愚者か凡人か賢者か
愚者は過去を見る。凡人は現在を見る。賢者は未来を見る。
最初、本当に事実か虚構か、真実か嘘かを確かめる為に、迷わず、動いた。
互いの手を離さぬ様、しっかりと握り締め、只、走った。
もう2度と逸れぬ様に…。
此処で逸れたら、もう2度と再会する事は不可能だと感じて居たから…。。。
―――― ★ ――――
衝撃的だった。
何がだって??
目の前で、どんどん、人が、他でも無い自分自身の意思で、命を落として行く、そんな光景が。
其れを目撃した時は、衝撃を受けたし、周りの人間達も悲鳴を上げたりして驚愕してたりしたのに、≪後始末≫が終われば、1週間もすれば、其の人物達は、忘却の彼方へ葬られて居た。
つまりは、俗世との因縁を全て断ち切られる。
3人が喰らった技も、此の中の1つに当たる。
其の方法の1つを、【切り捨て御免】と言う。
此れは無理矢理、自ら命を絶った者達と同じ状態にする事。
自ら命を絶った者達は、此の世界に置いて、七日七晩を掛けて今まで歩んで来た人生の全てを徐々に抹消される。
山荷葉の言葉は、正しかった。
与えられた情報の全てが本当だった。
神様(仮)達の仕業で、文字通り3人は、現世と言う世界の外へと追い出されてしまったのだ。
世界の誰からも3人の存在が認識されない世界。
何時も3人が目にしている世界は、個人だけの物じゃない。
脳が感知する時間的、空間的、周波数と言う名の波長を、個人個人が“世界”として、“現実”として、共有して居る。
俗に、“集合意識”と言うモノだ。
つまり、大まかに言って、大勢の“生きた”人間と無意識下で、様々な認識、情報を共有して居るからこそ、認識が出来るのであって、そうした“生きた”人々との脳内情報のアクセスが一切遮断された世界が、偽葬界。
でも、偽葬界にも、集合精神と謂うモノが、存在する。
基本、“自殺行為をしたと言う自覚”を持った者同士にしか共有出来無い、現世とは少し違う偽葬界、独特の、“集合意識”の共有。
けれども 、3人が手を握り合って居ないと駄目なのは、“例外的な死”に因り、共有が未だに適応されず、全く安定して居ない為である。
しかし、3人は強かった。
何が強かったって、メンタル面が常軌を逸して居た。
独りじゃなかったと言う事、仲間が居る事も有ると思うが、其れを差し引いても強かった。
最初こそ嘆き事すれ、(主に彼女やら友達の記録数を。)自分達が死んだ事には、差して気にも留めなかった。
まぁ、只単に、実感が沸かない鈍感な感覚の持ち主だったのか、はたまた、おつむの思考回路が奇怪しいだけだったのかは定かでは無いが…。
だが、だからこそ、3人は、自ら命を絶った死者達と、遇わなかった。
そりゃそうだ、魂の“気”も“波長”も“格”も明らかに違うからだ。
【自殺】とは、自分自身を殺す事。
自殺した者を、【自殺者】と言う。
自殺の原因は、失望、絶望、後悔、虚脱と、負の感情を、引き摺り抱いて、自殺した生者。
だが、3人は、自ら命を絶って死霊と成った訳では無い。
罪人で在れこそすれ、自害はして居ない。
自殺者を≪闇≫とするなら、彼女等は≪光≫。
相反する2つが交わる事が無いのは当然の事。
何故なら、闇は光に、弾き飛ばされてしまう。
しかし、原初の頃から、人間は、光を背負う十字架から生まれた。
だから、稀に融和し合い、遭遇し、出会ってしまう事を【トライアンドエラー】と言う。
生者、つまり、現世では、自殺したら、自殺者の魂魄は、あの世へは行けない上、光の無い場所に捨て置かれる。
でも、其れは、現世での、空想論。
しかし、あながち、間違いでも無い。
自殺者は、自らの心の中の“小宇宙”に閉じ込められ、孤独に苛まれ続ける。
其れでも尚、運良くか悪くか、ミクロコスモスに閉じ籠った自殺者が、自ら、其の殻を破って、這い出て来る事がある。
…現世で、遠い異国のとある地を中心に親しまれて居る伝承童謡の総称に、≪マザー・グース≫と言う歌達がある。
其の1つに、こんな歌がある。
ハンプティ・ダンプティ 塀の上
Humpty Dumpty sat on a wall,
ハンプティダンプティ 落っこちた。
Humpty Dumpty had a great fall.
王様の馬全部集めても
All the king's horses,
王様の兵隊全部集めても
And all the king's men,
ハンプティは元に戻せない。
Couldn't put Humpty together again
ミクロコスモスから偽葬世界へ生まれ出でる原因は、外因的要因の影響だ。
其の外因的要因の正体は、中絶や流産等で堕胎された、通称、【ツノゴ】と呼ばれる堕胎児だ。
偽葬界に彷徨い込んだ、ツノゴは、妊娠して無い自分と似た自殺者の“存在”に惹かれ、自殺者のミクロコスモスに入り込み、子宮に宿る。
人体の構成上、女性だけでなく、子供を産まない男性にも、子宮は存在して居るので、自分と似通った“何か”があれば、OKと言う事だ。
そうして、ツノゴと共鳴し合い、一体化すると、ツノゴは玉へと姿を変え、心臓にも等しい“核”と成る。
其れは、不完全ながらも、再び、新たな“生”を受けた証として、自殺者達は、敬意を称して、【生玉】と呼んで居る。
ちなみに、現世でも、生玉と言う玉が有る。
持つ人を長生きさせると謂われ、信じられてるらしい。
と、まぁ、そう言った経緯で、偽葬界に生まれ出でて来る事が出来るのだ。
此の現象の事を、自殺者達は卵から孵化する様な感覚から、上記の歌の題名を借り受け、【孵化】と、呼んで居る。
只、気を付けなければ成らないが1つだけ、ある。
其れは、自殺者達の間では、【相生】と呼ばれる。
相生とは、其の名の通り、生まれてから死ぬまで、ずっと一緒と言う意味。
生者とは違い、偽葬界に身を置く者達は、生玉が宿る子宮が、唯一の急所。
其処を、正しくは、生玉を、破壊させられれば、再び、死が、襲って来る。
いや違う、其処に居る力の源である生玉を破壊されると、待って居るのは…『消滅』。
既に自ら“死”を選び取った者に、再び死は訪れず、だからと言って、割れ砕けたミクロコスモスの殻は、もう元通りにする事は叶わず、其の魂魄は、逝き場所を失い、無に帰す。
もう、死者とも呼べず、自殺者だったと過去形に成る、其の者達の総称を【偽葬師】と呼ぶ。
≪偽りの中に死を葬り、偽りの生に惨めに縋り付いき、愚かさを極めた末、特殊な力を身に付けた、能力者≫と云う意味合いを込めて。
そして、偽葬師には、特典が漏れなく付いて来る。
良く、子供には、大きな可能性が秘められて居ると言う説があるだろう?
そして、もし、其の説通りなら、堕胎児には、未知数の絶大なポテンシャルを秘めてる事に成る。
つまり、偽葬師は、現世を生きる人間には無い、其れこそ、不可思議でファンタジー的な、特別な“何か”が宿って居る。
偽葬殿で神様(仮)達と同年代の男子達との、いざこざの争い事の中で、度々(タビタビ)発揮されて居たのが、まさにコレだったのだ。
偽葬界では、其の“秘めたる力”を固め、封じ込めた、謂わば能力結晶石の事を、【トライアルストーン】と呼んだ。
現世では、試金石。物の価値や人の力量等を判定する基準となる物を言うが、偽葬界では“力の一部を封じ込めた石”の事を指す。
トライアルストーンは、体外に出す事も体内に入れる事も出来る。
トライアルストーンの石の形は、丸まった状態の胎児の形に良く似て居る。
トライアルストーンは、安定した精神と、確固たる意思を持ち、尚且つ、能力を把握した者にしか、作れないし、力を引き出し、操る事は出来ない。
更にオプション付きで、其のトライアルストーンを持ったら、作った本人だけでなく、第三者も其の力が使える様になる。
但し、其の力を引き出す為の多少の訓練が必要と成る事も有り、自分のレベルと其の石のレベルに因って、訓練の難易度は決まる。
風鵺が三郎神(仮)との戦いの前に、幽霊ツノゴに使用したキャンディー攻撃は、摩耶のトライアルストーンを持って使用して居たからに、当たる。
そして、最後に……、
3人が生者から偽葬師と成った、神様(仮)達の最期に使った技。
【お隠れ騙し】とは、至極簡単に言うと、欺き騙し、入れ替わる事。
因って、3人の少女は、クルリと昼夜が逆転する様に、生者から偽葬師に身を転じてしまったのだ。
ちょこっと、豆知識として、付け加えるなら、本来、“隠す”や“籠もる”は死を表す言葉。
其れは、神仏に仕える者等が、不浄の言霊を避ける時の隠喩としても、密かに、使われて居る。
さて…長々と、ツマラナイ説明話をしてしまったが、此れ等、全ての情報は、只の基本にしか過ぎない。
しかし、平均並みの頭脳の持ち主の喧花に、優秀で頭脳面積な風鵺に、意外と、そこそこの頭脳の持ち主の摩耶の3人の少女の頭は、此れだけの情報量と、現状把握に、白旗を上げた。
だって、此れまでの出来事が、全て解明されたとして、此れから先、どうしろと言うのか。
何をしろと言うのか、何を遣り遂げろと言うのか、どうしたら良いのか、手段も方法も思い付か無い。
3人は、其の侭、手をしっかりと繋いだ状態で、其の場に、仰向けに倒れた。
此の侭、ふうッと、気を失って、意識を手放したら、混乱する頭の思考回路も、途方に暮れる気持ちも、無くなるだろうか……――――。。。
きつく目を閉じる。
其れが、いけなかったのだろう。
『『『ザマァwwwww』』』
爽やかに、勝ち誇った笑顔を惜しげも無く、披露する神様(仮)達の姿が脳裏を過ぎった。
「ムーッ…負けた。」
「めっさ悔しいー!」
「チッ…覚えてろよ。」
受けた恩は返すべし。
売られた喧嘩は買うべし。
やられたら100倍にして返すべし。
売られた喧嘩は、不良品であっても返品不可。
此の侭では、終わらせられない、終わらせたくない。
其の負けず嫌いの意地が、ギブアップして、へこたれて居た3人に、力を与えた。
直ぐ様、瞼を持ち上げ、暫く、目を見開いて居た。
やがて、項垂れて居た気持ちが、持ち直すと同時に、口許に、穏やかな苦笑が、自然と滲み出た。
And that's all…?
(それでおしまい…?)




