表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

205/226

7の18「ブラッドロードと血筋」



 クリーンは、男たちとの踊りを終えた。


 踊りが終わっても、男たちの方は、クリーンに未練が残っていたようだ。


 なんとかして彼女を口説こうとした。


 だがクリーンの方には、男たちへの興味は無かった。


 レディスに習った作法で男たちを袖にすると、元の場所へと戻っていった。



クリーン

「ヨークが居ないのです……」



 クリーンは呟いた。


 ヨークがアシュトーに連れ出されたことを、クリーンは知らなかった。


 それを見たクリスティーナが、彼女に声をかけた。



クリスティーナ

「彼はアシュトーさんに連れられて、どこかに行ったよ」


クリスティーナ

「何か話が有るらしい」



 それを聞いて、クリーンはつまらなさそうな顔を見せた。



クリーン

「むぅ……」



 それを見たクリスティーナは、微笑ましげに笑った。



クリスティーナ

「ふふっ」


クリーン

「何なのですか?」


クリスティーナ

「ううん。別に」




 ……。




 ヨークたちはアシュトーと共に、大神殿の廊下を歩いた。


 そして応接室に入室した。


 ヨークは室内を見回した。



ヨーク

「…………?」



 応接室の奥側のソファに、青い肌の男性が腰かけているのが見えた。


 ヨークよりも濃い青だ。


 純血の魔族らしい。


 年は40歳ほどに見えた。


 身なりが良い。


 それなりの立場に居る人物のようだった。


 彼の後ろには、魔族のメイドが控えていた。


 メイドの物腰には隙が無い。


 おそらくはニンジャだろう。



ヨーク

(誰だ……?)



 魔族の男は、ヨークとは初対面のはずだった。


 ヨークは男を見ても、用件を推測することはできなかった。


 だが、どこか懐かしい。


 ヨークは男に対して、そんな雰囲気を感じていた。


 いったいどうしてだろうか。


 ヨークが戸惑っていると、男の方から口を開いた。



アーク

「なるほど。あの女に似ている」



 独り言のように、男がそう言った。



ヨーク

「はい?」



 ヨークは疑問符を浮かべたが、男はそれに答えなかった。



アシュトー

「…………」



 アシュトーは、男が座るソファの隣に立った。


 一緒に座ることは、許されてはいないようだ。


 彼女は男に使われる側の存在らしい。



アーク

「かけてくれ」


ヨーク

「……はぁ」



 ヨークは出入り口に近い方のソファに腰かけた。



ミツキ

「…………」



 ヨークに同行していたミツキは、ソファの隣に立っていた。


 ヨークがそっちを向いて、ミツキに声をかけた。



ヨーク

「どうした? 座れよ」


ミツキ

「はい」



 ヨークに言われたので、ミツキは彼の隣に座った。


 王都の常識で言えば、彼女はそこに座るような存在では無い。


 だがミツキにとって、ヨークの言葉は常識に優先する。


 彼女は堂々と、ソファの上で背筋を伸ばした。


 それを見て、魔族の男が眉をひそめた。



アーク

「……悪趣味だな。血か?」 


ヨーク

「は?」


アーク

「奴隷との線引きは、するべきだと思うのだが」



 奴隷には、奴隷の扱いというものが有る。


 男にとってはそれが常識だった。


 そしてそれは、大多数の人間の常識でも有る。


 だがそんなものは、ヨークからすれば、知ったことでは無かった。



ヨーク

「ケンカ売ってんなら帰るぜ」



 ミツキを冷遇するのなら、ヨークにとっては敵でしかない。


 そんな価値観に従って、彼は立ち上がった。



アーク

「待て」


ヨーク

「待つ理由が有るのかよ。俺に」



 ヨークは不機嫌そうに男を睨んだ。


 王都において、男の言動が、それほどおかしいもので無いということは理解している。


 だが、常識というのは絶対のものでは無い。


 ここ王都でも、ミツキに礼儀を尽くしてくれる人間は、僅かながら存在する。


 そういう人たちが居るのに、わざわざそれ以外の連中と付き合いたいとは、ヨークには思えなかった。



アシュトー

「会長! ヨークは俺の恩人です!」


アーク

「む……」


アシュトー

「ヨークも、もう少しだけ話を聞いてくれ。頼む」


ヨーク

「……分かった」



 アシュトーの顔を立てて、ヨークはソファに座り直した。


 男の方も、これ以上ミツキの扱いに口を挟む気は、無い様子だった。



アーク

「…………」


ヨーク

「…………」



 二人の間に、気まずい空気が漂った。


 やがて男が口を開いた。



アーク

「……俺はアーク=ブラッドロード」


アーク

「ブラッドロード商会の会長をやっている」


ヨーク

「そうかよ。名前くらいは聞いたこと有るぜ」


ヨーク

「俺はヨーク=ブラッドロード。こっちは相棒のミツキだ」


アーク

「…………」



 相棒という言葉を聞いて、アークは顔をしかめた。


 そんな彼の態度に、ヨークは敏感に反応した。



ヨーク

「あ゛?」



 まだ何か言うつもりなのか。


 そう思い、ヨークはアークを睨みつけた。



アシュトー

「いちいち喧嘩腰になるのは止めてくれ……!」


ヨーク

「……悪い」



 困り顔になったアシュトーを見て、ヨークは反省した。


 幼稚な態度を引っ込めて、アークの言葉を待った。



アーク

「…………」


ヨーク

「…………」


アーク

「アシュトーが、世話になったらしいな」


ヨーク

「まあ、一応」


アーク

「ルビーナ」



 アークがメイドに声をかけた。


 メイドの名は、ルビーナというらしい。



ルビーナ

「はい」



 ルビーナは、どこかから袋を取り出した。


 そしてその袋を、ソファの間のローテーブルに置いた。


 彼女は袋の口を開いた。


 すると袋の中に、金貨がぎっしりとが詰まっているのが見えた。



アーク

「謝礼だ。受け取って欲しい」


ヨーク

「別に大したことはしちゃいねえが」


アーク

「俺たちにとっては、大したことだったんだ」


アーク

「…………」



 アークはポケットから、小さな魔導器を取り出した。


 そしてそれを作動させると、ローテーブルの上に置いた。



ヨーク

「それは?」



 見慣れない魔導器を見て、ヨークがそう尋ねた。



アーク

「盗聴防止の魔導器だ」


ヨーク

「盗聴?」


アーク

「これからの話は、人族の総本山で話すような内容では無いのでな」


アーク

「……ここだけの話をしよう」


アーク

「アシュトーは、ハーフだ」


ヨーク

「そうなのか?」



 ヨークは意外そうにアシュトーを見た。


 ヨークの目には、アシュトーの肌色は、人族そのものに見えた。


 大神殿においても、彼女の肌色について、とやかく言っている者はいなかった。



アシュトー

「……ああ」


アーク

「正確には、ワンシックスティーンスだがな」


ヨーク

「何だそりゃ?」


アーク

「彼女には16分の1だけ、魔族の血が混じっているということだ」


ヨーク

「……それで?」


アーク

「歴代の聖女には、純血の人族ばかりが選ばれてきたという事は知っているか?」


ヨーク

「まあ、なんとなくはな」


アーク

「魔族は元は劣等の種族とされており、人族とは平等では無かった」


アーク

「魔族は種族の幸福のために、人族と戦い続けた」


アーク

「我らブラッドロードの一族は、その旗印だった」


アーク

「長い闘争のかいが有って、魔族には、建前上の権利が与えられた」


アーク

「だが、未だ真の平等とは言い難い」


アーク

「魔族の血を引く者を聖女の座につけることは、遠大なブラッドロードの闘争の一つだ」


アーク

「アシュトーの、聖女としての地位が磐石になった後、彼女の血筋を世間に公表する」


アーク

「前例が出来れば、そして力が有れば、やがては純血の魔族が聖女となる事も可能となるだろう」


ヨーク

「……はぁ」


アーク

「興味が無さそうだな?」


ヨーク

「あんまり」


アーク

「おまえもハーフだろう」


ヨーク

「違うな」


ヨーク

「俺は禁忌の子だ」


アシュトー

「え……!?」



 アシュトーは驚きを見せた。



アーク

「…………」



 一方でアークの方は、大した反応は見せなかった。


 最初からヨークの素性を知っていたのかもしれない。



ヨーク

「最近になるまで知らなかったよ」


ヨーク

「この王都では、俺みたいなガキは、産まれてすぐに殺されるらしいな?」


ヨーク

「子供だけじゃない。その親もだ」


ヨーク

「そのせいで、王都の第三種族は、年々数を減らしていった」


ヨーク

「何百年も、ずっと変わらない」


ヨーク

「魔族のための戦い? 平等? ハーフで初めての聖女?」


ヨーク

「ご立派なことだ。好きにすりゃあ良いさ」


ヨーク

「俺とミツキには関係が無い。1ミリもな」


ヨーク

「金は要らない。もう帰っても良いか?」


アーク

「……待て」


ヨーク

「何だよ?」


アーク

「おまえの両親の名前は?」


ヨーク

「父親はリューク=ブラッドロード。母親はセイレム=クオートドレイク」


アーク

「やはりか」


ヨーク

「…………」


アーク

「おまえの父親、リューク=ブラッドロードは、俺の弟だ」


ヨーク

「そうかよ」


アーク

「弟は……どうなった?」


ヨーク

「俺が物心つく前に、森の魔獣に殺された。そう聞いてる」


アーク

「……そうか」


アーク

「母親は元気か?」


ヨーク

「知らねえ」


ヨーク

「親父が死んですぐ、どっかに消えちまったんだとよ」


アーク

「おまえを捨ててか」


ヨーク

「ッ! 知らねえっつってんだろ!」


アーク

「……すまんな」


アーク

「金貨は受け取ってくれ。伯父として、おまえを援助したい」


ヨーク

「要らねえってのに」


ヨーク

「十のガキじゃねえんだ。テメェの面倒くらいテメェで見るぜ」


アーク

「……何か困ったことが有れば来い。力になろう」


ヨーク

「どうも。それじゃあ」



 ヨークはソファから立ち上がり、応接室から退出した。


 ミツキもそれに続いた。



アーク

「……………………」


アーク

「みっともない所を見せたな」


アシュトー

「いえ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ