表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/226

3の1の2「解雇と出会い」



 深夜の迷宮。


 第1層。


 ヨークは一人で立っていた。


 この外出のことは、ミツキにも伝えてはいない。


 男の特訓。


 秘密の特訓だった。


 ヨークは魔剣の柄に手をかけた。


 そして、低く構えた。



ヨーク

(紅蓮)



 心中で唱えた。


 ヨークの魔術の力が、魔剣の鞘に満ちた。


 充満した力を、弾けさせた。


 力が弾ける勢いに合わせ、抜刀した。


 斬撃が空を裂いた。


 その斬撃は、通常のものよりも鋭い。


 一個の技として、役には立つはずだった。


 だが、ヨークは、技の出来栄えに納得がいかなかった。



ヨーク

(デレーナの剣は、もっと綺麗だった)


ヨーク

(こんな爆発する感じじゃなくて、もっと流れるみたいに……)


ヨーク

(練習を重ねたら、俺もあんな風になれるのか?)



 ヨークの剣は我流だった。


 魔導抜刀に関しても、誰の指導も受けてはいない。


 シュウの剣を見た記憶を元に、剣理を組み立てていた。


 デレーナの剣は、見ても理解が出来なかった。


 魔導抜刀は、秘剣とまで呼ばれる技だ。


 我流で身につけるのは、流石に無謀かもしれない。


 師が居れば……。



ヨーク

(フルーレたちと、絶縁さえしなけりゃ……)


ヨーク

(いや……)



 微かに願望が現れた。


 ヨークはそれを振り払った。


 そして、ミツキが連れ去られた瞬間を思い出した。


 さらに、砕け散るユーリの姿を。


 貴族は、ダメだ。


 そういう痛みが、ヨークに刻まれていた。



ヨーク

(これで良かったんだ)



 ヨークは一時間ほど、魔導抜刀の練習をした。


 そして、宿へと帰った。


 デレーナの剣に、近付けているという気分には、なれなかった。




 ……。




 王都最大級の魔導器工房。


 ドミニ魔導器工房。


 その社長室に、二人の人物の姿が有った。


 男と女。


 男は社長用の椅子に腰かけ、女は立って彼に向かい合っていた。



イジュー

「リホ=ミラストック設計技師。お前はクビだ」



 そう言った男の名は、イジュー=ドミニ。


 すらりとした細身の体に、ブランド物の高級スーツを着こなしていた。


 年は30半ばで、若干の老いが見られるが、その美貌は健在だった。


 水色の髪に碧眼。


 切れ長の目に宿る、眼光は鋭い。


 髪型はオールバック。


 銀縁のスマートな眼鏡を、身につけていた。


 人族。


 若くして魔導器工房を立ち上げ、王都最大規模にまで育て上げた。


 その界隈では知らない者は居ない。


 魔導器業界の巨人だった。



リホ

「えっ……!?」



 クビを言い渡されたハーフの女子が、あんぐりと口を開いた。


 髪は青のセミロングで赤目。


 目はぱっちりと大きく開かれている。


 身長は、同年代の女子の平均よりも低い。


 手足も小さかった。


 服装は、グレーのレディーススーツ。


 名前はリホ=ミラストック。


 今年、ドミニ魔導器工房に入社した。


 新人技師だ。


 所属部署は設計部。


 既に、いくつもの図面を作図していた。



リホ

「どうしてっスか!? ウチがいったい何を!?」



 納得のいかないリホが、大声で問うた。



イジュー

「率直に言ってだな、お前が引いた図面、コレ」



 イジューは、机上の紙束を手に取った。


 そして、ばらまいた。


 その全てが、リホが引いた図面だった。



イジュー

「全く使い物にならない」



 図面は床に散らばった。



リホ

「ああっ……」



 リホは、必死に図面を拾い集めた。


 図面は、設計技師の魂だ。


 ぞんざいに扱って良い物では無かった。


 床を這うリホを、イジューの眼光が見下ろした。


 イジューは、無表情で言葉を継いだ。



イジュー

「魔術学校の神童だか何だか知らないが……」


イジュー

「勉強ばっかり出来る、頭でっかちでは困るのだよ」


イジュー

「しっかりと、現場で使える図面を、引いてもらわなければ」


リホ

「う……ウチの図面は……間違ってなんか……」



 言い返すリホの目に、涙が滲んでいた。



リホ

「それに……この工房に来いっていうのは……社長が……」


イジュー

「あ゛?」



 イジューは、ドスの利いた声を出した。


 海千山千の業界の連中と、渡り合ってきている。


 気の弱い小娘に、耐えられる迫力では無かった。



リホ

「ひっ……!」



 リホは座った姿勢のまま、イジューから距離を取った。


 集めた図面からも、距離を取ってしまっていた。



イジュー

「言い訳は良い。とっとと出て行け」


イジュー

「それと……他の工房に行こうと思っても、無駄だからな?」


イジュー

「お前が、クソ無能だって事実は、王都中の工房に広めておいた」


イジュー

「魔導技師として、やっていけると思うなよ」


イジュー

「それと、社員寮も、今日中に引き払ってもらうからな」


リホ

「う……」



 リホは反論を諦め、図面に手を伸ばした。



イジュー

「おっと」



 イジューは小型の杖を、図面に向けた。



イジュー

「炎矢」



 炎が図面に伸びた。


 図面が炎上した。


 すぐに燃え尽きて、後には少しの灰だけが残った。


 紙束が燃え尽きると共に、火は消えた。


 火事にはならなかった。



リホ

「え……? え……?」



 それは、度を超えた蛮行だった。


 リホは理由が分からず、図面に伸ばした手を、おろおろと彷徨わせた。



イジュー

「カス図面とはいえ、ウチの予算を使って書かれた図面だからな」


イジュー

「勝手に外に持ち出されたら、困るのだよ」


イジュー

「さて、とっとと出て行ってもらおうか」


イジュー

「お前はもう、うちの社員では無い、部外者なのだからな」



 リホはフラフラと立ち上がった。


 よろよろとドアへ歩き、震える手で開いた。


 ドアと枠の間に、なんとか体を滑り込ませた。


 部屋の外へ出ると、背中でドアを閉じた。


 そして、そのまま座り込んだ。



リホ

「う……うぅ……」


リホ

「ウチは……ウチは……ぁ……」


リホ

「ああああああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!」



 リホは社長室の前で泣き崩れた。




 ……。




 迷宮中層。


 29層。荒野の地層。


 草の生えない荒れた地面を、ゴツゴツした岩壁が囲んでいた。


 上方には、時間に関わらず、夕焼け空が見えた。


 本物の空では無かった。



ミツキ

「はっ!」



 ミツキの大剣が、人斬り蟷螂を切り捨てた。


 蟷螂は、魔石を残して消滅した。


 周囲に敵が居ないのを確認すると、ミツキは剣を『収納』した。





______________________________________




ヨーク=ブラッドロード



スキル 敵強化 レベル3


 効果 敵のレベルを上昇させる



  追加スキル アイテムドロップ強化


   効果 魔獣のアイテムドロップ率とドロップアイテムの品質を強化する


    デメリット 対象の魔獣から得られるEXPが0になる



______________________________________





ヨーク

「お……」


ミツキ

「ヨーク? どうしました? 持病が悪化しましたか?」


ヨーク

「何病?」


ミツキ

「水虫とか?」


ヨーク

「地味に嫌だな」


ミツキ

「清潔を心がけないといけませんね」


ヨーク

「うむ。フローラルだ」


ミツキ

「それで、どうしたのですか? フローラルヨーク」


ヨーク

「なんか『追加スキル』だって」


ミツキ

「ええと……」


ミツキ

「おめでとうございます?」


ヨーク

「どうもどうもどうも」


ミツキ

「追加スキルというのは……変則的なサブスキルのようなものでしょうか」


ヨーク

「そうだな」


ミツキ

「それで、どのようなスキルを使えるようになったのでしょうか?」


ヨーク

「『アイテムドロップ強化』とある」


ミツキ

「ドロップ?」


ヨーク

「魔獣のドロップアイテムを強化する……らしい」


ミツキ

「ドロップアイテムですか」


ヨーク

「もっと戦闘で使えそうなスキルが良かったな~」


ミツキ

「ですが、きっと良いスキルですよ」


ヨーク

「そうか?」


ミツキ

「ヨークのスキルですから」



 ミツキは、春の陽光のような笑みを浮かべた。



ヨーク

「お、おう……」



 ミツキのまっすぐな言葉に、ヨークは照れてしまった。



ミツキ

「……………………」



 照れたヨークを見て、ミツキも時間差で赤くなった。



ヨーク

「そろそろ……宿に帰る時間だな」


ミツキ

「……はい」



 ヨークは駆け出した。


 ミツキも、その後に続いた。


 中層ともなると、地上までに結構な距離が有る。


 走って移動することが、一般的になっていた。


 二人は走り、一層まで移動した。


 そのまま、出口の大階段を目指した。



ヨーク

「段々と、往復が面倒になってくるよな?」


ミツキ

「そうですね」



 そのとき……。



???

「ひいいぃやあああぃやぁぁああああぁぁぁっ!」



 マヌケな悲鳴が、ヨークの耳に届いた。



ヨーク

「初心者だな」


ミツキ

「はい」



 ヨークは表情を改めた。


 1層とはいえ、死者が出る可能性は有る。


 たとえレベルが低くとも、魔獣が持つ殺意は本物なのだから。


 ヨークは脚を早め、声の方向へ走った。


 そのまま小部屋へ駆け込んだ。



???

「やぁぁぁあぁぁ……!」


ミツキ

「おや……」



 ハーフの女の子、リホがスライムにまとわりつかれていた。


 スライムは、倒れたリホの胸に、のしかかっていた。


 リホの隣には、弓が落ちていた。



ヨーク

(弓術師。ハーフか)



 ヨークは緊張感を薄めた。


 スライムは厄介な魔獣ではあるが、殺傷力は低い。


 のんびりと助ければ良かった。



ヨーク

「懐かしい。ミツキも昔はあんなんだったよな」


ミツキ

「記憶違いでは? あるいは錯覚、幻覚の可能性も」


ヨーク

「焼くかな」



 ヨークは魔剣をリホに向けた。



ヨーク

「炎矢」



 ヨークは手加減して魔術を放った。


 魔剣から放たれた火線が、スライムを焼いた。



リホ

「熱っ!? あつっ! 熱いいいいいいっ! 」


ヨーク

「我慢しろ。冒険者だろ?」


リホ

「ひう……うううぅ……」



 スライムが燃え尽きた。



ミツキ

「風癒」



 ミツキは念の為、リホに治癒術をかけた。



リホ

「ウチは……冒険者になんか……」


ヨーク

「ワケありか?」


ヨーク

「何にせよ、何か着ろよ」


リホ

「えっ?」


ヨーク

「胸、丸出しだぞ」



 リホの服は、スライムの消化液と魔術の火で、半壊していた。


 ハーフの薄青い胸部が、外気に触れていた。


 身長の割には大きい。



リホ

「ヒッ……!?」



 リホは自分の胸の露出に気付いた。



リホ

「ひやああああああああああぁぁぁっ!」



 慌ててヨークに背を向けた。



ミツキ

「ヨーク、衛兵に突き出しますよ?」


ヨーク

「助けたのに……」


ミツキ

「見過ぎです」


ヨーク

「ほどほどなんだが?」


ヨーク

「何か着せてやれよ。早く」


ミツキ

「はい」



 ミツキはスキルで、予備のローブを取り出した。


 そして、ローブをリホの体にかけた。



ミツキ

「どうぞ」


リホ

「どうもっス」


ヨーク

「もう良いか?」


ミツキ

「はい」



 ヨークは、リホに向き直った。


 ヨークとリホの目が合った。



リホ

「っ!」



 リホは頬を染め、そそくさと、ミツキの後ろに隠れた。



ヨーク

「怯えるなよ……」


リホ

「変態には近寄るなって、社長が言ってたっス……」


ヨーク

「それ、社長に言われないと分からんことか?」


ヨーク

「つーか、変態じゃねえし」


リホ

「ウチのおっぱいを見たっス」


ヨーク

「おっぱいて」


ヨーク

「俺が居なかったら、お前はスライムに食われてたんだが?」


リホ

「それは……その通りっス」


リホ

「冒険者ごときに助けられるとは……一生の不覚っス」


ヨーク

「は? ごとき?」


リホ

「ウチは魔術学校を主席で卒業した、言わばエリートっス」


リホ

「将来を約束された、選ばれし存在」


リホ

「脳味噌が筋肉の冒険者とは、存在の格が違うんスよ」


リホ

「フフン」



 リホは胸を張った。


 ミツキの平手が、リホの頬を張った。



リホ

「へぶっ!?」



 リホの体が宙を舞った。


 手加減したとはいえ、ミツキのレベルは200を超えている。


 やりすぎだった。


 リホはドシャリと地面に落ちた。



ヨーク

「おい……!?」


ミツキ

「申し訳有りません。つい……」


ヨーク

「ついて」


ミツキ

「この女がヨー……私を侮辱したので」


ヨーク

「まあ、気持ちは分かるが」



 むかつく女だとは、ヨークも思っていた。


 それで殴ろうとは思いもしなかったが。



ミツキ

「分かっていただけますか」


ヨーク

「ああ。けどさ……」


ヨーク

「そいつ、泡噴いてるぞ?」


ミツキ

「えっ?」



 リホの心臓が止まった。


 リホは生命活動を停止。


 死んだのだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ