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4の1の3「深層とそこで告げたこと」



エボン

「あれ以上の強さの武器を作るには、素材が足りねえ」


エボン

「滅多に市場に出回らないような、深層の素材が無いと、ハイレベルな武器は作れねえ」


エボン

「けど……」


エボン

「ボウズたちはどうやってか、希少金属を、手に入れられるルートを持ってる」


エボン

「そうだろう?」


ミツキ

「はい」


エボン

「大剣を作れるだけの、材料を持ってきてくれりゃ、なんとかしてみせるぜ」


ミツキ

「分かりました」


ミツキ

「すぐに迷宮に行きましょう。ヨーク」


ヨーク

「分かった」



 ミツキは足早に、武器屋を出ていった。


 ローブの下で、尻尾が力強く、揺れていた。


 ヨークも、すぐ後に続いた。


 エボンは2人を見送った。



エボン

(なんかあの二人、距離が近くなったな)





 ……。





 ヨークたちは、迷宮に入った。


 まずは、今朝見つけた魔弾銃らしきモノを、テストしてみることにした。


 ヨークは1層で、大ネズミに対して、それのトリガーを引いた。


 爆炎が放たれた。


 大ネズミは、爆炎に飲まれて死んだ。


 それは見た目通り、ただの魔弾銃のようだった。


 威力はそれなりだった。



ヨーク

「リホの作品か? これが」


ミツキ

「物足りない感じですね」



 リホは天才だ。


 少なくとも、ヨークとミツキはそう信じている。


 彼女が、こんな平凡な銃を作るとは、思えなかった。


 おそらくコレは、リホの作品では無い。


 ヨークもミツキも、そう考えざるをえなかった。



ヨーク

「サプライズプレゼントって感じじゃ……ねえな」



 凡庸すぎて、ヨークたちの戦力にはならない。


 リホだって、ヨークの強さは知っているはずだ。


 リホがこれを、ヨークに送る理由が無かった。


 ならばどうして、このような物が、寝室に落ちていたのか。



ヨーク

(やっぱり、あの赤い女が、置いていったのか?)


ヨーク

(前も、覚えのない杖とポーションが、家に落ちてたことがあったな)



 ヨークは、村を出る前のことを、思い出した。


 杖を置いていったのは誰なのか。


 結局、未だに分かってはいない。



ヨーク

(まさかアレも?)


ヨーク

(アレも、あの赤い女がやったのか?)


ヨーク

(けど、だとしたら、誰なんだよアイツは)


ヨーク

(俺に武器を渡して、誰に何の得が有るんだ?)


ヨーク

「……まあ良い」



 考えても、結論は出そうに無い。


 ヨークは思考を打ち切った。


 そして、ミツキに銃を渡し、スキルで『収納』させた。



ヨーク

「深層に行くか」


ミツキ

「はい。金属です」



 2人は迷宮の深層へと、潜っていった。



__________________________



ダークゴーレム レベル73 弱点 光


__________________________




 迷宮の、72層。



ヨーク

「『アイテムドロップ強化』」



 ヨークはゴーレムに、自身のスキルを使用した。


 直後……。



ミツキ

「はあっ!」



 ミツキの跳び蹴りが、ゴーレムの頭部を蹴り砕いた。


 ゴーレムは倒れ、消滅していった。


 後には魔石と、金属塊が残された。



ヨーク

「ゴリラパワーやばない?」



 ヨークはミツキに歩み寄って、言った。



ミツキ

「オオカミパワーです」


ヨーク

「武器とか要る?」


ミツキ

「要ります」


ミツキ

「黒蜘蛛には、結局勝てませんでしたし」


ミツキ

「武器が強ければ、あんな無様を晒すことは無かった。そう思います」


ヨーク

「まあ……そうか」



 ミツキはドロップアイテムを拾い上げた。


 そして金属塊を、ヨークに見せた。



ミツキ

「この、ダークゴーレムが落とす金属は、良いですよ」


ミツキ

「ずっしりと、重量感が有ります」


ミツキ

「きっと、良い剣が出来ますよ」


ヨーク

「重い方が良いのか?」


ミツキ

「そうですね。手応えが有った方が、落ち着きます」


ミツキ

「あまり軽いと、逆に不安ですね」


ヨーク

「知性派の俺には分かんねえな。その感覚」


ミツキ

「6783かける372は?」


ヨーク

「いきなりリアルを見せてくるのは、止めろ」


ミツキ

「ドンマイヨーク」


ミツキ

「数学的な才能だけが、人の知性というわけでは有りませんよ」


ヨーク

「ドーモ」


ヨーク

「……それにしてもさ」


ミツキ

「はい」


ヨーク

「俺たちさ、ラビュリントスを、踏破しちまうかもな」


ミツキ

「そうかもしれませんね」


ミツキ

「深層には、選ばれし者しか到達出来ない。そう言われています」


ミツキ

「私たちは今、その深層を、素手で攻略しています」


ヨーク

「素手なのは、お前だけだが」


ミツキ

「没収」


ヨーク

「あっ」



 ミツキはヨークの魔剣を奪い、スキルで『収納』しようとした。



ミツキ

「あれ?」



 魔剣を持ったまま、ミツキの動きが止まった。



ヨーク

「どうした?」


ミツキ

「『収納』出来ませんね」


ヨーク

「なら返してくれ」


ミツキ

「嫌です」


ミツキ

「私たちは今、深層を、素手で攻略しています」


ヨーク

「そっすね」


ミツキ

「歴代冒険者の、最高到達階層を、更新することになるのも、遠くは無いでしょう」


ヨーク

「そっすね」


ヨーク

「ちなみに、最高到達階層ってのは?」


ミツキ

「昨年、迷宮伯のパーティが、98層に到達したそうです」


ヨーク

「デレーナか」


ミツキ

「具体的なメンバーは、手引きには記されていませんでした」


ヨーク

「また手引きっスか」


ミツキ

「はい。手引きっス」


ヨーク

「まあ、書いてなくてもデレーナだろう」


ヨーク

「あいつの剣は、綺麗だからな」


ミツキ

「はぁ」



 ミツキは少し、冷めた顔になった。



ヨーク

「ラビュリントスってのは、何層まで有ると思う?」


ミツキ

「諸説有りますが」


ヨーク

「たとえば?」


ミツキ

「99層とか、100層とかですね」


ヨーク

「ふ~ん?」


ヨーク

「デレーナのやつ、その手前で止めちまったのか」



 力量の問題で、攻略出来なかった可能性も有る。


 だが、デレーナの剣を見たヨークには、とてもそうだとは思えなかった。



ヨーク

「そんなに、キラキラしてるのが良いのかね」


ミツキ

「キラキラ?」


ヨーク

「いや」


ヨーク

「迷宮の1番奥には、何が有ると思う?」


ミツキ

「諸説ありますね」


ミツキ

「宝が有ると言う人が居れば、邪竜が封じられているという人も居ます」


ヨーク

「説て」


ヨーク

「お前自身は、何が有ると思うんだよ?」


ミツキ

「さあ」


ミツキ

「良い物が有ると良いですね」


ヨーク

「ふっ。そりゃそうだ」


ミツキ

「馬鹿にしましたか?」


ヨーク

「いや?」


ミツキ

「ヨークは何が有ると思うんですか。言いなさい」


ヨーク

「言っちゃって良いか?」


ミツキ

「何をもったいぶっているのですか」


ヨーク

「ミツキ。お手」



 ヨークはミツキに、手を差し出した。



ミツキ

「わう?」



 ミツキは差し出された手に、自分の手を重ねた。



ミツキ

「何なのですか? ……っ!」 



 ヨークは、ミツキの手を握った。


 そして、ぐいと、彼女を抱き寄せた。


 ヨークはぎゅっと、ミツキを抱きしめた。


 ミツキは幸せになり、動けなくなってしまった。



ミツキ

「……………………」



 ヨークの腕の中を堪能すると、ミツキは口を開いた。



ミツキ

「往来では、良くないと思いますが」


ヨーク

「往来て。深層だぞ。ここは」


ミツキ

「そうですけど」


ミツキ

「というか、誤魔化していませんか?」


ミツキ

「あなたの考えを、聞いていません」


ミツキ

「人の考えを馬鹿にしておいて、自分だけチキるのは感心しませんよ」


ヨーク

「繊細なんだ。俺は」


ミツキ

「言わないと、唐揚げにしますよ」


ヨーク

「分かった。言うぞ」


ミツキ

「はい。ちょっとしか馬鹿にしませんから」


ヨーク

「……頼むから止めてくれ」


ミツキ

「往生際が悪いですよ。はやくはやく」


ヨーク

「ミツキ……。俺はな」


ヨーク

「深層に、指輪でも有れば良いと思う」


ミツキ

「魔導器ですか?」


ヨーク

「別に普通の指輪で良い。それで……」


ヨーク

「お前の指にはめて、こう言う」


ヨーク

「ミツキ。俺と結婚して欲しい」




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