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7の36「妹と情愛」



クリスティーナ

「母親? 随分と若いね」



 成人男子の母親としては、あまりにも若すぎる。


 そんな彼女の容姿を思い出して、クリスティーナはふしぎそうな様子を見せた。



ヨーク

「色々とあってな」



 ヨークとしても、クリスティーナの疑問はもっともだと思っている。


 だからといって、ニトロの罪をベラベラと広めるつもりは無い。


 彼らの事情は、世間話のネタにして良いようなものでは無い。


 そう考えているヨークは、細かい事情は話さなかった。



リホ

「ヨークは第三種族だったんスね」


ヨーク

「実はな」


リホ

「……ウチたちには内緒にしてたんスね」



 そう言って、リホは不満げな様子を見せた。



ヨーク

「悪かったよ」


ヨーク

「けど、迂闊に話せなかったのも分かるだろ?」


リホ

「それはそうっスけどね」


リホ

「ハーフ同士でお揃いだと思ってたっス……」


クリスティーナ

「ひょっとして、エルさんとも血の繋がりが有るのかな?」


ヨーク

「ああ。妹だ」


リホ

「それは喜ばしいっスね」


ヨーク

「そうか?」



 クリスティーナはヨークから少し視線をずらした。


 そして空気しか無い空間を見ながら、こう尋ねてきた。



クリスティーナ

「羽はどうしたんだい?」


ヨーク

「物心つく前に切ったんだと」


ヨーク

「それで俺自身も、自分が禁忌の子だって知らなかった」


ヨーク

(そもそも禁忌の子って言葉を、長いこと知らなかったんだよな)


クリスティーナ

「ニトロさんは? まさか、キミの父親?」


ヨーク

「エルの親父だ」


ヨーク

「俺もエルも母さんの子供だけど、父親が違うんだ」


リホ

「……複雑っスね」


ヨーク

「まったく」


クリスティーナ

「家族と言えばさ……」


クリスティーナ

「ブラッドロードさん。ボクたちと家族になるつもりは無いかな?」


リホ

「何を言ってるっスか!?」



 唐突なクリスティーナの提案に、リホが驚きを見せた。



クリスティーナ

「大事な話なんだ。ミラストックさんはちょっと黙っていてもらえるかな?」



 クリスティーナは真剣な顔でそう言った。


 どうやら冗談のたぐいでは無いらしい。



リホ

「…………」



 リホは拗ねたような顔で口をつぐんだ。



ヨーク

「いや。俺も何を言ってるっスかなんだが」


クリスティーナ

「そんなに複雑な話はしていないと思うけどなあ」


クリスティーナ

「ウチの妹と結婚して、サザーランド家の一員にならないかって言ってるんだ」


ヨーク

「唐突だな」


クリスティーナ

「そう? ボクはずっと考えていたんだけどね」


クリスティーナ

「キミはボクたちの恩人だし、妹たちにはキミみたいな素敵な人と結ばれて欲しい」


ヨーク

「褒めてくれんのはありがたいけど、遠慮しとくわ」


クリスティーナ

「どうしてだい? ボクの妹のどこが不満なんだい?」


ヨーク

「そもそも本人の気持ちはどうなんだよ」


クリスティーナ

「皆キミのことが大好きに決まってるだろう?」


クリスティーナ

「キミみたいな素敵な人を好きにならない女子なんて、この世に存在しないよ」



 クリスティーナはニコニコと嬉しそうにそう言った。


 こんな大げさに褒められることに、ヨークは慣れていない。


 彼は居心地わるそうに眉をひそめた。



ヨーク

「めっちゃ褒めてくるのなんなん? 何か企んでんの?」


クリスティーナ

「率直な意見だけど?」


ヨーク

「……とにかく、謹んでお断りするわ」


ヨーク

「あいつらと結婚するとか、考えたこともねえし」



 ヨークはユリリカやマリーのことを、べつに嫌いでは無い。


 だがそれは、妹感覚の好意だ。


 彼女たちを、性欲の対象にしたことは無かった。


 そんな彼女たちと結婚などと言われても、ヨークからすれば困惑しかない。



クリスティーナ

「……残念だよ」


クリスティーナ

「せっかくキミと家族になれるって思ったのに」


ヨーク

「家族になんてならなくても、俺たち友だちだろ?」


クリスティーナ

「……うん。そうだね」


クリスティーナ

「それじゃ、魔導器の実験を通して友情を深めるとしよう」


ヨーク

「そうだな」


リホ

「……はぁ」



 リホはなぜか、呆れたようなため息をついた。




 ……。




 ヨークはしばらくの間、リホたちの実験を手伝った。


 実験に一区切りつくと、ヨークは彼女たちと別れた。


 そしてニトロたちと合流した。


 それからメイルブーケ邸に戻り、解散することになった。



セイレム

「また一緒に食事に行きましょうね」



 そう言って、セイレムはエルに微笑んだ。


 エルの方も、セイレムに好意的な笑みを返した。



エル

「はい。是非」



 セイレムと違い、ニトロの表情はどこかぎこちなかった。


 彼は堅苦しい口調で、エルにこう言った。



ニトロ

「何か困ったことが有ったら、私たちを頼って欲しい」


エル

「ありがとうございます」



 母娘と比べると、どこか違和感が有る。


 ヨークにはそのように思われた。


 とはいえこれは、父娘の問題だ。


 自分が口を挟むことでは無い。


 ヨークはそう考えて、特に口出しはしなかった。



ヨーク

「んじゃ、またな」



 ヨークは別れの挨拶をして、そこから立ち去ろうとした。


 そこをエルに呼び止められた。



エル

「ヨークさま」


ヨーク

「ん?」


エル

「二人きりでお話したいことが有るので、残っていただけませんか?」


ヨーク

「分かった」


セイレム

「ダメですよ。エル。ヨークさまなんて他人行儀な呼び方をしていては」


セイレム

「きちんとお兄ちゃんかお兄たま、兄やと呼びなさい」


エル

「……お兄様」


セイレム

「もう。恥ずかしがりやですね。エルは」



 セイレムとニトロは、ヨークたちの前から去っていった。


 エルはメイルブーケ邸の庭に入っていった。


 ヨークはその後に続いた。


 ヨークとエルは、庭で二人きりになった。



ヨーク

「それで、話って?」


エル

「お兄様……」


エル

「妹である私を差し置いて、随分と楽しそうでしたね?」


ヨーク

「公園の話か?」


ヨーク

「俺が居ない方が、親子水入らずで話せると思ってな」


エル

「むぅ……」


エル

「お兄様も私の家族なのですから、他人事のようでは困ります」


ヨーク

「そうか。悪いな」



 ヨークとしては、良かれと思ってやったことだ。


 それを責められるのは、心外ではあった。


 とはいえ、自分は兄だ。


 お兄ちゃんとして妹の気持ちに、度量を持って答えなくてはならない。


 そう考えているヨークは、素直に謝罪をした。



エル

「……お兄様」


エル

「いつから私が妹だと気付いていたのですか?」


ヨーク

「俺が王都に来て、ちょっとしたくらいだったかな」


ヨーク

「確か……バジルとケンカした後くらいだった気がする」


エル

「それなのに黙っていたのですね」


ヨーク

「ああ」


ヨーク

「いきなり兄貴とか言われても、戸惑うかと思ってな」


ヨーク

「それに、父親も違うし……」


エル

「傷つきました」


ヨーク

「悪い」


エル

「……お詫びとしてキスして下さい」


ヨーク

「なんで?」


エル

「兄妹の愛情表現です。妹が居る兄なら当然のことですよ」


ヨーク

「そうだったのか……。分かった」



 ヨークはエルの肩に手をのせた。



ヨーク

「それじゃ、行くぞ」


エル

「はい」



 ヨークはエルの額に唇を近付けた。


 そのとき、エルが急に背伸びをした。


 二人の口と口が触れ合った。



ヨーク

「ん……」



 ヨークは軽い驚きを見せて、エルから距離を取った。



ヨーク

「え? 口ですんの?」


エル

「はい。兄妹ですから。この程度は当然です」


ヨーク

「俺の村だとそんな感じじゃ無かった気がするけど……」


エル

「文化や風習というのは、地方によって異なるものですからね」


ヨーク

「それもそうだな」


エル

「もう一度」


ヨーク

「照れるんだが」


エル

「お兄ちゃんとしての務めを果たして下さい」


ヨーク

「……分かった」



 ヨークはエルの気持ちに応えるべく、再び彼女に顔を近付けた。


 二人の唇が合わさり、そして離れた。



エル

「お兄様……」


エル

「あなたの周囲にはたくさんの女性が居ますが、血の繋がった妹は私一人です」


エル

「この広い世界で、たった一人」


エル

「愛しています。誰よりも」


ヨーク

「ああ。俺も愛してるよ」



 ヨークはそう言って、エルから少し距離を取った。



ヨーク

「母さんたちとは仲良く出来そうか?」


エル

「はい。おかげさまで」


ヨーク

「良かった。それじゃ」


エル

「はい。お気をつけてお帰り下さい」



 ヨークはエルに背を向けて、庭の出口へと向かった。


 その途中、見慣れた姿がヨークの瞳に映った。


 デレーナだった。


 デレーナの方も、ヨークに気付いた様子を見せた。


 彼女の方から先に、ヨークに声をかけてきた。



デレーナ

「ヨークさま」


ヨーク

「よっ」



 丁寧な物腰のデレーナに対し、ヨークは軽い調子で答えた。



デレーナ

「ご両親は?」


ヨーク

「帰ったよ。っていうか、ニトロさんは俺の父親じゃ……」


ヨーク

「ん……? 母さんが再婚したら義理の親父ってことになるのか? 分からん……」


ヨーク

「まあ良いや。そっちは何してたんだ?」


デレーナ

「鍛錬を」


デレーナ

「トルソーラさまとの戦いでは、無様を晒してしまいましたから」


ヨーク

(むしろ強すぎると思うんだが……)


デレーナ

「それでですね、ヨークさま」


ヨーク

「うん」


デレーナ

「わたくし、神になるかもしれませんの」


ヨーク

「うん?」



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