表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/226

2の14「君とこれからも一緒に」





フルーレ

「……そうか」



 頷いたのか、俯いたのか。


 フルーレは顔を、少し下に向けた。


 そして、顔を上げて言った。



フルーレ

「私たちの行いを鑑みれば、仕方の無いことだ」


フルーレ

「さようなら。ヨーク」


ヨーク

「ああ。これでさよならだ」



 ヨークはフルーレに背を向けた。


 足早に去っていく。



ミツキ

「……!」



 ミツキは黙ってその後に続いた。



フルーレ

「エル」



 フルーレは、隣に控えるエルに、声をかけた。



エル

「はい」


フルーレ

「望むなら、ヨークの所に行っても良いぞ」


フルーレ

「家を追い出されたとでも言えば、彼も邪険にはしないだろう」


エル

「お嬢様……」


フルーレ

「お前がヨークに懸想している事は、分かっていた」


フルーレ

「私を介して、ヨークとお前の距離が縮まれば良い。そのつもりだった」


フルーレ

「だが、ヨークは少し、良い男だった」


フルーレ

「免疫も無かったしな」


フルーレ

「いつの間にか、私の方もはしゃいでしまっていたらしい」


フルーレ

「はしゃいで、失敗した」


フルーレ

「私が居なければ、お前の恋は上手く行っていたかもしれないのに……」


エル

「いいえ。お嬢様」


エル

「ヨーク様と出会えたのは、お嬢様のおかげです」


エル

「第三種族である私が、こうして健やかに暮らせているのも」


エル

「どうせ実らぬ恋です。これ以上を望むのは過分でしょう」


エル

「私は、お嬢様の隣に居ます」


フルーレ

「……すまない」


エル

「謝られても困ります」


フルーレ

「ありがとう」


エル

「いえ」




 ……。




ミツキ

「…………」



 ヨークは大通りを、早足で歩いていた。


 まるでミツキを突き放すかのように、ヨークは歩き続けた。



ミツキ

「ヨーク……!」



 ミツキに呼び止められ、ヨークは足を止めた。



ヨーク

「うん……」


ミツキ

「私は……今回のことで……あなたの足を引っ張って……」



 ミツキは小さな声で、ぼそぼそとそう言った。


 その声音は暗く、普段のミツキらしくも無かった。



ヨーク

「ごめん!」



 ミツキの声をかき消すかのように、ヨークが大声で言った。


 街行く人々が、何事かと思ってヨークを見た。


 ヨークは深く深く頭を下げていた。



ミツキ

「え……?」


ヨーク

「俺のせいで……お前が傷つくことになった」


ヨーク

「俺が勝手なことしたせいで……」


ヨーク

「本当に……悪かった……!」


ミツキ

「……………………」


ミツキ

「ふふっ」



 ミツキは笑いを漏らした。


 どうして今笑うのか。


 ヨークには分からなかった。



ミツキ

「別に、気にしてませんよ」


ヨーク

「え……?」


ヨーク

「俺のことが……嫌じゃないのか……?」


ミツキ

「まさか」


ミツキ

「厭うとしたら、あんな連中に負けた、私の弱さにです」


ミツキ

「次にこんな事になっても、絶対に負けませんから」


ミツキ

「もっともっと、強くなりましょう」


ヨーク

「あ……ああ!」



 ヨークの表情が、綻んだ。



ヨーク

「最強になるぞ!」



 少し涙声で、ヨークはそう言った。



ミツキ

「その意気です」


ミツキ

「さあ、ラビュリントスに行きましょう。ヨーク」


ヨーク

「行こう」



 ヨークはミツキの手を取った。


 決して離れないように、ぎゅっと掴んだ。



ミツキ

「あっ……」



 駆けていく。


 いつの間にか、手首の痛みは消えていた。




 ……。




 数日後。


 メイルブーケの姉妹は、迷宮から帰還した父親に呼び出された。


 父の執務室で、姉妹は彼と対面した。



ブゴウ

「俺が居ない間に、色々とあったようだな」


デレーナ

「……はい」


フルーレ

「…………」


ブゴウ

「今日、王家からの沙汰が有った」


ブゴウ

「マレル家は、取り潰しになる」


ブゴウ

「マレル公爵と、その長女も死罪と決まった」


フルーレ

「…………!」


デレーナ

「…………」


ブゴウ

「王国の版図から、マレルの名は消えることになる」


ブゴウ

「犯行に加担した兵士も、重く裁かれることになった」



 ユーリは禊のために、自らの命を断った。


 だが、大した意味は成さなかったらしい。


 結果として、誰も彼もが、見通しの甘い子供だった。



デレーナ

「ポーションは……無駄になってしまいましたわね」


ブゴウ

「ポーション?」


デレーナ

「こちらの話ですわ」


ブゴウ

「……そうか」


ブゴウ

「それと……」


ブゴウ

「シュウは……」


ブゴウ

「牢屋で……自害したそうだ」



 ブゴウの顔が少し歪んだ。


 デレーナに敗れ、家を出ていくまで、シュウは仲の良い兄弟だった。



フルーレ

「叔父様……」


ブゴウ

「…………」



 ブゴウは表情を戻した。


 父親だ。


 迷宮伯家の当主だ。


 娘に弱い姿は見せない。



ブゴウ

「それと……フルーレ」


フルーレ

「……はい」


ブゴウ

「マルクロー王子から、お前に求婚の申し出が有った」


フルーレ

「え……」


ブゴウ

「だが……」


ブゴウ

「お前は舞踏会に出られる年になった」


ブゴウ

「これから良い相手が見つかるかもしれない。そういう時分だ」


ブゴウ

「嫌なら断ることも出来るが、どうする?」


フルーレ

「……………………」


フルーレ

「お受け致します」


ブゴウ

「王家からの申し出とはいえ、焦る必要は無いぞ?」


フルーレ

「…………」


フルーレ

「素敵な殿方を追いかけていたら、嫌われてしまいました」


フルーレ

「舞い上がっていたのです」


フルーレ

「そろそろ……現実を見ようと思います」


ブゴウ

「殿方? ユーリと決闘したという男か?」


フルーレ

「はい」


ブゴウ

「世話になったらしいな。礼をせねばならん」


フルーレ

「止めて下さい」


ブゴウ

「む?」


フルーレ

「もう関わらないと……約束をしました」


ブゴウ

「それが恩人とする約束か?」


フルーレ

「私のせいで、彼らを傷つけてしまいましたから」


ブゴウ

「お前は……」



 不器用だなとブゴウは思った。


 自分がそうさせたのかもしれない。


 そう考えると、申し訳ない気持ちになった。



フルーレ

「…………」


ブゴウ

「……ヨークという男、平民だったな?」


フルーレ

「はい」


ブゴウ

「伯爵家を継ぐには、身分が釣り合わん」


フルーレ

「そもそも、私は彼に好かれてはいません」


ブゴウ

「……王子には承諾の返事を出しておく。それで良いのだな?」


フルーレ

「はい」


ブゴウ

「分かった」


デレーナ

「本当に構いませんのね?」


フルーレ

「マルクロー殿下は、私を好いて下さっていると仰いました」


フルーレ

「過分です」


フルーレ

「後はただ、剣の道に邁進するのみです」


フルーレ

「私……頑張ります……。ですから……」



 フルーレの声音が、湿気を帯び始めた。



フルーレ

「私と一緒に……迷宮に潜っていただけませんか……? 姉様……」


デレーナ

「……はぁ」


デレーナ

「淑やかなレディは、迷宮なんかに潜ったりはしませんのよ」


デレーナ

「だから……たまにですのよ?」


フルーレ

「う……うぅ……」


フルーレ

「お姉様あぁぁぁ……」



 フルーレは泣きながら、デレーナに抱きついた。



デレーナ

「よしよし」



 デレーナは優しく、妹の頭を撫でるのだった。




 ……。




 その後。


 迷宮で、仲の良い姉妹と、蝙蝠羽のメイドの姿が、度々目撃されるようになる。


 特に姉は、剣士とは思えないほど優雅に舞い、そして美しかった。


 三人と出くわした冒険者は皆、その姿に見惚れたという。




第二章完結です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ