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第8話 愛しさと罪悪感と

 陪臣たちへのお披露目の後、セリアと二人、執務室にこもった。この部屋は元々、サルディス伯爵が執務に使っていた部屋。当主の変更と共に、部屋の主も俺になった。


 向かい合うセリアはいつも通り、この上なく美しい。だが、今は表情に険があった。


「ラキウス、さっきのは良くなかったわ」

「ごめん、どの辺が良くなかった?」

「カテリナとエーリックの話を引き取ってしまったことよ。カテリナが結婚しないと言い切ったんだから、そこで話を終わらせるべきだったの」


 そうだったのか。しかし、エーリックも結婚しないことには同意してたし、お家再興の話まで切ってしまうのはどうかと思ったんだが。


「あのエーリックと言う男、注意すべきね。彼がこの後狙ってくるのは、カテリナの側室入りよ」

「へ? 何で?」

「婿を入れて再興することが出来ない以上、カテリナをあなたの側室にして、その子供をサルディス家の当主にしようって考えるでしょうね」


 理解できない。婿を取ってお家再興を図るのは分かる。だけどカテリナを俺の側室にしたって、生まれてくる子はサルディス家の子供になるのか?


「ちょっと待って。そもそもカテリナを側室にするつもりなんか無いけど、仮に側室にしても、その子供はジェレマイア家の子供になるんじゃ無いの?」

「そこは両家の取り決め次第よ。複数の男児が生まれる前提だけど、長男をジェレマイア家、次男をサルディス家の子供とすることは可能だわ」


 そうなのか。側室って自分の家の跡継ぎを産ませるために女性を囲うものってイメージしか無かったから、そんなことがあるとは思わなかった。


「相手が王族の場合は別よ。王族の血を無闇に広げてしまうと反乱の火種になりかねないから、生まれた子は全て王族のものになるわ。でも今回みたいに貴族同士の場合は、両者の力関係によるわね。そう言う意味では、あなたは新興の貴族だから与しやすしと見られやすいの。実際のあなたの格は遥かに上なのに、古くからのサルディス家の家臣の中には、あなたよりサルディス家を上に見る者も多いと思うわ」


 ううむ、その辺りの機微も全く分かっていなかったぞ。


「だから、カテリナを陪臣の列では無く、主人の列に並ばせたのも、本当は良くなかったの。あれで勘違いした陪臣たちもいるでしょうね。本当は上下関係を明確にするためにも、陪臣の列に並ばせるべきだった。でも、あなたがカテリナを尊敬していることを知ってるから、その気持ちを大事にしたいと思って、注意しなかったの。だいたい、いずれ妻になるとは言え、結婚前の女が、陪臣の前で領主に口出しをすること自体、褒められたことじゃ無いし」

「ごめん、そんなに気を使ってくれてたんだね。やっぱり俺、まだまだだなあ」

「ううん、そんなこと無い。初めてにしては、うまくやってたと思うわ」


 セリアはそう言うと目を伏せた。


「むしろ私の方がダメね。カテリナに嫉妬して冷静でいられなくなって」

「あ、あれは違うから! 俺、カテリナのことは尊敬してるけど、そんな目で見たこと無いし、愛してるのは君だけだよ。信じて」

「わかってる。でも、ラキウスは優しいから余計に心配になるの。彼女に『今だけ』とか言われたら断り切れないんじゃ無いかとか。私、嫌な女ね」


 ギクギクギクーッ!! セ、セリアさん、エスパーですか? それとも見てた? まさか見てた? おおおおお落ち着け。これは偶然。ブラフのはずが無い。だいたい、あれはカテリナから一方的にされたのであって、俺何もしてないから。


「そ、そんなこと無いよ。セリアが嫌な女とか、俺、絶対思ったこと無いから」

「うん、ありがとう。大好きよ」


 漸く微笑んでくれたが、まだ表情に影がある。俺はそんな彼女を抱き寄せた。愛しさがこみあげてくる。本当だから、本当に愛しているのは君だけだから。愛しさと、少しばかりの罪悪感、そんな思いを乗せて、彼女に口づけをするのだった。


次回は第4章第9話「領主の責務」。お楽しみに。

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