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その4





ニトロ

「味方じゃなくて敵を?」



 ニトロが意外そうに言った。



ヨーク

「はい」



 ヨークは頷いた。



ニトロ

「それは……変わっているね」


ヨーク

「そうですね」



 ヨークは苦笑いを浮かべてみせた。


 とは言っても、そこまで気に病んでいるわけでも無い。


 『敵強化』に可能性を見出だせた。


 底の時期は抜けたと感じていた。



ヨーク

「村の連中には笑われました。何の役に立つんだって」


ヨーク

「けど、今日、このスキルの価値が分かったんです」


ニトロ

「価値。それって……」


ニトロ

「EXPの増加かな?」


ヨーク

「凄いな。良く分かりましたね」


ヨーク

「俺は何ヶ月も分からなかったのに……」


ニトロ

「強い敵ほど、多くEXPを落とす」


ニトロ

「迷宮に潜る者の間では、常識だよ」


ヨーク

「神殿騎士も迷宮に潜るんですか?」


ニトロ

「うん。レベルを上げるには、迷宮が一番だからね」


ヨーク

「そうですか」


ヨーク

「EXPのことは常識……なんですね」


ニトロ

「うん」


ヨーク

「村に居ると……何も分からないもんですね」


ニトロ

「かもしれない」


ヨーク

「村を出たいです」


ヨーク

「ハインス村は悪い所じゃない。だけど……」


ヨーク

「俺はもっと、広い世界が知りたい」


ニトロ

「出れば良いさ。君が望むなら」


ヨーク

「あの……」


ヨーク

「ニトロさんは、強い神殿騎士なんですよね?」


ニトロ

「それなりにね。神殿騎士でも上の方だとは思うよ」


ニトロ

「それに、一人前の神殿騎士と認められるには、厳しい訓練を乗り越える必要が有る」


ニトロ

「神殿騎士の平均レベルは、王都の中級冒険者よりも上だ」


ニトロ

「弱い神殿騎士なんて居ないよ」


ヨーク

「そうなんですね。それで……」


ヨーク

「俺のレベル上げを手伝ってくれませんか?」


ヨーク

「俺のスキルが有って、強い人に手伝ってもらえたら、あっという間に……」


ニトロ

「……ごめん。それは出来ない」


ヨーク

「そうですか……。図々しかったですね」


ニトロ

「君を強くするということは、君の強さに私が責任を持つということだ」


ニトロ

「君が誰かを傷つけた時、その責めを私が負うということだ」


ニトロ

「そうするだけの信頼を、初対面の君に対して抱くことは出来ない」


ヨーク

「そういう……ものですか。世の中は」


ニトロ

「世の中はね」


ヨーク

「村に居ると分かりません」


ニトロ

「そう」


ヨーク

「一人でも……頑張ってみようと思います」


ニトロ

「村の人たちは?」


ヨーク

「あいつらは俺を笑ったから」


ヨーク

「もうそこまで恨んじゃいないけど、見返したいって気持ちも有ります」


ヨーク

「だから、自分の力で強くなりたいと思います」


ニトロ

「そうか」


ニトロ

「私は……もう行かなくては」


ヨーク

「はい。お元気で」


ニトロ

「うん。君も、元気で」


ヨーク

「いつか、この恩は返します」


ニトロ

「別に良いよ。それじゃ」



 ニトロはヨークに背を向けて去っていった。


 その方角に何か有っただろうか。


 ヨークには分からなかった。


 ヨークは恩人の姿が見えなくなるまで、じっと見守った。


 ニトロの姿が消えて少しすると、ヨークは拳を握りしめた。




ヨーク

「…………」


ヨーク

「強くなる」


ヨーク

「強く……なるぞ……!」



 ヨークはそう決めた。


 明確な目標と、手段が出来た。


 薄暗い気持ちはすっかり無くなっていた。


 心が熱く燃えていた。






 二日後、バジルたちが王都に戻る日が来た。


 ヨークは普通にバジルたちの見送りに参加した。


 バジルは見送りの輪に、ヨークが居ることに気付いた。



バジル

「……分かったかよ」


ヨーク

「何がだ?」


バジル

「お前の実力じゃあ、王都じゃ通用しないってことだ」


ヨーク

「かもな」


ヨーク

(今のところは)


バジル

「…………」


バジル

「分かりゃあ良いンだよ。分かりゃあ」


バニ

「元気でね。ヨーク」


ヨーク

「ああ」



 ヨークはさっぱりとした顔で答えた。



バニ

「そんなに落ち込んでないみたいで良かった」


ヨーク

「別に」


ヨーク

「目が覚めたのさ」


バニ

「……そう」



 バニは少し寂しそうな顔をした。



バニ

「行ってきます」


ヨーク

「ああ。行ってらっしゃい」



 バジルたちは村から旅立っていった。



ヨーク

「じゃあな」






 バジルたちが去り、ヨークの日常が戻ってきた。


 ヨークは自警団の仲間たちと共に魔獣を狩りに出かけた。


 そして、自警団は赤狼の群れを発見した。



ドンツ

「行くぜ!」



 自警団は臨戦態勢に入った。




赤狼

「ぐわううっ!」



 群れの内の一体がヨークに向かって駆けた。


 自警団の面々は分散し、それぞれが別の狼に向かっている。


 ヨークに向かう狼が、仲間たちの死角に入った。




_______________



赤狼 レベル1 EXP 2


_______________





ヨーク

(『敵強化』『戦力評価』)



 ヨークは心中でスキル名を唱えた。


 赤狼の体が光った。




_______________



赤狼 レベル4 EXP 34


_______________






ヨーク

「ふっ! はあっ!」



 ヨークは2撃で赤狼を倒した。


 レベル4の赤狼といえば、先日殺されかけた相手だ。


 だが、ヨークのレベルも5に上がっている。


 精神的な揺らぎが無ければ、十分に倒せる相手だった。


 仲間たちも個々に赤狼を撃破し、群れは全滅した。



ドンツ

「あれ……?」



 ドンツが首を傾げた。



ヨーク

「どうしました?」


ドンツ

「レベルが上がった。なんか……早かったな?」


ヨーク

「それは……良かったですね」


ドンツ

「おう。そうだな」


ヨーク

「…………」


ヨーク

(近くの仲間にEXPを吸われてるのか)


ヨーク

(皆と居たからって、強敵を狩れるわけでも無い)


ヨーク

(自警団の仲間を危険に巻き込むわけにもいかないし……)


ヨーク

(『敵強化』の価値を、簡単にバラしたくも無いしな)


ヨーク

(出来ればレベル上げは、一人でやるのが好ましい)


ヨーク

(けど、一人で戦って、負傷でもしたら……)



 ヨークは自分が死にかけた時のことを思い出した。


 あの時生き残れたのは、偶然にニトロが通りかかったからだ。


 一人なら死んでいた。



ヨーク

(リスクを払うのは良い。けど、無駄死には駄目だ)


ヨーク

(何か無いのか? 十分な勝ちの目が有るやり方が)


ヨーク

(俺は何も知らない)


ヨーク

(もっと俺に知識が有れば……)



 ニトロの話を聞いた限りでは、都会の人間は色々なことを知っている様子だった。


 ヨークはそれを羨ましいと思った。



ドンツ

「なあ、今日は宴会にしようぜ」


ヨーク

「またですか」


ドンツ

「俺のレベルが上がった祝いだ。良いだろ? な?」


ヨーク

「はいはい」



 ドンツの言葉通り、夜には宴会が開かれた。


 ヨークは自警団のメンバーと共に酒盃を傾けた。



ヨーク

(こんなことしてて良いんだろうか……)


ヨーク

(早く王都に行きたい)


ヨーク

(けど、バジルに舐められるようなレベルじゃ駄目だ)


ヨーク

(最低でも30)


ヨーク

(半年以内に30までレベルを上げる)


ヨーク

(リスクを抑えた『敵強化』でも行けるかもしれないが……)


ヨーク

(少しでも早い方が良い)


ヨーク

(少しでも早く、強くなりたい)




「うわあああっ!」




 突然に、叫び声が聞こえた。


 何かが起きたらしいが、ヨークには見当がつかなかった。



ヨーク

「…………?」



 ヨークは事態を把握しようと声の方を見た。



「ラージスライムが出たぞっ!」


ヨーク

「ラージ……?」



 魔獣退治は自警団の仕事だ。


 ヨークは声がした方に向かった。


 ドンツもついてきたが、他の自警団員は何故か動かなかった。


 少し歩くとヨークは騒ぎの原因を発見した。


 そこには高さ2メートルを超えるスライムの姿があった。


 ヨークにはスライムとの戦闘経験が無かった。


 スライムは動きが遅く、暗所に引きこもる癖が有る。


 村の南西の森から、滅多に出てこない。


 比較的安全な魔獣だと考えられていた。


 それに、森に攻め込むと、奇襲を受ける危険性が有る。


 そのこともあって、スライムは半ば放置される存在だった。



ヨーク

(あれがラージ……)


ヨーク

(でかいな……)



 2メートルを超えるスライムなど、ヨークは初めて見た。



ヨーク

(『戦力評価』)




__________________________



グリーンラージスライム レベル6 EXP 132


__________________________




ヨーク

(レベル6……!)



 危険な相手だ。


 ヨークはそう感じ、腰の剣に手を伸ばした。




ドンツ

「待て」


ヨーク

「ドンツさん?」


ドンツ

「剣でやりあう相手じゃねえ」


ドンツ

「今日はヨボ爺さんに任せとけ」



ヨボ

「…………」



 普段の狩りには加わらない老人が、スライムの前に立った。


 老人はスライムに向けて魔法の杖を構えた。



ヨボ

「赤破!」



 爆炎が上がった。


 スライムは一瞬で粉々になった。


 後には魔石だけが残された。




ヨーク

「一撃で……」


ドンツ

「驚いたか?」


ヨーク

「ヨボ爺さんがあんなに強かったなんて……」


ドンツ

「まあ、レベルも9は有るけどよ」


ドンツ

「グリーンスライムは炎が『弱点』なんだ」


ドンツ

「闇雲に立ち向かうんじゃなくて、弱点を突くと上手く倒せる」


ドンツ

「覚えとけよ」


ヨーク

「……はい」


ヨーク

(弱点……)


ヨーク

(俺にも同じことが出来たら……)


ヨーク

(俺よりレベルが高い魔獣も倒せるんじゃないのか?)



 光明が見えた気がした。


 その夜は眠れなかった。


 翌朝、ヨークは自宅、つまり小神殿で、アネスに声をかけた。



ヨーク

「アネスさん」


アネス

「何? ヨーくん」


ヨーク

「クラスについて知りたいんだけど、詳しいかなって」


アネス

「一応神官だから、普通の人よりは詳しいと思うけど」


アネス

「いったい何が知りたいの?」


ヨーク

「俺……」


ヨーク

「魔術が使えるようになりたいんだ」





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