『敵強化』スキルを笑われて幼馴染に置いていかれた俺のレベルが有頂天でおさまる所を知らないので、助けたケモミミ美少女奴隷とイチャイチャしながら迷宮の最深層目指すことにした～神魂のニルヴァーナ～

聖女の試練と滅びの日

４の２２「マッピングの続きと９９層」

　クリーンのレベル上げは、順調に進んだ。

　３人は、９２層にまでたどり着いていた。

クリーン

「モフミちゃん。レベルが９２になりました」

　クリーンは、自身のレベルを確認して、そう言った。

ヨーク

「んじゃ……」

ミツキ

「はい」

クリーン

「次は９４層ですね」

ヨーク

「いや……」

ヨーク

「ミツキ。どうする？」

ミツキ

「ヨークにお任せします」

クリーン

「何です？　何の話なのです？」

ヨーク

「俺たちが攻略したのは、この９２層までだ」

ヨーク

「だから９３層に行くなら、レベリングじゃなくて、純粋な探索になる」

ヨーク

「一つの階層を、マッピングし終えるのに１日はかかる」

ヨーク

「まあ、階段を見つけてもマッピングを続けるのは……ただの拘りだがな」

クリーン

「拘り？」

ヨーク

「俺たちだけの、地図を完成させる」

ヨーク

「一応は、それを目標にしてるんだ」

クリーン

「そうなのですか？」

ヨーク

「ああ」

　ヨークにとって、王都の迷宮は、イージーすぎた。

　本気で潜っていたら、初日にだって、最下層まで辿り着けていただろう。

　味気なかった。

　だから、ただ潜る以外の何かが、ヨークには必要だった。

ヨーク

「とにかく、今までみたいに効率の良いレベル上げは、無理だ」

ヨーク

「だから、このあたりで切り上げても良いんだがな」

クリーン

「先に進みましょう」

ヨーク

「時間かかるぞ？」

クリーン

「構わないのです」

クリーン

「モフミちゃんが、普段どんなことをしているか、興味が有りますし」

ヨーク

「別に。ただの散歩だ」

クリーン

「お散歩は好きなのです。お散歩しましょう」

ヨーク

「仰せのままに」

　ヨークたちは、９３層へ移動した。

　レベル上げが目的では無いので、氷狼による狩りはしない。

　ミツキは自力で戦うため、『収納』スキルで大剣を取り出した。

クリーン

「わっ。大きい剣ですね」

　ミツキの剣は、黒く大きい。

　それを見て、クリーンが驚きの声を上げた。

　今までの戦闘は、ずっと氷狼に頼っていた。

　そのため、クリーンがミツキの剣を見るのは、これが初めてだった。

　剣の刃渡りは、２メートル近い。

　柄の部分だけでも、９０センチは有った。

　全体では、３メートルほどになる。

　常人が振るう剣では無かった。

ミツキ

「ふふふ。新品です」

　以前使っていた剣は、黒蜘蛛によって破壊されてしまった。

　今の剣は、レアな材料を集め、エボンに作らせた、特注品だった。

　当然、その耐久度は、前の剣とは比較にならない。

　この剣が有れば、たとえ黒蜘蛛が相手でも、純粋な攻防であれば、打ち勝てるはずだった。

クリーン

「そんなに大きいの、よく持てますね？」

ミツキ

「レベルが１００有れば、誰だって持てますよ。これくらい」

クリーン

「そうですか？　持ってみても良いでしょうか？」

ミツキ

「どうぞ」

　ミツキは、剣をクリーンに差し出した。

　クリーンは、剣を受け取ろうとした。

　重かった。

クリーン

「ひぎゃっ！？」

　あまりの重量に、クリーンは、剣を落としてしまった。

　その先に、クリーンの足が有った。

　剣の腹が、クリーンの足に、ずしりとのしかかった。

クリーン

「足がああああああああああっ！？」

　剣と地面に足を挟まれ、クリーンは悲鳴を上げた。

　刃が足に落ちなかったのが、せめてもの幸いだろうか

ミツキ

「あっ……。すいません」

　ミツキはひょいっと、剣を拾い上げた。

ミツキ

「風癒」

クリーン

「ううう……」

　涙をこぼすクリーンの体を、ミツキの回復呪文が包み込んだ。

ヨーク

「自分のゴリラパワーを甘く見たな？」

　ヨークは、にやにやと笑って言った。

ミツキ

「…………」

ミツキ

「オオカミパワー。えいっ」

ヨーク

「うわっ！？　投げんな！？」

　……。

　クリーンの心的外傷が癒えると、ヨークたちは探索を開始した。

　冷房も兼ねて、３頭ほどの氷狼も、同行させた。

　ほんの少し歩くと、３人は魔獣に遭遇した。

コモドドラゴン

「…………」

　地を這うその魔獣は、大きなトカゲのように見えた。

　顔は平べったく、ずんぐりとした太い手足を持っていた。

　そのがっしりとした体は、いかにもタフそうに見える。

ヨーク

「トカゲか？」

ミツキ

「いえ。あれはコモドドラゴンです」

ヨーク

「なにっ！？　ドラゴン！？」

　ドラゴンと言えば、物語などに出てくる最強の怪物だ。

　伝説との遭遇に、ヨークの体が強張った。

ミツキ

「いえ。ドラゴンでは無いです。コモドドラゴンです」

ヨーク

「えっ？　つまりドラゴンなんだろ？」

ミツキ

「いえ。コモドドラゴンです」

ヨーク

「？？？？？？」

ミツキ

「やっぱり、コモドトカゲということにしましょう」

ヨーク

「そうか。トカゲか。驚かせやがって」

　ヨークはふぅと安堵の息を吐いた。

ミツキ

「はい。トカゲです。行きます」

　ミツキは前に出た。

　姿勢の低いコモドドラゴンに対し、下段の斬撃を放った。

　そして一刀で、コモドドラゴンを斬り倒した。

ミツキ

「えっ？」

　勝者であるミツキが、戸惑いながら、手元を見た。

　何かトラブルだろうか。

　ヨークは心配し、ミツキに声をかけた。

ヨーク

「どうした？」

ミツキ

「いえ。想像以上に、相手の動きが鈍かったので」

ミツキ

「それに、手応えが……」

クリーン

「あっ。私の『聖域』スキルのせいですね。ごめんなさい」

クリーン

「３０メートル離れるのです」

　クリーンはそう言って、後ろに下がっていった。

ヨーク

「離れたら護衛にならん」

　クリーンを追って、ヨークも下がった。

クリーン

「そうですけど」

クリーン

「モフミちゃんに守ってもらうので、あなたが前に出たらどうです？」

ヨーク

「われ魔術師ぞ？」

クリーン

「なさけないですねえ。その剣は飾りなのですか？」

ヨーク

「実はな」

クリーン

「…………」

ヨーク

「頑張れミツキ。俺たちは後衛の責務をまっとうする」

ミツキ

「……地図どうぞ」

　ミツキはマッピングセットを、ひゅんとヨークに投げ渡した。

ヨーク

「おう」

　ヨークとクリーンは、ミツキに魔獣を丸投げして、のんびりと進んだ。

　そしてたまに、声援を飛ばした。

ヨーク

「オーフェンス。オーフェンス」

クリーン

「ディーフェンス。ディーフェンス」

ミツキ

「……………………」

　９３層の攻略途中で、夕刻になった。

ミツキ

「今日は、この辺りにしておきましょう」

　ミツキは懐中時計を見て、そう言った。

ヨーク

「ああ」

クリーン

「……あの」

ヨーク

「ん？」

クリーン

「迷宮って、何階まであるのでしょうか？」

ヨーク

「９９らしいぞ。噂だけど」

クリーン

「えっ？　もうすぐじゃないですか」

ヨーク

「そうだな」

ヨーク

「もうすぐだ」

クリーン

「……迷宮って、今まで踏破した人が居ないのでしょう？」

ヨーク

「そのはずだが」

クリーン

「だったら……もっと深いと思ってたのです」

ヨーク

「どうして？」

クリーン

「だって、そんなに浅かったら、すぐに踏破出来ちゃうと思うのですけど」

ミツキ

「ヨークが特別なのですよ」

ミツキ

「普通の冒険者の限界は、５０層程度と言われています」

ミツキ

「常人の限界を超えたその先を、人々は深層と呼び、恐れるのです」

クリーン

「そうなのですね？　けど……」

クリーン

「聖女なら？」

ミツキ

「えっ？」

クリーン

「魔獣を無力化出来る聖女なら、深層も自由に、行き来出来るのではないですか？」

ミツキ

「それは……」

ミツキ

「言われてみれば……」

ヨーク

「大神殿は、迷宮を踏破出来るのにしない。そういうことか？」

クリーン

「違いますか？」

ミツキ

「……９９層が終着点という噂が、デマなのかもしれませんね」

ミツキ

「迷宮がもっと広大なのであれば、聖女であっても踏破は困難でしょうから」

クリーン

「確かめてみたくないですか？」

ミツキ

「そうですね」

ミツキ

「……ですが、今日は帰りましょう」

ミツキ

「そろそろ夕食の時間ですから」

クリーン

「ごはん！」

ヨーク

「そうだな。帰るか」

ミツキ

「ヨーク」

ヨーク

「うん？」

ミツキ

「疲れました。抱っこしてください」

ヨーク

「悪いな。お前だけ戦わせて」

ミツキ

「いたわってください。そしてねぎらってください」

ヨーク

「よしよし」

　ヨークはミツキのフードを外し、彼女の頭を撫でた。

ミツキ

「ん……」

　微笑むミツキを、ヨークは抱き上げた。

　このまま地上まで、連れていくつもりだった。

ヨーク

「行くぞ」

クリーン

「えっ？　私は？」

ヨーク

「氷狼に乗ってみるか？」

クリーン

「とうっ！」

　クリーンは、周囲に配置されていた氷狼に、飛び乗った。

クリーン

「へぶっ！？」

　滑って落ちた。

ヨーク

「やっぱり練習しないと無理か」

クリーン

「ぐぬぬ……」

ヨーク

「おぶされ」

クリーン

「しぶしぶ」

ヨーク

「口で言う？」

　クリーンは、ヨークの背中に抱きついた。

　ヨークは２人を乗せたまま、氷狼に跳び乗った。

ヨーク

「……それじゃ、行くぞ」

　氷狼は、地上へと走った。

　……。

　１週間が経過した。

ヨーク

「ついに来たな」

ミツキ

「はい」

　そう言うヨークたちの眼前には、９９層への階段が有った。

クリーン

「あのあの、ヨーク」

ヨーク

「うん？」

クリーン

「あのですね……」

クリーン

「ダッシュ」

　クリーンは、突然に駆け出した。

　そして我先にと、階段を駆け下りていった。

ヨーク

「あっ！　待ちやがれ！」

　ヨークとミツキも、クリーンを追って、階段を駆け降りていった。

　冷房用の氷狼と共に、走った。

　やがて、階段は終わった。

　ヨークは、先を行ったクリーンに追いついた。

クリーン

「いっちば～ん」

　クリーンはそう言って、ヨークを出迎えた。

ヨーク

「にばん」

ミツキ

「さんばん」

ヨーク

「で、どんな感じだ？」

クリーン

「なんだか……」

クリーン

「前と代わり映えしない感じですね」