務

 その日の午後は、なかなかに忙しくなった。


 まずは、商船ギルドと商業ギルドの幹部を集めての昼食会。彼らにはいずれ重要な役割を担ってもらおうと思っているが、取りあえず今日のところはただの挨拶だ。一方、どんな無体な要求をされるかと身構えていたであろう彼らは、本当にただの昼食会となったことに安堵と拍子抜けをしている感じだった。


 その後は、サルディス伯爵と奥様のお墓の建碑式と納骨式。事前にカテリナと相談し、到着に間に合うよう、墓の建立は進めてもらっていた。墓は屋敷の庭園の一画に建てられている。レオニードは海に面した街で、殆どが低地に位置しているが、領主の屋敷は小高い丘の上にあった。その一画の、海を望める場所に墓を作ったのである。


 式には領主一族だけでなく、陪臣たちも参列し、厳かながらも盛大に行われた。カテリナに続いて献花をする。俺は最後に伯爵に会った時のことを思い出していた。反乱を止めようと最後まで残って、逆に首班の一人として処刑されてしまった、真っ直ぐで、でも、不器用だった男。彼の思いに少しでも応えられているだろうか。





 夜には新領主着任を祝う宴が催された。この日は領主の館で陪臣や街の有力者を集めた宴が開かれるだけでは無い。領主館の酒蔵から街の広場に運び込まれた酒が領民にも振る舞われ、街全体がお祭り騒ぎとなるのだ。もちろん、1万人以上いる街の全員に行き渡るほどの酒は無いが、出店もあるから酒や飯に困ることは無い。


 しかし、街のお祭り、楽しそうである。ただの客なら抜け出して街の方に繰り出すのだが、俺は宴の主催者。途中で抜け出すわけにはいかなかった。涙を呑んで諦めよう。


 さて、俺とセリアの前に列をなしていた客の挨拶もひと段落したところで、皆ばらけて談笑しながら食事をしている。セリアは女性陣のグループにつかまって何やら質問攻めにあってるようだ。たじたじとした感じが伝わって来て微笑ましい。そうやってセリアを眺めつつ酒を飲んでいたら、エーリックが隣に立った。


「伯爵のご婚約者、セーシェリア様でしたか。本当にお美しい方ですね」

「ああ、俺にとっては世界一美しい女性だよ」


 どう言うつもりで話しかけてきたか不明だが、ここは慎重に、下手に言質を取られないようにしなければ。


「まあ、でも可愛らしさで言えば、うちのお嬢様も負けていないと思うんですがね」

「カテリナが可愛いってことについては否定しないぞ」

「そうでしょう。そうでしょう」

「だが、カテリナを側室にと言う話であれば、聞くつもりは無い。俺はセリア一人がいれば十分だ」


 やはりカテリナの売り込みだと判断し、機先を制して釘を刺しておく。しかし、相手もすぐに諦めるつもりは無いようだった。


「ですが、領主たる者、お世継ぎをたくさんお作りになるのも必要な事です。どんなに愛する奥様でもお一人では産める人数に限りもありましょう」

「そこまでにしておけ。俺はセリアを世継ぎを作るための道具などと考えたことは無い。それ以上は差し出口になるぞ」


 エーリックは肩をすくめると、こちらを向いた。その表情が厳しいものになる。


「いいでしょう。ですが、カテリナ様はどうなります? カテリナ様はあなた以外の男と結婚する気は無いようだ。一方で、あなたはカテリナ様を側室にする気すら無い。このままではサルディス家は断絶です。あなたはカテリナ様を誰とも結婚させず、一生縛りつけておくおつもりですか!」

「……それは……」

「普通、こうした時は、家長が誰か適当な者と結婚するように命令するものです。ですが、カテリナ様にはもうお父上がいない。その役割は、ジェレマイア伯爵、あなたが負うべきものですぞ!」

「俺が……?」

「そうです。陪臣貴族が断絶しないように結婚も含めて一生の面倒を見る、それも領主貴族たる者の重要な役割です!」


 圧倒されていた。俺にはまだ領主貴族の何たるかが分かっていなかったことを思い知らされる。そんな俺に彼は畳みかけた。


「一人の女性に操を立てるのも大いに結構。だが、カテリナ様を不幸にしたら、私はあなたを許さない!」

「……少し、考えさせてくれ……」


 すぐに答えが出せるものでは無かった。エーリックの言うことはもっともだ。だが、セリアもカテリナも不幸にしない解決法などあるだろうか。一方、エーリックはと言うと、言いたいことを言ってスッキリしたのか、表情を緩めた。


「お考え下さい。まあ、カテリナ様が20歳になるまで3年ほどあります。それまでのうちに結論を出していただければいいですから。私はあなたに期待しています。先代の墓まで作ってくださったあなたを見て、多くの陪臣もあなたが新しい領主で良かったと思っているでしょう。我らの期待をどうか裏切らないでいただきたいものですね」


 そう言うとエーリックは向こうに行ってしまった。一方、俺は課せられた重い宿題を噛みしめていた。自分がどれ程ものを知らず、覚悟も足りていなかったのか、それを思い知らされながら。


次回は第4章第10話「街の視察」。お楽しみに。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ①領地経営する勉強などはしたのでしょうか? 特に描写などがなかったので、気になりました。 ②主人公が少し幼く感じます。 転生者ですが、今の年齢相応な考え方になるのでしょうか。 [一…
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