マキガリスープ
「勇者様、この度は何とお礼を申し上げて良いものか……」
この村の村長がマルクエン達のもとまでやって来て深々と頭を下げる。
「いえ、皆さんがご無事であれば何よりです」
「何も無い村ですが、せめて宴を楽しんでいって下さい」
村の中心では焚き火が組まれ、その上にとても大きな鍋が乗っていた。
獣人達はそこへ熊や鹿の肉、人参と大根、里芋といった根菜類を入れ、大豆の加工品である『ミソ』を溶かしてぐつぐつ煮込む。
食欲を唆るいい香りが漂い、皆は火を囲み、音楽を鳴らして踊っていた。
「マルクエン様、ラミッタ様、どうぞ!」
コラーが鍋のスープを二人の元へ持ってくる。
「この村名物のマキガリスープです」
「マキガリスープ? ですか、美味しそうです」
器を受け取ったマルクエンはまじまじとそれを見つめた。
「では早速、イタダキマス!」
ズズズッとスープを飲んでみる。肉の旨味とミソの風味が口に広がる。
「むっ、美味しいです!」
「それは良かった!」
「本当、美味しいわね」
勇者達に村の味を気に入って貰えて、コラーはホッと胸をなでおろす。
「マルクエン様ー、おいしいか? 気に入ったか? 村住むか?」
マタタビ酒を呑んで、ぐでんぐでんに酔ったセロラがマルクエンに言う。
「いえ、美味しいですけど、我々にはまだ使命がありますので……」
マルクエンは苦笑いをしながらスープを食べ続ける。
セロラはまたスリスリとマルクエンに顔を擦り付けた。
「セロラ!! もう、行くぞ!」
コラーが首根っこを掴んでどこかに連れて行く。
宴もたけなわになり、皆の気が抜けていた時だった。ラミッタがふと遠くの気配を感じ取る。
「! 来るわ!!」
「なっ!? 魔人か!?」
二人の言葉を聞いたコラーは「えっ」と小さく言った後、状況を理解したらしい。
「た、大変だ。魔人ですか!? 兵士長に知らせてきます!!」
「みんなを避難させて下さい!!」
だが、遅かった。もう既に上空には飛ぶ人影があった。
「みんなでお祭り? ボクも混ぜてよ!」
「お前は……。ミネスだったか?」
マルクエンは奇術師の格好をした魔人を見て言う。
「名前覚えていてくれたんだ。嬉しいよ。好きになっちゃいそう」
「何だお前、泥棒猫か!!」
セロラが敵意を剥き出しにして空を見上げる。
ラミッタは酔い覚ましの魔法を自分とセロラに掛けてから、一気に空へ飛び上がった。
「あー、結構速くなっているね」
ミネスは右手を上空にかざし、闇の剣を数十本呼び出すと、ラミッタに向けて飛ばす。
負けじとラミッタも光の剣を召喚して発射した。