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その19



エル

「貴方様は……?」


キュレー

「どうしてヨークくんがここに?」


ドス

「……俺が呼んだ」



 そう言ったドスの指には、ヨークに渡したのと同じ指輪がはめられていた。


 念話の指輪。


 離れた相手に心の声を送ることが可能な魔導器だった。



キュレー

「そっか。念話の指輪で……」


グシュー

「いやいやいやいや」



 グシューは大げさに表情を崩し、首を左右に振った。



グシュー

「いきなり湧いて出てお前、誰なんだよ」


ヨーク

「ヨーク=ブラッドロード」


グシュー

「名前じゃねえッ!」



 怒声と共に、グシューはヨークに斬りかかった。



ヨーク

「…………」



 ヨークはそれを難なく受け止めてみせた。


 ヨークの体幹は揺るがず、双眸はじっとグシューを睨んでいた。



グシュー

「何だテメェ……! どんなレベルしてやがる……!」


ヨーク

「お前の三倍かな」


グシュー

「ふざけやがって!」



 目の前の男は敵だ。


 それさえ分かっていれば、グシューには十分だった。


 そして、ヨークにとっても。


 グシューの二撃目を皮切りに、斬り合いが始まった。


 最初は、グシューの剣をヨークが受ける形になった。


 だが、剣を重ねる度に、グシューは劣勢となっていった。


 レベルでも剣の技量でも、ヨークの方が上回っていた。


 いつの間にかヨークが、一方的にグシューを攻めるようになっていた。


 グシューは後退を強いられていった。



グシュー

「ぐっ……!」


グシュー

「『分身』ッ!!!」



 今のままでは不味い。


 そう感じたグシューは、スキル名を唱えた。


 グシューの体が輝いた。


 そして……。


 グシューそっくりの『分身』が、2体出現した。


 本体を含め、グシューは3人になった。



ヨーク

「増えた」



 グシューがスキルを使っても、ヨークは焦らなかった。


 冷静に敵の戦力を値踏みしていた。



ミツキ

「増えましたねぇ」


ミツキ

「……加勢しますか?」


ヨーク

「いや」


グシュー

「ビビったかァ?」



 スキルを発動したことで、グシューは調子を取り戻した様子だった。


 分身さえ居れば、自分が勝つ。


 そう思っているように見えた。



グシュー

「コイツがソロでの40階層踏破を可能にした、レアスキル」


グシュー

「見たところ、テメェのレベルは50かそこらだ」


グシュー

「三対一を受けられるほどのレベル差はねぇ。そうだろう?」


ヨーク

「そうだな」



 ヨークは素直に肯定した。



ヨーク

「剣では辛そうだ」



 ヨークはグシューのスキルの価値を認め、長剣を腰の鞘に収めた。


 そして、背負っていた杖を構えた。


 魔術師の杖だ。



グシュー

「……は?」



 眼前の男は、呪文を使う。


 グシューはその時、ようやくそのことに気付いた。


 暗黒騎士だ。


 そんな風に、新たな誤解を抱いた。


 そして、何を思案しようが、既に手遅れだった。



ヨーク

「樹殺界」



 ヨークが唱えた。


 ヨークの杖先に、魔法陣が出現した。


 魔法陣から木が伸びた。


 速く、そして重々しく。



グシュー

「……!?」



 回避不能の速度で放たれたそれは、蛇のようにうねった。


 枝先がグシューの体に絡みついた。


 木は次々に物量を増し、グシューとその部下を絡めとっていった。



グシュー

「ひっ……!」



 グシューたちを捕縛した木は、彼らの体を強く締め付けた。



グシュー

「がああああああああぁぁぁぁっ!」


グシューの手下たち

「ひいいいいいいいいぃぃぃぃっ!」



 グシューの体に激痛が走った。


 グシューと、その手下たちも悲鳴を上げた。


 悲鳴は長くは続かなかった。


 木の枝が、彼らの頸動脈までをも強く締め付けていた。


 グシュー一味は、樹に抱かれたまま気絶した。


 ヨークに対する敵意は、全て抹消された。


 戦闘は終わっていた。



バニ

「ヨーク、あなた……」


バニ

「暗黒騎士だったの……?」



 バニが戸惑いの声を上げた。



ヨーク

「いや……」


ヨーク

「俺は魔術師だよ」


バニ

「……………………」


バニ

「は?」



 バニの間の抜けた声が、迷宮の一室に響いた。




 ……。




 ヨークたちは、気絶したグシュー一味を、縄で縛り上げた。


 そして彼らを、迷宮の外へ連行した。


 大階段を警備している衛兵に、グシューたちを突き出した。


 事情聴取の後、ヨークたちは解放された。


 ヨークは幼馴染たちと、大階段の広場で話すことにした。


 フルーレ主従は、少し離れてヨークたちの様子を見守った。



バニ

「ヨークあなた、レベルいくつなの?」



 まず、バニが口を開いた。



ヨーク

「大体150くらいだ」


バニ

「ひゃく!?」


ヨーク

「凄いだろ?」


バニ

「凄いなんてもんじゃないわよ!」


バニ

「レベル100超えなんて、歴史書に名前が残るレベルじゃない」


ヨーク

「そうか」



 ヨークの目標は、一番の冒険者になることだった。


 既に達成されてしまったのだろうか。


 そう思うと、少し寂しい気持ちになった。



ヨーク

「レベル1000は居ないんだな?」


ドス

「いや」


ヨーク

「居る?」


ドス

「可能性は有るだろう」


ドス

「ヨーク。お前という例外が、ここに居るんだ」


ドス

「規格外が一人とは限らない」


ヨーク

「それもそうか」



 ヨークはまだ見ぬ強敵-とも-に想いを馳せた。



ヨーク

「居るよな。1000も」


バニ

「……だと良いけど」


キュレー

「そもそも、どうやってそんなにレベルを上げたの?」


ヨーク

「スキルだよ」


キュレー

「スキルって、『敵強化』だよね?」


ヨーク

「ああ」


ヨーク

「実は『敵強化』には、EXPを増加させる効果も有ったんだ」


ドス

「人には言うな」


ヨーク

「え?」


ドス

「強力すぎるスキルだ。利用されるぞ」


ヨーク

「そうかも」


ヨーク

「良かったらお前たちのレベルも上げようか?」


ドス

「止めておけ」


ヨーク

「遠慮してんのか?」


ドス

「いきなり俺たちのレベルが上がるのは、不自然だ」


ドス

「皆が異常なレベルアップの原因を、知ろうとするだろう」


ドス

「事情を探られた時に、お前のスキルがバレないとも限らない」


ヨーク

「そこまで気にするもんか?」


ドス

「気にしろ」


ドス

「ギルドにも、本当のレベルは明かすな。良いな?」


ヨーク

「『戦力評価』されたら?」


ドス

「されるほど目立つな」


ヨーク

「……分かったよ。それでさ」


ヨーク

「お前ら、俺を見直したか?」



 ヨークは少し首を傾けて、無邪気な笑みを浮かべた。


 ヨークの長い銀髪がきらきらと光った。



ドス

「見損なったことは無い」


ヨーク

「笑っただろ。成人式の時」


ドス

「俺は笑ってない」


バニ

「私も笑ってないから!」


バジル

「俺は笑ったゼ?」


バニ

「余計なこと言わないの!」


ヨーク

「……そうか」


ヨーク

「けどお前ら、容赦なく置いてったよな?」


ドス

「お前を危険な目に合わせたくない」


ドス

「少なくとも、バジルはそう考えていた」


バジル

「は? 考えてねぇンだが?」


ヨーク

「危険て」


ヨーク

「そもそも迷宮は危険なもんだろ?」


ドス

「…………まあな」


ドス

「お前という大鷲を、籠の鳥にしようとした俺たちが間違っていた」


ドス

「守られたのは俺たちの方だったしな」


ドス

「結局は、自己満足のため、無益にお前を傷つけただけ」


ドス

「ただ、俺たちがお前を嫌ったことは、一度も無い」


ドス

「やり方は間違えたが、皆お前のことを大切に思っている」


ドス

「それだけは分かっておいて欲しい」


ヨーク

「なんかさぁ……」



 ドスの実直な物言いに、ヨークは羞恥を感じた。


 ヨークは頭をかき、視線を斜め上にずらした。



ヨーク

「お前、そんな喋るやつだったか?」


ドス

「思春期というらしいな」


ヨーク

「何だよ? 恋でもしたのか?」


ドス

「俺じゃない。こいつらがだ」



 ドスはバジルたちを見た。



ドス

「俺たちの間に、分別と言うには面倒な、遠慮が生まれた」


ドス

「言うべき事を言わないことが増えた」


ドス

「どうにも、俺はそういうのとは無縁だ」


ドス

「だから、俺が喋るべきだと思った」


ドス

「本来、こういうのは俺の役目じゃ無かった」


ドス

「長く喋るのは得意じゃない」


ドス

「俺が喋るのは、お前たちのせいだ」


ヨーク

「ん……」


ヨーク

「苦労してる感じ?」


ドス

「かもな」


ヨーク

「なんか悪いな」


ドス

「そう思うなら、お前も話すべきことを話せ」


ヨーク

「何? スキルのことなら話しただろ?」


ドス

「彼女のことだ」



 ドスはヨークの左後ろに視線をやった。


 視線の先にミツキが立っていた。



ミツキ

「…………」



 ミツキは黙ってドスに視線を返した。


 少し視線を交わらせると、ドスはヨークへと視線を戻した。



ドス

「お前が買ったのか?」


ヨーク

「いや。拾った」


ドス

「首輪はどうした?」


ヨーク

「あれは元からだよ」


ドス

「元の持ち主は?」


ヨーク

「魔獣に襲われて死んだ」


ドス

「なるほど」


ドス

「法律上では盗品ということになるな?」


ヨーク

「……やっぱそうか」


ドス

「そうなるだろうな」


ヨーク

「けど、見捨てられねえよ」


ヨーク

「独りだった。だから……」


ドス

「ああ。そうだろうな」


ドス

「お前はそういうやつだった」



 ドスの表情が少し崩れた。


 嬉しそうに。


 バニやキュレーも安堵した様子だった。



ドス

「……では、最後の質問だ」


ヨーク

「ああ」




ドス

「彼女とは肉体関係なのか?」




バニ

「何聞いてんのよバカッ!」



 バニの杖がドスを叩いた。


 加減の欠けた打撃によって、鈍く大きな音が鳴った。



ドス

「見たか……ヨーク……」


ドス

「これが……面倒な遠慮というものだ……」



 ドスは倒れた。



キュレー

「ドスくん!?」



 キュレーは慌ててドスに駆け寄った。



ヨーク

「いや…………」


ヨーク

「何の遠慮も感じられないんだが?」




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