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1.時の人ラファエル

「近衛に加わったラファエル様の様子は聞いてる?ファビアン」


「はい。大変腕のたつお方だと、近衛だけでなく騎士団全体で専ら噂されております、殿下」


「やはりな」


「剣術だけでなく、事務処理も速く、仕事のできる方という印象です」


「そうなると近衛騎士団という配置で良いのか悩む存在だな」



王太子アドリアンと王太子付き騎士ファビアンとの会話だ。話題の人物はおよそ十数年に渡りアドリアンの兄である元第一王子シルヴァンの侍従を務めていたデュヴァリエ侯爵家次男のラファエルだ。聴覚障がいを持っているシルヴァンに忠実に従い、生活の何から何まで支えた。


兄シルヴァンを敬愛していたアドリアンは、そのシルヴァンに従事していたラファエルのことも尊敬している。


「うふふ。もう耳にタコができるほどお二人のお話はお聞きしましたわ。本当に大好きですのね、アドリアン様」


同席していた王太子妃フランソワーズは、微笑ましくアドリアンを見つめていた。


「それで?デュヴァリエ侯爵はこの国に残ってもらったラファエル様に何をさせるおつもりですの?」


「何とは?」


「ラファエル様は次男ですから跡継ぎではありませんでしょう?シルヴァン様のお披露目以降、公の場にシルヴァン様がラファエル様も帯同していらっしゃった結果、ラファエル様の人気が急騰していて、今、デュヴァリエ侯爵の元に釣書がたくさん届いているという噂ですわよ?どちらかのご令嬢と婚約でもされますの?」


「そうなのか?だとすると政略結婚でもさせるのかな?」


「どうなのでしょう?そんじょそこらのご令嬢では割に合いませんわ」


「なぜ?」


「なぜ?って、貴方も仰っていたじゃありませんか。近衛騎士団で収まるお方ではないって。ラファエル様の価値を考えたら、どちらかの王女殿下くらいのお方でないと政略結婚のお相手としては不足ですわ」


「でも、ラファエル様を国外に出さないという王命が出てるが?」


「こちらに迎える形なら良いのでは?とはいっても、政略結婚の場合ですわ。恋愛ではダメですの?あんなに素敵な方ですもの、ご令嬢方は放っておかないでしょうが、身分云々も大切ですが中身も彼に相応しい方がお側にいて欲しいですわ」



この人気の理由は、麗しい第一王子シルヴァンに仕えたラファエルもまた眉目秀麗の人物であり家格も魅力的であるため令嬢らが放っておかなかったからである。ラファエルの価値に気付いているのは王家だけであると考えよう。



「国王陛下はこの釣書騒動はご存知なのかしら?デュヴァリエ侯爵とはご友人だそうですが、変なところに繋がりが出来る前にお話された方が良いかもしれませんわよ?」


「フランソワーズ!ありがとう。陛下に報告してみるよ。配置の件も。私はまだまだ甘いよ。もっと周りをよく見なくては」


「アドリアン様、素直で純粋な所が貴方の良いところですから。私は大好きです。殿下に対して本当はこんなに簡単に口出ししてはならない立場ですのに失礼しました。でも貴方の足りないところは私にお手伝いさせてくださいませ」


「良いんだ。フランソワーズ。私たちは私たちで国の為に務めたらいい。私たちのやり方で。私には君が必要だ」


◇◇◇


時を同じくして、デュヴァリエ侯爵邸では、当主ナタナエルと嫡男サミュエルが釣書の選定に四苦八苦していた。


「この量は凄いですね、父上。ここから絞るのですか?」


「うむ、そもそも私はラファエルに政略結婚は望んでいない。従って、ラファエルに相応しくない令嬢をまずは除外し断りを入れる。ラファエルはシルヴァン様同様隔離されていたようなものだからほとんど社交に出ていない為に、令嬢の評判はわからんだろう?私たちでまずは家格や令嬢自身の評判などわかる範囲で除外する」


「残った令嬢はどうするのですか?」


「どれだけ残るかはわからないが…、ラファエルに伝えるのは絞ってからでも十分だろう。あとはラファエルに委ねよう。国王からの指示はラファエルを国外に出すなということだけだった。そもそもラファエルが結婚する気がなければ縁談を進める必要はないからな」


「なるほど。私が呼ばれた理由は何ですか?」


「兄として、同じ年頃の男として、ラファエルに相応しくない令嬢を弾いてくれ」


「!、はい。わかりました」


そして二人は釣書とにらみ合うのであった。


◇◇◇


「突然呼び出してすまないなナタナエル。ラファエルのことで話したいことがあったのだ」


国王はデュヴァリエ侯爵を王宮に呼び出した。名前で呼ぶあたりが二人の仲を物語っている。名前で呼ばれたことに公式ではなく私的だと判断したナタナエルもまた、少し崩すことにした。


「グラシアン様、ラファエルに何かありましたか?」


「いや、悪いことではない。アドリアンから報告があってな。やはり優秀過ぎてラファエルという存在をもて余してるのだ。また配置転換を考えている。将来の王太子付き騎士になってもらいたい」


「将来というと、王太子ご夫妻からお生まれになるお子様付きということですか?」


「ああ。まだ性別がわからないからな。まずは生まれてきた子に付いてもらうが、最終的には第一王子に」


「それは名誉なことです」


「護衛としては文句ないし、ラファエルから立ち振舞いも学べる。教育の辛さも理解しているし、王子にとってこれ以上ない相手であろう。しかし年齢を考えると側近にするには難しい。だから王子付きの騎士だ、どうだ?」


「良いと思います」


「それともう1つ。ラファエル宛に釣書が殺到しているという噂は本当か?」


まさか一貴族の婚約騒動が国王の耳に届いているとは思わなかったナタナエルは苦笑いした。


「本当です。物凄い数の釣書が毎日届きます。国内外問わずです」


「国外も?」


「近隣諸国や関係国の来賓のいたアドリアン様の立太子の時にシルヴァン様の戦慄デビューでしたからね。その横で通訳を担当しましたから知るところになったようです。シルヴァン様はその時婚約も発表されましたから、ラファエルが標的となったのでしょう」


「それは、ある意味災難であったな。して、その釣書はどうしたのだ?」


「今サミュエルと共に相応しくないお相手にお断りをしているところです。あの量をラファエルの目に入れる必要もなければ、政略の道具にするつもりもありませんから」


「ということは、釣書が残った令嬢もいるのか?」


「今のところおりません。残ったところでラファエルに結婚の意志がなければ先へは進みませんし…」


「ラファエルとは結婚についての話はしたのか?」


「いえ、生涯をシルヴァン様に捧げる覚悟だったと聞いてましたので、改めて話は出来てないのです」


「そこまでの覚悟であったか…」


「私はラファエルに過酷な幼少期を過ごさせ、以降も世間から隔離してしまいました。今後は自らの意思で自らが望むことをして欲しいのです」


「うむ、それには同意だ」


「しかし、ラファエルの結婚についても何かございましたか?」


「いや、ナタナエルならば悪いようにはならんだろう。今日話をしてそう思った。ラファエルは国の宝だ。しかし脅威でもある。今まではシルヴァンと共に隔離されていたが、これからは毒が近づくこともあろう。それだけは避けてくれ」


「なるほど。かしこまりました」


◇◇◇



「陛下とのお話はいかがでしたの?」


「ラファエル様の婚約騒動は存じ上げてなかったようだった。君に教えてもらえて良かったよ。もし結婚をするのであれば、相手はしっかり吟味してもらわねばならない」


「ところで?周りで騒いでますけれど、当のご本人はどういうお考えなのかしら?」


「ん?」


「ご結婚についてはどのようなお考えなのでしょうね?」


「…把握してないな…」


「それに、このまま近衛騎士団に収めておくのですか?」


「それについては、配置換えを行う予定だ。まずはお腹の大きくなってきた王太子妃付き騎士に」


「まあ!ではラファエル様をお側に置くことが出来るのですか?」


「…、嬉しいのかい?」


「もちろんですわ!だって、貴方の尊敬するお方でしょう?」


「…、そうなのだが…」


輝くような笑顔を見せるフランソワーズにアドリアンは複雑な思いを覗かせた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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