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ヨーク

「結局、出来るのか?」


エボン

「図面を見せてくれ」


リホ

「どうぞっス」



 リホは、丸めた図面を差し出した。


 オリジナルの図面を、魔導印刷で複製したものだ。


 エボンは図面を受け取り、広げた。



エボン

「…………」



 エボンは真剣な目で図面を見た。



エボン

「……なるほど」


ヨーク

「出来そうか?」


エボン

「ああ。行けるぜ」


ヨーク

「専門外だったりしないのか?」


エボン

「あのなあボウズ」



 エボンは、武器の棚の方へ歩いた。


 そして、装飾の多い剣を手に取った。


 それから空いた方の手で、繊細な装飾を撫でてみせた。



エボン

「こういう飾りだって、ウチの工房で作ってんだぜ?」


エボン

「剣を打つしか能が無い連中って思われちゃ、心外だな」


ヨーク

「別に、一芸を極めてるってのも、格好良いと思うけどな」


エボン

「そうか?」


エボン

「けど、今どき頑丈なだけの剣じゃ、商売にならねえからな」


ヨーク

「そういうもんか?」


エボン

「ああ」


エボン

「とくにルーキーは、ええかっこしいが多いからな」


エボン

「切れるだけの剣や、頑丈なだけの剣より、飾りが付いてる剣を買っていくのさ」


ヨーク

「可愛いのか」



 ヨークは前にした話を、思い出した。


 この店の倉庫には、やたら可愛い剣が眠っているらしい。


 ヨークはその剣を見たことが無かった。



エボン

「まあ、アレは売れなかったが」


ヨーク

「大変だな」


ヨーク

「で、任せて良いか?」


エボン

「まあ待て。素材は鉄で良いのか?」


ヨーク

「いや……」



 ヨークはミツキを見た。



ミツキ

「はい」



 ミツキはスキルで金属塊を出現させた。



ミツキ

「これを……上手く加工出来ませんか?」



 ミツキは金属塊をエボンに差し出した。


 エボンはそれを受け取り、凝視した。



エボン

「変わった形だが……」


エボン

「ん……!? これは……!?」


リホ

「魔光銀っス」


エボン

「マジか……」


エボン

「すげえな。どうしたんだ? コレ」


ヨーク

「迷宮でドロップした」


エボン

「へぇ~。レアドロップってやつか?」


ヨーク

「使えるか?」


エボン

「勿論だ」


エボン

「逆にこれ、魔導器なんかに使っちまって良いのか?」


ヨーク

「『なんか』?」


エボン

「いや、別に魔導器をバカにしてるわけじゃ無いんだが……」


エボン

「武具に使ったら、良いのが出来ると思うんだがな」


ヨーク

「今のところは、別に欲しい装備も無いしな」


エボン

「そうか? 使っちまって良いんだな?」


ヨーク

「ああ。頼む。それで、いくらかかる?」


エボン

「前金で小金貨2枚だ。払えるか?」


リホ

「…………」



 リホはヨークの顔色をうかがった。


 ヨークはそれに気付かず、話を進めた。



ヨーク

「結構するな」


リホ

「ぅ……」


エボン

「特注品ってのは、手間がかかるもんだ」


ミツキ

「正しい相場なのでしょうか?」


エボン

「ヨソと比べてもらっても良いがな」


エボン

「あんまり安請け合いする奴も、どうかと思うぜ。俺は」


ヨーク

「払おう」



 ヨークはポケットから、財布を取り出した。


 それから金貨を2枚抜き取り、エボンに渡した。



エボン

「まいどあり。……儲かってるみたいだな」



 エボンは、手中の金貨を見て言った。



ヨーク

「それなりにな」



 冒険者というのは、一定のレベルを超えれば儲かる仕事だ。


 そして、ヨークのレベルは高い。


 専業冒険者として、十分に食べていけるようになっていた。



エボン

「ウチで買った剣、具合はどうだ?」


ミツキ

「頑丈で助かっていますよ」


エボン

「なら良かった」


ヨーク

「完成までに何日かかる?」


エボン

「最低でも1週間は欲しいな」


エボン

「それと、最後の仕上げは、魔石の用意が出来てからだ」


ヨーク

「分かった」


ヨーク

「リホ。魔石の加工には何日かかる?」


リホ

「えっ……」


リホ

「その、やってみないと分からないっス」


エボン

「嬢ちゃんが魔石を彫るのか?」


リホ

「……はい」


エボン

「そうかそうか」



 エボンの表情が緩んだ。


 肯定的な笑みだった。



エボン

「若いのに大したもんだ。頑張れよ」


リホ

「…………はいっス」


ヨーク

「別に、こっちが遅れても問題は無いか?」


エボン

「無いって言えば、無いがな」


エボン

「未完成がいつまでも手元に有るのは、あんまり気分が良いもんじゃねえ」


エボン

「出来れば10日後くらいには、用意してくれると助かる」


ヨーク

「リホ。出来そうか?」


リホ

「多分……」


ヨーク

「分かった。それじゃ、よろしく」


エボン

「ああ。任せとけ」



 ヨークたちは、図面と魔光銀をエボンに預けた。


 そして、武器屋を出た。


 3人は、ゆっくりと通りを歩いた。



ヨーク

「魔石の加工には、何が要るんだ?」


リホ

「……専用の針と顕微鏡」


リホ

「……それと、作業台が欲しいっス」



 リホはそう言った。


 少し言い辛そうにしていた。



ヨーク

「店まで案内してくれ」


リホ

「……はいっス」



 3人は、工具の専門店に向かった。


 そこで魔石加工の道具を揃えた。


 購入した道具は、ヨークの宿に運び込まれた。



ヨーク

「ごめん。サトーズさん」



 作業台を抱えながら、ヨークはサトーズにそう言った。



サトーズ

「いえ」


サトーズ

「あまり、うるさくはしないで下さいね?」


リホ

「了解っス」



 ヨークたちの寝室。


 ベッドから少し離れた位置に、作業台が置かれた。


 その上に、作業に必要な道具が並べられた。


 無事にセッティングが完了した。


 魔石加工の準備が整った。



ヨーク

「どうだ?」



 ベッドに腰かけた状態で、ヨークはリホに尋ねた。


 リホは作業台の道具と向き合っていた。



リホ

「……問題無いっス」


ヨーク

「そうか」


ヨーク

「何か手伝うことは有るか?」


リホ

「いえ。1人で十分っス」


ヨーク

「それじゃ、迷宮に行ってくるよ」


リホ

「了解っス」



 ヨークたちは、リホを残して宿を出た。



リホ

「…………」



 宿の寝室に、リホが1人で残された。




 ……。




 7日が経過した。


 早朝。


 宿屋の寝室。


 室内には、ヨーク、ミツキ、リホの姿が有った。


 既に朝食は終えている。


 ヨークは、迷宮へ向かうための身支度を、整えていた。



ヨーク

「どうだ? 進捗は」



 作業台前の椅子。


 そこにリホが腰かけていた。


 ヨークはベッドの隣に立ち、彼女に声をかけた。



リホ

「えっ、あっ、はい」



 リホはぎこちない様子で答えた。



リホ

「その……ボチボチっス」


ヨーク

「そうか」


ヨーク

「あと3日で出来そうか?」



 あと3日経つと、作業を始めてから10日目になる。


 エボンには、10日ほどで魔石を用意して欲しいと言われていた。


 別に、厳密な期日というわけでは無い。


 支払いは済んでおり、遅れてもエボンに損は無い。


 何か罰が下るわけでも無かった。


 だが、期日は守られるに越したことは無い。


 ヨークはそう考えていた。



リホ

「その……その……」


リホ

「多分……」


ヨーク

「うん」


ヨーク

「別に、ちょっとくらい遅れても良いからな。焦らずやれよ」


リホ

「……はい」


ミツキ

「……………………」



 俯くリホに、ミツキは冷えた視線を向けた。


 ヨークは、そんなミツキの様子に気付かなかった。



ヨーク

「それじゃ、迷宮行って来るから、留守番頼むな」


リホ

「はい」



 ヨークはミツキへと向き直った。



ヨーク

「行こうぜ」


ミツキ

「はい」



 ミツキはヨークに対し、にこにこと微笑んだ。


 リホに向けた面持ちとは、100℃以上の差が有った。


 二人は部屋を出て行った。



リホ

「……………………」



 リホは取り残された。




 ……。




 3日後になった。


 エボンに指定された期日だった。



ヨーク

「進捗は?」



 宿の寝室で、ヨークはリホに尋ねた。


 リホは、作業台の椅子に腰かけていた。



リホ

「その…………」


リホ

「もうちょっと……っス」


ヨーク

「そっか」


ヨーク

(一応、謝っとかないとな)


ヨーク

「それじゃ、一回エボンさんと話してくる。ちょっと遅れるって」


リホ

「ぁ…………」



 ヨークは出口に向かった。


 そして、ドアノブに手をかけた。



ミツキ

「ヨーク」



 ドアを開けようとしたヨークを、ミツキが呼び止めた。



ヨーク

「ミツキ?」



 ヨークは体の左側面を、ミツキに向けた。


 呼び止められるとは、思っていなかった。


 気持ちはドアの方へ向いていた。



ミツキ

「その女のために、ヨークが頭を下げる必要はありません」


ヨーク

「いや、まあ、そうかもしれんが」


ヨーク

「リホには魔石に集中して欲しいしな。雑用は俺がやるよ」



 そう言って、ヨークはドアノブを回した。



ミツキ

「ヨーク」



 ただ名前を呼んだだけだ。


 だが、ヨークの足はその場に縫い止められた。


 ミツキの声には、それを強いるだけの冷たさが有った。



ミツキ

「はっきり言いましょう」


ミツキ

「その女は切り捨てるべきです」



 ミツキの極寒の眼差しが、リホを射抜いた。



リホ

「ひうっ……!?」



 格の違う生物の敵意を受け、リホの体が震えた。



ヨーク

「どうして……そんなこと言うんだよ?」


ミツキ

「貴方は言いましたね」


ミツキ

「その女は……私たちの世界を、広げてくれるかもしれないと」


ミツキ

「ですが、それは間違いでした」


ミツキ

「その雌に、ヨークの世界を広げるだけの器など、有りはしない」


ミツキ

「貴方の寵愛を受ける資格など、有りはしないのです」


ヨーク

「雌ってお前……ちょっと口が悪いぞ」


ミツキ

「……申し訳有りません。つい、聞き苦しい言葉を……」


ミツキ

「ですが、その女が……」


ヨーク

「ミツキ」


ヨーク

「……怒るようなことか?」


ヨーク

「ちょっと調子が悪いことくらい、誰にでもあるだろ?」


ヨーク

「壁を乗り越えて、成長することだってある」


ヨーク

「長い目で見て、リホを見守ってやろうぜ?」


リホ

「…………」


ミツキ

「ただ、障害に躓いているだけ……」


ミツキ

「それだけなら良かったのですけどね」


ヨーク

「……何だよ?」


ミツキ

「その女は、恩人である貴方に嘘をついた。彼女は……」


ミツキ

「凡庸で善良な隣人ですら無いのですよ。ヨーク」




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