貴族の少年
マルクエンとラミッタが、盗賊の少女シオと謎の暗殺者と出会った少し前、王都では。
「なんだぁ!? この服は!!」
メイド服に身を包んだスパチーが不思議そうに自身の服をくるくる回って見渡した。
ヴィシソワがふむと頷いてスパチーに言う。
「馬子にも衣装と言ったところですかね」
「なんだそれ、褒めてんのか!?」
何も知らないスパチーが言うと、同じくメイド服を着ているデルタと執事服を着たルサークが言った。
「褒めてないぞ」
褒められていないと分かったスパチーは怒り出す。だが、魔力は封印されているため地団駄を踏むのが精一杯だ。
「なんだと!!」
パンパンと手を叩いてヴィシソワは話し始めた。
「お静かに、これから皆さんにはとある高貴な方に仕えてもらいます」
高貴な方と聞いてルサークとデルタに緊張が走る。
それを見透かしたようにヴィシソワは言った。
「まぁ、緊張しないでください。無礼があったら首が飛ぶだけです。比喩ではなく物理的に」
怖いその言葉にルサークはツッコミを入れる。
「いや、それ緊張しますよね!?」
ヴィシソワはクスクス笑った後に、扉の方を向いて歩きだした。
「こちらです。付いてきてください。あ、そうそう。この城では私はただの貴族として生きていますので、そのおつもりで」
重い足取りで歩くルサークとデルタ。その後ろを呑気そうに歩くスパチー。
客室塔のとある扉の前で立ち止まったヴィシソワ。
「シシト様、失礼します」
ノックをして扉を開ける。どんな恐ろしい貴族が待っているのだろうと思っていたルサークとデルタの目に飛び込んできたのは。
「こんにちは。シシトと申します」
ベッドに横たわった、色白でやせ細った白髪の少年だった。
「今日からこの者たちを使用人として仕えさせますので、よろしくお願いいたします」
ヴィシソワは深々と礼をし、それに倣ってスパチー以外は礼をした。
「ヴィシソワ様、ありがとうございます。皆さんよろしくお願いいたしますね」
貴族の子供って言ったら甘やかされて威張り散らかすんじゃないかと思っていたルサークだったが、その丁寧で上品な物腰に、思わずはるか年下と言えど敬意を払った。
「ルサークと申します。よろしくお願いいたします」
「デルタと申します。よろしくお願いいたします」
「私はスパチー! 魔人だぞ!!」
スパチーのアホ発言にルサークとデルタはブーッと吹き出す。
「ば、馬鹿!! 何言ってんだ!!」
ルサークが慌てふためいたが、シシトという貴族の少年はクスクスと笑っていた。
「面白い冗談ですね」
それもそうだ。城に魔人が居るだなんて普通思わないだろう。
ルサークもデルタも冷や汗をかいてから少年の方を見る。
「それでは皆さん、シシト様の事を頼みましたよ。それと明日、聖女様にもう一度診て頂きますので」
ヴィシソワは部屋を去っていく。残されたルサークとデルタは何をしたものかと考えていた。
「お前!! 名前なんて言うんだ!?」
ルサークはスパチーの頭をスッパーンと引っぱたいた。
「シシト様、すみませ……。申し訳ございません、教育が行き届いておらず……」
怒るでもなく、むしろ少年は笑顔だった。
「ふふっ、僕はシシトだよ。スパチーさん」
「シシトか!!」
ルサークはまた焦りだした。
「ばっ、おまっ、呼び捨てにするな!!」
シシトは笑いながらまた答える。
「大丈夫ですよ」




