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ヨーク

「また手引きか」


ミツキ

「はい」



 ミツキはニマニマと、手引きを上下に揺すってみせた。


 何の意味が有るのかは分からない。


 だが、楽しそうだった。



ヨーク

「手引き何者なんです?」


ミツキ

「メイルブーケ迷宮伯家、監修とあります」


ヨーク

「あいつらか」


ミツキ

「はい」


ヨーク

「…………」



 ヨークは、フルーレたちの顔を思い浮かべた。


 彼女たちと別れてから、1月も経っていない。


 だが、懐かしいような気分になった。


 同じ王都に居る。


 だから、いつかまた出会うかもしれない。


 だけど、二度と出会わないかもしれない。


 そのことが、ヨークを少し感傷的にさせた。



リホ

「それで、なんて書いてあるんスか?」


ミツキ

「この冒険者の手引き、上級編によると……」


ヨーク

「上級」


ミツキ

「どうやらメタルゴーレム系の魔獣が、金属片をドロップすることがあるらしいです」


ヨーク

「うーん……ドロップか……」


リホ

「どうしたんスか?」


ヨーク

「ドロップアイテムって、そんなアテになる物でも無いんだよ」


リホ

「粗悪品なんスか?」


ヨーク

「単純に、量が出ない」



 魔獣を倒せば、アイテムを落とす。


 だが、毎回では無い。


 むしろ、倒しても出ないことの方が圧倒的に多い。


 出たら運が良い。


 それくらいの物だった。


 大量の冒険者が、毎日迷宮に潜っている。


 なので、総合的に見れば、それなりのドロップアイテムの流通は有る。


 ドロップアイテムをアテにした商売も有る。


 だが、冒険者の主な収入源は、あくまで魔石。


 ドロップアイテムは、副収入、臨時ボーナスにすぎなかった。



ヨーク

「金稼いで買った方が、まだ手っ取り早い気がするが……」


ミツキ

「ヨーク。スキルのことをお忘れですか?」


ヨーク

「ああ、そういえば……」



 『アイテムドロップ強化』。


 先日身につけたスキルを、ヨークはまだ試してはいなかった。



リホ

「スキル?」


ヨーク

「俺のスキルはだな……」


ミツキ

「ヨーク」


ミツキ

「そこまで話す関係でも無い」


ミツキ

「そう思いますが」



 軽はずみにスキルを教えようとしたヨークを、ミツキが咎めた。



ヨーク

「そうか?」


ミツキ

「そうです」



 助けると決めた時点で、ヨークはリホを仲間だと思っていた。


 ミツキにとっては違った。


 護るべきはヨークで、リホは他人だ。


 距離が有った。


 ヨークは、そんなミツキの気持ちを感じ取った。


 そして、ミツキを優先することにした。



ヨーク

「ん~……」


ヨーク

「そんな役に立つスキルなのかも分からんが……」


ヨーク

「まあ、試してみるか?」


ミツキ

「そうしましょう」


ヨーク

「分かった。……リホ」


リホ

「はいっス」


ヨーク

「俺たちは、今から中層に行く」


ヨーク

「どこか安全な場所で、待ってて欲しい」


リホ

「了解っス」


リホ

「それじゃあ、宿で待ってるっス」


ミツキ

「……居座る気ですか?」


リホ

「……経費削減っス」


ヨーク

「ミツキ。そんな目くじら立てるなよ」


ミツキ

「別に目くじら立ててなど、いませんが」


ミツキ

「せいぜい目イルカと言ったところですね」


ヨーク

「どういう現象?」


ミツキ

「リトル目くじらです」


ヨーク

「なるほど?」


ヨーク

「……それじゃ、一回迷宮から出るぞ」


リホ

「はいっス」



 3人は大階段へと向かった。


 そして、大階段を上り、広場へと出た。


 リホを無事に送り届けると、ヨークたちは迷宮に戻ることにした。



ヨーク

「んじゃ」



 ヨークはリホに声をかけた。



ヨーク

「気をつけてな」


リホ

「はい。行ってらっしゃいっス」



 リホは、にこにこと手を振った。


 ヨークたちは、大階段を下りた。


 目指すは中層。


 少し距離が有る。


 2人は走って移動することにした。


 いつも通りの移動法だった。


 2人はハイレベルだ。


 その脚は速い。


 あっという間に、中層へと到達した。


 そして、さらに29層まで下りた。


 2人が自力でマッピングしたのは、この階層までだった。


 ミツキは通路で立ち止まると、店売りの地図を取り出した。


 自作の地図には載っていないことまで、その地図には載っている。



ミツキ

「ズルしましょう」


ヨーク

「仕方ないな」



 自力でマッピングして進むのが、2人のルールだった。


 そのルールを、今回は破ることにした。


 店売りの地図を頼りに、2人はさらに進んだ。


 31層、赤水晶の地層へ足を踏み入れた。


 中層と呼ばれるのは、21層から40層。


 31層は、中層の中間ということになる。


 その地層は、床から天井までが、赤い水晶で覆われていた。


 少し魔石に似ている。


 だが、魔石ほど眩しくは無かった。


 薄く光る、落ち着いた赤だった。



ヨーク

「大分、浮世離れしてきたな」


ミツキ

「迷宮で空が見えた方が、変でしたけどね」


ヨーク

「それもそうか」


ミツキ

「それでは炎屍鳥を探しましょうか」


ヨーク

「おう」



 ミツキが言い、ヨークが答えた。


 そこからは徒歩だった。


 2人は獲物を探してうろついた。


 それから何体か、目当てで無い魔獣と出会った。


 レベル30程度の魔獣だ。


 2人のレベルは200を超えている。


 敵では無かった。


 ミツキの大剣が、魔獣を蹴散らしていった。


 そして……。



ミツキ

「あっ。いました」



 やがて、ミツキは炎屍鳥を発見した。


 炎を身にまとい、顔がむき出しの髑髏のようになっている。


 不気味な鳥だった。



ミツキ

「ちょっと気持ち悪いですね」



 ミツキはそう言った。


 無表情だったが、少し腰が引けていた。



ヨーク

「かもな」



 ヨークも少し気持ち悪いと思ったが、顔には出さなかった。


 ミツキが怖がっているなら、守ってやりたいと思った。


 平然とした様子で、ミツキの前に立った。


 そして、敵に手の平を向けた。



ヨーク

「『アイテムドロップ強化』」



 スキル名を唱えた。



ミツキ

「ヨーク?」



 今回の目的は、ドロップアイテムでは無い。


 どうしてスキルを使ったのだろうか。


 ミツキは疑問符を浮かべた。



ヨーク

「試運転だ」


ミツキ

「なるほど」


炎屍鳥

「…………!」



 炎屍鳥が飛びかかってきた。


 ヨークは魔剣を抜刀し、あっさりと敵を切り捨てた。


 魔獣が消滅し、魔石が出現した。



ヨーク

「ドロップは無しか……」



 スキルを使ったのに、ドロップアイテムは得られなかった。


 確実にアイテムが得られるというものでも無いらしかった。



ミツキ

「はい。ですが……」



 ミツキは魔石を拾い上げた。



ミツキ

「この魔石、なんだかいつもと違いますね」


ヨーク

「見せて」


ミツキ

「はい」



 ミツキはヨークに魔石を渡した。


 ヨークは魔石を観察した。



ヨーク

「……いつもより大きいか?」



 その魔石は、この層で入手した他の魔石より大きく見えた。



ミツキ

「はい」


ミツキ

「それに、色が綺麗に見えます」


ヨーク

「つまり、良い魔石か」


ミツキ

「多分ですけど」


ヨーク

「リホに渡す魔石は、これで良さそうだな」


ミツキ

「はい」


ヨーク

「次は金属か」


ヨーク

「メタルゴーレムっていうのは、どこに居るんだ?」


ミツキ

「ええと……」


ミツキ

「第71層以降と書いてあります」


ヨーク

「深層か……」



 深層とは、61層から下を指す言葉だ。


 魔獣の凶悪さが増し、凡人には踏み入れられない。


 そんな危険な場所だと言われていた。


 2人はまだ、中層をマッピングしている段階だ。


 下層は未経験。


 深層に挑むのは、一足飛びだった。



ミツキ

「ビビッてますか?」


ヨーク

「漏らしそう……」


ミツキ

「カメラの用意をしておきますね」


ヨーク

「カメラ!」


ヨーク

「それ! カメラと言えばさぁ」


ミツキ

「はい?」


ヨーク

「リホに頼んだら、俺専用のカメラ作ってくれるかな?」


ミツキ

「気に入ったんですか? カメラ」


ヨーク

「うん。なんかさ、凄ェだろ?」


ミツキ

「メイルブーケの件では、ロクでもない使われ方をしていましたが」


ヨーク

「勿体無い! 俺にくれたら、ロクでもある写真を作る!」


ミツキ

「……そうですね」


ミツキ

「ヨークなら、きっと素敵な写真が撮れると思いますよ」


ヨーク

「そう思うか? 出来るかな? リホは」


ミツキ

「本当に天才なら、カメラくらいは作れるのでは無いですかね」


ヨーク

「夢が広がりんぐだな」


ミツキ

「それで、どうします?」


ヨーク

「ん?」


ミツキ

「行ってみますか? 70層」


ヨーク

「う~ん……」


ヨーク

「俺たちが攻略してるのが中層だろ?」


ミツキ

「攻略というよりは、散策と言った感じですけどね」


ヨーク

「いくら俺たちのレベルが高いって言っても、一段飛ばしはリスキーな気がするんだよな」


ミツキ

「そうでしょうか?」


ヨーク

「魔術師ってのはなあ、貧弱なんだぞ?」


ミツキ

「もう私の方が、腕相撲強いですからね」


ヨーク

「腕相撲の話はやめて」


ミツキ

「ふふっ」


ミツキ

「ですけど、ヨークなら大丈夫だと思いますよ?」


ヨーク

「何を根拠に……」


ミツキ

「根拠と言われましても……」


ミツキ

「ヨークだから?」


ヨーク

「えぇ……」


ミツキ

「えっ? 今ドン引かれました?」


ヨーク

「恋愛物でコンプレックス持ちのヒロインに『君は君だ』って言う優男より胡散臭い」


ミツキ

「むぅ……」


ミツキ

「良いから行きますよ」


ヨーク

「えっ? 確定?」


ミツキ

「グダグダ悩んでるポーズだけして、どうせ行くんでしょう?」


ヨーク

「ん…………」


ヨーク

「そうかも」


ヨーク

「手ぶらで帰ったら、リホがガッカリするしな」


ミツキ

「…………………………………………」


ミツキ

「ダッシュ」



 ミツキは唐突に走り出した。


 ヨークを置き去りにして。



ヨーク

「迷子になるんだが!?」



 地図はミツキの手中に有る。


 ヨークは慌ててミツキを追った。




 ……。




ヨーク

「ったく……」



 ヨークはミツキに追いついた。


 彼は氷狼にまたがっていた。



ミツキ

「はぁ……はぁ……」



 全力疾走したミツキは、息が上がっていた。



ミツキ

「呪文を使うのは……反則……です……」



 ずるい。


 ミツキは拗ねたような目でヨークを見た。



ヨーク

「いやいや息あがってんじゃねえか割と本気で俺を撒こうとしました? ねぇ?」



 そう言いながら、ヨークは氷狼から下りた。



ミツキ

「いえ……」


ミツキ

「焦ったヨークを影から見て、楽しもうかと……」


ヨーク

「わぁ陰湿」


ミツキ

「女は一人残らず陰湿ですよ」


ヨーク

「そんなこと無いからな? 世の中にはさっぱりとした優しい女子も居るからな?」


ミツキ

「ヨーク。女子に幻想を見るのはやめなさい?」


ヨーク

「やだよ女の子は柔らかくて良い匂いがするよ」


ミツキ

「セクハラ止めてもらって良いですか?」


ヨーク

「アッハイ」




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