表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/226

4の17「女風呂と宿への帰還」




 そのとき、更衣室入り口の方から、足音が聞こえてきた。


 2人は、入り口に続く通路を見た。


 すると……。



クリーン

「げっ」


イーバ

「あっ」


ミツキ

「…………」


マギー

「…………」


トリーシャ

「…………」



 足音の正体は、イーバ一行だった。


 イーバと2人の取り巻きが、更衣室に入ってきた。


 クリーンは、イーバを睨みつけた。


 全裸で。



クリーン

「また何かしようというのですか?」


イーバ

「言いがかりは、止めてもらえるかしら?」


イーバ

「私たちはただ、お風呂に入りに来ただけよ」


クリーン

「そうですか。お風呂くらい、ゆっくり入らせて欲しいのです」


イーバ

「好きにしなさい。……あら?」



 イーバは、クリーンの後ろに立つミツキを見た。



ミツキ

「何か?」


イーバ

「どうして大神殿に、奴隷が居るのかしら?」



 イーバとミツキは、初対面ではない。


 だが、前はフードを被っていた。


 以前のミツキと今のミツキが、同一人物だと分からない様子だった。



クリーン

「彼女は私の、守護騎士なのです」


イーバ

「ぷっ」



 予想外の言葉に、イーバはふきだしてしまった。



イーバ

「奴隷が守護騎士だなんて、聞いたことが無いわ」


イーバ

「まともな守護騎士のなり手が居ないなんて、よっぽど人望が無いのね。あなた」


クリーン

「羨ましいのですか?」


イーバ

「えっ?」


クリーン

「こんな可愛くてふさふさでもふもふな守護騎士なんて、他には居ないのです」


クリーン

「まあ、あなたが羨ましがるのも無理は無いのです」


イーバ

「ちっとも羨ましくなんか無いわ!」


クリーン

「そうなのですか?」


イーバ

「そうよ! 家にだって、同じ耳と尻尾の奴隷が居るんだから!」


ミツキ

「え……?」


クリーン

「本当でしょうか?」


イーバ

「本当よ! その子よりもっと小さくて可愛い、男の子なんだから!」


ミツキ

「その子の名前は?」


イーバ

「何よ。奴隷が口を挟まないでくれる?」


ミツキ

「…………」



 ミツキは、丁寧に頭を下げた。



ミツキ

「お願いします。その子の名前を教えて下さい」


クリーン

「モフミちゃん?」


イーバ

「あら? そんなに知りたいの?」



 イーバはにやりと笑った。


 人の弱みを見つけることに、快楽を感じているらしい。



ミツキ

「……はい」


イーバ

「どうしようかしらね~?」



 イーバはもったいぶって、左手を上げた。


 そして人差し指を、自分の頬に這わせた。



イーバ

「そうだ。一つ条件を呑むのなら、教えてあげても良いわ」


ミツキ

「条件とは?」


イーバ

「その耳をモフモフさせなさい!」


ミツキ

「はい?」


クリーン

「そんな……! 駄目なのです!」



 それは決して許されないことだ。


 そう思ったクリーンは、真剣にイーバに抗議した。



ミツキ

「別に駄目とかでは無いですけど」


クリーン

「えっ? だったら私も」



 クリーンは、ミツキに飛びかかった。



ミツキ

「タダじゃないですよ」



 ミツキの肘が、クリーンの頬に突き刺さった。


 クリーンヒットだった。



クリーン

「へごおっ!?」



 クリーンは、床に崩れ落ちた。



イーバ

「それ、あなたの護衛対象よね?」



 イーバは、失神したクリーンを見て、眉をひそめた。



ミツキ

「まあ、多少は」


ミツキ

「それで、あなたの奴隷の名前は?」


イーバ

「え? ユウヅキだけど」


ミツキ

「ありがとうございます。それではモフモフタイムをどうぞ」


イーバ

「……殴らない?」


ミツキ

「対価は頂きましたので」


ミツキ

「制限時間は30秒です」


イーバ

「えっ短い」




 ……。




 30秒後。



イーバ

「ふああぁぁぁ……」



 ミツキの体を弄んだイーバは、ご満悦のようだった。


 頬を赤らめ、涙ぐみ、にやにやと笑っていた。


 淑女が、人前で見せて良い表情ではなかった。



ミツキ

「それでは」



 取引が終わったミツキは、クリーンの方へと向かった。



ミツキ

「クリーンさん。起きて下さい」



 ミツキはクリーンの隣にしゃがみ、彼女の頬をぺちぺちと叩いた。



クリーン

「う……」


クリーン

「知らない人が、川の向こうでおいでおいでしてたのです……」


ミツキ

「……普通は知ってる人が、見えるのでは無いですかね」


ミツキ

「早くお風呂に入りましょう。風邪をひきますよ」


クリーン

「えっ? はい。そうですね」



 クリーンは、浴室に向かった。


 ミツキもその後に続いた。


 浴室への戸を通る瞬間、ミツキはイーバへと振り返った。



ミツキ

「見つけた」



 ミツキはイーバの間抜けヅラを見ながら、小さく呟いた。




 ……。




 ヨークは風呂を出た。


 そして、まっすぐにクリーンの寝室に向かった。


 部屋に、クリーンたちの姿は無かった。



ヨーク

(まだ風呂か)


ヨーク

(まあ、そうだよな)



 ヨークは椅子に腰かけ、クリーンとミツキを待った。


 やがて、出入り口の扉が開いた。


 湯上がり姿の2人が、部屋に入ってきた。



ヨーク

「おかえり~」


ミツキ

「はい。ただいま」


ヨーク

「それとさ、ちょい赤」


クリーン

「何なのですかその呼び方は!?」


ヨーク

「先に変な呼び方したの、お前だろうが」


クリーン

「私には、クリーンっていう立派な呼び方が、有るのです!」


ヨーク

「そうか。俺はヨークだ」


ヨーク

「んで、ニトロさんが、この部屋出てけって」


クリーン

「えっ!? どうしてなのです!?」


ヨーク

「聖女候補の宿泊施設に、騎士でもない男が泊まりこむのは、外聞が良くないんだと」


ヨーク

「つーわけで、俺の宿に行くぞ」


クリーン

「えっ……? あなたの部屋に泊まるのですか……?」


ヨーク

「護衛なんだから、しょうがねーだろ」


クリーン

「私があなたの部屋に泊まるのは、外聞悪くは無いのですか?」


ヨーク

「お前がお嬢様とかだったら、良くないだろうけど」


ヨーク

「まあ、お前だし?」


クリーン

「どういうことなのです!?」


ヨーク

「いいから行こうぜ」


クリーン

「それは……」


ミツキ

「私も一緒ですから、変なことにはなりませんよ」


クリーン

「……仕方ないですね。譲歩してやるのです」


ヨーク

「それじゃ、とっとと支度しろ」


クリーン

「……分かってるのです」


ヨーク

「ところで、ほっぺ腫れてるけどどうした?」


クリーン

「…………」


クリーン

「風癒」




 ……。




 クリーンが荷物をまとめると、3人で大神殿を出た。


 とっくに日は沈んでいた。


 街灯が放つ光が、街を照らしていた。



サレン

「クリーンさん!」



 若い女の声が、クリーンを呼んだ。


 振り返ると、大神殿の入り口の方に、サレンの姿が有った。


 サレンは、クリーンに向かって駆けてきた。



クリーン

「サレン」


サレン

「……話は聞きました」


サレン

「申し訳有りません」



 サレンは、深く頭を下げた。



サレン

「ケーンたちが仕出かしたこと……同じ神殿騎士として、恥ずかしく思います」


クリーン

「あなたが気にすることじゃないのです。そうでしょう?」


サレン

「……ありがとうございます」


クリーン

「お礼を言うことでも無いと思いますけど」


サレン

「…………」


サレン

「あの……その方々は?」


クリーン

「私の守護騎士です。不本意ながら」


サレン

「騎士……? 冒険者のように見えますが」



 神殿騎士であれば、職務中は、鎧を身にまとっているものだ。


 ヨークの服装は、ラフな冒険者スタイルだった。



ヨーク

「冒険者で悪かったな。言っとくが、ニトロ大神官のお墨付きだぞ」


サレン

「お父様が? ……失礼しました」


ヨーク

「そんな畏まらんでも」


サレン

「あれ……?」


ヨーク

「うん?」


サレン

「あなた……どこかで見たような……」


ヨーク

(この前、顔を見られた? 不味いか?)


ヨーク

「ヨーク=ブラッドロードだ。別にどこにでもある顔をしている」


ミツキ

「ミツキです。別にどこにでもある顔をしています」


サレン

「はい。サレン=バウツマーです。それで……」



 サレンはヨークの顔を、じっと観察した。



ヨーク

「う……」



 遠慮の無い視線を受け、ヨークはしりぞいた。



サレン

「そうだ!」


ヨーク

「……!」


サレン

「家にある石像に似てるんですね!」


ヨーク

「…………」


ヨーク

「そう?」


サレン

「はい。お綺麗ですね」


ヨーク

「えっ? ありがと」


サレン

「……すいません。気の利いた会話は苦手でして」


ヨーク

「別に良いけど」


ヨーク

「聖女の試練で戦うんだろ?」


ヨーク

「敵同士なら、そんなに馴れ合わんでも良いだろう」


サレン

「敵……それは……はい……」


ヨーク

「それじゃ、試練で会おうぜ」


サレン

「はい。またお会いしましょう」



 3人は、サレンと別れた。


 そして、宿屋へ移動した。


 正面口から中に入ると、サトーズの姿が見えた。



サトーズ

「お帰りなさいませ。お客様」


ヨーク

「ただいま。サトーズさん。今日からこいつも泊まることになったから」


サトーズ

「はい。承りました」


クリーン

「クリーンなのです。よろしくお願いするのです」


サトーズ

「私めはサトーズと申します」


ヨーク

「それじゃ」



 ヨークたちは、階段へ向かい、2階へと上がっていった。



サトーズ

「…………」


サトーズ

「お盛んですな」



 ヨークたちは、2階の寝室に入った。


 風呂も食事も済ませてある。


 あとはダラダラするだけだった。


 休むためのベッドは、2つ有る。


 ヨークたちは3人だ。


 3人のうち2人は、同じベッドを使う必要が有った。



ヨーク

「それじゃ、お前は左のベッドを……」


ヨーク

「…………」


ヨーク

「ミツキと一緒に使ってくれ」


クリーン

「何なのですか? 今の間は」


ヨーク

「別に?」


ヨーク

「それと、明日は俺たちと、パワーレベリングをしろってさ」


クリーン

「……また迷宮に行くのですか?」


ヨーク

「怖いか?」


クリーン

「っ! 怖いわけが無いのです!」


ヨーク

「それなら良かった」



 3人はベッドでゆったりと過ごし、そして眠った。


 翌日。


 3人は起床し、宿の食堂で朝食を済ませ、寝室に戻った。


 寝室で、ミツキが口を開いた。



ミツキ

「ヨーク」


ヨーク

「何だ?」


ミツキ

「実は、急用が出来まして」


ミツキ

「迷宮へは、クリーンさんとお二人で、行っていただけませんか?」


ヨーク

「良いけど」


ヨーク

「珍しいな? ミツキがそんなこと言い出すのは」


ミツキ

「すいません」



 ミツキは申し訳なさそうに俯いた。



ヨーク

「良いって」


クリーン

「えっ!? 私は良くないですけど!?」


ヨーク

「我慢しろ。俺も我慢する」


クリーン

「私と居るのに、我慢が必要だって言うのですか!?」


ヨーク

「多少」


クリーン

「多少!?」


ヨーク

「で、何なんだ? 用事って」


ミツキ

「それは……」


ミツキ

「ヨークになら、お話しても良いのですが……」



 ミツキはちらりとクリーンを見た。


 クリーンには、あまり話したくない。


 そう言っているようだった。



クリーン

「むぅ……」



 クリーンは、仲間はずれにされた気がして、なんとなく嫌な顔をした。



ヨーク

「まあ、無理に言わなくても良いよ」


ミツキ

「ありがとうございます。それでは」


ヨーク

「もう行くのか?」


ミツキ

「すいません。心が逸ってしまって……」


ヨーク

「ん。危ないことはすんなよ」


ミツキ

「それは……」


ヨーク

「もし危なくなったら、俺を呼べ」



 ヨークはポケットから、遠話箱を出してみせた。


 リホの置き土産だった。



ミツキ

「はい」


ミツキ

「……行ってきます」



 ミツキはぺこりと頭を下げ、出入り口に向かった。



ヨーク

「行ってらっしゃい」



 ミツキは扉を開け、寝室を出た。


 廊下を歩き、階段を下り、外へ。


 既に通りには、人々の姿が有った。


 少し混雑していた。


 ミツキは地面を蹴り、宿の屋根に飛び乗った。


 そして、スキルで地図を取り出した。


 地図を手に取ると、開いたままにして、屋根上を駆けていった。




 ……。




 やがて辿り着いたのは、マーガリート公爵邸だった。


 ミツキは警備の目を盗み、庭に侵入した。


 隠れながら庭を抜け、屋敷の壁面へとたどり着いた。


 ミツキは窓をちらりとのぞきこんで、部屋の中を確認していった。


 そして……。



ミツキ

「…………!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ