4の21「もっとパワーレベリング」
2人は、ヨークおすすめの食堂に入った。
注文をして少しすると、料理が運ばれてきた。
ありふれた王国料理だった。
クリーン
「良いお店ですね」
クリーンが、店の内装を見て言った。
高級店では無いが、さっぱりとして、清潔感が有った。
ヨーク
「そうか? まあ俺は気に入ってるけどな」
クリーン
「……あの」
ヨーク
「ん?」
クリーン
「私のこと、ちゃんと勝たせるのですよ?」
ヨーク
「まあ、ほどほどに頑張るわ」
クリーン
「むぅ……」
クリーン
「私がイバちゃんに負けても、良いのですか?」
ヨーク
「あいつか……」
ヨークは、イーバの顔を思い浮かべた。
直接的な因縁は無い。
だが、嫌な奴だとは思っていた。
ヨーク
「汚い奴に負けるのは、嫌だな」
クリーン
「でしょう?」
ヨーク
「じゃ、あいつだけ限定的に潰すわ。たとえお前が聖女になれなくても徹底的に」
クリーン
「素直に私を勝たせたら良いでしょう!?」
ヨーク
「え~? お前の試練だろ?」
クリーン
「それは……そうですけど」
ヨーク
「他力本願はいかんな?」
クリーン
「その通りですけど、あなたに言われると、なんか腹立つのです」
クリーン
「……危なくなったら助けてくださいね?」
ヨーク
「そだな」
ヨーク
「ところで、バッタ頼む?」
クリーン
「頼みませんけど!?」
そのとき、ヨークのポケットから音が聞こえた。
ヨーク
「お」
クリーン
「えっ? どうしたのです?」
ヨーク
「ちょっと黙ってろ」
クリーン
「むぅ」
ヨークはポケットに手を入れ、遠話箱を取り出した。
そして、それを耳に当てた。
ヨーク
「ミツキか?」
ヨークが箱に話しかけると、聞き慣れた声が返ってきた。
ミツキ
「はい。野暮用が終わったところです」
ヨーク
「別にトラブルとかじゃ無いんだな?」
ミツキ
「はい。それでヨーク」
ミツキ
「そろそろお昼ごはんの時間ですけど……」
ヨーク
「今食ってる。クリーンと」
ミツキ
「あっ、そうですか。それでは」
ミツキとの遠話が途切れた。
ヨーク
「……切れた」
ヨークはクリーンの方を見た。
クリーン
「なに1人でブツブツ話してるのですか? ついに脳が?」
クリーンは、胡散臭そうにヨークを見た。
リホ特製の遠話箱は、世間には出回っていない。
ヨーク
「魔導器だよ。ミツキから連絡」
クリーン
「モフミちゃん? どうかしたのですか?」
ヨーク
「いや。別に。だいじょうぶだって」
クリーン
「そうですか?」
食事が終わった。
2人は店を出て、宿に帰還した。
ヨーク
「ただいま~」
クリーン
「ただいまなのです」
2人が寝室に入ると、ミツキの姿が有った。
ミツキ
「んく」
ミツキ
「お帰りなさい」
ミツキは作業台の椅子に座り、串焼きを食べていた。
作業台の上に、紙袋が置かれていた。
その中に、たくさんの串焼きが入っているのが見えた。
ヨーク
「量多くね?」
ミツキ
「別に多くないです」
ミツキ
「……欲しいならあげますけど?」
ヨーク
「1本貰うわ」
3人で、串焼きを食すことになった。
……。
ヨークたちがクリーンの守護騎士になってから、2ヵ月が経過した。
大神殿の教室。
クリーンに対する、レディスの授業が終了した。
レディス
「よく頑張りましたね」
レディスはクリーンに向かって言った。
レディス
「これで大神殿が定めた、聖女候補教育課程は、終了となります」
クリーン
「本当ですか?」
レディス
「ええ」
レディス
「たった2ヶ月でやり遂げてしまうとは、大したものですね」
クリーン
「ありがとうございます」
レディス
「もっとも」
レディス
「この程度で、淑女の道を極めたと思ってもらっては、困ります」
レディス
「あなたが望むなら、さらに高度な淑女としての教育を……」
クリーン
「結構です」
クリーンは即答した。
レディス
「そうですか。残念です」
レディス
「学んだことを、錆び付かせないように、精進するのですよ?」
クリーン
「はい。お世話になりました」
一礼を済ませ、クリーンは教室を出た。
クリーン
「終わったのです」
クリーンは廊下に出ると、護衛のヨークたちに声をかけた。
ヨーク
「ああ」
彼女は次に、ニトロの部屋へと向かった。
クリーン
「レディスさんの授業が終わったのですけど、これからどうすれば良いのでしょうか?」
クリーンは、ニトロと向かい合い、聖女教育が終わったことを報告した。
ヨークとミツキは、クリーンの後ろで、黙って話を聞いていた。
ニトロ
「好きなようにすれば良いよ」
クリーン
「良いのですか?」
ニトロ
「あの教育は、私が推薦する聖女候補として、最低限恥ずかしくない教養を、得るためのものだ」
ニトロ
「それをクリアした以上、君は自由だ」
ニトロ
「さらに自分を磨くも良し、王都で思い出作りをするも良し、好きにすれば良いさ」
クリーン
「思い出作りって……」
クリーン
「落ちるって言われてるみたいで、良い気はしないのです」
ニトロ
「大勢居る聖女候補のうち、本当の聖女になれるのは、たった1人だ」
ニトロ
「君は絶対に受かるだなんて、気休めは言ってあげられないな」
クリーン
「……そうですか」
クリーン
「どうしたら勝てるのでしょうか?」
ニトロ
「さあね。ただ……」
ニトロ
「力を持たない者が、聖女の試練を勝ち抜くことは無い」
ニトロ
「これは絶対の真理だ」
クリーン
「力……」
クリーン
「ありがとうございます。大神官様」
クリーン
「私、頑張るのです」
ニトロ
「うん。頑張って」
クリーンたちは、ニトロの部屋を出た。
そしてそのまま、大神殿の外へと出た。
クリーン
「あのあの」
クリーンは、ヨークに話しかけた。
ヨーク
「うん?」
クリーン
「ラビュリントスに行きましょう」
ヨーク
「何しに?」
クリーン
「決まっているでしょう? レベル上げです。レベル上げ」
クリーン
「聖女になるには、力が必要」
クリーン
「力というのは、レベルのことでしょう?」
ミツキ
「……そうなのでしょうか?」
クリーンの言葉に対し、ミツキは疑問を呈した。
ヨーク
「ミツキ?」
ミツキ
「その……」
ミツキ
「聖女の役目は、迷宮をスキルで鎮めること」
ミツキ
「それと直接的な強さが、あまり関係が無いような気がして……」
ヨーク
「いや。クラスのレベルが上がると、スキルの効果も上がるけどな」
ミツキ
「そうなのですか?」
ヨーク
「ああ。ミツキのスキルは戦闘系じゃ無いからな。実感が無いんだろうが」
ミツキ
「なるほど……」
ミツキ
「私の考えすぎだったようですね。ごめんなさい」
ヨーク
「謝らんでも」
クリーン
「とにかく、レベルを上げるのが正解ということですよね?」
クリーン
「早く行きましょう」
ヨーク
「ん……」
ヨーク
「ミツキもそれで良いか?」
ミツキ
「構いません」
3人は、迷宮の1層へと移動した。
ヨーク
「それじゃ、64層まで行くか」
ヨーク
「氷狼」
ヨークは魔剣を地面に向け、呪文を唱えた。
ヨークの眼前に、氷狼が1頭出現した。
ヨーク
「乗ってけ」
ヨークはクリーンに、背中を向けた。
クリーン
「……仕方ないのです」
クリーンは、ヨークの方へ2歩あるいた。
クリーン
「と見せかけて」
ミツキ
「あっ」
クリーンは、突如向かう先を変えた。
そして、ミツキの背に飛び乗った。
クリーン
「ふふん」
ドヤァ……といった感じで、クリーンは笑った。
クリーン
「馬鹿ですね。モフミちゃんが居るのに、あなたに乗るわけが無いでしょう?」
ヨーク
「まあ、ミツキが良いなら良いが」
ミツキ
「大丈夫です」
ヨーク
「そうか?」
ヨークは氷狼に跳び乗った。
ヨーク
「んじゃ、出発」
クリーン
「しんこ~う!」
氷狼が、走り始めた。
ミツキも疾走し、その後を追った。
ほぼ全速だった。
氷狼の足は、ミツキよりも少し速い。
その分の加減はしてあった。
クリーン
「うひゃああああああああぁぁぁぁっ!」
クリーンは、悲鳴を上げた。
だが、これまでと比べると、楽しそうだった。
3人はあっという間に、64層に到着した。
そこは61層と同様に、雲の階層だった。
ミツキ
「降りてください」
クリーン
「もうちょっとこのままで……」
ミツキ
「えい」
クリーン
「ふぎゃっ!」
ミツキにふり落とされ、クリーンはうめき声を上げた。
ヨーク
「さて……」
ヨークは指輪を操作し、EXPの結界を張った。
そして、呪文を唱えた。
ヨーク
「氷狼、10連」
氷狼の群れが出現した。
ヨーク
「ほ~れ、狩ってこい」
ヨークが命ずると、狼たちは、雲の通路を駆け去っていった。
……。
10分後。
ヨーク
「ロイヤルハゲアタマフラッシュ。ワンパンチキルだ」
ミツキが用意したシートの上で、ヨークたちはカードゲームに興じていた。
ミツキ
「トラップカード発動。育毛の誘いです」
ミツキ
「これで無毛族のロールは、全て無効となります」
ヨーク
「ぐお……」
ヨークの攻撃が、完封された。
カードゲームは、ミツキの勝利だった。
ミツキ
「ふっ。甘いですね。ヨーク」
クリーン
「凄いのです。ヨークに勝つなんて」
クリーンは、ヨークに全く勝てていない。
彼女はミツキに、尊敬の眼差しを向けた。
ミツキ
「パーティの頭脳担当ですからね。一応」
クリーン
「それじゃあ、ヨークがパワー担当でしょうか?」
ミツキ
「えっ?」
クリーン
「えっ?」
ヨーク
「…………」
ヨーク
「どうも。イケメン担当です」
クリーン
「お尻に敷かれているのですね」
ヨーク
「それほどでもない」
クリーン
「あの、私もヨークに勝てるようになりたいのです」
ミツキ
「後で、こっそり弱点をお教えしましょう」
ヨーク
「えっ? 止めて」
クリーン
「あっ。レベルが63になってるのです」
ヨーク
「それじゃ、65層に行くか」
ヨークはそう言って、カードを束ねた。
クリーン
「はい」




