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2の1の3「王都とデート」






 宿屋の寝室で、ヨークは不満を募らせていた。



ヨーク

(結局、あいつら一回も遊びに来やがらねえ)



 バジルたちと没交渉になっている。


 和解したはずだ。


 それなのに、和解前と交流に大差が無いのが不満だった。



ヨーク

「ミツキ。今日は迷宮は休みな」


ミツキ

「どうしてですか?」


ヨーク

「バジルたちの所に遊びに行く」


ミツキ

「……私もご一緒して良いですか?」


ヨーク

「行くか」


ミツキ

「はい」



 二人、宿を出た。


 時刻はまだ午前中だった。


 時間帯に関わらず、王都の通りには人が多い。



ミツキ

「居場所は分かっているのですか?」


ヨーク

「いや。これから探す」


ミツキ

「念話の指輪は?」



 ヨークの指に、指輪がはめられていた。


 ドスから貰った物だ。


 ヨークは指輪をはめた手を、ひらひらと振ってみせた。



ヨーク

「通じない。壊れたんかな」


ミツキ

「ひょっとして、ハブられているのでは?」


ヨーク

「……文句言ってやる」


ミツキ

「どうやって探すのですか?」


ヨーク

「ん~……」


ヨーク

「冒険者ギルドに行ってみるかな」



 バジルたちは冒険者だ。


 魔石の換金のため、ギルドを訪れるはずだった。



ミツキ

「良い考えですね」



 ミツキは賛同した。


 二人は冒険者ギルドに足を向けた。


 そのとき……。



ニトロ

「やあ。少年」



 聞き覚えの有る声が、ヨークの耳に届いた。


 ニトロ=バウツマー。


 神殿騎士。


 かつて重症のヨークを救った、恩人だった。


 彼が居なければ、ヨークは命を落としていただろう。


 あの日から、ヨークは彼への感謝を忘れたことは無かった。


 以前とあまり変わらない姿で、ニトロが通りに立っていた。



ヨーク

「ニトロさん!」


ミツキ

「……どちらさまでしょうか?」



 只者では無いニトロの物腰に、ミツキは警戒した様子を見せた。


 敵であれば、除かねばならない。


 ヨークのために。



ニトロ

「はっはっは。そう案じることは無いよ」



 警戒した様子のミツキを見て、ニトロは体幹を崩してみせた。


 そして、笑顔でミツキに話しかけた。



ニトロ

「私はニトロ=バウツマー。少年の友人かな。うん」


ヨーク

「恩人ですよ。ニトロさんは」



 ヨークの顔に、ニトロへの敬いが見えた。


 不意の再会を、心から喜んでいる様子だった。



ミツキ

「そうでしたか。失礼いたしました」



 ミツキは警戒心を霧散させ、ぺこりと頭を下げた。



ミツキ

「ミツキと申します」


ニトロ

「うん。よろしく。ミツキくん」


ニトロ

「ところで、二人は今日はデートか何かかな?」


ヨーク

「いえ。ちょっと知り合いを探しに行くところですね」


ヨーク

「住所が分からないんで、今日中に会えるかどうかは分かりませんが」


ニトロ

「そうか。なぁに。案じることは無い」


ニトロ

「私はこう見えて顔が広いからね」


ニトロ

「君たちの友人も、きっと見つけられると思うよ」


ヨーク

「忙しいんじゃ?」


ニトロ

「ここで会ったも何かの縁さ。さあ、行こう」




 ……。




ヨーク

「…………」



 30分後、ヨークはバジルたちの姿を見ることが出来た。


 古い家屋の、井戸が有る庭。


 そこで4人が楽しそうにしているのが見えた。


 何を話しているのかは、距離が有って、ヨークには分からなかった。


 ドスの指に、念話の指輪は見えなかった。



ニトロ

「声をかけないのかい?」



 ニトロが言った。



ヨーク

(……楽しそうだな。俺が居なくても)



 ヨークはなぜか、4人に近付くことが出来なかった。


 バジルたちも、ヨークに気付いた様子は無かった。


 ヨークは四人の姿に背を向けてしまった。



ヨーク

「まあ、良いです」


ニトロ

「……そう」



 ヨークは歩き出した。


 そして、バジルたちの姿が見えない位置まで来ると、立ち止まった。



ヨーク

「……ありがとうございました」



 ヨークはニトロに頭を下げた。



ニトロ

「困った時はお互い様さ。それじゃ、またね」


ヨーク

「はい。また」



 ニトロは去っていった。


 やることが無くなったヨークは、ぶらぶらと街を歩いた。



ミツキ

「…………」



 ミツキはその後ろを黙ってついていった。



ヨーク

「なあ、ミツキ」



 ふと、ヨークが口を開いた。



ミツキ

「何ですか?」


ヨーク

「青春しようぜ」


ミツキ

「それはいやらしい意味で?」


ヨーク

「ちげーよ」


ヨーク

「ナウなヤングメンらしく、シティの暮らしをインジョイしようぜってことだよ」


ミツキ

「流石はヨーク。村民的スラングがすらすらと」


ヨーク

「良いから、どっか遊びに行こうぜ」


ミツキ

「構いませんが、どこに行くのですか?」


ヨーク

「それはこれから考える」



 ヨークたちは、宿へ一時帰宅した。



サトーズ

「お帰りなさいませ。お客様」



 宿に戻ったヨークはサトーズに出くわした。



ヨーク

「あ。サトーズさんって王都のことに詳しいよな?」


サトーズ

「はい。人並み程度には」


ヨーク

「なんかオススメの青春スポット教えて」


サトーズ

「青春でございますか。そうですね……」


サトーズ

「娯楽を求めるのであれば、中央劇場に行くのが良いでしょう」


サトーズ

「刺激を求めるのであれば、カジノなども有りますが、恋人を連れて行くのはお勧めしません」


サトーズ

「お二人の時間を過ごしたいのであれば、展望台や鉄巨人公園などが良いかもしれませんね」


サトーズ

「個人的には、猫牧場も捨てがたいところですけどね」


ヨーク

「猫か。猫は良いな」


ミツキ

「お好きなんですか?」


ヨーク

「ああ。なんて言うか、癒されるよな」


ミツキ

「はあ。まあ」



 ミツキは気のない様子で答えた。


 本当は好きなくせに、格好つけてやがるなコイツ。


 ヨークは内心でそう判断した。



ヨーク

「サトーズさん。他には?」


サトーズ

「そうですね……」


サトーズ

「知的な経験をしたいのであれば、美術館や博物館なども良いでしょう」


ヨーク

「ありがとう。行ってみるよ」



 まだ日は高い。


 遊びに出るには十分な時間が残っていた。


 ヨークたちは再び外に出た。



ヨーク

「よし。王都を満喫するぞ」


ミツキ

「はい」


ミツキ

「まずは、どこに向かいましょうか?」


ヨーク

「劇場に行ってみるか。王都観光の目玉らしいし」


ミツキ

「はい」




 ……。



 二人は劇場で、演劇を見ることにした。


 観劇代は少し高かった。


 だが、今の二人に払えない額でも無い。


 劇の内容は、恋物語だった。


 悲恋要素を含んでいた。


 恋が叶う者も居れば、敗れる者も居る。


 そういうお話だった。


 劇が終わると、二人は劇場を出た。



ヨーク

「……………………」



 日光の下で、ヨークはしんみりとした様子を見せた。



ミツキ

「ヨーク?」


ヨーク

「あんな健気な幼馴染が、どうして泣かないといけないんだ……」



 ヨークは少し涙ぐんでいた。


 劇に感情移入してしまったようだ。


 涙をこぼすことはしなかった。


 男の子だからだ。



ミツキ

「気持ちは分かりますけど、お芝居ですから」


ヨーク

「そうだけどさ。身も蓋も無いなお前」


ミツキ

「すいません」


ミツキ

「今日はもう帰りますか?」


ヨーク

「大丈夫」


ミツキ

「次はどこに向かいましょうか?」


ヨーク

「猫牧場。猫に乗りたい」


ミツキ

「分かりました」





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