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22/226

その18の2





バニ

「あの人たちは、闇ギルドのメンバーよ」



 バニが答えた。


 闇ギルドとは、王都でも有数の非合法組織だ。


 良家の子息でも、その名前くらいは知っている。


 近付いてはならない。


 親から子に、そう言い聞かせるのが常だった。



フルーレ

「闇ギルドだと? お前たち、そんな連中と付き合いがあるのか?」


バニ

「私たちに限った話じゃないわ」


バニ

「後ろ盾の無い冒険者は、皆そうよ」


バニ

「闇ギルドに見かじめ料を納めないと、迷宮での安全は保証されない」


バニ

「そういうことになっているの」


フルーレ

「馬鹿な……」


フルーレ

「そんなこと……お父様が許すはずが……」



 フルーレの父親であるメイルブーケ迷宮伯は、迷宮の管理者だ。


 国王から迷宮の秩序の維持を任されている。


 そのはずだった。


 尊敬する父が無法を見逃しているなどと、フルーレは思いたく無かった。



グシュー

「迷宮伯の仕事は、迷宮で騎士達を育てることだ」


グシュー

「冒険者みたいな野良犬がどうなろうが、知ったこっちゃねえのさ」


グシュー

「親父の無関心が仇になったな」


グシュー

「覚悟してもらうぜ。メイルブーケのお嬢様」


バニ

「ッ……! 狙いはフルーレなの……!?」


グシュー

「ご明察」


フルーレ

「何が目的だ!」


グシュー

「知るかよ」


グシュー

「なあバジル。お嬢様を渡せば、お前らは見逃してやるぜ?」


バジル

「ふざけやがって……!」


バジル

「テメェ、エルのことは黙ってやがったな?」


グシュー

「エル? なんだそりゃ?」


バジル

「知ってたンだろうが。メイルブーケに黒翼族の奴隷が居るって」



 バジルは見かじめ料以上の金銭を払い、グシューに頼み事をしていた。


 その内容は、黒翼族の捜索だった。


 グシューはエルの存在を知りながら、バジルには伝えなかった。


 カモにされていた。



グシュー

「まあね」



 バジルの怒気を受けても、グシューは悪びれなかった。



バジル

「どうして黙っていやがった!」


グシュー

「いやいや。逆にな?」


グシュー

「俺たち闇ギルドがさぁ、舐めたガキの為に仕事するだなんて、本当に思ってたのか?」


グシュー

「舐めすぎなんだよなぁ~。まともな教育受けてないガキは、これだからなぁ」


バジル

「ブッ殺す……!」



 怒りのままに、バジルは剣を構えた。


 そしてゆっくりと、グシューとの間合いを詰めていった。



グシュー

「ボクちゃんさぁ。俺に勝てると思ってんの?」


バジル

「いつまでも……昔の俺だと思うなよ」


グシュー

「……はぁ。舐めてると潰すよ?」


グシュー

「お前ら、バジルは俺がやる。手ェ出すなよ」


グシューの手下たち

「はい!」


バジル

「俺が勝ったら手を引いてもらうぞ」


グシュー

「良いぜ。ま、無理だろうけど」



 グシューは抜刀した。


 お互い剣を構え、向き合う形になった。



バジル

(行くぜ……!)



 バジルは前に出た。


 隙を見せず、有効打を狙わず、お互いの刃が合わさるように誘導した。


 つばぜり合いの形になった。


 バジルの狙い通りだった。



バジル

「間抜けが!」


バジル

「『爆裂剣』!」



 バジルのスキルが発動した。


 剣から爆炎が放たれた。


 グシューの体が爆炎に飲み込まれ、見えなくなった。


 そして……。



グシュー

「間抜けはテメェだ。ボケが」



 バジルの腹に、長剣の先端が突き刺さった。


 グシューの剣だった。


 『爆裂剣』の直撃を受けたはずのグシューが、平然と剣を振るっていた。



バジル

「が……!」



 腹筋と内臓に傷を受け、バジルは膝をついた。



バニ

「バジル!」


キュレー

「っ!」



 バジルはキュレーの回復呪文の、効果範囲外に居た。


 キュレーは回復のため、バジルに駆け寄ろうとした。



グシュー

「動くな」



 グシューは長剣の刃をバジルの首筋に当てた。


 バジルの皮膚が微かに避け、血が流れた。



グシュー

「近付いたらこいつを殺す。良いな?」


キュレー

「そんな……」


グシュー

「お前ら、バジルの仲間を拘束しろ」


グシューの手下たち

「はい!」


バニ

「あっ……」



 キュレーたち3人は、グシューの手下によって縛られてしまった。


 大した抵抗は出来なかった。


 相手の言いなりになったとしても、助かる保証は無い。


 だが、即座にバジルを見捨てられるほど、彼女たちの心は強くも冷たくも無かった。


 少しの迷いさえ有れば、あらくれどもが若造3人を鎮圧するなど、簡単だった。



ドス

「…………」


バジル

「どう……して……」


バジル

「爆裂剣が……完全に……」


グシュー

「入って無いんだな。これが」



 グシューはバジルに左手を見せた。


 その中指、人差し指、薬指に指輪がはまっていた。



バニ

「それは……?」


グシュー

「3つとも耐火の指輪だ。高いんだけどね。コレ」


グシュー

「有名だろ? 冒険者期待の新星、爆裂剣のバジルって言ったらさぁ」


グシュー

「敵のエースの手の内分かってんのにさぁ、対策しないバカ居ねえよなぁ?」


グシュー

「それをまあ、俺のスキルは誰にでも通用しますなんてツラして……」



 グシューはバジルを蹴りつけた。



バジル

「ぐぁ……」



 膝立ちになっていたバジルが、仰向けに倒れた。



キュレー

「バジルくん……!」


グシュー

「まあまあ面白かったぜ」


グシュー

「さて……仕事だ」



 グシューはフルーレの方へ向かった。


 フルーレとエルは縛られてはいなかった。


 グシューたちが警戒したのは、バジルのパーティだけ。


 フルーレたちには人質を使う価値も無い。


 そう思われていた。



フルーレ

「っ……! 我が剣技で……」



 フルーレは闘志を奮い立たせ、構えた。


 左手で剣の鞘を持ち、右手で柄を持った。



フルーレ

「お前を倒す!」



 抜刀の勢いのまま、グシューに斬りかかった。



グシュー

「フン」



 グシューは容易くフルーレの剣を弾いた。


 赤い剣が宙に浮いた。


 フルーレの手から離れた剣が、彼女から遠ざかっていった。



グシュー

「剣技? 何を勘違いしてやがるんだか」


グシュー

「低レベルが高レベルに勝てるわきゃねぇだろ」


フルーレ

「あ……あぁ……」



 丸腰になり、闘志も折られた。



フルーレ

「おねえ……さま……」



 フルーレはただ後ずさることしか出来なかった。



エル

「お嬢様……!」



 エルはフルーレを庇い、彼女の前に立った。


 短刀を持ったエルの手は、恐怖で震えていた。



グシュー

「どいてくんねぇかなぁ?」


グシュー

「お前さ、もう買い手がついてんだ。傷つけたくねぇんだわ」


エル

「っ……!」


エル

「『弱体化』!」



 エルは産まれて初めてスキル名を唱えた。



グシュー

「うおっ!?」



 グシューはスキルの光に包まれた。


 すぐに光は止み、そして……。



グシュー

「ん……」



 グシューは自分の体を見回した。



グシュー

「んん~~~~?」


グシュー

「なんともねえなぁ」


エル

「え……」


グシュー

「いや……」



 グシューは目を閉じて、自身のクラスレベルを確認した。



グシュー

「レベルが2下がってやがる。そんだけか」


グシュー

「永続ってワケでもねえだろうし……ザコだな。ザコ」


グシュー

「役に立たねぇスキル授かっちゃって、ご愁傷様」


グシュー

「けどまあ、俺の邪魔しやがったからには……」


グシュー

「とりあえず、死んどけ」



 グシューは剣を振り上げた。



エル

「っ……!」



 そして、そのまま振り下ろそうとして……。


 金属音が、鳴った。



ヨーク

「テメェ……何してやがる?」



 刃はエルに届く前に止まっていた。


 いつの間にか、ヨークとミツキの姿が有った。


 ヨークの剣が、グシューの剣を受け止めていた。



バニ

「ヨーク!」



 絶望に染まっていたバニの顔に、安堵の色が満ちた。




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