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7の37「みんなとパーティ」



ヨーク

「神って、どういうこと?」



 あまりにも唐突な言葉を受けて、ヨークは素直に疑問をはなった。



デレーナ

「世界樹を加護に頼らず踏破したことで、私の魂の力が上昇しているらしいのですわ」


ヨーク

「らしいって、誰が言ってるんだよ」


デレーナ

「大賢者さまが」


ヨーク

「ふーん? それで?」


デレーナ

「魂力値というのが100万を超えると、肉体の寿命が無くなって神化するらしいのです」


デレーナ

「それが今90万なので、あと10万ほどで神の端くれになるそうです」


ヨーク

「ふ~ん……?」


ヨーク

(いきなり神とか言われてもピンとこねえ……)


デレーナ

「それでですね、ヨークさま」


デレーナ

「私と世界を創りませんか?」


ヨーク

「どういうこと?」


デレーナ

「ヨークさまも神様なのですよね?」


ヨーク

「前世はそうだとか言われてるけど」



 自分の中にはかつて神だったモノの魂が有る。


 トルソーラとの闘いを経て、ヨークはそれを自覚していた。


 その気になれば、魂から神の力を引き出すこともできる。


 だがヨークには、ヨーグラウとしての記憶はほとんど無い。


 自分はヨーク=ブラッドロードだ。


 ヨーグラウでは無い。


 そう思っているので、あまり自分を神だと言い張りたくも無いのだった。



デレーナ

「神になると、世界樹から創造の力を借りて、自分の世界を創れるそうなのです」


デレーナ

「それで、力の弱い神が世界を創る時は、男女二人で創ると上手く行きやすいというのですね」


デレーナ

「なので、ヨークさまと一緒に世界を創れないかと思いまして」


ヨーク

「そんなスケールでかいこと、いきなり言われてもな」


デレーナ

「……そうですね」


デレーナ

「私もまだ未熟な身」


デレーナ

「剣すら極められぬ身で世界を創ろうなどとは、驕った行為なのかもしれません」


デレーナ

「もっと修練を重ね、強くなり……」


デレーナ

「ヨークさま。あなたに勝ちたいと思います」


ヨーク

「おう」


デレーナ

「もしこの剣があなたに届いたその時は……」


デレーナ

「私と……世界を創ってもらえませんか?」


ヨーク

「負けねーよ。俺は」



 神の話をされても困るが、ケンカの話なら望むところだ。


 そう思った村の悪ガキは、楽しそうに微笑んで見せた。



デレーナ

「絶対に負かせてみせますの」


ヨーク

「やってみろ」


デレーナ

「はい」



 デレーナは幸せそうに笑った。




 ……。




 ヨークはメイルブーケ邸を後にした。


 一方、ニトロとセイレムは、バウツマー邸に帰宅した。



ニトロ

「ただいまー」



 玄関を抜けたニトロたちを、サレンが出迎えた。



サレン

「お帰りなさいませ。お父様」


ニトロ

「サレン。実はさ」


サレン

「はい?」


ニトロ

「セイレムと結婚することになった」


サレン

「あがっ!?」



 奇声と共に、サレンは倒れた。



ニトロ

「サレン!?」



 なぜか急に意識を失った娘に、ニトロは慌てて駆け寄った。




 ……。




 ヨークは宿の自室に戻った。



ミツキ

「お帰りなさいませ」



 ベッドに腰かけていたミツキが、ヨークを出迎えた。



ヨーク

「ああ」



 ヨークはミツキに短く答え、もう片方のベッドを見た。



クリーン

「すぅ……」



 そこではクリーンが、すやすやと寝息を立てていた。



ヨーク

「こいつはなんで寝てるんだ?」


ミツキ

「ヨークがなかなか帰って来ないので、つい眠ってしまったようです」


ヨーク

「俺? 起きろー」



 ヨークはベッドに歩み寄り、クリーンを揺り起こした。



クリーン

「んぅ……」



 少し揺さぶられると、クリーンは目蓋を上げた。


 彼女の瞳がヨークへと向けられた。



クリーン

「ヨーク」


ヨーク

「おはよう」


クリーン

「おはようなのです」


ヨーク

「良いのか? 神様がこんな所で居眠りしてて」


クリーン

「……神様じゃないのです」


クリーン

「お母さんが勝手に言っているだけなのですよ」


ヨーク

「そうか」


ヨーク

「それで、何してるんだ?」


クリーン

「おまえを待っていたのです」


ヨーク

「そうか。カードでもやるか?」


クリーン

「今度こそ負かしてやるのです」


ヨーク

「来やがれ」


クリーン

「それでですね、あの話はどうなったのですか?」


ヨーク

「どの話だよ?」


クリーン

「ケンカの話です」


ヨーク

「ケンカ?」


クリーン

「聖女の試練が終わった時に、言っていたではないですか」


クリーン

「いつやるのですか? 応援に行くのですよ」


ヨーク

「ああ~~~~」


ヨーク

「もう終わったし、勝ったぞ」


クリーン

「えええええええええええええええぇぇぇぇっ!?」


ヨーク

「近所迷惑だぞ。神様」




 ……。




ガイザーク

「なるほど。話は分かった」



 ラビュリントスの最深層。


 そこでガイザークは、ヨークの言葉に頷いた。


 彼女は巨人の姿を解除し、少女の姿になっていた。


 ヨークたちがこの階層に姿を見せたとき、さいしょ彼女は、問答無用で襲い掛かってきた。


 だが、何度か殴り飛ばすと素直になった。


 話の分かる神のようだった。



ガイザーク

「我が地上の人々に危害を加えることは無い。安心するが良い」


ガイザーク

「我が好むのは闘争であって、蹂躙では無いしのう」


ヨーク

「助かる」


ヨーク

「それで、これからどうするんだ?」


ガイザーク

「……この世界を離れるのも良いかもしれんな」


ヨーク

「そんなことが出来るのか?」


ガイザーク

「忘れたのか?」


ガイザーク

「我は元々、別の世界からやって来たのじゃ」


ガイザーク

「神であれば皆、世界を渡る力を身に付けておる」


ガイザーク

「おぬしもな。ヨーグラウ」


ヨーク

「そうなのか」


ヨーク

「それじゃ、会ったばっかりだけど、元気でな」


ガイザーク

「うむ。その前に一つ頼みが有るのじゃが」


ヨーク

「ん?」


ガイザーク

「カナタ……その魔剣を、我に譲ってはもらえぬかな」


ヨーク

「良いぜ」


ガイザーク

「良いのか?」


ヨーク

「二人旅は楽しい。そう思うぜ」


ガイザーク

「……うむ」



 ヨークは腰に装着していた魔剣を、鞘ごとガイザークに手渡した。


 ガイザークは受け取った剣を、ぎゅっと胸に抱きしめた。



ガイザーク

「久しい。久しいのう。カナタ……」


ヨーク

「そうだ。旅に出る前に、俺たちのパーティに参加しないか?」


ガイザーク

「パーティ? 徒党を組んで魔獣と戦うというアレか?」


ヨーク

「ちげーよ」


ヨーク

「いろいろ区切りがついたんでな、仲間全員呼んで、パーッとやることにしたのさ」


ガイザーク

「ふむ」


ガイザーク

「それで良いかの? カナタ」



 ガイザークは、腕の中の魔剣に声をかけた。


 魔剣は何も答えない。


 だが……。



ガイザーク

「うむ」



 ガイザークは頷いた。




 ……。




 パーティが開かれた。


 それは世にも珍しい、迷宮のパーティだった。


 迷宮内にある開けた草原に、ヨークの友人たちが集まっていた。



ユーリア

「お招きありがとう。ヨーク」


ヨーク

「ああ。来たんだな」


ユーリア

「そっちから招いておいて、何だい? その言い草は」


ヨーク

「忙しいって聞いてたからさ」


ユーリア

「まあね。貴族というのは一度スキを見せると大変さ」


ユーリア

「けど、ようやく落ち着いてきたよ」


ユーリア

「聖女の試練に協力したおかげで、ブラッドロード商会の後ろ盾も得られた」


ユーリア

「こうして社交に務める余裕も出てきたというわけさ」


ヨーク

「社交て。身内のパーティだが」


ユーリア

「身内……ねぇ」


ユーリア

「迷宮伯にドミニ工房の社長、大神官や聖女まで居る」


ユーリア

「キミの身内というのは、ずいぶん豪勢だね」


ヨーク

「公爵サマも居るしな」


ヨーク

「まあ、思う存分コネを作っていってくれ」


ユーリア

「そうさせてもらうよ」


ヨーク

「……行かねえの?」


ユーリア

「キミとのコネを作ってるのさ」


ヨーク

「そいつはどうも」



 特に追い払う理由も無い。


 ヨークはしばらくの間、彼女の相手をしようかと思った。


 だが……。



ユーリ

「姉さん。行くぞ」



 弟のユーリが、ユーリアの腕を引いた。



ユーリア

「あっ、ちょっと……」



 ユーリアは、ずるずると引きずられていった。


 一人になったヨークは、会場内を見回した。


 するとミツキが目にとまった。


 弟のユウヅキと会話をしているようだった。


 教えが改められ、ユウヅキは開放された。


 今の彼は、誰の奴隷でも無い。


 自由に行動することができた。



ミツキ

「ユウヅキ。あなたはこれからどうするのですか?」


ユウヅキ

「そうだね……」


ユウヅキ

「強くなりたいかもしれない」


ユウヅキ

「強くなって、一回兄上を殴りに行くよ」


ミツキ

「王になるということですか?」


ユウヅキ

「別に、あんな国に未練は無いけどね」


ユウヅキ

「それでもケジメはつけたいと思う」


ミツキ

「がんばって下さい」


ユウヅキ

「うん」



 そこから少し離れた所で、クリーンが甘味を満喫していた。


 そんな彼女に、ガイザークが声をかけた。



ガイザーク

「トルソーラ」


クリーン

「私はクリーンなのです」


ガイザーク

「そうか」


ガイザーク

「魂が同じでも、同じにはならない。そういうことじゃな」


クリーン

「何が言いたいのですか?」


ガイザーク

「…………」


ガイザーク

「そなたと友誼を結びたい」


クリーン

「友誼……。お友だちということですね?」


ガイザーク

「うむ」


クリーン

「よろしくなのです」



 クリーンが、ガイザークに手を伸ばした。


 ガイザークはクリーンの手を握った。


 二人の手が、強く結ばれることになった。





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