表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/226

その20





 キュレーはドスに治癒術を施した。


 治療が終わり、ドスは立ち上がった。



ドス

「いつもすまんな」


キュレー

「いえいえ」


ドス

「それでヨーク」


ドス

「質問の答えを、聞いていないのだが」



 ドスは無表情で遠慮なく言った。



バニ

「まだ聞く?」


ヨーク

「あ~……」



 何と答えたものか。


 ヨークは少し迷った。


 それから少し考えて、口を開いた。



ヨーク

「ミツキは……俺が命令したら、何でもしてくれる」


ヨーク

「そういうのって、気色悪いだろ?」


ヨーク

「だから、何もしてねえよ」


バニ

「!♪!」


ドス

「……そうか」


ミツキ

「……………………」



 語らいが止まった。



フルーレ

「話は終わったか?」



 ヨークたちの沈黙を見て、フルーレが声をかけてきた。



ドス

「大体は」


フルーレ

「うん。私の番だな」



 フルーレはバニに向き直った。



フルーレ

「まずはバニ。お前たちに詫びさせてもらおう」


フルーレ

「私のせいで、お前たちを危険に晒してしまった。すまない」


バニ

「謝ることじゃないわ」


バニ

「私たちの仕事は、あなたを守ることだった」


バニ

「それを出来なかった私たちが、ふがいなかっただけよ」


フルーレ

「仕事……か」


フルーレ

「そうだな」



 フルーレは目を閉じ、そして頷いた。



フルーレ

「依頼は今日までとする」



 別れが決まった。



フルーレ

「楽しかった。ありがとう。皆」


バニ

「ええ。私も楽しかったわ」


バジル

「明日からどうすンだ?」


フルーレ

「迷宮には、騎士団と潜ることになると思う」


バジル

「そうか」


フルーレ

「……ああ」


フルーレ

「…………」


フルーレ

「貴方」



 フルーレはヨークに声をかけた。



ヨーク

「俺か?」


フルーレ

「そうだ。貴方だ」


フルーレ

「お名前は……ヨーク殿と言うのかな?」


ヨーク

「ああ。俺はヨーク=ブラッドロードだ」


ヨーク

「あっちはミツキ。俺の……あー……」


ヨーク

「奴隷だ」


ヨーク

「あと、殿とかつけるのは止めてくれ」


フルーレ

「分かった」


フルーレ

「私はフルーレ=メイルブーケ」


フルーレ

「メイルブーケ迷宮伯家の次女だ」


フルーレ

「ヨークのおかげで命拾いした。本当にありがとう」


ヨーク

「別に。成り行きだ」


フルーレ

「それなら、なおさら感謝しなくてはいけない」


ヨーク

「そういうもんか?」


フルーレ

「そういうものだ」


ヨーク

「それじゃあまあ……どういたしまして」


フルーレ

「今度、正式にお礼をさせて欲しい」


フルーレ

「連絡先を教えてもらえないだろうか?」


ヨーク

「別に良いのに」


フルーレ

「そういうわけにはいかない」


フルーレ

「まともに礼も出来ないようでは、メイルブーケの家名に傷がつく」


ヨーク

「ん。それなら……」



 ヨークはフルーレに宿泊先を教えた。



フルーレ

「うん。また会おう。ヨーク」


ヨーク

「ああ。また」


エル

「あの……!」



 フルーレの後方で、エルが口を開いた。


 その頬は少し赤らんでいた。



フルーレ

「エル?」


エル

「私もヨーク様にお礼をさせていただきたいのですが……」


フルーレ

「そうか」


フルーレ

「バニ。ちょっと彼らを二人きりにしてやりたいんだが」


バニ

「えっ?」


フルーレ

「問題か?」


ドス

「大問題だ。大丈夫じゃない」


バニ

「問題なんて無いわ! さ、行きましょう!」



 バニがドスの背中を押した。


 バジル、キュレー、フルーレもその後に続いた。


 バニたちとヨークの間に距離が出来た。


 ミツキはヨークの斜め後ろに立ち、黙って控えていた。



ドス

「……バジル」


バジル

「あン?」



 バジルとドスは、さらに離れたところへ移動した。


 そして、立ち止まるとドスが口を開いた。



ドス

「闇ギルドにフルーレを襲わせたのは、何者なんだろうな?」


バジル

「俺たちが知ったことかよ」



 フルーレの家は貴族だ。


 力が有る。


 家の力で調べれば良い。


 バジルはそう考えていた。


 バジルの関心はそれ以外のことに有った。



バジル

「それより……良いのかよ? アレ」



 バジルは周囲に声が届かないように、小声で言った。


 バジルの目線は、ヨークとエルに向けられていた。


 エルは話題が途切れないように、一生懸命にヨークに語りかけていた。



ドス

「何がだ?」


バジル

「何って……惚れてンだろ。あの顔は」



 ヨークと話すエルは、熱に浮かされたような顔をしていた。


 彼女の背では、黒い翼がパタパタと動いていた。



ドス

「迷宮効果というのだったな。ああいうのは」


ドス

「一緒に迷宮に潜った男女は、緊張を恋のドキドキと勘違いして……」


バジル

「理屈はいいンだよ。あの女……」




バジル

「エルは、ヨークの妹だ」




ミツキ

「……………………」


ドス

「父親違いのな」


バジル

「不味いだろ。兄妹でくっついたら」


ドス

「証拠は無い」


ドス

「その可能性が極めて高いというだけの話だ」


ドス

「俺たちにだって、エルの両親が誰なのかは証明出来ないのだから」


バジル

「お前それで良いのか?」


ドス

「ならどうする?」


ドス

「お前たちは、兄妹だから恋をするなと、彼女に言うのか?」


ドス

「ヨークの出自を漏らすことは、リスクになるぞ」


ドス

「もし周囲に正体を知られたら、ただでは済まない」


バジル

「だからって放っとくのかよ」


ドス

「ほんの淡い恋だ。実るとも限らない」


ドス

「あるいは、バニにでも頑張ってもらうか?」


バジル

「……………………」


バジル

「勝ち目ねーだろ」



 バジルは視線を巡らせ、バニを見た。


 彼女はヨークたちを見て、ハラハラした様子を見せていた。


 見るからに顔色が悪い。


 敗北者の負のオーラが全身から滲み出していた。



ドス

「かもな」


ドス

「……背中を押してやるか」



 ハラハラしちょるだけの、ミジメな幼馴染に向け、ドスは歩き出した。


 足音を殺し、気付かれないように、バニの後ろに立った。


 そしてヨークの方へ向け、どんと背中を叩くのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ