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3の5「ゴーレムとアイテムドロップ」




ミツキ

「随分と……リホさんのことを気に入ってるみたいですね」



 ミツキは無表情で言った。



ヨーク

「気に入ってるって言うか……」


ヨーク

「ああいう奴とつるんだ方が、絶対面白くなると思うんだよな」


ミツキ

「そういうのを、気に入ってると言うのではないですか?」


ヨーク

「いや……」


ヨーク

「俺たち二人の為にも、なると思うんだけどな」


ミツキ

「私たち?」



 ミツキの無表情が崩れた。


 素の若さが出てきた様子だった。



ヨーク

「前にさ、デレーナに言われたんだよな」


ミツキ

「…………?」


ヨーク

「迷宮に飽きないのかって、言われたんだ」


ヨーク

「その時は、飽きないって答えた。だけど……」


ヨーク

「迷宮には、ゴールが有るなって思ったんだ」


ミツキ

「…………」


ヨーク

「建造物である以上、絶対に果てが有る」


ヨーク

「その果てに辿り着いた時、俺はどうするんだろうなって」


ヨーク

「けどさ、リホみたいな奴には、ゴールが無いだろ?」


ヨーク

「良い物を作るって行為には、果てが無いんだ」


ヨーク

「だから、リホを仲間にすることでさ……」


ヨーク

「俺たち冒険者にも、果てが無くなるんじゃないかって、そう思った」


ミツキ

「……そこまで考えていたのですね」


ヨーク

「ああ。ミツキは考えたことないか?」


ミツキ

「無いですね」



 ミツキは、首を小さく左右に振った。



ヨーク

「そうか」


ミツキ

「元々、私は冒険者になりたかったわけでも無いですからね」


ミツキ

「今この瞬間、ラビュリントスが無くなっても、私は困らないのだと思います」


ヨーク

「……そっか」



 迷宮に飽きたら、どうするのか。


 そう問われた時、ヨークの口から出たのは、ミツキのことだった。


 別に、自分も困らないのかもしれない。


 たとえ、ラビュリントスが無くなっても。


 ヨークはそう考えた。



ヨーク

「ミツキは……」


ヨーク

「欲しいモンとかは、無いのか?」


ミツキ

「有りますよ。人並みには」


ヨーク

「ふ~ん……?」


ヨーク

(まあそうか)


ヨーク

「それじゃ、何が欲しい?」


ミツキ

「そうですね……」


ミツキ

「今はカメラが欲しいです」


ヨーク

「なんだよ。お前もカメラ好きなんじゃねえか」


ミツキ

「ふふっ」


ヨーク

「二つ作ってもらうか。リホに」


ミツキ

「いえ。それは贅沢というものです」


ミツキ

「ヨークのカメラ、私にも使わせて下さいね?」


ヨーク

「おう」


ヨーク

「ところで……ここどこ?」


ミツキ

「71層です」


ヨーク

「マジかー」


ミツキ

「マジですー」


ヨーク

「道理で、尻が冷たいと思った」



 氷狼に長く座りすぎた。


 ヨークのお尻はひんやりとしていた。



ミツキ

「ズルをするからです」


ヨーク

「正攻法ですが、なにか?」


ミツキ

「フフ」


ミツキ

「ねえ、簡単でしょう?」


ヨーク

「うん?」



 ヨークは首を傾げた。


 何を問われたのか、分からなかった。



ミツキ

「ヨークなら、70層くらい簡単なんです」


ヨーク

「いや。迷子にビビって全力疾走してただけなんだが」


ミツキ

「ヨークはいい年して、迷子が怖いんですねぇ」


ヨーク

「地図持ってる奴ァ言うことが違ェや」


ミツキ

「フフフフ」


ミツキ

「さあ、ヨーク」


ミツキ

「メタルゴーレム系の魔獣を探しましょう」


ヨーク

「『系』ってことは、色々居るんだよな? どれを狩るんだ?」


ミツキ

「狙った相手に出会えるとも限りません」


ミツキ

「出会った端からミンチにしていけば、良いと思います」


ヨーク

「フレッシュだな」


ミツキ

「ハックアンドフレッシュです。迷宮における最も知性的な攻略法です」


ヨーク

「知性を最大限、発揮させるか」


ミツキ

「そうしましょう」


ミツキ

「インテリゲンチャですからね。我々は」


ヨーク

「うむ。テクノクラートでもある」


ミツキ

「然り」



 71層。


 鉱石の地層。


 2人はメタルゴーレムを探して散策した。


 歩きながら、ヨークは壁を見た。


 岩壁に、それらしい石が生えているのが見える。



ヨーク

「その辺に生えてるやつ、魔導器に使えないのか?」


ミツキ

「使えるかもしれませんけど……」


ミツキ

「それらの鉱石が、どの程度の物なのか、素人には判別がつきませんからね」


ミツキ

「ドロップアイテムであれば、落とした魔獣から判断が出来ますから」


ヨーク

「素直にゴーレム探すか」


ミツキ

「はい。素直が1番です」




 2人は散策を続けた。


 やがて、それらしい魔獣を発見した。




ヨーク

「居たな……」



__________________________



ブルーゴーレム レベル69 弱点 雷


__________________________




 ヨークたちの前方に、青色のゴーレムが立っていた。


 身長は3メートルを超える。


 体表は金属質。


 人のように四肢が有り、直立している。


 だが、がっしりとした幅広の体格は、人とは似ても似つかなかった。


 顔も目も有るが、人の容貌とはかけ離れていた。



ブルーゴーレム

「…………」



 ゴーレムも、ヨークたちの存在に気付いたようだ。


 ゆっくりと、ヨークたちへ向き直った。


 ヨークはゴーレムに、手のひらを向けた。



ヨーク

「『アイテムドロップ強化』」



 ヨークはスキル名を唱えた。



ヨーク

「さて……どうやって……」


ミツキ

「…………」



 ミツキは真っ直ぐに、ゴーレムへと疾走した。


 大剣と共に、ゴーレムの正面に。


 そして、跳躍した。


 大上段からの一閃。


 ゴーレムは真っ二つに裂かれ、崩れ落ちた。


 倒されたゴーレムは光を放ち、消滅した。



ヨーク

「…………」



 ヨークが何かをする間も無く、戦いは終わってしまった。


 ヨークはミツキに歩み寄った。



ヨーク

「どうやら、ゴーレムは物理攻撃に弱いらしいな?」


ミツキ

「驚きの発見ですね」


ヨーク

「ドロップは?」


ミツキ

「見当たりませんね」



 ゴーレムが消えた場所に、ドロップアイテムは無かった。


 ただいつものように、魔石がぽつんと残されていた。



ヨーク

「やっぱり……そんなに良いスキルでも無いのかもな」


ミツキ

「落ち込まないで下さい。ほら、魔石ですよ。ツヤツヤしてる」



 ミツキは魔石を拾い上げ、ヨークに見せた。



ヨーク

「深層の魔石なら、高く売れるよな?」


ミツキ

「はい。色も良いですし」



 魔石の価格は、それを落とした魔獣のレベルに、ほぼ比例する。


 深層で得られた魔石が、安いわけが無かった。



ヨーク

「最悪の場合、ゴーレムの魔石を売りまくって、金属に替えるか」


ミツキ

「まだ、諦めるには早いですよ」


ヨーク

「そだな」



 2人は探索を再開した。


 すぐにゴーレムを発見した。


 先程とは別の、白銀のゴーレムだった。




__________________________



ライトゴーレム レベル71 弱点 闇


__________________________




ヨーク

「『アイテムドロップ強化』」


ミツキ

「…………」



 ヨークがスキル名を唱えると、ミツキは前に出ようとした。



ヨーク

「ミツキ。ステイ。ミツキ」



 ヨークはミツキを呼び止めた。


 ミツキはヨークの方へ、振り向いた。



ミツキ

「ヨーク?」


ヨーク

「俺も戦ってみたい」



 ヨークはそう言った。


 そして、魔剣の柄に手をかけた。



ミツキ

「ついに、ヨークの中に眠る、農耕民族の血が……!」


ヨーク

「クックック……耕しまくってやるぜ……!」


ヨーク

「まあ、俺は畑とか、あんまりやったこと無いんだけどな」


ミツキ

「村民の面汚しが」


ヨーク

「えっ?」


ヨーク

「村民は全員農民……とか思ってません?」


ミツキ

「そんなことはありますん」


ヨーク

「とにかく、俺は自警団だったんだよ」


ミツキ

「はぁ」


ヨーク

「そういうわけで、狩猟民族の魂を見せてやる」


ミツキ

「どうぞどうぞ」



 ミツキは、ヨークの後ろに下がった。


 ヨークは魔剣を抜刀した。


 そのまま前方に駆け、ゴーレムに斬りかかった。


 だが、魔剣はゴーレムの体に弾かれてしまった。



ヨーク

「硬っ!?」



 ヨークはミツキへと振り返った。



ヨーク

「超硬い」


ミツキ

「見て分かりません?」


ヨーク

「分かるけど? 分かるけどさあ」


ミツキ

「何か?」


ヨーク

「お前どんだけ馬鹿力なん……」


ミツキ

「ステイ。ヨーク。ステイ」


ミツキ

「私をこんな体にしたのは、貴方なんですからね?」


ヨーク

「そうだけど人聞き悪いな? その通りだけど」


ライトゴーレム

「…………」



 2人の漫才を待つゴーレムでは無かった。


 ゴーレムはヨークに殴りかかった。


 予告無く、真っ直ぐに。



ヨーク

「のわっ!?」



 攻撃に気付いたヨークは、慌てて横に跳んだ。


 重い拳が、ヨークの傍をかすめていった。


 風のうねりが、ヨークの鼓膜を揺らした。


 速かった。


 鈍重そうな外見には似合わない。


 なんとか無傷で済んだが、危ないところだった。


 攻撃を回避したヨークは、ゴーレムから距離を取った。



ミツキ

「私が始末しましょうか?」


ヨーク

「やるよ。おんぶだっこじゃ気色悪いし」



 ヨークは魔剣をゴーレムに向けた。



ヨーク

「呪壊」



 ヨークは呪文を唱えた。


 ゴーレムは、黒い靄に包まれた。


 それで終いだった。


 ゴーレムは動きを止め、砂状になって崩壊していった。



ミツキ

「すご……」


ヨーク

「え?」


ミツキ

「いえ」


ミツキ

「ヨークもやれば出来るじゃないですか」


ヨーク

「俺の方がレベル上だからな? ちょっとだけ」


ミツキ

「腕相撲します?」


ヨーク

「止めとく……」


ミツキ

「そうですか? あっ……」



 ミツキは、何かに気付いた様子を見せた。


 そして、ゴーレムが居た所へ、歩いた。



ミツキ

「これ……」



 ミツキは何かを拾いあげ、ヨークに見せた。


 ヨークの目に、金属製の、複雑な形をした物体が映った。



ヨーク

「まさか……ドロップアイテムか?」


ミツキ

「はい」



 ミツキは大きく頷いた。



ミツキ

「それか、誰かの落し物か」


ヨーク

「こういうコトワザが有る」


ミツキ

「はぁ」


ヨーク

「迷宮で、拾った物は、俺の物」


ミツキ

「良いコトワザですね」


ヨーク

「うむ」


ミツキ

「まあ、これはドロップアイテムだと思いますけど」


ヨーク

「リホに見てもらうか」


ミツキ

「そうですね」



 ミツキはスキルで金属を『収納』した。





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