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3の24「負傷と勝機」



ヨーク

「させると思うか?」



 厄介な魔導器を前にしても、ヨークは揺らがなかった。


 その両目には、ギラギラとした戦意が宿っていた。



イジュー

「お前に勝ち目は無い」


イジュー

「二人の天才の、技術の結晶に、お前が勝つ術は、無い」


ヨーク

「そうかよ」


リホ

「…………」



 リホは、困り顔でヨークを見た。


 ヨークを心配しているのか。


 それとも、申し訳なく思っているのか。


 ヨークには分からない。


 ヨークはただ、リホに向かって微笑んだ。



ヨーク

「気にすんな。リホ」


ヨーク

「何とかなる」


ヨーク

「何とかなるさ」


リホ

「…………」


ヨーク

(さて……)


ヨーク

(そうは言ったものの、どうする?)


ヨーク

(呪文は消される。剣は弾かれる。けど……)


ヨーク

「俺は、魔術師だ」


ヨーク

「剣が効かない。普通の攻撃じゃ倒せない。そんな厄介な敵……」


ヨーク

「そいつらをぶっ倒すのが、俺たちの仕事なんだよ」



 ちょっと攻撃が通らない。


 ただそれだけだ。


 その程度では、諦める理由にはならなかった。


 ヨークは全身に、闘志をみなぎらせた。



イジュー

「やってみるが良い」


ヨーク

「ああ」


ヨーク

(アイディア、その1)



 ヨークは、剣を鞘に収めた。



イジュー

「…………?」



 イジューの目が、訝しげに細められた。


 ヨークは腰を低く落とし、構えた。



ヨーク

「メイルブーケ流魔導抜刀……」


ヨーク

「紅蓮」



 ヨークは唱えた。


 魔剣の鞘に、魔術の力が満ちていった。



イジュー

「それは……」


黒蜘蛛

「…………」



 ヨークの構えに対し、黒蜘蛛は臆さなかった。


 黒蜘蛛はヨークに、正面から攻撃をしかけていった。



ヨーク

「ッ……!」



 黒蜘蛛が、杖を振った。


 それが振り切られるより先に、ヨークは抜刀した。


 鞘にこめられた力が、紅蓮の輝きが、剣を加速させた。


 高速の斬撃は、少し歪んだ軌道で、黒蜘蛛へと向かった。



ヨーク

「がっ……!」



 ヨークの剣先に、強い反発力が生じた。


 ヨークの剣は、持ち主ごと、障壁に弾き飛ばされた。


 ヨークは勢い良く、後方へと飛ばされた。


 そして、地面へと転がった。



ヨーク

「クソ……」



 ヨークは、すぐに立ち上がった。


 目に見えた負傷は、無い様子だった。



イジュー

「メイルブーケの門下だったとは、驚かされたがな」


イジュー

「だが、聖障壁は、メイルブーケの奥義にも勝つようだ」


ヨーク

「うるせえ」


ヨーク

「ただの修行不足だよ。悪かったな」


ヨーク

(しょせんは真似事だ)


ヨーク

(デレーナの、綺麗な剣には、及ばない)



 一朝一夕の修練。


 魔導抜刀の奥義は、その程度で身につくものでは無い。


 ヨークの魔導抜刀は、剣先がブレていた。


 真の魔導抜刀では無かった。


 ならば、完成された奥義なら、壁を破れたのか。


 未熟なヨークには、分からないことだった。



イジュー

「何にせよ、切り札は切ってしまったわけだ」



 勝敗は見えた。


 イジューはそう思ったのだろう。


 彼は、ヨークに向かって、首輪を放り投げた。


 ヨークの前方に、金属の首輪が転がった。



ヨーク

「あ?」


イジュー

「大人しく、その首輪を嵌めるなら、ミラストックと一緒に、飼ってやっても良い」


ヨーク

「そうかよ」



 ヨークは首輪を、蹴り飛ばした。


 思い切り。


 首輪は壁面に、深く突き刺さった。



イジュー

「む……」



 イジューの眉が、ひそめられた。


 そのときヨークは、人差し指を、さりげなくイジューへと向けた。



ヨーク

(炎矢)



 ヨークは内心で、呪文を唱えた。


 彼の指から、火線が放たれた。


 炎はイジューに向かっていった。


 だが……。



イジュー

「無駄だ」



 炎はイジューの直前で、消失した。


 まるで黒蜘蛛が、呪文をかき消した時のように。



イジュー

「悪いが、魔導器は二つ有ってな」


イジュー

「黒蜘蛛と同じ物を、この私も身につけている」


ヨーク

「チッ……」


ヨーク

(アイディアその2もダメかよ)


黒蜘蛛

「…………」



 話が終わったのを見て、黒蜘蛛がしかけた。


 黒蜘蛛は上段から、杖を振り下ろした。



ヨーク

「それなら……!」



 ヨークは黒蜘蛛の一撃を、横へと避けた。


 杖を振り切ったことで、黒蜘蛛に隙が出来た。


 ヨークはそれを活かして、二階へと跳んだ。



イジュー

「む……!?」 



 ヨークは、イジューの側面に、着地した。


 剣が届く距離だった。


 だが、どうせ攻撃しても、魔導器に防がれてしまう。


 ヨークはイジューを無視し、リホの前に立った。


 そして、リホの腰を抱き、体を持ち上げた。



リホ

「わっ!?」



 リホは、小脇に抱えられた状態になった。



ヨーク

「俺の目当ては、最初からコイツだ。悪いな」



 ヨークはリホを抱えたまま、階段に向かった。


 そのまま駆け下りる。


 階段の下側に、黒蜘蛛の姿が見えた。



黒蜘蛛

「…………」



 黒蜘蛛が、杖での突きを放ってきた。



ヨーク

「っと」



 ヨークは剣を上手く使い、杖を受け流した。


 そして、階段側面から、一階へと飛び降りた。



ヨーク

「じゃあな」



 ヨークは、勝ち誇った笑みを浮かべた。


 そして、二階のイジューへと振り返った。


 そのとき……。



ヨーク

「ぐっ……!?」



 脇腹に、激痛が走った。


 ヨークは膝をついた。


 リホがヨークから、離れていった。


 ヨークはリホを見た。


 リホの手に、血塗れのナイフが握られていた。



ヨーク

「リ……ホ……」


ヨーク

(首輪の力か……)


ヨーク

(俺がリホに近付いたら、攻撃するように仕込んでたんだ)



 奴隷の首輪が有れば、なんだって命令出来る。


 仲間を裏切らせることも、容易かった。



リホ

「あ……あぁ……」



 望まぬ行為に、リホの目尻が濡れていた。



イジュー

「読めていた」



 イジューがヨークを見下ろし、言った。



イジュー

「ミラストックは、お前のことを、良く見ていた」


イジュー

「戦いで敵わないとなれば、そうするだろうと理解していた」


イジュー

「だから、あらかじめ罠を仕込んでおいた」


イジュー

「予想を寸分違わなかったな」


イジュー

「ミラストックの瞳は、確かにお前を、捉えていたというわけだ」


ヨーク

「……陰湿な野郎だ」


イジュー

「平凡な人間なのでな。私は」


イジュー

「天才に勝とうと思えば、搦め手にも頼らねばならん」


ヨーク

「天才で良かったぜ」


ヨーク

「小汚ねえ真似しなくても、正面からテメーを、ぶっ飛ばせるんだからな」


イジュー

「羨ましいな。だが、どうする?」


イジュー

「ミラストックを、連れ去る手段は使えない」


イジュー

「加えて、その出血だ」


イジュー

「明暗は、既に見えたと思うのだがな」


ヨーク

(確かに……)


ヨーク

(アイディアを試すにしても、傷を負ったこの状況じゃ、不利だ)


ヨーク

(一旦退いて、ミツキと合流するか)



 ミツキのクラスは聖騎士。


 治癒術を使えるクラスだ。


 ヨークが強すぎるので、迷宮での彼女は、まったく呪文を使わない。


 だが既に、それなりの数の呪文を、身に着けていた。


 彼女が居れば、治癒術をかけてもらえる。


 腹の傷も治るだろう。


 長期戦に挑むのであれば、彼女の存在は必要だった。


 だが……。



イジュー

「ミラストックを殺すぞ」



 突然に、イジューがそう吐き捨てた。



ヨーク

「は?」


イジュー

「逃げればミラストックを殺す。そう言っている」


ヨーク

「殺してどうするよ?」


ヨーク

「欲しかったんだろ? リホが」


イジュー

「彼女は有用な手駒だが、ここでお前を逃がすわけにはいかん」


ヨーク

「陰湿すぎんだろ」


イジュー

「故に、勝つ」


ヨーク

「チッ……」


黒蜘蛛

「…………」



 黒蜘蛛が、ヨークに襲い掛かってきた。


 守りを魔導器頼りにした、容赦のない攻め。


 ヨークは、杖での連続攻撃を、なんとか防いでいった。


 だが、傷を負ったヨークの動きは、精彩を欠いた。


 ついには、一撃を貰ってしまった。



ヨーク

「ぐっ……!」



 黒蜘蛛の杖が、ヨークの胴の中央を突いた。


 ヨークは吹き飛ばされた。


 ヨークはごろごろと、床を転がっていった。


 そして、背中を壁面にぶつけ、停止した。



リホ

「…………!」



 リホは、ヨークに駆け寄ろうとした。


 だが、首輪の命令を思い出し、足を止めた。


 近付けば、ヨークを攻撃してしまう。



リホ

「っ……」


ヨーク

「気にすんな。かすり傷だ」



 ヨークは微笑んで、立ち上がった。


 そのとき……。


 ヨークのポケットから、何かが零れ落ちた。


 床の方から、小さく硬い音がした。



リホ

「ッ……!」


ヨーク

(何だ……?)



 ヨークは、落ちた物を拾い上げた。



ヨーク

(これは……)



 そこに有ったのは、魔石のナイフだった。



ヨーク

(エボンさんの所に有った、魔石のナイフ)


ヨーク

(リホはこれに驚いた。そして今も、視線を送っている)


ヨーク

「何か有るんだな? コイツに」


リホ

「…………」



 そう言って、ヨークはリホの瞳を見た。


 リホは話せなかった。


 ヨークに助言を送ることを、禁じられている様子だった。


 リホは視線だけで、ヨークに何かを伝えようとした。



ヨーク

「そうか」


ヨーク

(勝ち目は有るんだな? リホ)



 ヨークは右手に魔剣、左手にナイフを持った。


 そして、黒蜘蛛に向かった。



ヨーク

「それならもうちょっと……頑張らせてもらうとするかな」



 ヨークの脇腹からは、血が流れ続けていた。


 ヨークは魔剣を、傷口に向けた。



ヨーク

「赤破」



 ヨークは唱えた。


 ヨークの脇腹で、爆炎が上がった。



ヨーク

「っ……」



 腹の傷が、焼け焦げた。


 ヨークの出血が、止まった。



ヨーク

「クッ……ハハ……」



 激痛で、ヨークの額から、脂汗が流れた。


 ヨークはにやりと笑って、黒蜘蛛を見た。



ヨーク

「血は止まった。これでノーダメージだ。お前もそうだろ?」


黒蜘蛛

「…………」



 黒蜘蛛は、無言でヨークを見ていた。


 ヨークはナイフの先端を、黒蜘蛛へと向けた。



ヨーク

「きれいな体同士、楽しくやろうじゃねえか」




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