トライアンドエラー
何ヒット?何エラー?
「信じらんねー」
信じない。
認めない。
受け入れたくない。
しかし、現実は、馬鹿げて居る程、真逆を突き付ける。
信じろ。
認めろ。
受け入れろ。
此れが、現実だと。
喧花が目を覚ますと、意識を飛ばした前と変わらない教室が映った。
しかし、変わらないのは其処だけだった。
黒板の有る前方のドアは開きっぱなしで、自分の他に誰も居ない。
初対面の男子達は兎も角、風鵺と摩耶が此の状況下で自分を置いて行くとは思えない。
「(つーか、そう信じたい。マジで!)」
「あれ~っ?what is this!?」(訳:何々!?)
「……?」
もう1度、言おう。
教室には喧花以外の誰も見当たらない。
「喧花たん、摩耶たん、何処やね~ん!!」
「……??」
…しつこい様だが、念の為だ、もう1度、言おう。
教室には、喧花以外の誰も、見当たらない。
「うっそん!?置いて行かれた!??ぇ?酷くね?酷過ぎじゃね??」
風鵺の声だ。
ふざけた台詞も、本人だと証明するに値する、馬鹿さ加減だ。
此の意味不明な現状と、風鵺の此の陽気な馬鹿さ加減は、良い勝負かもしれない。
そう思いつつ、喧花は自分の手が、何か、温かいモノを握りしめて居る事に気が付いた。
覚えがある。
有り過ぎる程に。
此の自分が、何度も無防備に、疑う事無く、繋いで来た“手”の感触だ。
軽く、其の掴んで居た“手”を持ち上げて、呼び掛けてみる。
「風鵺…か?」
「え?喧花たん其処に居るの!?何時ONE PIECEの世界に行ってスケスケの実を食べたの!」
「誰が異世界トリップした上に悪魔の実、食べたって!?食べてねーよ!」
「じゃぁ、まさか、MONOKEINと呼ばれる不思議な新薬の実験体になってJack・Griffin博士みたいにッ!?」
「ンガァァアアッ!其れも違ェ!!!別の二次元、引っ張り込んで来んじゃねーよ!此のタコ助!!」
「どわぁぁああっ、殺~さ~れ~る~♪」
ぱっ!と手の感触が、消える様に離れる。
同時にまた声が聞こえなくなり、自分以外が居ない静寂が訪れる。
「……!?」
しかし、居るのだ。
直ぐ近くに風鵺が。
独りじゃ、無い。
“怖さ”は無い。
なら、大丈夫だ。
そして、冷静になった頭に、もしかして…と、予想が過る。
其の予想通りなら…!と、思い、慌てて、腕を伸ばした。
そうして、再び“手”らしきものを、捕まえた。
「…―――ぃ、おーい、今度はシカトです、ぎゃっ!?お化けに手を掴まれた!ヒーッ!ヘルプ―!!!!!!」
「バッ、俺だ!バ風鵺!!」
やはり、そうだ。
相手の一部を触ったりして居れば、意思疎通は出来る!
風鵺にも、喧花は、今、分かった事を説明する。
「なぁ~る」(訳:成程)
「多分、摩耶も此の教室のどっかに…」
「じゃぁ、あの隅っこの席で『パキンッモグモグ』してる音が、そうじゃね?」
「あ?……して無いぞ?そんな音。」
「…なぁ~る。……摩耶た~ん!此の飴玉、1袋あげるから、此方お出で~~。」
何かを納得した風鵺が、音のする方へ、飴玉が沢山入った1袋を掲げながら、左右に揺らす。
すると、何かを咀嚼する音が止まった。
そして……――――
ダダダッ
風鵺の耳にだけ、凄まじい足音が、近づいて来るのが、聞こえた。
喧花は、クエスチョンマークを頭に浮かべながら、其の様子を見守って居たら、パッ!と飴玉の袋だけが消えた。
「!?」
「喧花たん、此処、此処!!」
マジックの様に消えた飴の袋に呆然として居ると、風鵺の“手”に手を引かれる侭、其処に触れた。
途端、2人の姿が、しっかりと、確かに、見えた。
まるで、HarryPotterで言うなら、透明マントが2人を、今まで覆い隠して居たかの様に…。
其れが取り払われ、目に飛び込んで来たのは、何時も通りの、馴染み深い2人らしい姿だった。
此方に向かって、陽気に、ピースサインをする風鵺と、板チョコを食べながら、もう片手で飴の袋を抱え込んで居る摩耶の…見慣れた2人の姿が、映った。
「どうやら、摩耶たんは、“見る”事が出来る様だねぃ。」
「飴玉、ゲットだぜ。」
「あ、ははは」
ポロリと、涙が1粒、安堵からか、喧花の片目から、零れ落ちた。
And that's all…?
(それでおしまい…?)




