その１８の１
冒険者ギルドの応接室。
バジル一行は、フルーレへの自己紹介を終えた。
フルーレ
「バニにキュレー、バジルにドスだな」
フルーレ
「うん。覚えたぞ。これからよろしく頼む」
バニ
「はい。よろしくお願いします」
フルーレ
「それでは早速ラビュリントスへ行こうか」
バニ
「すぐにですか？ 準備は……」
フルーレ
「装備は身に付けている」
フルーレ
「お前達の実力なら、上層程度の攻略に、大した物資は必要が無いはずだ」
フルーレ
「それと、敬語は止めてくれ」
フルーレ
「同じパーティの仲間なんだ。遠慮は要らない」
バニ
「……分かったわ」
バニ
「行きましょうか。フルーレ」
フルーレ
「ああ！」
バニのタメ口に対し、フルーレは嬉しそうに答えた。
６人は迷宮に向かった。
フルーレたちは既にギルド証を所持していた。
一行は問題なく大階段を通過した。
そして、迷宮の第一層へとたどり着いた。
最初の広い通路で、バニはフルーレに話しかけた。
バニ
「確認しておくけど、迷宮で戦うのは初めてなのよね？」
フルーレ
「ああ」
バニ
「二人のクラスは？」
フルーレ
「私は暗黒騎士。エルはニンジャだ」
バニ
「暗黒騎士……？」
フルーレ
「意外か？ まあ、あまり人気の有るクラスでは無いからな」
フルーレ
「メイルブーケの者は、代々暗黒騎士となる決まりなんだ」
バニ
「そう……。パーティのバランスは悪く無いわね」
バジルが戦士、ドスが重戦士、バニが魔術師、キュレーが治癒術師。
前衛が四人で、後衛が二人。
暗黒騎士は攻撃魔術、ニンジャは投擲での攻撃も得意としている。
遠近に隙が無い、良いパーティだと言えた。
とはいえ、フルーレたちのレベルはバジル一行よりも遥かに低い。
６人パーティとしては、まともに機能することは無いと思われた。
バニ
「行きましょうか」
フルーレ
「ああ。行こう」
一行は迷宮を探索した。
第２層までの道筋は分かっている。
だが、まずは２層を目指すのでは無く、魔獣を探して探索した。
１０分に満たない探索で、パーティは魔獣に遭遇した。
敵は大鼠だった。
大鼠は、最も弱いと言われる魔獣のうちの一体だ。
剣の腕がまともであれば、レベル１の戦士でも討伐は可能と言われていた。
バニ
「どうする？」
バニは雇い主の意見を尊重することにした。
フルーレ
「やれるさ」
フルーレは剣を抜き、前に出た。
エルがその少し後に続いた。
バニ
「赤い……」
フルーレの剣は、刀身が赤く輝いていた。
通常の金属を打って作られた剣では無い。
バニの目に、それは魔石のように見えた。
フルーレ
「これは魔剣だ」
フルーレは赤い刀身の剣を構えた。
大鼠がフルーレに迫る。
バジルはいつでもフォローに入れるように集中した。
フルーレを食い殺すため、大鼠が跳んだ。
フルーレ
「はあっ！」
見事な一刀で、フルーレは大鼠を斬り捨てた。
両断された鼠の肉体が消失し、魔石が落ちた。
キュレー
「凄いね」
フルーレ
「そうか？ あんな鼠、ザコだろう」
キュレー
「それでも、初めてであんな風には出来ないよ」
フルーレ
「……そうか」
キュレーの率直な賛辞に、フルーレは照れを見せた。
彼女は照れを隠そうとはせずに、胸を張った。
フルーレ
「加護を授かる前から、武術の訓練を積んできた」
フルーレ
「レベル２０の訓練された剣士と、レベル３０の素人が居たとする」
フルーレ
「戦えば、レベル２０の剣士が勝つ」
フルーレ
「尊敬する父の教えだ」
フルーレ
「私に少しでも技が身についているように見えるなら……嬉しい」
キュレー
「うん。格好良かったよ」
フルーレ
「ありがとう」
ドス
「魔石はどうする？」
ドスは大鼠の魔石を拾い上げた。
ドス
「安値にしかならないが、最初に倒した魔獣の石は、記念にする者も居る」
フルーレ
「せっかくだから取っておこうかな」
ドス
「そうか」
ドスは魔石をフルーレに手渡した。
フルーレ
「ありがとう」
フルーレの口端が笑みを作った。
ドス
「……ああ」
バニ
「これならもう、２層に降りても大丈夫かしら」
バニ
「バジル。どうする？」
バジル
「好きにしろよ」
バニ
「もう……。リーダーでしょ？」
バジル
「リーダー命令で好きにしろっつってンだよ」
バニ
「はいはい。了解」
バニ
「１層の魔獣程度じゃあ、問題にならないみたいだし、２層に降りましょうか」
フルーレ
「分かった」
一行は２層に向かった。
バニたちにとっては何度も往復した道だ。
地図を見なくとも、道のりは体に染み付いていた。
その後……。
レベリングは順調に進んだ。
２層３層と突破し、５層にまでたどり着いた。
そして、５層に有る大部屋の一つで、魔獣の群れとの戦闘に突入した。
部屋内の魔獣が１体になるまで、バジルとドスとで減らした。
最後の１体を倒すのがフルーレたちの役割だった。
５層の魔獣である金狼に、フルーレとエルの二人がかりで立ち向かった。
フルーレほどでは無いが、エルにも武芸の嗜みは有った。
エル
「やあっ！」
エルが投げた３つ刃の投げナイフ、スリーケンが狼の脚を削った。
その隙をフルーレは逃さなかった。
フルーレ
「ふっ！」
体勢を崩した金狼の体を、フルーレの剣が両断した。
金狼は絶命し、魔石が落ちた。
周囲に敵が居なくなると、フルーレは目を閉じた。
そして言った。
フルーレ
「レベル５になったみたいだ」
バニ
「順調ね。けど……」
バニは荷物入れから懐中時計を取り出した。
針を見ると、夕刻前を指し示していた。
バニ
「そろそろ日が暮れるわ。町に戻りましょう」
フルーレ
「……もうそんな時間か」
フルーレは名残惜しそうな表情を見せた。
だが、すぐに気分を切り替えて言った。
フルーレ
「楽しかった。ありがとう」
バニ
「どういたしまして」
フルーレ
「お泊りセットを持ってきたら良かったなぁ」
フルーレ
「パジャマパーティというのをやってみたかった」
バニ
「……迷宮で？」
フルーレ
「ダメか？」
バニ
「防具は脱がない方が良いと思うわ」
フルーレ
「そうか……」
バニ
「行きましょうか」
フルーレ
「ああ。明日もよろしく頼む」
帰宅が決まり、一行は大部屋から出ようとした。
だが……。
フルーレ
「…………？」
部屋に、大勢の男たちが入ってきた。
全員が武装していた。
男たちはフルーレたちの前に立ち塞がった。
グシュー
「悪いな。通行止めだ」
男たちのリーダーは、バジルと面識がある男だった。
バジル
「グシュー……！」
女たちを庇うように、バジルは前に出た。
グシューは薄ら寒い笑みを浮かべながら、バジルを見た。
グシュー
「グシューさんだろ？ ボーズ」
バジル
「……いったい何のつもりですか。グシューさん」
バジルは怒りを収め、慇懃にグシューに話しかけた。
バジル
「今月の見かじめ料なら、ちゃんと納めさせてもらったはずですか」
聞き慣れない単語が、フルーレの耳に入った。
彼女にはそれが、嫌な響きのように思われた。
フルーレ
「何だ？」
フルーレ
「見かじめ……？ 何を言っている……？」
フルーレ
「そいつらは、何だ？」
