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7の17「踊りとアシュトーの話」




ヨーク

「面倒くせえなこいつ……」



 レディスはヨークの奴隷のような存在になりたがっているらしい。


 だが、ヨークからすれば、そんなものは1ミリたりとも必要としていない。


 人を奴隷扱いするなど、気持ち悪いだけだと思っている。


 とっとと自分の前から消えて欲しい。


 それがヨークの正直な気持ちだった。


 とはいえ、素直にそう言うだけでは、レディスは納得しないだろう。


 どう言葉を選べば良いのか。


 ヨークは思案した。



ヨーク

「ええと、それじゃあ……」


ヨーク

「不測の事態に備え現状を維持し、待機していろ」



 ヨークの言葉は要するに、今まで通りに普通にしていろというものだ。


 特に大した命令でも無いのを、ちょっと固い言葉を使って、それらしく見せている。


 ……レディスは教師だ。


 多彩な学問を習得しており、その中には修辞学も含まれる。


 そんな彼女がこんなもので誤魔化されてくれるものか。


 ヨークはそう思いながら、レディスの反応をうかがったのだが……。



レディス

「はい!」



 レディスは嬉々として、ヨークの命令に頷いた。


 そして。



レディス

「んっ……んううぅぅぅぅっ!」



 頬を紅潮させ、その全身をビクビクと震わせた。



ヨーク

「何事!?」



 予想を遥かに超えるリアクションに、ヨークは恐れおののいた。



レディス

「あるじさまから命令をいただけたのが嬉しくて、つい恍惚としてしまいました」


ヨーク

「自宅待機で!?」


レディス

「また命令して下さいね」



 命令なら何でも良いのだろうか。


 ヨークの心中が、疑問符だらけになった。


 だが、それを口にすれば、さらなる深淵を覗き込むことになるかもしれない。


 そう思ったヨークは、疑問をさらりと流してしまうことにした。



ヨーク

「……気が向いたらな」


レディス

「あの、それとですね」


ヨーク

「何だ?」


レディス

「今まで通りということは、迷宮でかわいい冒険者の血を吸っても構わないということでしょうか?」


ヨーク

「おまえ何してんの?」




 ……。




 レディスに放置プレイをかまし、ヨークたちは三人になった。


 ミツキ、クリーンと共に、ヨークは宿への道を歩いた。


 道中で、クリーンが口を開いた。



クリーン

「まさかレディス先生が、あんな人だったなんて……」



 クリーンにとってのレディスは、優雅で毅然とした淑女だった。


 クリーンは彼女に対し、憧れすら抱いていたほどだ。


 そんな彼女の本性がアレだったことに、クリーンはショックを感じているようだった。



ヨーク

「まともな人だと思ってたのになぁ」


ヨーク

「そういやクリーン。おまえ、これからどうするんだ?」


クリーン

「そっちの方こそ、どうするのですか?」


ヨーク

「倒さなきゃなんねえ奴が居る」


ヨーク

「そいつを倒すまでは、その先のことは考えらんねえ」


クリーン

「だったら、私も一緒に戦うのです」


ヨーク

「別に良いよ。こいつは俺たちのケンカだ」


クリーン

「遠慮はいらないのです」


クリーン

「私の応援は、ちょっとしたモノなのですよ?」


ヨーク

「そうか」


クリーン

「はい」



 ヨークたちは、宿屋にたどり着いた。


 宿の前に、バニの姿が見えた。



バニ

「ヨーク!」



 バニはヨークの姿に気付くなり、彼に駆け寄って来た。



ヨーク

「俺を待ってたのか?」


バニ

「中々帰ってこないから心配したわよ」


ヨーク

「そうか。悪いな」


バニ

「別にぜんぜん悪くは無いけど……」


バニ

「どうだったの? 聖女の試練って」


ヨーク

「結論を言うとな、負けた」


バニ

「えー? ヨークが居てもダメなんだ?」


ヨーク

「ダメなんだな。これが」


バニ

「ひょっとして、クイズでも有った?」


ヨーク

「無くも無かった」


バニ

「聞かせて。詳しい話」


ヨーク

「もう夜中だぞ~?」


バニ

「聞きたいもん」


ヨーク

「分かったけど、まずは風呂入るわ」


バニ

「うん」



 ヨークは体を綺麗にすると、バニたちと夜更かしをした。


 その翌日。



ヨーク

「バニ。起きろよ。バニ」



 ヨークのベッドで眠るバニを、ヨークが揺り起こした。



バニ

「ん……」



 するとバニが目を覚ました。



バニ

「あれ……? ヨーク?」


ヨーク

「話の途中で眠っちまっただろ。忘れたのか?」


バニ

「あっ……」


ヨーク

「キュレーが心配するぞ。一回戻っとけ」


バニ

「……そうね」



 ヨークはバニと一緒に廊下に出た。



バニ

「あっ」


バジル

「おっ」



 そこでバジルに出くわした。



バジル

「ついにやりやがったか。待たせやがって」


ヨーク

「何もやってねえよ」


バジル

「そうなンか?」


バニ

「うん……。一緒のベッドで眠っただけ……」


バジル

「だけて」


バジル

「チッ。この玉無し野郎が」


ヨーク

「何この言われ様」



 そして夜。


 ヨークたちは、新聖女決定を記念したパーティに出席した。



クリーン

「あのあの、踊りませんか?」



 広間で料理を楽しむヨークに、クリーンが声をかけてきた。


 前のパーティでは、クリーンは新聖女だった。


 だが、今回のクリーンは、ただの聖女候補に過ぎない。


 あまり注目を浴びることも無く、暇を持て余してる様子だった。



ヨーク

「踊れるのか? おまえ」


クリーン

「はい。聖女候補としての教育には、社交界での振舞いも有ったのですよ」


ヨーク

「それじゃ、踊るか」


クリーン

「ですです」



 二人は広間の中央で踊った。


 レディスに叩き込まれたクリーンの踊りは、一流のものだった。


 今回は、ヨークの方も踊りを習得済みだ。


 元から運動が得意なヨークは、完璧な踊りを披露してみせた。


 そしてパーティ参加者たちを魅了して、ミツキの所へと戻っていった。



クリーン

「ただいまです。モフミちゃん」


ミツキ

「はい」


クリーン

「どうでした?」


ミツキ

「素敵でしたよ」



 見事な踊りを披露したクリーンに、男たちが声をかけてきた。


 今の彼女に、聖女の肩書きは無い。


 それでも。


 クリーンの容姿と振る舞いは、男を惹きつけるのに十分なものだったらしい。



「どうか私と踊っていただけませんか?」


「是非、わたくしめとも」



 男たちは、情熱的にクリーンを誘った。



クリーン

「えっ? はい。行ってきますね」



 特に断る理由もない。


 クリーンは誘いを受けて、男の一人と広間中央に向かった。



ヨーク

「モテモテだな」



 ミツキの隣で、ヨークがそう呟いた。



ミツキ

「ヨークは……」



 ミツキが何かを言おうとした、そのとき。



アシュトー

「ヨーク」


クリスティーナ

「ブラッドロードさん」


ユリリカ

「こんばんは~」



 アシュトー、クリスティーナ、ユリリカの三人が、ヨークに近付いてきた。



ヨーク

「ああ。こんばんは」


アシュトー

「ちょっと話良いか?」


クリスティーナ

「ボクたちは……良かったらダンスにって思ったんだけど」


ミツキ

「……ヨークもモテモテですね」


ヨーク

「そうみたいだ」


ヨーク

「……話ってのは、今すぐじゃないと駄目か?」


アシュトー

「別に、二人と踊るくらいなら構わねえぜ」


ヨーク

「そうか。それじゃあユリリカから」


ユリリカ

「よ、よろしくお願いします!」



 ヨークは二人と踊ることになった。


 ユリリカ、クリスティーナの順番で踊りを終えた。


 そしてミツキの所へと戻った。



クリスティーナ

「ごめんね。足を踏んでしまって」


ヨーク

「いや。別に痛くは無かったし」


クリスティーナ

「綺麗に踊れる魔導器でも作ろうかなぁ」


ヨーク

「……練習しろよ」


ヨーク

「それじゃ、アシュトーの番だな」



 アシュトーの話を聞こうと、ヨークは彼女に向き直った。



アシュトー

「その前に、俺とも一曲踊っとけよ」


アシュトー

「良いよな?」


ヨーク

「良いけど」


ミツキ

「それじゃあ私もお願いします」


ヨーク

「……モテ期?」



 ヨークはアシュトー、ミツキとも踊ることになった。


 無事に踊りを終えると、ヨークはミツキと一緒に元の場所に戻った。



ヨーク

「お疲れ」


ヨーク

「それで? 話ってのは?」


アシュトー

「プライベートな話になる。個室に移動したいんだが」


ヨーク

「聖女さまがパーティを抜けて良いのか?」


アシュトー

「最低限の挨拶回りは済ませた」


アシュトー

「俺よりもあっちの聖女候補様の方が、モテるみたいだしな」



 アシュトーは踊るクリーンの方を見た。



ヨーク

「あれがモテるんだなぁ」


アシュトー

「モテる要素しかねえだろ。見ろよあの男好きする体」


ヨーク

「オッサンかよ」


ヨーク

「赤いのもモテ要素なのか?」


アシュトー

「さあな。青いよりはモテるんじゃねえの? 特に大神殿だとな」


ヨーク

「青はモテないか」


アシュトー

「分かってんだろ? 聖女候補には魔族が居なかったってこと」


ヨーク

「ああ」


ヨーク

「魔族は神の子じゃ無いらしいからな」


アシュトー

「意外と勉強してんだな。守護騎士に選ばれるだけのことは有るってわけだ」


ヨーク

「別に」


ヨーク

「人からチョロっと聞いただけさ」


アシュトー

「それで、来られるか?」


ヨーク

「良いけど。ミツキも行って良いか?」


アシュトー

「そいつ、おまえの奴隷なのか?」


ヨーク

「首輪の登録は、そういうことになってる」


アシュトー

「赤いのの奴隷じゃ無かったんだな。まあ、それなら良いか」


アシュトー

「行こう」



 ヨークたちはアシュトーの後ろを歩いた。


 そして広間を出て行った。





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