２の１の４
２の１～がやたらと続きますが、メモ帳のファイル名の問題であって深い意味は有りません。
二人は猫牧場に向かった。
ヨーク
「おおーっ。流石速いな。都会のサーベル猫は」
ヨークは、すらりとしたサーベル猫を全力で走らせた。
猫牧場では、借りた猫を、コースで走らせることが可能だった。
コースは楕円形だ。
綺麗に走らせるには、ちょっとした技量が必要だった。
軽快に猫を走らせるヨークに対し、ミツキは悪戦苦闘していた。
ミツキはいつもの衣装から、乗猫用の衣装に着替えていた。
ミツキ
「ちょっと待……ひゃあっ！」
なんとかヨークと併走していたのが、ついにサーベル猫から落ちてしまった。
普通なら怪我をする可能性も有るが、ミツキのレベルは１００を超えている。
ヨークは特に心配することもなく、猫を走らせ続けた。
引き返さないのは、冷たいように見えるかもしれないが、逆走はルール違反だった。
ヨーク
「ははっ。へたっぴだな」
ヨークはコースを一周してくると、猫を止めた。
サーベル猫
「みゃあ、みゃあ」
落としてしまったミツキを心配して、猫が彼女をぺろぺろと舐めていた。
猫は優しい。
だが、愛する主人のためであれば、獰猛にもなる。
ミツキ
「ちょっとは心配していただけませんかね？」
ヨーク
「無傷なくせに」
ミツキ
「そうですけどね」
ヨークはミツキに手をさしのべた。
ヨーク
「お怪我は有りませんか？ お姫様」
ミツキ
「右膝靭帯断裂、アキレス腱損傷、上腕骨複雑骨折、左前脚繋靭帯炎です」
ヨーク
「やけに具体的だな」
ちなみに、人体に左前脚繋靭帯などという部位は無い。
ヨーク
「乗猫が苦手なら、後ろに乗せてやろうか？」
ミツキ
「……お世話になります」
二人でミツキの猫を返却しにいった。
みゃあみゃあと鳴く猫を置いて、コースに戻った。
ヨーク
「さ、乗れよ」
ミツキ
「はい」
ヨークは猫の上でミツキを誘った。
ミツキはヨークの後ろに跨った。
ヨーク
「もう落ちるなよ」
ミツキ
「はい」
ミツキはヨークの体に、ぎゅっとしがみついた。
柔らかい物が、ヨークの背中に当たった。
ヨークはどきりとしたが、何でもないように装った。
ヨーク
「行くぞ」
ミツキ
「はい」
猫が駆け出した。
ミツキ
「……ヨーク」
ヨーク
「ん～？」
ミツキ
「サラマンダーよりずっとはやいですね」
ヨーク
「サラマンダーって何！？」
ミツキ
「さっき私が乗っていた猫の名前です」
ヨーク
「名札とか付いてたっけ」
ミツキ
「私がつけました」
ヨーク
「お前、借りてきた猫に名前つけんの？」
ミツキ
「ふふふふ」
ヨーク
「っていうか自分の腕がヘボなのを、猫のせいにすんの止めろよな～？」
ミツキ
「えいっ」
ヨーク
「痛い痛い痛い痛い落ちる！」
猫は二人を乗せて走り続けた。
いつの間にか、空は朱色に染まっていた。
……。
次の日もまた、二人は街を歩いた。
その日は、博物館へ行ってみることに決まった。
中をぶらぶらと歩き、長剣の鞘らしき物の前で立ち止まった。
ヨークは、鞘の前のプレートに有る、解説文を読んだ。
ヨーク
「神が人に授けた、二振りの『神剣』の片割れ」
ヨーク
「『石の呪剣』と対をなす『伝説の聖剣』の鞘……か」
ヨーク
「本物かな？」
ミツキ
「はて？」
ヨーク
「というか鞘だけって、肝心の中身はどこに行ったんだ？」
ミツキ
「『邪神』との戦いで砕けてしまった。そう書いてありますね」
ヨーク
「意外と脆いんだな？」
ミツキ
「邪神がめっちゃ爆発したのかもしれませんよ」
ヨーク
「なんで爆発するんだよ」
ミツキ
「道連れ？」
博物館を出ると、二人は公園へ向かった。
鉄巨人公園と名付けられた、王都で最も広い公園だった。
定期的に整備がなされており、浮浪者などが住み着くことも無い。
綺麗な公園だった。
ミツキ
「広い公園ですね」
ヨーク
「そうだな。俺の村がすっぽり入りそうだ」
ヨーク
「……けど、何が鉄巨人なんだ？」
ミツキ
「公園の中央に、鉄巨人が展示されているそうですよ」
ヨーク
「それって、絵本に出てくるアレだよな？」
ミツキ
「絵本というか、人族の神話ですけどね」
ミツキ
「かつて神のしもべとして、邪神と戦ったと言われる、鋼鉄の兵士」
ミツキ
「それが鉄巨人です」
ヨーク
「物語の中の存在じゃないのか？」
ミツキ
「さて。どうでしょうね」
ミツキ
「見に行ってみましょう」
ヨーク
「ああ」
二人は公園中央の広場に移動した。
ヨーク
「おぉ……！」
鉄巨人の実物を目にし、ヨークは感激の声を上げた。
身長１８メートルの鉄の巨人が、広場の中央に座り込んでいた。
誰かが掃除をしているのか、意外に綺麗な外見をしていた。
ヨーク
「すっげぇ……！」
ミツキ
「まあ、大きくはありますね」
ヨーク
「動かねえのかな？」
ヨークは鉄巨人に手を振ってみたが、巨人はぴくりとも動かなかった。
ミツキ
「死んでるみたいですね」
ミツキ
「さて、行きましょうか。向こうにお花畑が見えますよ」
ヨーク
「それだけ？」
ヨーク
「お前、この鉄巨人を見てそれだけなのか？」
ミツキ
「まぁ……」
ヨーク
「浪漫がねえなぁ」
ミツキ
「男の子はこういうのが好きですよね。武器とか鎧とか」
ミツキ
「私は女子なので、綺麗なモノの方が好きです」
ヨーク
「そういうもんか？」
ミツキ
「はい」
ヨーク
「……待て。あれを見ろよ」
ヨーク
「あの女の子も、鉄巨人を熱心に見てるぞ」
そう言ってヨークは、車椅子の少女に視線をやった。
ヨークの仕草によって、ミツキも少女に気付いた。
薄桃色の髪の少女だった。
マリー
「…………」
車椅子の少女は、鉄巨人をじっと眺めていた。
ミツキ
「あの車椅子……」
ヨーク
「どうした？」
ミツキ
「ひとりでに動いたような……」
ヨーク
「え？ 傾いてんのか？」
ネフィリム
「マリー様～！」
若い女性の声が聞こえた。
メイド服のハーフの少女が、車椅子の少女に向かって駆けてきた。
その手中には、ソフトクリームが見えた。
マリー
「ネフィリム。走っちゃ……」
ネフィリム
「あっ……！」
メイド服の少女が躓いた。
ソフトクリームが宙を舞った。
そして……。
ヨーク
「っと」
ヨークはソフトクリームを受け止め、さらに、メイド服の少女を支えた。
ネフィリム
「あ……」
ヨーク
「大丈夫か？」
少女をしっかり立たせると、ヨークは彼女から体を離した。
ネフィリム
「はい。おかげさまで問題無いのであります」
ヨーク
「良かった。コレ」
ヨークはソフトクリームを少女の手に持たせた。
ネフィリム
「ありがとうなのであります」
ヨーク
「それじゃあな」
マリー
「あの、お礼をさせて下さい」
車椅子に乗っている方の少女が、ヨークを呼び止めた。
ヨーク
「別に良いよ。たかが菓子の一つだろ？ 行こうぜミツキ」
マリー
「あっ……」
ヨークは足早に立ち去ってしまった。
車椅子の少女から、姿が見えない位置に来ると、ヨークは口を開いた。
ヨーク
「何あのお菓子。超美味しそうなんだけど」
ミツキ
「手引きによると、あれはソフトクリームという食べ物です」
ヨーク
「何載せてんの手引き」
ミツキ
「迷宮の手引きではありません。王都観光の手引きですよ」
ヨーク
「そっか……」
ヨーク
「え？ ていうか、いつの間にそんなもん買ってんの？」
ミツキ
「あ……」
ミツキ
「別に。便利そうだったので」
ミツキはフードの上の部分をつまんだ。
