深夜のお茶会
テントの設営中に出来たのは、干し肉のスープだった。
「それじゃ、食べましょうかね『イタダキマス!』」
マッサが言うと、マルクエンも続いて元気よく「イタダキマス」と言い、ラミッタも小さく呟いた。
「すっかりこの世界に馴染んだなラミッタ」
スフィンが皮肉交じりに言うと、ラミッタはハッとして否定する。
「い、いえ、違うんです!!」
「まぁいい。イーヌの騎士、毒なんて入っていないから食べるがいい」
「そうですか、ははは」
マルクエンは苦笑いしながら食事を始めた。
「それじゃ、おやすみなさーい」
食事を終え、魔物避けの結界を張ると、マッサはそう言ってテントへ消える。
男女別で2つのテントを立てたので、気まずくなることは無さそうだ。
草木も眠る様な深夜にスフィンはふっと目が覚めた。
二度寝をしようと思ったが、何だか寝付けない。
隣では幸せそうに寝息を立てながら寝ているラミッタが居た。
コイツのこんな顔は久しぶりに見たなと思い、見回りがてらに起こさないよう外へ出る。
「おや、お早いお目覚めで」
「貴様……」
そこにはマッサが焚き火の前で座っていた。
「最近、夜に仕事がすることが多くてですね、昼夜逆転しちまってるんですわ」
「そうか」
興味なさげにスフィンは返事をする。
そして、ふと男用のテントを見た。
あそこにはイーヌの騎士が眠っている。
奴は元の世界でも強敵だったが、こちらの世界で更に強くなっていた。
いつかは仕留めなくてはいけない。
「何考えているんですかね?」
「いや、何でもない」
「それなら良いですが、勇者様に何かあったら俺も戦わなくちゃいけないのでね」
遠回しにマッサから牽制を入れられ、ふふっと軽く笑うスフィン。
「そんな事より見て下さいよ、この星空」
満天の星空をマッサは指さした。確かに美しい。
「隣、どうですか? お茶でも飲みません? お姉さん?」
軽々しくスフィンをナンパしてみたが。
「あぁ、そうだな」
成功してしまい、マッサは驚く。
街から出たばかりなので、まだ傷んでいない牛乳があり、マッサはミルクティーを作ることにした。
鍋で牛乳を煮て、網の中に入れた茶葉を落とし、ぐるぐるとかき混ぜる。
牛乳が茶色く色づき始め、網を引き上げると、鍋を掴んで中身をコップに注ぐ。
「お砂糖はどれぐらい入れますか?」
「たっぷりだ」
「了解致しました、将軍様」
マッサは笑いながらサラサラと砂糖を入れてかき回す。
「はい、どうぞ」
スフィンはコップを受け取る。温かさが手にじんわりと伝わった。
牛乳と茶葉のいい香りを嗅ぎ、一口飲むと柔らかい甘みが口に広がる。
「美味いな」
「へへっ、あざーっす」
「喫茶店でもやったらどうだ?」
「冒険者を引退したら考えますわ」
マッサが軽口を返すと、スフィンは純粋な笑顔をしていた。
「スフィンさん。やっと素直に笑ってくれましたね」
「なっ、違う!!」
取り繕うように赤面して顔をしかめたが、もう遅い。笑顔はもうマッサの心にしまい込まれてしまった。
「夜空の下、二人きりでお茶会。うーん、ロマンチックですねぇ」
「相手がお前じゃなければ、な」
「うぉーん、辛辣ゥー!!!」