桃色の南無三宝
異常な涙に塗れた泥
検証をした結果…
喧花は触る事が出来るが、他の2人は触れない。
風鵺は聞く事は出来るが、他の2人は聞けない。
摩耶は見る事は出来るが、他の2人は見えない。
喧花を真ん中にして、3人で手を繋ぐ事で、漸く、普段通りに、相手を見る事が出来、話す事が出来、触る事が出来る様だ。
はっきり言って、此の状況は、不便さを感じる他無い。3人共、そう思って居るのか、表情は揃いも揃って、渋い顔をして居る。
「……ったく、何なんだよ!コレは!!」
意味不明、理解不能の域の現象に、忌々し気に吐き出す。
「…不便。」
摩耶も此の状況が気に食わないのは同じで、沸々と怒りが沸いて来る。
ジリリリリリリッ!!!!!!!
其の状況に輪を掛ける様に、非常ベルが鳴り響いた。
「チッ、今度は何d……」
……ぁぁああああああァァアアアア……
……オオオオオォォォオオオォォォ……
ハスキーボイス…何てのとは比べ物に成らない位の嗄声。
3人がおずおずと後ろを振り向けば、スクールロッカーの1つ1つから、1体1体、禍々しく蠢き、うねる黒い物体が犇めいて居た。
ホラー系やグロテスク系に該当しそうな光景だ。其の様は、例えるなら、蜂の巣で幼虫が蠢く様に似て居るだろうか。
「揚げたら美味いと思うか?」
「普通の蜂の幼虫だったなら。其れより、蜂蜜飲みたい。」
「Oh!No!お馬鹿っちょ!そんな会話してる場合じゃねーしYO!!!」
幼虫の様な薄暗い塊が、ボトリ、ボトリッと床に落ちる。
……ワァワァワァワァワァワァワァ……
…オギャアオギャアオギャアオギャア…
ズルリ…―
ズルリ…――
ズルリ…―――
地に伏し、苦し気に喘ぎながら、3人に向かって来る。
同時に形も単純な幼虫型から、人の子の様な形に変わって行く。
「………ノツゴ?」
「ノツゴって!?」
「『ノツゴの正体は、はっきりして居ない。』」
「正体不明なのに、何でそう言ったの!??」
「…分かんない。けど、お腹が、そう言った。」
摩耶は空いてる片手で自分の下腹部に手を当てた。
「ガーン!こんな時に不思議ちゃん到来!??」
「で?其のツノゴって何だ!?」
「『間引きや堕胎…其の様に不遇な死を遂げた子供の霊が成仏出来ずに、此の世を彷徨って居るモノが、ノツゴの正体と言われて居る。』」
「因みに、此のクソッタレな状況が、学校の怪談とかのホラー系だった場合、退治方法は?」
「『此の様なノツゴは、1004杯の水を掛けて、供養する事で、成仏するとも言う。』」
「1004杯!?はい、無理ゲー決定!」
マイナー知識を、頭の引き出しから、引き出して述べる摩耶。
そんな摩耶へ、本当は怖いくせに、強がって粋がって、状況打破の方法を聞く喧花。
方法を摩耶が述べると、其れに逸早く反応したのは風鵺。其の表情には既に『逃げるべし』と、ありありと刻まれて居る。
「炭酸水じゃ駄目か?確か、どっかに、あったぞ。手水舎でだけど。」
「…ストロベリーオレなら、持ってるけど。」
未開封のペットボトルに、まだ、タプン、チャプンッと入って居るストロベリーオレを鞄から取り出す摩耶。
「500ml.!?つーか1004杯って何リットル!?500ml.じゃ足りないのは確かだけど!!」
「南無三!!!」
「キャーーーーーーーーッ!!!」
喧花が、摩耶の手から、ストロベリーオレをブン捕り、迫り来る黒い物体と自分達の間…真ん中の床に、派手に打ちまけた。
ズ、ル…――――――………
「お?止まった。」
「液体なら何でも良いんかいッ!」
「あたしの…あたしのストロベリーオレが…ううぅ…。」
喧花は、ツッコミをする風鵺と、落ち込む摩耶を、小脇に抱えて走り出す。
平坦な床を駆けながら、障害物である机と椅子を物体達に向かって蹴り飛ばし、一気に、開いて居るドアの外まで猛スピードで疾走する。
ドアから廊下に出れば、其処は何時もの偽葬殿の中…天井へ続くだけの階段やら壁に取り付けられた雨戸やらが点在する迷宮だ。
疾走する喧花に、進行方向とは逆向きに抱えられた2人は、泥の様に流れては、崩れる出来損ないの物体の形相に、此方に向けられる手と思わしき部分を眺めていた。
「まるで、『待て!』って言ってるみたい。」
「誰が待つかよッ馬鹿野郎!」
「びぇええん!お家に帰りたいYO!!」
「そうね。ストロベリーオレに3秒ルールは無理だわ。good-byeストロベリーオレ。」
「「ヲイ!そっち!!?」」
不気味な物体達が出現した教室は、コントをしながらでも、全く衰えない喧花の素晴らしい脚力に因り、みるみるうちに遠くなって行った…―――。
And that's all…?
(それでおしまい…?)




