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その17「貴族とメイドと黒い翼」



______________________________




ヨーク=ブラッドロード



クラス 魔術師 レベル152



______________________________





 ヨークは20体ほどのスライムを撃破した。


 指輪のおかげで、EXPの全てはヨークとミツキに集まっていた。



ヨーク

「スライム様、ありがとうございます」



 漲るEXPに感謝し、ヨークは頭を下げた。



ミツキ

「そろそろ止めにしましょう」


ミツキ

「この勢いだと絶滅させてしまいそうですからね」


ヨーク

「そうだな」



 ヨークは頷いた。



ヨーク

「当時の俺には、自然への敬意が足りなかった」


ミツキ

「魔獣が自然なのかは、怪しいところがありますが」



 魔獣は例外無く、人間への敵意を持つ。


 そして、死んでも死体すら残さない。


 通常の動植物の列からは、外れた存在だった。


 人々は、そんな存在すら生きるための糧にしてしまう。


 逞しかった。



ヨーク

「……宿に帰るか」


ミツキ

「はい。明日はどうしますか」


ヨーク

「ん……」


ヨーク

「一回バジルたちと話した方が良いと思うんだよな」


ミツキ

「そうですか」


ミツキ

「…………」



 ミツキは無表情になり、黙った。


 微妙な雰囲気の変化が、ヨークにも伝わってきた。



ヨーク

「いや。やっぱ急ぐことでもねーな」


ヨーク

「今日はスライム狩るだけだったからな」


ヨーク

「明日は一層全体を回ってみようぜ」


ミツキ

「はい。楽しみですね」


ヨーク

「ああ」





 ヨークたちは、宿屋に帰還した。


 夕食は、宿屋一階の食堂で済ませた。


 料理はサトーズの奥さんが作っているらしい。


 味はそれなりだった。


 食事が終わると、二人は寝室に引っ込んだ。


 雑談し、風呂も済ませたら夜中になった。


 それぞれが自分のベッドの上に寝転がった。


 ヨークのベッドは部屋の奥側、ミツキのは手前側だった。



ヨーク

「灯り消すぞ」


ミツキ

「はい」



 ヨークは魔導灯のスイッチを押した。


 部屋の中が一気に暗くなった。


 初めて王都の宿で眠る。


 そう思うと、ヨークは少しわくわくした。


 目が冴えてしまった。



ヨーク

「……なあ」



 眠れないと思ったヨークは、ミツキに声をかけた。



ミツキ

「何ですか? ごしゅ……ヨーク」


ヨーク

「今日は色々あったなぁ」


ミツキ

「そうですね。ヨークが爆破されたり」


ヨーク

「あれは驚いた」


ヨーク

「まあ、負けたのは悔しかったが、今日は楽しかったよ」


ミツキ

(負けじゃないのに……)


ミツキ

「そうですか」


ヨーク

「ああ。最近ずっと楽しい」


ヨーク

「俺、村に居た時、バジルに負けたんだよ」


ヨーク

「だから、バジルと戦うってなったらさ、もっとビビるかと思ってたんだよな」


ヨーク

「平気だったな」


ミツキ

「お強くなられたのですね」


ヨーク

「感謝してる」


ミツキ

「はい?」



 ヨークはミツキに背を向けた。



ヨーク

「お休み」


ミツキ

「はい。お休みなさい」



 二人は眠った。


 そして、夜が明けた。




バジル

「…………」



 その日、バジルたちは冒険者ギルドを訪れた。


 迷宮で入手した魔石を換金するためだった。


 バニはバジルたちから離れ、カウンターに向かった。


 そして、魔石が入った袋をテーブル上に置いた。



バニ

「換金お願いします」


ユッケ

「はい。少々お待ち下さい」



 受付嬢のユッケが、魔石を運んでいこうとしたとき……。



ザンボ

「バニ」



 ギルド長のザンボが、バニに声をかけた。


 性別は男で、青い肌を見れば魔族だと分かる。


 冒険者あがりだが、すらりとした体格で、左目に眼帯をしていた。


 長い黒髪は、うなじより少し下の位置でまとめられている。


 組織の長として、それなりに小綺麗な服装をしていた。



ユッケ

「ギルド長」


バニ

「なんですか?」


ザンボ

「ちょっと上で話良いか?」


バニ

「私だけですか?」


ザンボ

「全員だ」


バニ

「分かりました」


バニ

「皆、ちょっと」


バジル

「ン?」



 キュレーと会話をしていたバジルが、バニの方を向いた。



バニ

「ギルド長が用事ですって。2階に行くわよ」


バジル

「タリィな……」



 ギルドに所属している以上、無視をするわけにはいかない。


 一行は2階に上がり、応接室へと入った。


 四人は、応接室の長いソファに腰かけ、ギルド長と向かい合った。




バジル

「それで?」


ザンボ

「今が貴族連中の、社交シーズンだってのは知ってるか?」


バジル

「いや」



 バジルたちは、丸一年を王都で過ごしていた。


 だが、迷宮の攻略に邁進していたので、王都の事情にそこまで詳しいわけでも無かった。



バジル

「それが?」


ザンボ

「今、国中の貴族が、この国の王都に集まって来てる」


ザンボ

「加えて、今は成人式の季節だ」


バジル

「……嫌な予感しかしねぇな」


ザンボ

「そう言うな」


ザンボ

「先日成人式を終えた貴族が、迷宮に潜りたいという話が有ってな」


ザンボ

「お前たちには、そのうちの一人の護衛を頼みたい」


バジル

「なんで俺たちなンだ?」


バジル

「ボンボンのお守りなンざ、その辺のザコにやらせりゃあ良いだろうがよ」


ザンボ

「それはだな……」


エル

「いけません! お嬢様!」



 応接室の外から、若い女の声が聞こえた。


 直後、扉が開いた。


 二人、応接室へと入ってきた。



フルーレ

「まだかギルド長! 待ちくたびれたぞ!」



 そう言った少女の顔が、バジルたちの方へと向いた。


 身なりが良い。


 胸の前に、豪華な首飾りが見える。


 貴族のようだった。


 だが、貴族らしからぬ、軽装の金属鎧を身にまとっていた。


 腰には細い片刃の剣を帯びていた。


 長い黒髪を後頭部でまとめていて、目は青い。


 人族だった。



フルーレ

「おお……!」



 バジルたちの姿を認めた少女は、感激するような声を上げた。



フルーレ

「お前たちが私の仲間か。よろしく頼む」


バジル

「仲間だァ?」



 勝手な決めつけをしてきた少女を、バジルは睨んだ。



ザンボ

「あ~……」



 ザンボは雲行きの悪さを見なかったことにした。



ザンボ

「バジル。彼女が依頼人だ」


フルーレ

「うん」


フルーレ

「私はフルーレ=メイルブーケ。メイルブーケ迷宮伯家の次女だ」


バジル

「メイルブーケ……」


バジル

「大物じゃねえか」


フルーレ

「大物か。父をそう言ってもらえるとは、誇らしいな」


フルーレ

「それで、彼女は専属メイドのエルだ」



 フルーレは、後ろに控えたメイドに視線をやった。


 エルは、銀髪を肩の辺りで切り揃えた、赤い瞳の少女だった。


 体には、標準的なメイド服を身にまとっていた。


 年齢はフルーレと同年代に見える。



エル

「はじめまして。エルと申します」



 エルは一礼した。



バジル

「ああ……」



 その時、バジルは初めてエルの容姿を見た。



バジル

「…………っ!」



 エルの首周りには、奴隷の首輪が有った。


 そして、背中からは蝙蝠のような黒い羽が生えていた。


 黒翼族。


 エルは第三種族だった。



ドス

「バジル」



 驚きを隠せないバジルに、ドスが声をかけた。



バジル

「……分かってる」


エル

「あの、何か粗相をいたしましたでしょうか?」



 エルは不安そうにバジルを見た。



バジル

「いや。お前は何も悪くねぇ」


バジル

「ただ、聞きたいことが有る」


フルーレ

「何だ何だ? 私を放って何を盛り上がっているんだ?」


バジル

「大事な話だ。ちょっと黙っててもらえるか?」


フルーレ

「むぅ……」


エル

「いったい何のお話でしょうか?」


バジル

「歳は?」


エル

「えっ? 私の年齢ですか?」


バジル

「答えてくれ」


エル

「はい。先日、成人を迎えさせていただきました」


バジル

「一個下か」


バジル

「……名字は?」


エル

「有りません。私は捨て子でしたので」


バジル

「捨て子?」


エル

「はい。大神殿の前に捨てられていたそうです」


バジル

「親は分からねえのか?」


エル

「はい」


バジル

「探そうとは思わねーのか?」


エル

「蝙蝠の羽は目立ちます」


エル

「もし同族が王都に居れば、すぐに噂として聞こえてくることでしょう」


エル

「ですが、そのようなことはありませんでしたから」


エル

「もう……王都には居ないのだと思います」


バジル

「……そうか」


バジル

「奴隷やってンのか?」


エル

「はい。物心つく前に、フルーレ様に奴隷として買い与えられました」


バジル

「ずっと王都に居ンのか?」


エル

「はい。その通りです」


エル

「お仕えするフルーレ様のお屋敷が、王都にございますから」


バジル

「チッ……」


バジル

「グシューの野郎……! 舐めやがって……!」


エル

「あの……?」



 不機嫌さを隠さないバジルを見て、エルは戸惑った様子だった。



キュレー

「バジルくん」


バジル

「……悪い。こっちの話だ」


バジル

「手間ァ取らせた。悪かったな」


エル

「いえ。お役に立てたのであれば幸いです」


バジル

「さて……お次はそっちだな」



 バジルはフルーレに視線を向け直した。



フルーレ

「やっとか。仲間たちを紹介してくれ」


バジル

「待てよ。まだ受けるとは言ってねぇ」


フルーレ

「報酬は弾むぞ。断る理由は無いだろう?」


バジル

「どうして俺たちなンだ?」


バジル

「冒険者なんざ、他に腐るほど居るだろうがよ」


フルーレ

「年が近いからだ」


バジル

「……は?」


フルーレ

「あまり、年を取ったオジサンのパーティは、嫌だった」


フルーレ

「出来れば同い年が良いし、女子が居るパーティの方が良い」


フルーレ

「だが、ギルド長が堅物で、新米冒険者には私を任せられんと言ってな」


フルーレ

「それでたった一年で、レベル30にまで到達したお前たちが、選ばれたというわけだ」


バジル

(お花畑かよ……)


バジル

「……ギルド長、断って良いか?」


フルーレ

「何故だ!?」


バジル

「何故ってお前、忙しいンだよ。俺達は」


フルーレ

「そうなのか? ギルド長」


ザンボ

「いえ。ちっとも」


バジル

「テメェ……!」



 バジルの殺気がザンボへと向かった。


 だが、ギルド長には、修羅場を乗り越えてきた経験が有る。


 ルーキーに気圧されるようなことは無かった。



ザンボ

「落ち着けよバジル。これはお前たちにとっても良い話だと思うぜ?」


バジル

「どこが良い話だよ」


ザンボ

「貴族様の依頼だ。報酬が良い」


ザンボ

「金が有れば、高価な魔導器も買える」


ザンボ

「ガッツリ装備を整えたら、迷宮探索も楽になる。そうだろ?」


バジル

「……その報酬ってのは幾らなンだよ」


フルーレ

「ああ。それなら……」



 フルーレは報酬の額を口にした。



バジル

「受けます」



 反対する者は居なかった。


 満場一致だった。




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