森の箱
マルクエンにくっついたままスリスリと顔を擦り付けるセロラ。
「ちょっ、セロラさん!? こ、困ります!!」
「嫌なの? マルクエン様?」
純粋な瞳で下から見つめられるマルクエン。
「い、嫌というか、何と言うか……」
「離れろセロラ!!」
コラーによって引き剥がされたセロラは不満そうな表情をしていた。
「私、マルクエン様とツガイになりたい! 結婚したい!! 赤ちゃん欲しい!!!」
「ばっ、だからそういう事を言うなって!!」
何故かコラーが赤面していた。
「あなた、何でそんなに赤ちゃんに拘るのかしら?」
ラミッタがそう口にすると、コラーの方が先にハッとした反応をする。
「私、家族居ないから……。ツガイと赤ちゃんが欲しい!!!」
「家族が居ない?」
マルクエンが聞き返すと、コラーが補足を入れた。
「セロラは森の奥で、ずっと一人で生きていたみたいなんです」
「森の奥?」
ラミッタが不思議そうに言う。
「えぇ、この村までやって来たのは、つい三年前ぐらいの事でして」
「私、おじいと生きた。でも、おじい子供の頃死んだ!」
笑顔とは不釣り合いな内容の話をするセロラ。
そんな彼女の境遇に自分自身を少し重ね合わせて見てしまうラミッタ。
「だから、マルクエン様とツガイに……」
言いかけて、セロラの耳がピクリと動き、笑顔が消えた。
そして、急に村はずれまで走り出す。
「箱、開いた!」
「何っ!?」
セロラの短い言葉を聞いて、マルクエンは驚くが、思考を切り替え走り、ラミッタは空を飛ぶ。
常人の数倍の速さで走るセロラ。その横をラミッタは飛んでいる。
コラーも獣人なので身体能力は高く、タッタッタと駆けていった。
マルクエンは鎧の重さというハンデを感じさせない動きだが、流石に獣人二人と空を飛ぶラミッタには追いつけない。
箱の場所から上空に向けてバーンと大きな音と共に信号弾の魔法が打ち上がる。
「来るぞー!!!」
箱の警備をしていた兵士は槍や剣を構える。
箱の側面からヌルリと出てきたのは、狼型の魔物、熊型の魔物といった哺乳類型。
その他には虫型のカマキリやクモ、ムカデといった魔物だ。
兵士は距離を取りながら槍で牽制を入れる。
比較的小さい魔物はそれで倒せたが、一人の兵士へ熊型が襲いかかった。
「このっ!!!」
剣で斬りつけるが、大した傷を負わすことが出来ない。
お返しとばかりに右手を振り下ろしてくる。
兵士はもうダメかと心臓がキュッとなった。
しかし、次の瞬間。熊型の右腕は吹き飛んでいく。
セロラが腕を斬り捨てたのだ。