『敵強化』スキルを笑われて幼馴染に置いていかれた俺のレベルが有頂天でおさまる所を知らないので、助けたケモミミ美少女奴隷とイチャイチャしながら迷宮の最深層目指すことにした～神魂のニルヴァーナ～

婚約破棄と秘剣抜刀

２の１３「剣鬼と秘剣」

『デレーナ。今日は俺が稽古をつけてあげよう』

　怪物と少女の見分けがついていなかった頃……。

　シュウは可愛い姪に、そう声をかけた。

　その日、シュウはメイルブーケでは無くなった。

　……。

　砦の屋上で、デレーナとシュウは睨み合った。

　デレーナを倒さなくてはならない。

　シュウはそう思ったが、手は動かなかった。

ゼンス

「シュウ！　何をやっている！」

ゼンス

「落ちこぼれくらい、とっとと片付けてしまえ！」

　デレーナは落ちこぼれなどでは無い。

　むしろ、その逆だ。

　事情を知らないゼンスに、シュウは苛立った。

シュウ

「気安く言ってくれる……！」

ゼンス

「剣を捨てろ！　デレーナ！」

　焦れたゼンスは、デレーナに脅しをかけた。

ゼンス

「こっちの人質には、お前の妹も居るんだ！　分かっているのか！？」

デレーナ

「…………」

　デレーナは無言で、剣を鞘に収めた。

ゼンス

「……立場が分かったか」

　ゼンスは薄笑いを浮かべた。

シュウ

「違う！　これは……！」

　納刀の型こそが、メイルブーケの戦闘態勢なのだと、シュウは知っていた。

　たとえ知らなくとも、見えたはずだ。

　ほんの少しでも、武に身を置いたことが有れば。

　デレーナから湧き上がる、膨大な闘気が、見えたはずだ。

　レベルがいくら上がっても、ゼンスは武人では無かった。

　ただのハリボテだった。

デレーナ

「百世一代の秘剣、とくと御照覧あれ」

　デレーナは腰を低く、構えた。

シュウ

「デレーナッ！」

　駄目だ。

　全て終わってしまう。

　そう予感したシュウは、デレーナに向かって剣を振り下ろした。

　その瞬間、デレーナの姿が消えた。

ゼンス

「な……」

コーウェン

「見え……な……」

キャル

「が……」

　３つ子が、倒れた。

　ゼンスに支えられていたミツキも、一緒に倒れた。

　ミツキとフルーレにはめられていた手枷も、切断されて散った。

　倒れた３つ子の後ろ側に、剣を振りぬいたデレーナの姿が有った。

デレーナ

「根源の太刀、朧月」

　デレーナは、剣を鞘に納めた。

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デレーナ＝メイルブーケ

クラス　暗黒騎士　レベル１０２

スキル　鷹の目　レベル５

　効果　戦況を俯瞰する

ユニークスキル　神速歩法

　効果　超高速で歩行する

ユニークスキル　神速抜刀

　効果　超高速で抜刀する

ブラッドラインスキル　？？？

バッドステート　暗示（小）

ＳＰ　１７００３２

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ヨーク

「綺麗だ……」

　デレーナの剣技を見たヨークが、ぽつりと呟いた。

ミツキ

「…………！」

　ミツキの眉がぴくりと動いた。

　ミツキは目を開いた。

ミツキ

「これは……」

　ミツキは自力で立ち上がった。

　そして、周囲の状況を把握した。

ヨーク

「ミツキ！　無事だったのか！？」

ミツキ

「はい。噛み切ったのは、舌では無く、頬の肉ですから」

ミツキ

「派手に出血はしましたが、命に別状はありません」

　ミツキは平然と言った。

　ヨークはミツキに駆け寄った。

ヨーク

「良かった……」

　ヨークはそのままミツキを抱きしめた。

ミツキ

「あっ……」

　ヨークの肩の血が、ミツキの服に移った。

　そうさせてしまったのは自分だと、ミツキは理解していた。

ミツキ

「…………」

ミツキ

「こんな怪我をしてしまって……」

ミツキ

「本当に……愚かな人……」

　ミツキは泣き出しそうな笑みを浮かべた。

ヨーク

「バカ……」

ヨーク

「口の中を噛み切るような奴に、言われたくねえよ」

ヨーク

「心配したんだからな……？」

ミツキ

「私のは、作戦ですから」

ヨーク

「じゃあ、俺のも作戦だ」

ミツキ

「ふふっ。いったいどんな作戦ですか？」

　笑って、ミツキはヨークの胸に額を押し付けた。

　ぐりぐりと。

　自分の存在を刷り込むように。

デレーナ

「あの～……」

　デレーナが口を開いた。

デレーナ

「まだ終わってはいませんのよ？」

ミツキ

「あっ……」

ヨーク

「……悪い」

　ヨークはミツキから離れた。

　ミツキは慌てて目を拭った。

デレーナ

「ヨーク。剣を拾いなさい」

ヨーク

「あっ、ああ」

　ヨークは捨てた魔剣に駆け寄り、鞘に収めた。

デレーナ

「さて……」

　デレーナはシュウに声をかけた。

デレーナ

「まだ続けますか？　叔父様。ユーリ」

シュウ

「…………」

シュウ

「ここで君に立ち向かえるようなら、家を出てはいない」

　シュウは剣を捨てた。

シュウ

「申し訳有りません」

　シュウは目を細め、ユーリにそう言った。

ユーリ

「いや……」

ユーリ

「ほどほどで構わない。私は以前、お前にそう言った」

ユーリ

「お前はほどほどに、役目を果たしてくれた」

ユーリ

「感謝する。一片の文句も無い」

シュウ

「…………」

ユーリ

「終わりだな」

　ユーリは目を閉じた。

　それから数秒置いて、薄く開いた。

ユーリ

「正真正銘、私たちの負けだ」

デレーナ

「…………」

デレーナ

「ユーリ」

デレーナ

「どうしてこんな事をしたんですの？」

ユーリ

「それほど面白い話じゃないが、聞くか？」

デレーナ

「聞かせていただきますわ」

ユーリ

「お父様が、賭博にはまった」

ユーリ

「私が気付いた時には、払いきれない借金を背負っていた」

ユーリ

「金が必要だった。慰謝料をせしめれば、借金を返せると思った」

ユーリ

「それだけの……つまらない話だ」

デレーナ

「真実の愛というのは、嘘でしたのね」

ユーリ

「アヤは、ただの協力者だ」

　デレーナはユーリの前まで歩いた。

　そして、ユーリの頬を、思い切り張った。

デレーナ

「慰謝料……。そんな事のために、妹を……」

ユーリ

「私にとっては『そんなこと』では無かったのさ」

ユーリ

「家の断絶がかかっていたのだから」

ミツキ

「待って下さい」

ユーリ

「何だ？」

ミツキ

「たかが賭場の博打で、公爵家が揺らぐものなのですか？」

ユーリ

「…………」

ユーリ

「これは……ここだけの話にしておいてくれるか？」

ユーリ

「私が話したということを、絶対に漏らさないように出来るか？」

ミツキ

「はい」

ユーリ

「…………」

　ユーリはヨークを見た。

　ヨークは黙って頷いた。

ユーリ

「……うん」

ユーリ

「王都でお父様が通っていたのは、ただの賭場じゃ無かった」

ユーリ

「裏の連中が経営する、高レートの裏カジノだったんだ」

ユーリ

「そこでカモにされた」

ユーリ

「負けがこんだお父様は、賭けてはならないものまで、賭けの担保にしてしまった」

ユーリ

「大切な家宝や、領主としての権利の一部まで」

ユーリ

「私が気付いた時には、もう手遅れだった」

ユーリ

「王家に知れれば、マレル家は間違いなく取り潰しになる」

ユーリ

「それまでに、公爵家としての権利を、買い戻す必要が有った」

ミツキ

「違法では無いのですか？」

ミツキ

「賭け自体の無効を主張して、借金を無かったことに出来れば……」

ユーリ

「連中は、そう甘い組織では無いのさ」

ユーリ

「取り立てると言えば、必ず取り立てる」

ユーリ

「どのような手段を用いてもだ」

ユーリ

「たとえ公爵家が相手でも、例外は無い」

フルーレ

「そんな……」

ユーリ

「私がお前たちに話した事も、本当なら不味いんだ」

　ユーリは屋上の外縁へと歩いていった。

ユーリ

「知られれば、報復を受けるだろう」

ユーリ

「だが……」

　ユーリは外縁の柵へ、身を乗り上げた。

ユーリ

「私はここまでだ」

　強い風が、ユーリの髪を揺らした。

フルーレ

「ユーリ……！？」

デレーナ

「……………………」

ユーリ

「もう恐れることも無い」

　ユーリは跳んだ。

　地上へと向けて。

　だが……。

ヨーク

「馬鹿が！」

　ヨークがユーリの手を掴んでいた。

　ユーリはヨークにぶら下がる形になった。

　ヨークが手を離せば、ユーリは地上に墜落して死ぬ。

　ヨークは手にぎゅっと力をこめた。

ユーリ

「……痛いぞ」

ヨーク

「まだテメェをぶん殴ってねぇんだよ……！」

　怪我をしたヨークの肩から、血が流れ落ちた。

　血はユーリの頬を濡らした。

ユーリ

「今ここで殴れば良い」

ヨーク

「腰が乗らねえパンチなんざ、気持ち良くねえだろうが……！」

ユーリ

「それはすまないな」

ユーリ

「だが、私の首が無くては、事態は治まらない」

ユーリ

「責任を取る必要が有る」

ヨーク

「だからって……ここで飛び降りる理屈が有るかよ……！」

ユーリ

「そうだ。お前に一つ言い忘れていた」

ヨーク

「何だよ？」

ユーリ

「お前の奴隷を穢したと言ったが、あれは嘘だ」

ヨーク

「え……？」

ユーリ

「何もしていない。安心してくれ」

ヨーク

「なんで……そんな下らない嘘を……」

ユーリ

「どうしてだろうな？」

　ユーリは懐に手を入れた。

ヨーク

「ぐっ！？」

　ヨークの手に痛みが走った。

　ユーリの空いていた方の手に、小さな短剣が握られていた。

　刃渡り１５センチも無い、優美な短剣だった。

　その剣で、ヨークの手を刺したらしかった。

　ヨークの手の握りが緩んだ。

　ずるりと。

ユーリ

「じゃあね。山猿くん」

　ユーリが優しく呟いた。

　二人の手が分かたれた。

　ユーリが落下していく。

　そして……。

　地面に衝突し、砕け、血と肉を撒き散らした。

フルーレ

「そんな……」

シュウ

「……………………」

ヨーク

「何だよ……」

ヨーク

「好き放題やって……勝手に死にやがって……」

ヨーク

「何なんだよ……お前らは……」

　ヨークはがっくりと項垂れた。

　……。

　その後、フィルスツ砦は王軍によって制圧された。

　ヨークたちは、王都へと帰還した。

　ポチに乗って、メイルブーケの邸宅前に移動した。

　邸宅前の通りで、ヨークはデレーナたちと向き合った。

ヨーク

「…………」

デレーナ

「お世話になりましたわ。ヨーク」

　最初に口を開いたのは、デレーナだった。

ヨーク

「別に……」

ヨーク

「気に入らねえ奴を、ブン殴りに行っただけだ」

ヨーク

「……殴れなかったけどよ」

　そう言ったヨークの顔には、疲れが有った。

　目が少し、赤くなっていた。

デレーナ

「あなたが気に病む必要は有りませんわ」

デレーナ

「彼は……それだけのことをしたのです」

ヨーク

「そうかよ」

フルーレ

「その……ヨーク……」

フルーレ

「あなたには、三度助けられた」

フルーレ

「この借りは必ず……」

ヨーク

「要らねえ」

　ヨークはフルーレを、冷たく拒絶した。

フルーレ

「…………」

ヨーク

「俺には貴族が分かんねえ」

ヨーク

「楽しくやってたんだ」

ヨーク

「ミツキと二人で、のんびり迷宮に潜って、下らないこと話して……」

ヨーク

「俺たちは楽しくやってたんだ」

ヨーク

「それを、なんかゴチャゴチャしたことに巻き込まれて……」

ヨーク

「ワケ分かんねえことで命を狙われて……」

ヨーク

「一歩間違えたら、死んでた」

ヨーク

「早く……元の生活に帰りたい」

ヨーク

「あんたら貴族との繋がりは、ここで終わりにしたい」