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4.育まれる恋心

「ラファエル、今は休暇中だと聞いていたが、毎日何処へ行っているのだ?」


デュヴァリエ家の晩餐中、ナタナエルから質問された。


「王立図書館です」


「何か調べものか?休暇中なのだから休んだら良いのに…」


「きちんと休めてますから問題はありませんよ」


「そうか、なら良いのだが。配属先が変わるだろう?お前は真面目だから体を壊さないか心配なんだ」


「ご心配ありがとうございます」


「ところでラファエル、お前宛に釣書が届いているんだがその事は知っているだろう?」


「はい。父上と兄上が選定されていることも知っています」


「私はね、お前に政略結婚をさせる気はない。よって、お前が結婚に興味がないようであれば全て断るが、どうする?」


「私は生涯独身でも構わないと思っています。侯爵家に利益をもたらす結婚であればしても良いとは思いますが、父上の考えがそのようであればお断りしていただいて構いません」


「そうか…。実は私とサミュエルが選定した結果、釣書が残らなかった。お前に相応しい相手と考えるとなかなか難しいな。私達から結婚を勧めることはしないよ。お前がしたいと思う相手を見つけた時には遠慮なく教えてくれ」


「…」


ラファエルの顔色が一瞬変わったことをナタナエルは見逃さなかった。


「なんだ…、好い人がいるのか?」


「!?」


その言葉にラファエルは慌てた。


「いえ!そういうことではありません。彼女はそういった相手では…、!?」


これではまるで好い人がいると言っているようなものであったと気付いたが時既に遅かった。


「ははは。良かったよ、ラファエル。お前が心を許すお相手がいるようで、私は嬉しい」


ラファエルは年甲斐もなく顔を真っ赤に染めた。



◇◇◇


『親愛なるアンジー


君は音楽を嗜むんだね


今日は教会に足を運びオルガンの音を聞いてきた

オルガンの和音は特別心が洗われた気がする

2ヶ所訪れたが、それぞれオルガンの音色が異なるんだな

聞き比べたことはなかったが私はダルトワ教会の方が好みであった


いつか君の弾くピアノの音色を聞くことが出来るだろうか


きっと清らかな澄んだ音がするんだろうな


ラフより』



(教会のオルガン…、確かに素敵よね。数回しか聴いたことないけれど)


「今日のお返事は何て書きますか?」


「何て書きましょう…」


「どうしたのです?いつもならすぐにお返事が思い浮かびますのに」


「どうしよう…セシル…」


「アンジェル様!?」


「彼と近づくにつれて、私は近づいてはいけないと思ってしまう…。いつか私のピアノが聴けるか?の問いには答えられないわ」


「アンジェル様…。ラフ様はきちんとアンジェル様と向き合ってくださっているように思います。アンジェル様はとても清らかだと、その言葉は相応しいと私は思います。会わなくても想うことは出来ます。今、アンジェル様は今までに経験したことのない体験をされていますよ」


「え?」


「アンジェル様のお顔を見れば判ります。恋してるお顔をなさっています」


セシルが手紙を読んであげるといつも顔は熱を帯び、顔色が良くなる。日に日に穏やかに微笑む時間が増えていて、彼からの手紙の影響を物語っているようであった。


「こい…ですか?」


「はい。アンジェル様、最初にいただいたお手紙にもありましたように、言いたくないことは言わなくて良いと思います。しかし、お言葉を偽ることだけはしないでください。後で後悔すると思いますから」


「わかったわ…」



◇◇◇


ラファエルは毎日図書館に足を運んだ。それが出来るのもこの日が最後になるだろう。休暇が終わるのだ。明日からは王太子妃付き騎士となる。どの程度自分に自由時間が出来るか予想できなかった。


「ラファエル様、こちらをどうぞ」


「ありがとう、館長」



手慣れたやりとりに、レイモンはニコニコと微笑んでいる。10日の休暇だったから文通はこれから10往復目に入るだろうか。




『親愛なるラフ


今日は暖かい陽射しが心地よい1日でした


数羽の小鳥の囀りが可愛らしい曲を奏でていました

これもそろそろ終わりですね

小鳥に誘われるように、私も久しぶりに庭を散歩しました

外の空気を吸うのはどれくらい振りでしょうか

踏みしめた落ち葉の音が心地よく、お行儀があまりよろしくはなかったでしょうが幼少の頃のように落ち葉に飛び込んでしまいました

貴方が感じさせてくれた秋の終わりに私はたくさん刺激を受けました


ブランシュールに冬が来ます

貴方の冬の楽しみは何ですか?


アンジーより』




はしゃいだ彼女を思い浮かべると自然と顔がにやけた。

この日書かなければならないことは決まっていた。彼女を不安にさせないことが大事だった。





この日のレイモンの終業時刻に合わせて、ラファエルは再び姿を現した。


「すみません、館長。図書館内に持ち込むわけにはいかなかったものですから」


「これは素敵ですね。こちらもお渡しすればよろしいのですね?」


「はい。お願いします。それから、今日で休暇が終わりますので、次いつこちらに顔を出せるかわからないのです。文通は続けたいと思ってますから、そのようにお願いします」


「わかりました。では、こちらは預かっていきますね」



◇◇◇


「これは、何ですか!?」


「これもお手紙と一緒に受け取ったんだ。君への贈り物だそうだ」


それは、ルクリアの鉢植えだった。花屋がちょうど商会から手に入れたばかりだという香りだつ愛らしい花だという。


「良い香り…。お花?」


「ああ。花束じゃなくて鉢植えだ」


女性に贈る物としては珍しい。

早速部屋に持ち込み、セシルと共に手紙を読むことにした。



『親愛なるアンジー


私は今まで季節を感じた日々を過ごすことはなかった

君のおかげで秋の終わりや冬の始まりを楽しむことが出来たよ

今年は例年と違った冬を楽しめそうだ

君にも楽しんでもらえるよう冬を探してみようと思う


先日君が教えてくれた好きなものに花の香りとあったから、こちらを君に贈るよ

この花は私の中で膨らむ君のイメージにぴったりだと思ったんだ


今までは休暇中だったから毎日カスタニエ伯爵にお会い出来たんだが、明日からはなかなかお会い出来ないかもしれない

休暇の初日に図書館に出向いたのは幸いだった

君と少しでも多く文通することができたから

今後、返事が遅くなるかもしれないが決して文通を辞める訳ではないことを伝えておきたい

遅くなってしまっても必ず手紙を書くから待っていて欲しい


君に贈る花を鉢植えにしたのは、長い間楽しめるようにだ

私のことを忘れず近くに感じて欲しい


ラフより』




「私が好きなものや出来なかった経験をたくさんくださるなんて…。休暇中だったにも関わらず、彼は体を休めることは出来たのかしら?」


「ラフ様は休暇中、アンジェル様との文通を楽しまれたのではないですか?きっと、心の休息はとれたと思いますよ?」


「私…、与えてもらってばかりで、彼に何も贈ってないわ。私はこの花の香りで彼を想うことが出来るけれど、彼は私のことを忘れたりしないかしら?」


「それはないと思いますよ?お返事に時間がかかるかもしれないとのことですから、その間ラフ様の心にはアンジェル様がいらっしゃることでしょう」


「そうかしら?」


「…そうですね…。何も贈ってないことを気にしていらっしゃるようでしたら、形に残るものをお渡ししてみるのも良いかもしれませんね?ハンカチーフはいかがでしょうか?」


令嬢の嗜みとして刺繍があるが、アンジェルには難しかった。色も刺す場所もわからない為だ。


「でも、私は刺繍ができないわ?」


「ですので、アンジェル様がお作りになるものといえば、レースはいかがですか?ハンカチーフをレースで飾るのです」


レースは白一色でも十分に美しい代物だ。盲目であるアンジェルは聴力だけでなく、指先の触覚も優れていた。細かい作業であるが目の数を数えながら糸を紡いでいく編み物は得意であった。特にレースは単色でも美しい仕上がりになるため、アンジェルに向いていた。


「レース…」


「はい。男性に贈るもので基本的なものは刺繍したハンカチですが、レースも素敵だと思います」


「ありがとう、セシル!素敵な案ね。作ってみるわ」


明るさを取り戻したアンジェルに安堵したセシルは、長期戦になることを覚悟した。手紙に書き添える程であるから余程忙しい仕事をしているのだろう。鉢植えが長持ちするようセシルは花屋を訪れ、育て方を詳しく指南してもらうことにした。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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