心に住まう闇と二面性の片鱗
[天音 優]
ホワイトウルフとの戦闘を終えクラスメイト達の最後尾に行くといつも通り田中君が待っていた。
「やるじゃん天音!いつの間にあんな魔法覚えたんだよ!」
「いやぁ...なんとなくイメージしたらできたんだっ」
少し歩いた先に3層への階段を見つけるとロベルトさんが
「今日の実戦感覚は忘れずに!よし!今日はここまで!明日から少し探索スピードを上げて層を降りていくから気を緩まさずに。じゃあみんな【帰還石】で帰りますよ」
みんな次々に【帰還石】を使いその場から消えていく。
隣にいた田中君が消え僕も帰還石で帰ろうとしたその時
頭の中で警報音が鳴り響いた
「っ!!!」
足に力を入れて咄嗟にその場から離れる。
その直後立っていた位置に【ファイヤーボール】が着弾する。
天音はやばいと思いポケットに入れてある【帰還石】を取り出そうとポケットに手を入れようとすると、そんな隙は与えないと言わんばかりに戦士二人が天音に飛び掛かる。
右手に握っている短剣で右から迫る戦士の斬撃を受けようとする。
右の戦士とは鍔迫り合いを行い左から迫りくるもう一人の戦士をどう対応しようかを考えていると頭の中で警報が再び鳴り響く。
脳内で鍔迫り合いをしてはいけないと言うかのように。
危機察知スキルを信じてその場から全力のバックステップで距離を取ると戦士二人の間から【ファイヤーボール】が飛んできた。
もし、あのまま短剣で受けていたら【ファイヤーボール】が体に当たり、体勢が崩れたところを二人の剣で斬られていた。
【ファイヤーボール】を使った槍使いと襲い掛かってきた戦士二人の顔を確認して唇をかみしめる。
「はぁはぁ...また、また!!...僕を殺すつもりなの!!須藤君!!」
視線の先には俺のことをいじめていた3人組が立っていた。
槍使いの須藤と戦士の渡辺・本田。
正直この三二を前にして、冷や汗が止まらなかった。
その理由はあの時、自分のステータスに気を取られすぎて目の前にいる三人のステータスを見れていなかったからだった。
そして、僕含めてこの4人以外は帰還石で地上に戻っている。
1v3。
助けは来ない。
(そもそも僕を助けてくれる人なんて....)
(....僕がやるしかないのか)
自然と右手に力が入る。
「避けるなよ天音」
須藤君はしっかりと殺意を乗せた視線でこちらを見てくる。
ただ殺意を乗せているのは須藤君だけで他の二人からは殺意を感じなかった。
「日本の時のようにサンドバックとして扱ってやるよ~w」
「次は避けるなよ~?」
ゆっくりと近づいてくる三人。
近づいてきた分だけ後ずさってしまう僕。
『怖いの~?天音』
頭の中で1つの声が響く。
聞いたことがある声だ。
頭が痛くなるあの声だ。
だけど今は頭が痛くなる様子は無い。
頭の中で響く声を無視して襲い掛かってくる三人の攻撃を避ける。
左右からは渡辺と本田の斬撃。
二人の間からは須藤君の【ファイヤーボール】。
少しでも避けるタイミングをミスると【ファイヤーボール】が当たりそうになる。
すでに服の所々が焦げている。
幸いなことと言えば俊敏に関してはこの四人の中で僕が一番早く動けているのでギリギリではあるが、避けることに成功している。
(なんで僕ばっかり...)
『なんで君ばかり殺されそうになるんだろうね?』
(僕は何もしていないのに...)
『そうだよ~君は何もしていないのにまた命を奪われそうになっているんだよ』
(なんでなんでなんで!!いつも僕だけ!!)
避けれていたとしても1v3には変わりない。
この状況をどうにかしなければ体力が底をつき殺されてしまうのが目に見えていた。
渡辺と本田も攻撃が当たらずイライラし、ヒートアップしてきたのか二人の斬撃に鋭さが増す。
渡辺の斬撃を避けた瞬間に素早い本田の一振りが天音に襲い掛かる。
(避けれない!!!)
そう思い咄嗟に左手で適当な風魔法を作り出しそれを自分に当てる。
「ぐうぅっ!!」
避けることには成功したが受け身が取れず数度地面を転びまわる。
地面に上手く転がることが出来なかったせいで余計に衝撃でダメージを負う。
三人を見るとケタケタ笑い声をあげていた。
無力だった。
何もできなかった。
どうすれば無力化できるかを考えていたけど自分の手札が少なすぎて無力化ができない。
(どうすれば..どうすれば)
『簡単なことじゃないか天音~』
「えっ」
隣から囁かれたかのように声がしっかりと聞こえた。
『殺せばいいんだよ~。ほらっあの時のようにさっ』
(まただっまた頭痛が...!)
頭痛のせいで走りこんでくる須藤君に気付かなかった。
その場から離れようと足に力を入れるが時すでに遅く。
「ガハッ!!」
腹に重い蹴りの一撃を受けてしまい。後方に転がる。
(っ!痛い...)
ダメージを負いすぎて起き上がることが出来ない。
あの時と同じだ。
(はぁはぁはぁはぁはぁ)
心音と警報音がうるさくて三人がなんて言っているかが聞こえない。
(あぁ、くそぅ。また殺されるのかな)
『そうだよ』
(この世界では自分を変えられる、強くなれると思っていたのに)
『そうだね』
天音の中に沸々と日本では溢れ出たことのない感情が溢れ始める。
その感情は、怒りと殺意。
身体に力を入れて起き上がろうとするが身体が言うことを聞かない。
すると頭の中で小さく無機質な声が聞こえたような気がした。
【マスターのHPが残り25%を切りました】
渡辺と本田も蹴りを入れてくる。
口からは体の中にあった空気と一緒に血が出る。
どんどん意識が遠のいていく。
(悔しい....!!!)
(あぁぁぁあああああああ!!!!)
最後の力を振り絞り顔を上げると須藤の視線と交わる。
心の奥底に沈んでいた知らない感情を言葉にして須藤にぶつける。
「地獄に落ちて死ね」
と。
須藤はびっくりしていた。
そしてすぎに須藤は青筋を立て、もう一度重い蹴りを腹に入れてくる。
「うっ...ごふっっ...」
僕はその衝撃で大量の血を吐血し、意識を落とす。
意識を落とす前に聞こえたあの声は何だったんだろう。
(まぁもう僕には関係ないか)
(最後におばあちゃんに会いたかっ...た)
.
.
.
.
.
【マスターのHPが10%を切り、意識を落としました。】
【命の危険を察知】
【闇魔法展開します】
【マスターの体を動かす別人格を作り出します】
【..........】
【ERROR】
【天音 優の中に別人格を確認】
【固有アビリティ【二面性】を自動で発動します】
【3】
【2】
【1】
【固有アビリティ【二面性】に別人格の定着を確認】
【これより闇魔法はマスターの体の修復に移ります】
【定着した別人格を【メア】と名付けます】
【............】
「メアの起動を確認しました」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
[須藤 悠真]
天音のホワイトウルフ戦を見て思ってしまった。
生かしておいたら復讐されるんじゃないか、と。
いつも一緒にいた二人、渡辺と本田には「みんなが帰った後この大迷宮内でいじめね?」と提案した。
二人は笑みを浮かべて承諾してくれた。
そして今、ようやくチャンスが訪れた。
戦闘中やはり今殺しておかなければならないと感じ取っていた。
すぐに殺せると思っていたのだが中々攻撃が当たらず苛立っていた。
だが渡辺と本田の攻撃に避けきれなくなり自分の魔法で自爆し転がっている天音を見たときにここだと思って走り出し本気の蹴りをお見舞いしてやった。
案の定その蹴りは確かな感触を須藤に教えてくれた。
最後の最後で天音は俺に「地獄に落ちて死ね」と言い放った。
日本では一切俺に歯向かってこなかったこいつが汚い言葉を吐いたことがびっくりだった。
だが、それ以上に自分より下のゴミに馬鹿にされたことが許せなくてもう一度重い蹴りを入れる。
蹴った衝撃で軽く吹っ飛び、ピクリとも動かなくなった天音を見下す。
そして持っていた槍でとどめを刺そうと思った時
「なんだこれ?」
渡辺が発言した通り全員、意味が分からなかった。
天音の体からいきなり黒いモヤが溢れ始める。
まるで闇が、天音を食おうとしているようにも見えた。
嫌な予感がした瞬間、天音が口を開き
「メアの起動を確認しました」と。
脳内に警報が鳴り響く。
3人は、危機察知スキルがあるためその場から離れることが出来た。
数秒後、天音の体に纏わりついていたモヤが爆ぜた。
そして再び天音が口を開く。
「邪魔」
天音を中心に突風が吹き荒れ周囲に散っていたモヤが消え去る。
天音が立っていた。
苦しそうな感じもない。
口の両端は吊り上がっておりにやけていた。
日本でも異世界でもあんな顔をした天音を見たことがなかった。
そんな中、本田が
「なんだよ天音~変なスキルつかいやがってよ~びっくりしたじゃねぇか!」
そして天音は何故か楽しそうに
「ごめんね~?びっくりさせちゃってさぁ~」
「...何笑ってんだよお前」
ヘラヘラしながら伸びをしている天音にイラっとした本田は気に食わないと言わんばかりに剣を持ち直し天音に向かって走り出す。
一歩遅れて渡辺も走り出しワンテンポ遅れた連携が天音を襲う。
「闇魔法~体の修復はどこまで終わってるの~?」
【マスターの体の修復は50%終わっています】
「なに一人で喋ってんだよ!!」
「また痛めつけてやるよ!」
キィン!!
甲高い音が鳴る。
本田の斬撃を天音は短剣で受け止めた。
遅れてきた渡辺の斬撃は最小限の動きで避け、渡辺の腹に蹴りを入れて軽く吹き飛ばす。
短剣で受けていた本田の剣を押し返すと同時に
「【ウィンドウカッター】~~!!」
「えっ。ぐっっ!」
カランカランッ
ドサッドサッ
本田の剣が切れており刃渡りが短剣程度の長さになっていた。
そして蹴られた二人は地面に倒れながら蹴られた場所を手で押さえていた。
その一連の動きを見ていた俺は恐怖した。
さっきまでの天音と違って、まるで別人のような動きをしていた。
思わず俺は叫んだ。
「そいつを殺せー!!!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
[メア]
ずっとじゃないけどいつからだろう。
確か日本にいたころから天音のことを見てきたていたような。
天音の目に映る光景を一人、映画館で見ているような感覚。
はっきりとした意識はないようなよくわからない感覚で全てがおぼろげだった。
でも突然この世界に来て変わった。
はっきりとした意識が芽生え、天音と感覚がリンクしていた。
そして先ほど闇魔法と【二面性】のおかけで完全に感覚がリンクし天音の体を動かせることに成功した。
そしてそのままこの体を乗っ取ろうとしたが闇魔法が邪魔をして今は乗っ取ることが出来なかった。
(今はこの状況を楽しもっかなぁ~)
短剣で受けていた剣を押し返すと同時に魔法を行使する。
「【ウィンドウカッター】~~!!」
本田の剣を切り落とし、渡辺と同じ様に軽く蹴りを腹に入れる。
見ているだけだった須藤の叫び声が聞こえた。
「そいつを殺せー!!!! 【ファイヤーボール】!!!」
火の球が飛んでくる。
その火の玉に向けて全速力で走り出す。
当たるギリギリのところで首を捻り、避ける。
そのまま、短剣を握りしめている右手で須藤の顔面を殴る。
須藤が軽く吹っ飛び地面の上を転がる。
起き上がろうとしている須藤のもとに駆け出し、須藤の遅い槍の突きを躱して腹に重い蹴りの一撃を入れ
「やり返しだよっ!!」
と足を振り切る。
「ガッ......」
「あ~あっ。もう終わりかぁ須藤君~」
須藤は起き上がろうと頑張っているけど見た感じ無理そうだった。
「もう少し遊ぼうと思ったのになぁ~~」
もう一度軽く蹴り須藤を壁にぶつける。
「がはっ..」
須藤が睨んでくる。
何故か体がビクッと跳ねる。
「殺してやる」と言わんばかりの視線で見られると体が少し震える。
身体がいじめを覚えているんだ。
身体に須藤には逆らってはいけないと刷り込まれていた。
メアからしたこの感覚は気色が悪かった。
「...もういいや。死ね」
短剣で須藤の首を斬り落とそうとしたその時、後ろから強い衝撃を感じた。
衝撃の正体は本田だ。
後ろから強烈なタックルをしてきた。
大した脅威にならないせいか危機察知が反応しなかった。
そのまま壁に押し付けられる。
押し付けられたところで特に問題ないと思い抵抗せずに壁に押し付けられるのを待っていた。
だが壁に押し付けられた瞬間、壁が潰れてメアと本田が壁の外に落ちる。
「はぁあああああああ!?!?」
そして大迷宮は壊れた壁を自動的に修復し壁は塞がる。
それを静かに震えながら見ていたのは渡辺だけだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
現在急降下中のメアと本田。
「やばいやばいやばいよ~!!」
「.......」
本田がやけに落ち着いてるなと思い本田の方を見ると...白目を向いていた。
「呑気に気絶しちゃって。闇魔法~~!!」
【はい】
「落下地点にクッション的なの設置できるかなぁ~??」
【はい。マスターは死なせません】
数秒後、地面が見えてくる。
左手を地面に向けて
「闇魔法展開ぃぃぃぃいいい!!!」
黒いモヤが地面を覆い隠す。
そのままそのモヤに突っ込む。
死なずには済んだが着地の衝撃で気を失う....
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でこぼこの壁に埋もれている緑の魔法石が暗く光る光源になっている。
地面もでこぼこで整備など一度もされたことのないような場所。
そこは天音・本田の息遣い、そして
よだれを垂らし弱者を狩らんと目をぎらつかせている魔物の足音しか聞こえない場所。
そこは....
【アスタリア大迷宮 75階層】
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