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7の13「水月と二重壁」



デレーナ

「型にはまるのは、二流のすること。そうでしょう?」


デレーナ

「型とは答えではなく、手段に過ぎないのですから」


ミツキ

「ですが、型が生まれたのにも理由というものが有るはずです」


ミツキ

「以前、ある人が言っていました」


ミツキ

「どのような猛者でも、空から落ちる速度は変わらない」


ミツキ

「つまり、跳躍は達人を凡人に変えるということです」


ミツキ

「迂闊に跳ぶことで、あなたは負け筋を作っているのですよ」



 助言か、それとも揺さぶりか。


 ミツキはデレーナの技の欠点を指摘した。


 ミツキが言ったくらいの事は、メイルブーケの剣士にとっては常識なのだろう。


 デレーナは、特に揺らいだ様子も見せなかった。


 自信に満ちた様子で、デレーナはこう言った。



デレーナ

「試してみますか?」


ミツキ

「先ほどの技は、奇襲を目的としたもの」


ミツキ

「来るのが分かっていれば食らいませんよ」


デレーナ

「それでは、参ります」


デレーナ

「砂塵壁」



 デレーナは、砂の煙幕を発生させた。


 再びデレーナの姿が、ミツキの視界から掻き消えた。


 また同じ攻めが来るのだろうか。


 勝負の場において、それは馬鹿正直が過ぎるのではないか。


 ミツキは迷った。



ミツキ

(ブラフ? いや。彼女は言葉で人を惑わすタイプでは無い)


ミツキ

(純粋な剣技によって相手を倒すことに、喜びを感じるタイプ)



 ミツキはデレーナの人柄を信じ、迷いを振り払った。



ミツキ

(宣言通り、上!)



 自身の判断を信じ、ミツキは上方を見た。


 ミツキの目に、デレーナの姿が映った。


 さきほどと同じ攻めを、重ねてきたらしい。


 空中からの突きがはなたれた。



ミツキ

(まずは防御!)



 ミツキは大剣の腹で、デレーナの突きを受け止めた。


 剣がぶつかり合う衝撃が、デレーナの体を強く飛ばした。


 彼女は大きな隙を晒すことになった。


 宙で無防備になっているデレーナの落下点へと、ミツキは駆けた。



ミツキ

(貰った……!)



 ミツキから見て、デレーナという存在は得体が知れない。


 手札の底が見えない。


 戦いが長引けば、何をされるかわからない。


 なるべく早くデレーナをしとめてしまいたい。


 ミツキには、そんな焦りが有った。


 短期決着を狙い、ミツキはしかけた。


 そのとき。



デレーナ

「氷壁」



 デレーナが呪文を唱えた。



ミツキ

「えっ!?」



 デレーナが飛ばされた方向に、氷の壁が出現していた。


 デレーナは空中で体勢を整え、氷壁を蹴った。



デレーナ

「魔剣、水月-スイゲツ-」



 隙を逃さずしとめる。


 それがミツキの目論見だった。


 だが実際には、隙を突かれたのは、ミツキの方になった。


 彼女はデレーナの誘いに乗って、雑な突進を晒していた。


 ミツキが隙を見せたのは、偶然では無いのだろう。


 隙を突くという行為は、戦いの常識だ。


 当然、誰もがそれに惹かれる。


 ミツキが隙に惹かれたのも、理に反した行いでは無かった。


 デレーナが晒した隙が、撒き餌で無かったのなら……。


 実際は、空中で隙を晒すという行為自体が、デレーナの剣理に含まれていた。


 トリッキーな邪剣は、防がれれば終わり。


 そう思い込ませ、誘い込む。


 彼女の魔剣は、隙の無い二段構えだった。


 それに気付かなかったミツキの動きは、杜撰そのものだった。


 そんな状態では、デレーナの精緻な剣を止めることはできない。


 急速に距離を詰めたデレーナの剣が、ミツキの額を狙った。



デレーナ

(障壁ごと切り裂く!)



 前の攻めでは、デレーナの攻撃は、ミツキの障壁に阻まれている。


 それを撃ち抜くには、さらに鋭い一撃が必要となる。


 デレーナはそう考えて、全霊で剣を振り抜こうとした。


 それは二の太刀を考えない、必勝の一撃だった。


 そして……。



デレーナ

「あっ」



 デレーナから見て、信じがたい事が起こっていた。


 ミツキを襲ったはずのデレーナの剣が、地面へと突き刺さっていた。



ミツキ

「ごめんなさい」



 ミツキの大剣が、デレーナの胴を打った。


 デレーナの体が宙を舞い、壁際にまで転がっていった。



ミツキ

「あなたと違い、言葉を操るタイプなんですよ。私は」



 デレーナの腕輪の魔石が砕けた。



バークス

「勝者、クリーン=ノンシルドチーム!」



 審判のバークスが、ミツキの勝利を告げた。


 腕輪が身代わりになったので、デレーナに手傷は無い。


 すぐに立ち上がって、ミツキの方へ歩いて来た。



デレーナ

「当たったと思いましたのに……」



 デレーナは納得のいかない様子で、首を傾げていた。


 勝負が終わったので、ミツキはデレーナに種明かしをすることにした。



ミツキ

「障壁であなたの剣筋を、逸らさせていただきました」


デレーナ

「障壁? ですが、あれでは……」



 最初に障壁を叩いた時の手応えを、デレーナはハッキリと覚えていた。


 その手応えを元に、次の一撃は、障壁を貫けるように放ったはずだ。


 なのに逸らされた。


 デレーナはその事が納得できなかった。


 それに対し、ミツキは種明かしを続けた。



ミツキ

「私の二重壁は、性質の違う二つの障壁を展開する呪文なのです」


ミツキ

「第一の壁が、純粋に強度で身を守る剛壁、第二の壁が、攻撃を逸らす柔壁です」


ミツキ

「障壁を纏っていること自体は、身に纏う魔力を見れば、見破ることが出来ます」


ミツキ

「ですが、どんな障壁かまでは、見ただけでは分かりません」


ミツキ

「私は敢えて二重の壁を張ったと宣言することで、同じ壁を二枚張ったと思わせたのです」


デレーナ

「……なるほど。言葉も兵法の内というわけですわね」


デレーナ

「でも、攻撃をずらしてしまうなんて、ずるいですわ」


ミツキ

「柔壁にも、弱点は有りますよ」


ミツキ

(首への袈裟切りなどは、逸らしきることが出来ませんし)


デレーナ

「弱点とは何なのですか?」


ミツキ

「それは秘密です」


デレーナ

「やっぱりずるいです」


デレーナ

「けど、勉強になりましたわ。次はもう少し善戦させていただきます」


ミツキ

「次……」


デレーナ

「何か?」


ミツキ

「イエ。タノシミニシテイマスネ」


デレーナ

「はい」



 デレーナは晴れやかな表情で、アシュトーの方へ戻っていった。



デレーナ

「負けてしまいましたわ」


アシュトー

「何も言えねえわ。ヤバすぎて」


シュウ

「だな」



 デレーナとミツキの戦いは、アシュトーの常識から遥かに逸脱していた。


 次元の違う敗北を見せたデレーナを、アシュトーは、責める気にはなれないようだった。



デレーナ

「……?」


アシュトー

「まあ、これで何とか格好はついたさ」


デレーナ

「ご期待に添えたのならよろしいですが」


ミツキ

「…………」



 勝者であるミツキは、広間の中央に留まっていた。


 決勝戦の相手を待つためだった。


 そこへ誰がやって来るのか、ミツキには既にわかっていた。



ヨーク

「行ってきまーす」



 ヨークはユリリカたちに送り出され、広間中央へと移動した。


 そしてミツキに声をかけた。



ヨーク

「初めてだよな。おまえとガチでケンカすんのは」


ミツキ

「あなたはガチと言いますけど……」


ミツキ

「ちょっとズルをしても、勝ちたい気分です。今日は」


ヨーク

「願い事か?」



 ヨークはそう尋ねた。


 聖女の試練で勝った方が、負けた方の言うことを聞く。


 二人はそんな約束をしていた。



ミツキ

「…………」



 ヨークの問いに、ミツキは答えなかった。


 ヨークはそれを、肯定だと解釈した。



ヨーク

「ったく。何させる気だよ。俺に」


ミツキ

「さて?」



 ヨークは魔剣を抜いた。


 ミツキの手には、既に大剣が握られていた。


 両者が剣を構えた。



バークス

「試合開始!」


ミツキ

「金剛」



 開幕からミツキは、最高の強化呪文を使用した。


 ミツキの体が、強化呪文の輝きに包まれた。


 暗黒騎士であるヨークには、強化呪文は使えない。


 彼はただ構えて、ミツキが攻めてくるのを待った。



ヨーク

「来いよ」


ミツキ

「行きます」



 ミツキが前に出て、二人の斬り合いが始まった。


 強化呪文の力が、ミツキの身体能力を底上げしている。


 単純なパワーでは、ミツキが上回っているはずだった。


 だが……。



ヨーク

(そこだ……!)


ミツキ

「ッ!」



 ミツキの隙を見て、ヨークが籠手打ちを仕掛けた。


 ミツキは身を引いたが、剣先が僅かに手にかすっていた。


 ミツキの腕輪の石に、小さなヒビが入った。


 もう攻撃を食らうことはできない。


 そう思ったミツキは、防御呪文を発動させた。



ミツキ

「……二重壁」


ヨーク

「やるなあ。ミツキ」



 ヨークが楽しそうに言った。



ヨーク

「修行の時とは違うな」


ミツキ

「そりゃそうでしょう」


ミツキ

「…………」



 このままでは負ける。


 ヨークの余裕を見て、ミツキはそう確信した。



ミツキ

(レベルはほとんど同じはずなのに……)


ミツキ

(やっぱりご主人さまは凄い……大好き……)


ミツキ

「仕方有りませんね」


ヨーク

「どうするんだ?」


ミツキ

「本気を出させていただきます」


ヨーク

「今までのは手加減してたってのか?」


ミツキ

「手を抜いていたというわけではありませんが……」



 ミツキはスキルを使い、大剣を『収納』した。



ミツキ

「武器を替えさせていただきます」


ヨーク

「武器……? 魔導器でも使うのか?」


ミツキ

「いいえ」




ミツキ

「『収納』」




 ミツキはスキルによって、新たな武器を取り出した。



ヨーク

「…………………………………………はぁ?」


ヨーク

「……何だ? それは?」


ミツキ

「剣ですが、何か?」


ヨーク

「剣ってお前、それ……」


ヨーク

「でかすぎんだろ」



 なかば抗議でもするかのように、ヨークがそう言った。


 ミツキが取り出した剣は、刃渡り10メートルは有る、規格外の大きさをしていた。



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