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3.文通

カスタニエ伯爵邸に戻ったレイモンは、早速アンジェルに手紙を渡した。


「待たせたね、アンジェル。やっと彼に会うことが出来たんだ。文通をしてくれることになったよ。早速1通書いてもらったんだ」


アンジェルは手に握らされた手紙の存在を確認すると、レイモンに代読を頼んだ。


「私で良いのかい?では…」



『親愛なるレディ


カスタニエ伯爵の紹介で、貴女と文通をさせていただくことになりました


私は貴女の負担になることは望みませんので、言い難いことは無理に話す必要はありません


まだ互いのことを知りませんが、少しずつ仲が深まれば嬉しいです


お返事は急ぎません。貴女の良い時に始めてください。


ラフより』




「だそうだよ?真面目な彼らしい」


急に距離を縮めるわけではなく、自分への配慮だらけの手紙にアンジェルは好感を持った。


「お手紙は、お父様にお渡しすれば良いのね?」


「ああ。私が直接彼にお渡しするよ。彼にも私を介すように伝えてある」


「急がないと言ってくださってるけど、私もお渡ししたいわ」


「そうか、代筆しようか?」


「いえ、セシルにお願いするわ」


こうしてアンジェルはセシルと1通の手紙を書き上げた。


◇◇◇


翌日、王立図書館にラファエルが現れた。


「おはようございます、館長」


「おや?ラファエル様、こちらにお見えになったのですか?」


「少しまとまった休暇をいただきましたから、その間、読書でもと思いまして」


「なるほど。早速お会いできましたからこちらをお受け取りください」


するとレイモンは1通の手紙を差し出した。


「もう、お返事を頂けたのですか!?」


「はい。すぐに出したいと受けとりました」


「そうでしたか。では、頂いていきます」


そう言うと、ラファエルは閲覧室へと向かった。


逸る気持ちを抑えながら、ラファエルは封を開けた。



『親愛なるラフ様


お手紙ありがとうございます

私にたくさんのご配慮賜りまして嬉しく思います


このお話を頂き、始める決心となったのは

私の人生に経験が足りないと考えたからです


訳あってほとんど外に出ることはなく

部屋で過ごす日々を送っています


外に繋がりを持つことが出来れば

たくさんのものを得ることが出来るのではと考えました


その始まりが貴方との文通です


私も貴方の負担になることは望みません

貴方の出来る範囲でお付き合い頂ければと思います


アンジーより』




「アンジー…」


ぽつりとラファエルは呟いた。手紙からは誠実な人柄が見受けられ、見えぬ相手との文通に誠意を見せてくれていると感じた。

怪しい話だ。相手を知らぬまま文通を始めるのだ。よく受けてくれたと思うし、自分もよく受けたなと改めて思った。しかし不思議なもので、1通目の手紙で心に温もりを感じたのだ。思いの外、返事を待ちわびていた自分がいたのだ。名前を知れただけでも心が弾んだ。


(外に出ず部屋で過ごしている…、深窓の令嬢か…?はたまた病弱なのか…?いずれにせよ、私との交流でたくさんの経験をさせてあげよう)


ラファエルは手紙を大切に仕舞うと、図書館を後にした。


◇◇◇


「おかえりなさい、お父様」


珍しくアンジェルがレイモンを迎えに出た。


「アンジェル!?どうしたのだ?」


「あの、お手紙は無事お渡しできましたか?」


手紙の行方を心配したアンジェルは、少しでも早くレイモンに確認したかったのだ。


「そうか、心配だったのだな?安心してくれ、彼の手に渡ったし、なんと返事をくれたよ」


「本当ですか!?」


高揚している様子がよくわかるアンジェルに、レイモンは驚くと共に安堵した。しっかりとアンジェルの手に手紙を握らせると、アンジェルはそれを胸に抱え部屋へと消えていった。




(ん?なんだか厚みがあるように思うけれど…?)


「セシル?読んでもらえる?」


「はい。勿論です。あら?何か入ってますね。まずはお手紙を読みますね」



『親愛なるアンジー


早速お返事をありがとう


文通に対する君の想いを受け取った


私が君と世間の架け橋になろう


今日は森林公園へと足を運んだ

今は木の実がたくさん落ちているから

リスは忙しそうにしているよ

申し訳ないがその大事な木の実を

少しだけ分けてもらった


秋の終わりを感じる1日だった


君はどんな1日を過ごしただろうか


ラフより』




言葉遣いは柔らかくなり、一気に距離が縮まったように感じた。何より内容が優しく可愛らしくアンジェルは心を鷲掴みにされた。穏やかに笑みを浮かべるアンジェルに、セシルは喜びを感じた。


「アンジェル様、封筒の厚みの原因はこちらですよ」


セシルは手紙と一緒に入っていたものをアンジェルの手の中に包み込むように入れてあげた。


「これは、木の実?」


形の良い3粒のドングリだった。


「とても可愛らしい贈り物ですね」


「ええ」


アンジェルはいつまでも手のひらに乗せていた。


◇◇◇


翌日もラファエルは図書館に顔を出した。


「ラファエル様、お会い出来て良かったです。お手紙がございますよ」


「もう頂けたのですか!?」


彼女にいつ渡し、いつ受け取っているのか。ラファエルは疑問に思ったが、貰えた手紙が嬉しくて疑問はすぐに消えた。




『親愛なるラフ


素敵な贈り物をありがとう

リスにも感謝しないといけませんね


私は音楽を嗜むことが多いのです

今日はピアノを弾きました


最近は短調の曲を弾くことが多かったのですが

今日は心なしか長調の曲を奏でていたように思います


貴方という存在がそうさせた気がします

良い刺激になっていると感じた出来事でした


少し肌寒いので散歩の際は温かくなさってくださいね


アンジーより』



自分の存在が刺激を与えているという言葉を噛み締めた。また心に何かが灯っていくのを感じた。


(今日は何をしよう…)


気がつけばラファエルの心の中はアンジーでいっぱいだった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


作者のモチベーションに繋がりますので、評価いただけると嬉しいです。

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