『敵強化』スキルを笑われて幼馴染に置いていかれた俺のレベルが有頂天でおさまる所を知らないので、助けたケモミミ美少女奴隷とイチャイチャしながら迷宮の最深層目指すことにした～神魂のニルヴァーナ～

婚約破棄と秘剣抜刀

２の２「フルーレと怒れる婚約者」

ヨーク

「駄目だけど？」

ミツキ

「えっ？」

ヨーク

「パーティに行くには礼服を着ないと駄目なんだろ？」

ミツキ

「用意してあります」

ヨーク

「いや、そうじゃなくてな」

ヨーク

「つまり、パーティじゃ、いつものローブを着られないってことだろ？」

ミツキ

「それは……」

ヨーク

「お前が変な目で見られるのは嫌だ」

ミツキ

「私は気にしません」

ヨーク

「俺が嫌なんだ。残れよ」

ミツキ

「それは主人としての命令ですか？」

ヨーク

「……残ってくれ。頼む」

ミツキ

「かしこまりました。ヨーク」

ヨーク

「悪いな。一人にして」

ミツキ

「そんな。小さな子供では無いのですから」

ヨーク

「そうか」

ミツキ

「はい」

　ヨークはエルの方を向いた。

ヨーク

「エル。行こう」

エル

「アッハイ」

エル

「外に猫車を待たせてあります」

　宿を出ると、エルの言葉通り、猫車が有った。

　外装は、銀色に輝く金属。

　頑丈で軽量な希少金属だった。

　王都の一般的な猫車は、木製だ。

　ふだん、街で見る猫車とは、素材からして違う。

　御者の身なりも良い。

御者

「…………」

　御者が、猫車の扉を開いた。

　ヨークはエルと共に、猫車に乗り込んだ。

　猫車の中には、一組の椅子が、向かい合うように設置されていた。

　座ってみると、椅子は柔らかかった。

　どうやら内装にも、手抜かりは無いようだ。

エル

「…………」

　エルは、ヨークの向かいの椅子で、居心地悪そうにしていた。

　羽が大きいから、座りにくいのかもしれない。

　ヨークはそう推測した。

　御者が扉を閉めた。

　そして、手綱を操った。

　猫車が走り出した。

　やがて猫車は、パーティ会場であるメイルブーケ本邸へたどり着いた。

　御者が扉を開き、エルとヨークは猫車を降りた。

　貴族の邸宅らしく、メイルブーケの庭は、柵で囲まれていた。

　柵の門を抜け、ヨークたちは庭に入った。

　見張りが居たが、ヨークたちには何も言わなかった。

　エルの顔を見たからだろう。

　ヨークたちは、そのまま玄関を通り、邸宅の大広間に入った。

　大広間では、音楽が流れていた。

　広間の隅には、楽団の姿が有った。

　生演奏のようだった。

　広間の中央では、何組かの貴族たちがダンスをしていた。

　上流階級の社交ダンスだ。

　そこから少し離れた位置で、踊りに参加しない貴族たちが、会話をしていた。

　その中には、ヨークの存在に気付き、視線を向けた者も居た。

　とりあえず、ヨークは視線を無視することにした。

　エルは視線を走らせ、フルーレの姿を探した。

　だが、フルーレを見つけることは出来なかった。

エル

「……お嬢様のお姿が、見当たりませんね」

ヨーク

「ああ」

エル

「ヨーク様のご到着を、お知らせしたいと思います」

エル

「お嬢様をお連れするまで、こちらでお待ちいただけますか？」

ヨーク

「分かった」

　フルーレを呼びに行こうとして、エルがヨークから離れた。

　その時……。

ボワイヤ

「そこのメイド」

　橙の髪の男が、エルに声をかけた。

　瞳は青。

　背はヨークより、ほんの少し低いくらい。

　他の参加者たちと同様に、礼服に身を包んでいた。

　パーティの参加者にしては珍しく、腰に剣を帯びていた。

エル

「はい。何でしょうか？」

　エルは立ち止まり、男に向き直った。

ボワイヤ

「なかなかの見た目をしているな」

　そう言って、男はエルの手首を掴んだ。

ボワイヤ

「来い。個室で俺と飲むぞ」

エル

「あの、困ります」

ボワイヤ

「俺に逆らうのか？　俺は……」

ヨーク

「おい。その辺にしとけよ」

ボワイヤ

「…………？」

ボワイヤ

「魔族？　何者だ？」

　ヨークに声をかけられ、男はエルから手を離した。

　エルは、ヨークの背中に隠れたい気分になりながら、その場に留まった。

　客人の背に隠れるなど、良家のメイドとしては、あってはならないことだった。

ヨーク

「俺はヨーク＝ブラッドロードだ」

ボワイヤ

「ブラッドロード？　なるほど。態度が大きいわけだ」

ヨーク

（…………？　ブラッドロードだったら何だよ？）

ボワイヤ

「だが、この俺がボワイヤ＝ジャーニだと知っての態度か？」

ヨーク

「ボワイヤ？　誰だ？」

ボワイヤ

「な……！」

ボワイヤ

「俺は上級冒険者だぞ……！？」

ヨーク

「そうなのか。それで？」

ヨーク

「上級冒険者とやらになったら、嫌がる女に迫っても許されるとは、知らなかったが」

ボワイヤ

「貴様」

　ボワイヤは、ヨークに闘志を叩きつけた。

エル

「っ！」

　隣に居たエルの体が、びくりと震えた。

ヨーク

「…………」

　ヨークは揺るがなかった。

デレーナ

「何の騒ぎですの？」

　けんのんな二人の間に、ドレス姿の女性が割って入ってきた。

　ドレスの色は濃青。

　まっすぐな黒髪を腰にまで伸ばしている。

　何よりも、その立ち姿が美しかった。

　会場に居る他の女性とは、どこか雰囲気が違う。

　ヨークにはそう感じられた。

ボワイヤ

「デレーナ……」

　彼女の姿を見て、ボワイヤの闘志が萎えた。

ボワイヤ

「別に……何でも無い」

デレーナ

「それならよろしいのですが」

ボワイヤ

「貴様、覚えておけよ」

　ボワイヤは小さくそう言って、立ち去っていった。

エル

「ヨーク様。デレーナ様。ありがとうございました。それでは」

　エルは頭を下げて去った。

　ヨークは広間に残された。

　特にすることも無く、料理が乗ったテーブルを見た。

ヨーク

（飯は……美味そうだな……）

　料理は好きに取って良い様子だったが、素直にエルを待つことに決めた。

デレーナ

「あなた」

　さきほど仲裁に入った女性、デレーナがヨークに声をかけた。

ヨーク

「俺か？」

デレーナ

「見ない顔ですけど、ここに来るのは初めてですの？」

ヨーク

「ああ」

ヨーク

（変な喋り方だな。コイツ）

ヨーク

「珍しいのか？　常連以外の客が招かれるのは」

デレーナ

「それはそうでしょう？」

ヨーク

「ふ～ん……？」

デレーナ

「申し遅れましたわ」

デレーナ

「わたくしはデレーナ＝メイルブーケ」

デレーナ

「メイルブーケ迷宮伯家の、長女ですの」

デレーナ

「不在の父、ブゴウに代わり、このパーティを主催させていただいております」

ヨーク

「ヨークだ。ヨーク＝ブラッドロード」

デレーナ

「ブラッドロード？　商会の関係者ですの？」

ヨーク

「商会？　違うが……」

ヨーク

「メイルブーケというのは聞き覚えが有るな」

ヨーク

「ひょっとして、フルーレの姉貴か？」

デレーナ

「姉貴……？　ええ」

デレーナ

「私のことは知らないのに、妹のことは御存知ですのね」

ヨーク

「ここにはフルーレに呼ばれて来た。聞いてないか？」

デレーナ

「聞いています。友人を一人招待したいと」

デレーナ

「……殿方だとは聞いてませんでしたけど」

ヨーク

「そうか。フルーレはどこに？」

デレーナ

「お色直し中ですわ」

デレーナ

「珍しく着飾っているようでしたけど……そういうことでしたのね」

デレーナ

「あの子……婚約者が居ますのに……」

ヨーク

「え？」

デレーナ

「いえ」

デレーナ

「美しい方。よろしければ、私と踊っていただけませんか？」

ヨーク

「踊りか……」

　ヨークはちらりと、広間の中央を見た。

　彼らが踊るのは、ヨークには馴染みのない踊りだった。

ヨーク

「ああいう踊りは、俺は知らない」

デレーナ

「踊りを御存知ない……？」

ヨーク

「ああ。俺に踊れるやつは、一つだけだ」

デレーナ

「それはどういう踊りですの？」

ヨーク

「見たいか？」

デレーナ

「ええ。是非」

ヨーク

「それじゃ」

　ヨークはその場で踊り始めた。

　それは、小さな村に伝わる、素朴な踊りだった。

デレーナ

「…………」

　デレーナは呆然とした。

　この美しい男が、こんな垢抜けない踊りを踊るのか。

　いつの間にか、会場の視線がヨークへと集まっていた。

　ヨークはそのことにも気付かずに踊った。

　踊りが終わり、ヨークは動きを止めた。

「はははははっ！」

　笑いが起きた。

　一つの笑いはさらなる笑いを誘った。

　ヨークは笑い声に包まれた。

　良い意味で無いということは、ヨークにも分かった。

ヨーク

「……笑うのか」

　ヨークは虚しい気持ちになり、パーティの参加者たちを見回した。

ヨーク

「人を囲みやがって」

ヨーク

（…………）

ヨーク

（ミツキを連れて来なくて良かった）

ヨーク

（ミツキはこうなるって分かってたんかな……）

ボワイヤ

「くくくっ」

　エルに絡んだ男、ボワイヤがヨークに近付いてきた。

ボワイヤ

「面白いものを見せてもらったぞ」

ボワイヤ

「意表を突かれた」

ボワイヤ

「招待客かと思えば、ピエロが紛れ込んでいたとはな」

ヨーク

「…………」

　こいつだけはぶん殴って帰ろうか。

　ヨークがそう考えたそのとき……。

フルーレ

「ヨーク……！」

　ヨークが声の方へ視線をやると、エルとフルーレの姿が見えた。

　フルーレは、以前とは見違えるように着飾っていた。

　その華やかさに反し、彼女の顔は青ざめていた。

ヨーク

「フルーレ」

　ヨークは彼女のきらびやかな衣装を、じっと見た。

　迷宮で出会った時とは、まるで違って見えた。

ヨーク

（俺たちとは……違うな）

ヨーク

（同じ迷宮に潜っても、違うんだ）

ヨーク

「…………」

ヨーク

「どうも、俺は場違いみたいだ」

フルーレ

「そんな……」

　『そんなことは無い』という一言が、フルーレの口からは出てこない。

　ヨークはフルーレに背を向けた。

ヨーク

「帰るわ。腹減ったし」

フルーレ

「駄目だ！」

ヨーク

「どう見ても、居座る空気じゃねーだろ」

フルーレ

「客間に行こう。料理は運ばせる」

フルーレ

「……渡したい物が有るんだ」

ヨーク

「後で宿に運ばせてくれ」

　ヨークは立ち去ろうとした。

デレーナ

「ヨーク＝ブラッドロード」

ヨーク

「うん？」

　デレーナに呼び止められ、ヨークは足を止めた。

　そして、デレーナへと向き直った。

　ぴしゃりと。

　デレーナの平手が、ヨークの頬を張った。

ボワイヤ

「クククッ」

　ボワイヤが笑いを漏らした。

フルーレ

「お姉様！」

デレーナ

「あなたのおかげで、恥をかきましたわ」

ヨーク

「……笑われたのは俺だろうが」

デレーナ

「ここは私たちの家ですのよ？」

デレーナ

「野人に迎合したと思われれば、家名に傷がつきます」

ヨーク

「そうかよ」

ヨーク

「二度と来ねえよ。悪かったな」

フルーレ

「お姉様！　ヨークは私の恩人です！」

デレーナ

「そう。あなたは恩人を晒し者にするのが、趣味のようですわね？」

フルーレ

「な……！」

ヨーク

（勝手にやってろ）

　姉妹の言い争いに、ヨークは興味を持てなかった。

　ただ帰りたかった。

　ヨークは玄関へと足を向けた。

　その時……。

？？？

「フルーレ」

フルーレ

「ユーリ……！」

　中性的な声が、ヨークの耳に届いた。

　ヨークは声の持ち主を見た。

　フルーレたちも、その人物に視線を向けていた。

　そのユーリと呼ばれた人物は、険しい表情をしていた。

　ユーリは金髪碧眼で、背は高くないが、美形だった。

　ユーリの後ろには、取り巻きと見られる連中の姿もあった。

フルーレ

「その、後にしてもらえないだろうか？　今は……」

？？？／ユーリ

「ふざけるな。聞け」

ユーリ

「そこの山猿もだ」

　きつい口調でユーリは言った。

　何かに怒っている様子だった。

　自分の知らない男が、何かに怒っている。

　知ったことでは無かった。

　ヨークにとってはどうでも良いことだった。

　もう良いから帰らせてくれよ。

　そんな疲労感すら有った。

ヨーク

「…………」

　ヨークは無視して去ろうとした。

ユーリ

「無視をするな！」

　ユーリが怒鳴った。

　ユーリの取り巻きが、ヨークの行く手を遮った。

　誰も彼も知らない顔だ。

　理由も分からず、知らない連中に取り囲まれていた。

ヨーク

（何なんだよコイツら……）

　ヨークは仕方なくユーリの方を見た。

ヨーク

「…………」

ヨーク

「俺は山猿なんて名前じゃねえよ」

ユーリ

「何だその態度は。無礼だぞ」

ヨーク

「不愉快なら放っといてくれよ」

ヨーク

「関わっても良いことねーだろ？　お互い」

ユーリ

「そういうわけにはいかん」

ユーリ

「証人は、一人でも多い方が望ましいしな」

ヨーク

「はぁ？　そもそも誰なんだよお前は」

ユーリ

「山猿に名乗る名は無い」

ヨーク

「…………」

　ヨークは顔をしかめた。

　拳を握り、強く開いて、また握った。

　ヨークの指関節が音を鳴らした。

　こいつら全員の顔面に、一発ずつ入れて出ていってやろうか。

　ヨークは一瞬そう考えたが、なんとか思いとどまった。

フルーレ

「ユーリ。いったい何だというんだ？」

ユーリ

「フルーレ……とても残念だ」

フルーレ

「はい？」

ユーリ

「フルーレ＝メイルブーケ」

ユーリ

「お前との婚約を解消させてもらう」

フルーレ

「な……！」

　フルーレの顔が驚愕に染まった。

　一方で、ヨークは完全なる無表情だった。

ヨーク

「…………」

ヨーク

（何か始まったんだが？）

　心底冷めた気持ちで、ヨークは対岸の火事を眺めていた。

　少し腹が減っていた。