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4の7「大神殿と案内」




クリーン

「えっと……」


クリーン

「あなたが手加減してくれたわけでは、無いのですよね?」


サレン

「断じて」


サレン

「私は本気で、あなたを倒すつもりでいました」


クリーン

「そうですか」


クリーン

「それでは……ええと」


クリーン

「私の応援は、凄いのです」


サレン

「?」


クリーン

「さっき、自分で自分を応援したでしょう?」


クリーン

「私があなたに勝てたのは、そのおかげだと思うのです」


サレン

「……………………」


サレン

「はい?」


クリーン

「スキルですよスキル。サブスキルなのです」


サレン

「あなたは……レアスキルを2つも持っているというのですか?」



 『聖域』は、レアスキルだ。


 王都全体で見れば、所有者が100人を超える程度のものではある。


 だが、得難いスキルであることは、間違いが無い。


 さらに、サブスキルまで強力なものなのだとしたら……。


 クリーンという少女は、とんでもない天運の持ち主だということになる。



クリーン

「そうなのでしょうか?」


サレン

「何というスキルなのか、伺ってもよろしいですか?」


クリーン

「『鼓舞』なのです」


サレン

「…………はい?」



 クリーンのスキルを聞いて、サレンは固まった。



クリーン

「ですから、『鼓舞』なのですよ」


クリーン

「難しい言葉なので、意味が分からなかったのでしょうか……?」


サレン

「いえ。いいえ。いいえ」


サレン

「特に難しくはありません」


サレン

「きちんと学校で、教育を受けた者であれば、誰でも知っている程度の言葉です」


サレン

「そもそも……」


サレン

「『鼓舞』というのは、レアスキルではありません! ありふれた、一般的なスキルです!」


クリーン

「……そうなのですか?」


サレン

「『聖域』と、『鼓舞』のスキルしか無いのに、いったいどうやって……」


クリーン

「どうなってるのです?」


サレン

「…………」


サレン

(こっちが聞きたいのですが)


クリーン

「『鼓舞』がレアスキルじゃ無かったなんて、ビックリなのです」


クリーン

「けど、私の応援は凄いって、おばあちゃんも言ってましたから」


クリーン

「やっぱり私が勝てたのは、応援の力だと思うのです」


サレン

「納得は行きませんが……」


サレン

「あなたの力量を、見誤っていたことは事実です」


サレン

「あなたには、確かな力が有ります」


サレン

「大神殿へと、ご案内しましょう」


クリーン

「ありがとうございますです」



 クリーンは、サレンと並んで、大神殿へと歩いていった。


 二人は、大神殿の正面口へと、近付いていった。


 正面口に、扉は無かった。


 ただ広々とした開口部が、人々を迎え入れていた。


 その開口部の隣に、見習い騎士が立っていた。



見習い騎士

「お疲れ様です」



 見張りの騎士が、サレンに挨拶をしてきた。


 顔見知りのようだった。



サレン

「はい。あなたも」



 サレンは見張りに挨拶を返し、神殿の中へと入っていった。


 入って少し歩くと、広い礼拝堂に出た。



サレン

「ここが礼拝堂です」


クリーン

「綺麗……」



 クリーンは思わず、感嘆の声を漏らした。


 そして、立ち止まった。


 礼拝堂の、壁面や天井は、緻密な宗教画によって、彩られていた。


 壁画は、魔導器の照明によって、その輝きを増していた。


 側面に並び立つ円柱にも、精緻な細工が為され、その優美さには、一切の手抜きは見られなかった。


 祭壇となるテーブルや、参拝者用の椅子にも、最高級の物が使われていた。



サレン

「大陸一の神殿ですからね」



 クリーンは、礼拝堂の様子に見惚れていた。


 だが、サレンは慣れている様子だった。


 特に心を打たれた様子も無い。


 少しだけクリーンに付き合うと、サレンは歩みを再開した。



サレン

「……奥へ行きましょう」



 2人は礼拝堂の、奥側に歩いた。


 奥側の壁の両端には、木の扉が設けられていた。


 2人は、左の扉を抜けた。


 通路に出てしばらく歩き、とある部屋の前で、立ち止まった。


 サレンは扉をノックした。



「どうぞ」



 男の声が、ノックに答えた。


 サレンは扉を開けた。


 二人は部屋に、入っていった。



サレン

「失礼します」


ニトロ

「ああ。サレンか。いらっしゃい」



 そこは、個人の執務室だった。


 部屋の奥側に、執務用の机が見えた。


 その奥の椅子に、青髪の男が座っていた。


 クリーンにとっては、初めて見る顔だった。


 彼はヨークの命の恩人、ニトロ=バウツマーだった。


 だが、ヨークとの関係など、クリーンは知る由も無い。


 クリーンは、初対面の男を見る目を、ニトロにも向けた。



ニトロ

「何か用事かな?」



 ニトロはクリーンをちらと見て、尋ねた。



サレン

「お父様。実は……」


サレン

「彼女、クリーンさんは、聖女になることを望んでいます」


サレン

「彼女が聖女候補として、正しく教育を受けられるよう、便宜を図っていただけませんか?」


ニトロ

「珍しいね。サレン」


ニトロ

「君が誰かを、特別扱いするなんて。それに……」


ニトロ

「聖女候補を増やすということは、君のライバルが、増えるということだ」


ニトロ

「負けの目を、増やしてしまって良いのかな?」


サレン

「彼女に……敗れました」


ニトロ

「へぇ?」


サレン

「自分より、優れていると思う人を、試練から引きずりおろすのは、正しくありません」


ニトロ

「真面目だな。君は」


ニトロ

「さて……」



 ニトロはクリーンと、視線を合わせた。



ニトロ

「私はニトロ=バウツマー。神殿騎士団の団長で、大神官だ」


クリーン

「クリーン=ノンシルドです。聖女になるのです」


クリーン

「……大神官って、神殿の一番偉い人なのですか?」


ニトロ

「はは。まさか」



 ニトロは柔らかく笑った。



ニトロ

「一番偉いのは、神官長だよ」


ニトロ

「私なんか、しがない中間管理職だ」


クリーン

「そうなのですか?」


サレン

「すいません。彼女は遠くの村から来たらしく、世間知らずで……」


ニトロ

「私は気にして無いよ」


ニトロ

「だけど……聖女候補になるのには、問題が有るかな?」


クリーン

「えっ? 私、聖女になれないのですか? また?」


ニトロ

「今のままだとね」


ニトロ

「聖女に相応しい品格」


ニトロ

「それを持たない女性を、候補に推薦するわけにはいかない」


クリーン

「品格……。難しい言葉を使うのですね。『鼓舞』より難しいのです」


ニトロ

「鼓舞は難しく無いと思うけど……」


クリーン

「そういえば、そうだったのです。けど、私は聖女になりたいのです」


ニトロ

「だったら、相応の教養を、身に付けてもらうしかないね」


クリーン

「つまり?」


ニトロ

「勉強しなさい」


クリーン

「えっ……」


クリーン

「とても、とてもハードなのです」


ニトロ

「イージーだよ。聖女になることの、栄誉に比べたら」


クリーン

「そうなのですか……」


クリーン

「勉強は苦手ですけど、頑張るのです」


ニトロ

「うん。その意気だ。文字は読めるかな?」


クリーン

「読めるのですよ」


クリーン

「おばあちゃんが、教えてくれたのです」


クリーン

「おばあちゃんは、とっても物知りなのですよ」


ニトロ

「そう」


ニトロ

「それじゃあ君には、個別授業を受けてもらうことにしよう」


サレン

「良いのですか?」


ニトロ

「娘が連れて来た子を、このまま放り出したら、私は人でなしだよ」


サレン

「……ごめんなさい」


ニトロ

「畏まらなくても良いのに」


ニトロ

「もっとお父さんを頼っても、良いんだぞ?」


サレン

「既に、加護を得ました。成人ですから」


ニトロ

「真面目だな。サレンは」


ニトロ

「クリーンさん。今、宿はどうしているのかな?」


クリーン

「まだ決めていないのです。迷子だったので」


ニトロ

「迷子?」


クリーン

「王都は、迷いやすいようなのです」


ニトロ

「広くて混雑しているからね」


ニトロ

「良かったら君には、大神殿に泊まって欲しい」


クリーン

「宿代は、いくらになるのでしょうか?」


ニトロ

「それはこちらで負担するよ」


クリーン

「良いのですか?」


ニトロ

「君が聖女候補なら、当然のことだ」


ニトロ

「今、大神殿では、多くの聖女候補が、修行に励んでいる」


ニトロ

「ライバルと、顔を合わせておくのも良いだろうね」


クリーン

「ありがとうなのです」


ニトロ

「……君はサレンの推薦でここに居る」


ニトロ

「あまり娘の顔に、泥を塗るようなことは、しないでくれよ」


クリーン

「気をつけるのです」


ニトロ

「うん。それじゃあ大神殿を、案内しよう」



 ニトロは、椅子から立ち上がった。


 三人は、部屋を出た。


 そして、大神殿を歩いて回った。


 図書館や食堂、浴場など。


 ニトロは主要な施設を、クリーンに説明していった。


 あらかたの案内が終わると、クリーンは寝室に案内された。



ニトロ

「ここが君の部屋だ」



 ニトロを先頭に、3人は、寝室へと入っていった。



クリーン

「わぁ……」



 その部屋は、1人用だが、広々としていた。


 ただ広いだけでなく、様々な家具が備え付けられていた。


 清掃も行き届いており、清潔感に溢れていた。


 無料で泊まれるとは思えないほど、上等な部屋だった。


 唯一の欠点として、窓が存在しない。


 だが、室内は魔導器で清められ、照らされていた。


 明るく、清浄な空気で満ちていた。



クリーン

「とっても良い部屋なのです」



 ひとめ見て、クリーンは部屋を気に入ったらしかった。



ニトロ

「気に入ってもらえたのなら、何よりだ」


ニトロ

「隣がサレンの部屋になっている。何かあれば、娘を頼って欲しい」


クリーン

「サレンも大神殿に、泊まっているのですか?」


サレン

「はい」


クリーン

「王都にお家が有るのでは、ないのですか?」


ニトロ

「サレンも、聖女候補だからね」


ニトロ

「試練が終わるまでは、ここで暮らすことになってるんだ」


クリーン

「そうなのですね」


ニトロ

「父親としては、寂しい限りだけどね」


ニトロ

「ああ……もう娘と一緒に、お風呂に入れないなんて……」


サレン

「入ってませんからね!?」


クリーン

「そうなのですか?」


クリーン

「私はおばあちゃんと一緒に、お風呂に入っているのです」


サレン

「……仲が良いんですね」


クリーン

「はい。とっても」






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