3の1(断章)「神殺しと4人の英雄」
激闘の末、ヨーグラウは世界樹に封印された。
その後……。
ガイザークたちは、ヨーグラウ軍の残党と戦っていた。
地竜と戦っていたガイザークが、ふと立ち止まった。
ガイザーク
「む……?」
カナタ
「どうした? ガイザーク」
急に停止したガイザークに、カナタが声をかけた。
ガイザーク
「ヨーグラウの気配が消えた……。神壁も元に戻ったか」
カナタ
「どういうことだ?」
ガイザーク
「こういうことじゃ」
ガイザークは剣を一振りした。
衝撃波が立ち上った。
人の魔術などとは比較にならない、大規模なものだ。
それが、地竜の軍勢を飲み込んでいった。
衝撃波が静まった後、戦場に立つ者は居なかった。
それは木々でさえ例外では無かった。
10キロメートル先までが、更地になっていた。
屈強な地竜の軍勢は、たったの一撃で壊滅した。
カナタ
「これは……」
ガイザーク
「これが、本来の神の力じゃ」
ガイザーク
「神と神が戦う時は、お互いの強すぎる力に制約をかける」
ガイザーク
「そうせねば、お互いの子が、ただでは済まんからじゃ」
ガイザーク
「ヨーグラウを封じたとはいえ、我の力は、奴からの縛りを受けていた」
ガイザーク
「それが無くなった。つまり……」
ガイザーク
「ヨーグラウが、死んだか」
カナタ
「神が? どうして?」
ガイザーク
「さあのう」
ガイザーク
「何にせよ、神本来の力が有れば、神でない者など相手にはならん」
ガイザーク
「興が冷めた。余は世界樹-アーク-に帰る」
カナタ
「そうか」
カナタ
「お前と剣を並べることも、これで最後ということか」
ガイザーク
「そうじゃな」
ガイザーク
「…………」
ガイザーク
「カナタ」
カナタ
「うん?」
ガイザーク
「お主、軍など抜けて、我の側仕えにならんか?」
カナタ
「…………」
カナタ
「それは出来ない」
ガイザーク
「むぅ。神の言うことに逆らうのか?」
カナタ
「仕方が無いだろう?」
ガイザーク
「つまらん。余は帰る」
そう言って、巨人は静かに姿を消した。
カナタ
(世界樹まで跳んだのか……?)
カナタには、その予備動作さえ掴めなかった。
ここからガイザークの世界樹まで、数百キロメートルの距離が有った。
遠い存在になった。
戦友ガイザークは、もうこの世に存在しない。
共に高く飛ぶことも無い。
カナタはそれを実感した。
カナタ
「…………」
カナタ
(俺は俺の成すべきことを為せば良い)
カナタ
(つまらん残党狩りだがな)
退屈な日々が始まった。
そう思っていた。
……。
カナタ
「ぐ……」
数日後。
カナタは肺に一刀を受け、膝をついていた。
ミーナ
「カナタ! 風癒!」
仲間のミーナが、慌てて回復呪文を唱えた。
さらに、もう一人の仲間であるアルゼが、カナタを庇って立った。
アルゼ
「しっかりしろよ。カナタ」
カナタ
「……すまん」
リーン
「カナタ? ヘマしたの?」
リーンがカナタの背後に、パッと現れた。
彼女たちの眼前には……。
カゲツ
「…………」
月狼族の剣士が、無言でリーンを見上げていた。
リーンはその女に見覚えが有った。
リーン
「あなたは……」
カゲツ
「私を覚えているのか?」
カゲツは意外そうに言った。
カゲツにとって、リーンは屈辱を食わされた相手だ。
だが、リーンにとっての自分は、路傍の石に過ぎないかもしれない。
そう考えていた。
リーン
「そうね」
リーンにとって、カゲツの美貌は忘れられるものでは無かった。
色情をそそられる。
実に。
カゲツ
「そうか。私も良く覚えているが……」
カゲツ
「前に会った時よりも、小さく見えるな?」
虚勢では無かった。
それは、偽らざる彼女の実感だった。
リーン
「遠近法というやつでしょうね」
カゲツ
「そうか」
カゲツ
「こうして眺めると、お前が弱くも見える」
カゲツ
「良い物だな。遠近法というのは」
カゲツは剣気を放った。
彼女の気は、以前とは比べ物にならないほどに、肥大化していた。
リーン
「このプレッシャー……。あなたがヨーグラウを殺したのね?」
リーン
「そして、彼のEXPを吸った」
カゲツ
「EXP? 何の話か分からんが……」
カゲツは剣先をリーンの喉に向けた。
カゲツ
「その首が、欲しい」
リーン
「強気ね」
リーン
「私たち四人を相手にして、勝てるつもりなのかしら?」
カゲツ
「分からん」
カゲツ
「今の小さいお前になら、この剣先も届くかもしれん」
カゲツ
「もし私が敗れても、来世でヨーグラウ様が、お前たちを討つ」
リーン
「そう」
……。
戦いが始まった。
カゲツは強かった。
いっときは、四人と同格以上に戦ってみせた。
だが、継戦能力に差が有った。
回復呪文を持たないカゲツは、徐々に消耗していった。
動きが少し鈍った。
すると、撤退を決めた。
カゲツ
「少し疲れた」
カゲツ
「今回は私の負けのようだ」
カゲツ
「また会おう」
逃げ去るカゲツを、四人は追うことが出来なかった。
カナタ
「…………」
カナタ
「聖剣にヒビが入った」
そう言って、カナタは剣を持ち上げてみせた。
言葉の通り。
神から授かった聖剣に、小さなヒビが入っていた。
アルゼ
「何なんだよあの化け物は……」
リーン
「神殺し」
アルゼ
「つまり、正気じゃないってことだな」
カナタ
「勝ちたいな。アレに」
ミーナ
「本気で言ってるの?」
カナタ
「四人なら戦うことは出来た」
カナタ
「さらに技を磨けば、倒すことも出来るかもしれん」
アルゼ
「まだ強くなるつもりかよ。お前は」
カナタ
「そうだな」
カナタ
「俺はもう少し、上の景色が見たい」
カナタはそう言って、ガイザークの世界樹が有る方角を見た。
敵が小さく見えるということは、あたしがダン○インにもビ○バインにも、勝つということだ!




