3の10「新型とレベル上げ」
3日後。
リホは調整版の魔石を完成させた。
魔石の組み換えはエボンに任せ、新たな魔弾銃が完成した。
三人は、新型のテストのため、迷宮に向かった。
リホ
「新型っス」
リホは魔弾銃を上に向けて構えた。
ただ格好つけるだけの、実のない構えだった。
ヨーク
「おう」
リホ
「ニュータイプっス」
ヨーク
「見せてもらおうか。魔弾銃の新型の性能とやらを」
リホ
「それじゃ、その辺のスライムを……」
ヨーク
「駄目だ」
ヨークはノータイムで止めにかかった。
リホ
「えっ」
諭すように、リホの肩に手が置かれた。
ヨーク
「スライムは」
ヨーク
「駄目だ」
リホ
「……目がマジっス」
ヨークの目はくわっと見開かれていた。
リホは、スライム狩りを断念した。
ミツキ
「大鼠ではいかがですか?」
ミツキ
「アレがきっかけのようなモノですし」
ヨーク
「ん……」
それで良いだろう。
ヨークはそう考えた。
だが、リホに判断を委ねることにした。
ヨーク
「どうする? リホ」
リホ
「やるっス!」
リホ
「今のウチには新型が有るっス! ネズミ何するものぞっス!」
ヨーク
「ナイスガッツだ」
ミツキ
「ナ~イスガッツ」
リホ
「えへへっス」
ヨーク
「それじゃ、行くか。広大なる迷宮を、ネズミを求めて」
リホ
「えっ、ちょっと心の準備が……」
ヨーク
「とっとと行くぞ。ナイスガッツリホ」
リホ
「二つ名!? って……引きずらないで~!」
ミツキ
「往生際が悪いですよ。ナイスガッツニュータイプリホ」
リホ
「増えた!?」
3人は、迷宮の第一層を探索した。
通路をうろうろしていると、すぐに大鼠を発見した。
大鼠は、リホたちに背中を向けていた。
ヨーク
「居たぞ」
ヨークとミツキは、リホの後ろに下がった。
リホ
「うぅ……」
リホは心細くなったが、いまさら逃げは許されない。
銃の照準を、大鼠へと合わせた。
ミツキ
「さ、撃って下さい」
ヨークたちの声に反応したのだろうか。
ネズミは振り返り、リホたちの方を見た。
ヨーク
「気付かれたぞ。撃て」
リホ
「っ……!」
リホは引き金を引いた。
火の玉が発射された。
その弾道は速く鋭い。
火の玉は、ネズミの手前に着弾した。
そして、爆発を起こした。
前の魔弾銃によるものより、小さい。
小規模な爆発だった。
ネズミを巻き込むほどの規模は無い。
故に、ネズミは無傷。
健在だった。
ヨーク
「外したなぁ」
ヨークはのんびりとした口調で呟いた。
大鼠
「キィ!」
ネズミは短く鳴き、駆け出した。
最前のリホに向かって。
リホ
「う……」
リホ
「まだまだっス……!」
鼠がリホに食らいつくには、少しの距離が有った。
リホは、再び魔弾銃の引き金を引いた。
引き金を戻さず、押しっぱなしにする。
連射。
無数の火の玉が、ネズミへと放たれた。
外れ、外れ、外れ、着弾。
ついに魔弾がネズミを捉えた。
火の玉は爆発を起こし、ネズミの体を飲み込んだ。
爆風は、ネズミの肉体を引き裂き、絶命させた。
第一層の魔獣に対しては、十分過ぎる威力が有ったようだ。
後には、小さな魔石だけが残されていた。
リホはヨークたちに振り返った。
そして、勝利の歓声を上げた。
リホ
「やったっス!」
ミツキ
「凄い連射ですね」
リホ
「一発の威力を落とす代わりに、連発出来るようにしたっス」
ヨーク
「なるほど。リホ向けだな」
ヨーク
「……俺も撃ってみたい」
リホ
「どうぞっス。人に向けちゃダメっスよ」
リホは、ヨークに銃を差し出した。
ヨーク
「そういや、この魔弾銃って名前は有るのか?」
リホ
「リホガンっス」
ヨーク
「えっ?」
ミツキ
「ダサッ」
リホ
「ダサくないっス!?」
ヨーク
「まあ良いや。見た目はカッコイイし。リホガン」
ミツキ
「頑張って下さいね。さすらいのリホガンナー、ヨーク」
ヨーク
「…………」
ヨークはリホガンの試し撃ちをした。
そして、飽きるとリホに返した。
それからは、リホのレベル上げを見守ることになった。
上層の敵は、リホガンの敵では無かった。
リホはどんどんと下の階へと下りていった。
そして、第六層。
魔弾銃の連射が、緑狼の群れを全滅させた。
リホは何かに気付いたような顔をして、目を閉じた。
リホ
「あっ、レベル7になったっス」
ヨーク
「順調だな」
ミツキ
「リホさんは、魔導器の技師になるために、レベルを上げているのですよね?」
リホ
「そうっスけど?」
ミツキ
「具体的な目標レベルは有るのですか?」
リホ
「えっと……」
リホ
「世間に出回っている魔導器は、レベル20くらいの石を使った物が多いっス」
リホ
「だから、レベル20の魔獣を、安定して狩れるようになりたいっス」
ミツキ
「すると……レベル30くらいは有った方が良いですね」
リホ
「そうみたいっスね。頑張るっス」
リホはレベル上げを再開した。
……。
それから一週間後。
リホの快進撃は続いていた。
彼女の魔弾銃には、中層でも十分に通用する性能が有った。
第29層。
荒野の地層。
リホの魔弾が、雷鳥を撃ち落した。
周囲の魔獣を全滅させ、リホは目を閉じた。
リホ
「あっ……」
リホ
「レベル30になったっス」
ヨーク
「目標達成か」
リホ
「はいっス」
ヨーク
「……………………」
ミツキ
「……………………」
リホ
「……………………」
妙な沈黙が訪れた。
ヨークは何もしていない。
ただ、リホの戦いを見守っていただけだった。
1つの目的が終わりを告げたことに対し、どう反応するべきか分からなかった。
ヨーク
「おめでとう?」
リホ
「……ありがとっス」
リホはそう言うと、魔石をショルダーバッグに詰めた。
バッグは、中層の魔石でいっぱいになっていた。
これを売れば、それなりの利益が見込めるはずだった。
ヨーク
「…………どうしよっか?」
ミツキ
「いったん太陽の下に出ましょう」
ヨーク
「分かった」
3人は、今まで歩んできた道を引き返した。
大階段を上り、広場へと出た。
強い陽光が、3人の肌を刺した。
数時間ぶりの日光だった。
ヨーク
「……終わりか」
ヨークは呟いた。
リホの成長を見守るだけの1週間だった。
だが、苦痛では無かった。
馬が合ったのだろう。
ヨークは多少の名残惜しさを感じていた。
リホ
「…………」
ヨーク
「これからどうする?」
リホ
「ウチは……」
リホ
「ウチ……楽しかったっス」
ヨーク
「ああ」
ヨーク
「……やりたいことが有るんだろ?」
リホ
「はいっス」
ヨーク
「それじゃあ、それをやらないとな」
リホ
「……はいっス」
ヨーク
「一人で大丈夫か?」
リホ
「…………はいっス」
ヨーク
「そうか。大丈夫か」
ヨークは空を見上げた。
ヨーク
「まだ……日が高いな」
時刻はお昼時のようだった。
ヨークはミツキを見た。
ヨーク
「迷宮探索の続きをやるか」
ミツキ
「……はい」
ヨーク
「…………行くか」
ミツキ
「……はい」
ヨークはリホを見ないまま、彼女に声をかけた。
ヨーク
「区切りがついたら、宿屋まで遊びに来てくれ」
ヨーク
「それで、何か作ってくれよ」
リホ
「…………」
ヨーク
「元気でな。リホ」
リホ
「……………………」
ヨークとミツキは、大階段を下っていった。
そして、いつものように迷宮のマッピングを進めた。
やがて夕刻になった。
……。
ヨークとミツキが大階段を上ってくるのが見えた。
リホの瞳に、2人の姿が映っていた。
リホ
「…………」
大階段の上端に、座り込むリホの姿が有った。
ショルダーバッグは空になっていた。
リホの左手に、革袋が握られていた。
ヨーク
「どうした?」
リホの足場から4段下で、ヨークは立ち止まった。
リホ
「ウチ……」
リホ
「ウチはやっぱり……」
リホ
「一人だと……何したら良いか……分からないっス……」
リホは革袋を持ち上げ、ヨークへと突き出した。
リホ
「お金……」
ヨーク
「これは?」
リホ
「魔石を……お金に換えて来たっス……」
ヨーク
「魔導器の材料にするんだろうが。そいつは」
リホ
「けど……けど……」
リホ
「お金……」
リホ
「お金っス……」
ヨーク
「甘えんな。バカ」
リホ
「う……」
ヨーク
「人に頼ってばっかいたら、強くなれねえ。分かってんのか?」
リホ
「うぁ……」
リホ
「ぁ……あぁ……」
リホ何も言えず、金の入った袋を突き出してきた。
ヨーク
「弱っちいな。お前は」
リホ
「……………………」
ヨーク
「…………」
ヨーク
「次に何をするかは、お前が決めるんだ」
ヨーク
「俺は何も決めない。アドバイスもしてやらない」
ヨーク
「ただ……隣に居てやる」
ヨーク
「それで良いか?」
リホ
「…………」
リホは無言で頷いた。
ヨーク
「腹……減ったな」
リホ
「…………」
リホは頷いた。
ヨーク
「帰るぞ。それで、腹が膨れたら、これからのことを考えろ」
ヨーク
「立てるか?」
リホ
「…………」
リホは首を横に振った。
ヨーク
「そうか」
ヨークは階段を登り切った。
ヨーク
「ほら、おぶされ」
それからしゃがみ、リホに背中を見せた。
リホ
「…………」
リホはヨークにおぶさった。
ヨーク
「ミツキ、行くぞ」
ミツキ
「はい」
ヨークは歩き出した。
リホを背中に乗せて。
リホ
「う……」
リホ
「うぁ……うあああぁぁぁぁ……」
リホは泣き出した。
ヨーク
「今泣くのかよ」
ヨーク
「鼻水つけんなよ。泣き虫のおチビちゃん」
ヨークは嘲るような口調で言った。
リホ
「うぅ……最低っス……」
ヨーク
「悔しいか? 悔しかったらやり返してみろ。気合だ」
リホ
「……鼻水つけてやるっス」
ヨーク
「それは止めろ」
ヨーク
「もっとこう、拳で来い。拳で」
リホ
「えいっス」
リホはヨークの肩をポカポカと叩いた。
ヨーク
「よし。その意気だ」
リホ
「……どうもっス」
ヨーク
「まあ、1ミリも効かんがな。ヘナチョコパンチめ」
リホ
「あむ」
リホはヨークの耳を甘噛みした。
ヨーク
「うおっ!? 耳は止めろ! 耳は!」
ミツキ
「まったく……」
ミツキ
「本当にお人好しなんですから」




